第58話 last case 探索編 2

「残念ながら、把握できてないんだよね」

「しっかりしやがれこの税金泥棒」


 倫太郎が翔子の所で話し合っていると、新たな人物がそこを訪れた。彼らの同期である芦屋晴彦あしやはるひこ(case8)である。

 彼は国家に使える忍者でいわば裏の公安と言った組織に属しており、忍者に関わる犯罪捜査を仕事としているのだ。


「まぁまぁそう言わないで、実家のピンチに焦るのは分かるけど。忍者は冷静さが命だよ」


 その言葉に、倫太郎は何時もの9倍ましの悪相で睨み付けるが、晴彦は意に返さずに話を続ける。


「それに、何も分かっていないんじゃない、分からないと言う事が分かってるんだ。

 僕たちが把握している限り、協会に登録してある忍者団体で君の所に敵対攻撃を仕掛けている所は無いってことさ」

「と言う事は、はぐれ者か、海外組織ってことかしら」

「おそらくね。ただこれだけの資金を動かすなんてはぐれ者の仕業にしちゃ派手すぎる。海外組織の方が可能性は高いと思うけど……」

「けっ、結局なんも分かってねぇって事じゃねぇか」

「あはははー、いやーやっぱり分かっちゃう?」


 晴彦は頭を掻きながらそう笑う。それに対し助け舟を出したのは翔子だ。


「いえ、国内の組織がかかわっていないと言う裏付けが取れただけでも大きな進歩だわ。

 それで、晴彦君。カッパファームを買収している企業についてはどうなの?」

「それが、どうやらペーパーカンパニーみたいなんだよね」

「ホントに役に立たねぇなテメェは」

「いやいや! この短時間でここまで調べた僕を誉めてほしい所だよ!?」


 晴彦はそう言うが今の倫太郎には通用しない。彼の頭を占めるのは、どうやってくそ野郎を1秒でも早く締めあげるかと言う事だけだ。


「それにしても、目的は何なのでしょう」


 敵対組織の正体が掴めずどうどうめぐりになっている中、明がそう呟いた。


「いやー、現時点じゃそれも分からないよねー。倫太郎君、君のとこなんか恨みって買ってない?」

「忍者にそれを言うのかよ」

「あはははは、それもそうだよねー」


 古くから忍者と言うものは汚れ仕事や裏仕事の専門家だ、昔ほど派手ではないが仕事を行うたびに恨みを買っている様なものだ。


「だが、最近のクソ親父は表の仕事が忙しく、裏の仕事はよっぽどのことが無けりゃ受けてないそうだ。それも災害救助とかの人助け関係が多いって聞く、あまり派手に恨みを買うような事はしてない筈だが」

「うんそうだね、特に水害関係ではお世話になってるよ君の所」


 倫太郎の発言に、晴彦は同意して幾つかの例を挙げる。それは大々的にニュースになる様な大災害の裏の顔だった。


「あの、倫太郎さん。これを聞くのはルール違反だとは思うんですが……」


 恨み以外の動機と考えて、明がおずおずと手を伸ばす。


「なんだ、今はどんなアイデアでもいいから言ってくれ」

「はい、河童忍者に伝わる秘伝とかプライズとかってなんなんですか?」





 男がいた、彼は金も、地位も、権力も携えていた。彼は正に現代の王だった。

 ただし、表に出るような男ではなかった。

 彼は裏の世界、闇の世界の深淵にて帝王として君臨していた。

 彼には恐れるものなどなにも無かった、国家すら彼の前では張子の虎だった。

 それ程の力を持っていた。

 だが、人の欲望に底は無く、人の寿命には限りがあった。

 独裁者の行きつく先は、何時も決まっていた。


「日本にて、賢者の石が発見されたそうだな」

「Oh、ボス、耳が早いでーすねー!?」

「はっ、戯けるな、道化よ。それで出来はどうだったのだ」


 某所、此の世の贅をかき集めた様な一室に、1人の鷲のような目をした老人と、その場所にはひどく不釣り合いな黒人の姿があった。


「全く、それを俺に聞んですか? やっぱり人の悪いお方だ」

「くくく、この儂にその様な口を叩くのは貴様だけだ」


 黒人、ザビエル・シッダールタは肩をすくめて答え。その様子に老人は愉快そうに笑う。


「まぁ、ご老体は俺のお得意様でありますがね。俺は貴方の手下と言う訳ではない、ある程度は自分のペースでやらせていただきますよ。

 それで、その石の事ですが、製造データについては貴方の子会社のどこかに提供したはずですよね、結果はどうだったんですか」


 かつて、ある天才により日本で賢者の石が生成されると言う事件があった(case2)。その際にそれにかかわった会社がザビエルに依頼し極秘に製造データを入手した件が有ったのだ。

 だが、実験の結果はごく普通に失敗に終わった。一応賢者の石に近い何かは生成出来たものの、不老不死の霊薬どころか卑金属を貴金属に替える触媒としても使い物にならない形だけのガラクタだった。


「しかし、東洋の神秘と言う言葉ある。今まで儂はあんな極東の島国なんぞに、あまり目を向けていなかったが、彼方の国にも色々と面白いモノはあるらしいじゃないか」

「まぁ不老不死の伝説なんて、何処の国にでも転がっているものではありますがね」


 そう、不老不死である。金と地位と権力を持て余した者が最後にたどり着く遊戯、その老人は老後の余興として不老不死の方法探しに熱を上げていた。

 まぁ老人とて、そんな呪いを全身全霊をかけて探し上げている訳ではない、あくまでも余興、優雅な暇つぶしである。


「くくく、まぁそう言うな。ところで儂の方でも少々探りを当ててみたのだが、なんでもかの地には『河童の秘薬』なるモノがあるそうではないか」

「『河童の軟膏』の事ですかい? また妙なモノに興味をお持ちで、貴方らしいと言えば貴方らしい」

「ははは、そう責めるでない。それでザビエルよ、今回の依頼はそう言う事。お主にはその霊薬を入手してきてほしい」

「了解しました旦那」


 そう言い、ザビエルは老人の部屋を後にしたのだった。

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