第57話 last case 探索編 1

「話は聞かせてもらったわ倫太郎君」

「ああ、迷惑かけるな翔子しょうこ


 倫太郎の姿は、豊前とよまえシークレットサービス社長室に有った。


「大丈夫、倫太郎君。何時もの3倍まし程度には人相が悪いわよ」

「まぁな、例のくそ野郎をどうやってぶち殺そうか楽しみにしてるからな」


 倫太郎のその返しに、今はつける薬が無いと、翔子は肩をすくめて話を続ける。


「それで、今のカッパファームはどういった状況なんだ?」

「はい、それでは僕から説明させていただきます」


 翔子の秘書であるあきらがタブレットPC片手に前に出る。


「これをご覧ください」


 そして、明は様々なグラフや表を示して説明を始めた。





「と言う訳で、現在判明しているだけで、4割の株式が敵対勢力の手にあります」

「……防衛手段は?」


 倫太郎の質問に、今度は翔子が返す。


「そうね、難しい所だわ。

 カッパファームは小さいけれど優良な企業ではあるわ。それに友好企業も沢山ある、ホワイトナイトには事欠かないわ、だけどそれは通常のM&Aの場合。今回はそう言う訳じゃないみたいですからね」

「謎のプライズか」

「ええ、その通り。売り渡してしまった株主たちはそのプライズ、あるいは何らかの力により洗脳されて売り払ってしまっている。これに対抗するには常とは別のアプローチ、即ち忍者的な手段による打開が必要だわ」

「分析あんがとよ。だが、企業買収の方はお袋が復活すればなんとでもなる。俺が知りたいのは敵についての分析だ。敵の姿と目的は何だ?俺の剣はどうすれば奴の喉元に届くんだ?」


 倫太郎は漏れ出す殺意を隠さずにそう言ったのだった。





「只今戻りました! 奥様のご様子は如何なんですか!!」


 倫太郎とは別に、鈴子の姿はカッパファームに有った。


「むぅ、優作お前」

「すみませんね、ボス。だが、今は体面を気にしている場合じゃないでしょう」


 焦る鈴子を送って来た優作は悪びれる事無くこう答える。


「「「鈴お嬢様お帰りなさいませ」」」


 絶え間なく鳴り響く電話に負けないようなだみ声が響いて来る。今やここの正社員として立派に勤め上げている豚山3兄弟たちだ。

 その威風堂々とした体格はそのままだが、それぞれ顔に疲れが見れる、この買収騒動でかなりやられているんだろう。


「豚山さん達もお久しぶりです、そんなにやつれちゃって……」


 鈴子は3人と再会の握手を交わし、労いの言葉を掛けようとするが、その前に3兄弟は土下座で返す。


「「「申し訳ございません、俺たちがついておきながらこんな事に」」」

「やめろお前ら! この農場の責任者は儂だ、頭下げるのは儂の役目だ」


 鈴子ちゃん心配かけてすまないと言い。洞ノ助は深く頭を下げる。鈴子が知る限り、何時も自信満々で、大きな体を大きく見せていた洞ノ助の姿が小さく見えて、鈴子の目に涙が浮かぶ。


「お義父とうさん!」


 自らに抱き付いて来る鈴子を、洞ノ助はしかし抱き返すことは無い、今はその資格はない、娘に甘える時期ではないと自らを律していた。





「……それで、お義母かあさんはどうなの」


 何止んだ鈴子がまず尋ねたのは、義理の母美奈子みなこのことだ。


「ああ、ママは今眠らしてある」


 洞ノ助はそう言って、電話対応の指揮を3兄弟に任せ、鈴子を美奈子の眠る寝室へと案内した。

 静かに眠る美奈子は相変わらずに年を感じさせぬ美しさで、静かな寝息を立てていた。


「お義母かあさん……」

「儂の知らない強力な呪いでな、洗脳状態を回避するためには眠ってもらうほかは無かった」


 洞ノ助は絞り出すようにそう呟く。


「それを解く方法は見つからないんですか」

「儂の知り合いに詳しいのが居るので見てもらったが、下手に刺激を与えると深刻な後遺症が残る恐れがあるそうだ。解呪するには掛けた本人に解呪させる、若しくは呪いの元となるプライズを破壊する事が一番安全だそうだ」


 メキリと、洞ノ助の拳の鳴る音が、静かな寝室に響いたのだった。





「貴方が、倫太郎さんの代理の方ですか」

「にゃしししし、奴に面倒を見させてやっている姫と言うもんじゃにゃ」


 姫の姿は、高級住宅の応接室にあった。


由紀子ゆきこお嬢様、こいつは唯の人間じゃございませんよ」


 にゅるりと由紀子の影が膨れ上がり、彼女に耳打ちをする。


「ええ、存じていますわあかなめ。倫太郎さんからは猫が行くと聞き及んでおります」


 全くアイツは適当だにゃと、姫は縦にさけた瞳孔をきらりと光らせ頬を歪める。


「それで、今回のお話は、カッパファームの株主として話を伺いたいとのことでしたが」

「にゃしししし、そういう事らしいんだが、正直儂はカブ?とか言われてもさっぱりだにゃ」

「はぁ、ですよね」


 猫に小判ならぬ、化け猫に株式証券。どうしたものかと由紀子が悩んでいると姫が話を続ける。


「にゃから、倫太郎の実家の敵について知ってることを話してくれにゃ。

 件の農場から送られてくる差し入れは中々のもんだにゃ」

「それでしたら、お話ししましょう。私もあの件(case1)を切っ掛けにお付き合いをさせて頂いていますが、彼方のお野菜はとてもおいしいですもの。アレが無くなるのは寂しいですわ」

「ええ、まったくです。野菜嫌いのお嬢様もしっかりとお野菜を取る様になって日々のお通じ――」

「あかなめ! そこまでよッ!!!」


 真っ赤になった由紀子が護符ハリセン(倫太郎作)であかなめをしばく。その様子を姫はニマニマと眺めつつ話を続ける。


「あっ、大事な事を忘れてたにゃ」

「えっ? なんですか姫さん」


 由紀子はあかなめとのどつき漫才を止め、姫の方に振り向く。


「お前の所も、結構なカブ? とやらを持ってるんで狙われる可能性があるらしいにゃ、と言う訳で儂が用心棒として居てやるから、接待するにゃ」

「……うちには既にこのあかなめろくでなしが居るんですが」

「にゃ~。儂は倫太郎の伝言を伝えただけだにゃ、後ここにいると贅沢な物を食べられると聞いたにゃ。絶対出ていかないにゃ」

「倫太郎さん!厄介もの押し付けてませんか!?」


 こうして、姫は残る最大株主である本城家の守り猫として駐留する事となったのであった。

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