第28話 case5 追憶編 4

「さて、何処かのう兄者」

「まぁまて、先ずはいつもの様に腹ごしらえしながらじゃ」


 深夜の畑に、ブヒブヒと鳴く豚、もとい人たちがいた。良く目を凝らして見るとその影は3つある。

 そして、その中の一人が、丸々と実ったスイカに手を伸ばそうとした時だ。


「おっと、そいつは売りもんだ。食いたいならスーパーまたはウチの直売所でってな」

「「「なっ! 何奴!!」」」

「それはこっちの台詞だクソ泥棒ども! とっとと姿を見せやがれ!」


 倫太郎の台詞と共に、月が雲から顔をだし、3人の姿がはっきりと見えた。その姿は忍び装束に身をくるんだ、3匹の子豚、もとい3人の忍者だった!





「ぬぅ! 小癪な小童め!」

「兄者どうする? 逃げるか?」

「はっ、逃げようったってそうはいかねぇ、警報システムは全力で稼働中。テメェらの醜い面も……ってお前ら何? 人間? 忍者のコスプレした豚?」


 倫太郎のナチュラルな疑問が3人の心に傷を残す。初撃は倫太郎のクリーンヒットだ!


「あっ! 兄者! こやつ儂らが最も気にしていることを!」

「むぅ! 子供だから見逃してやろうかと思ってはいたがそうはいかんぞ!」

「おう、我ら豚山ぶたやま3兄弟の力おもいしらせてやらねば!」


 3匹はぶひぃぶひぃと抗議の声を高らかに上げる。野菜泥棒と児童への暴行、どちらの罪が重いかなど関係ない、これは彼らの崇高なるプライドの問題だった。

 倫太郎は豚の逆毛、もとい竜の逆鱗に触れてしまったのだ!


「くっ! 忍者の癖に往生際が悪い、いや忍者だから往生際が悪いのか? これだから忍者ってやつは」

「なんとこの童。忍者の事を知っておるのか!?」


 長男と思わしき男が倫太郎に問いかけてくる。

 ちなみに鉢金に一、二、三と大きく書かれているので、見分けは簡単親切指向だ!


「知ってるのかもなにも、テメェら此処を何処だと思っていやがる。恐ろしくも汚らわしい河童忍者が経営してる、健康優良農場だぞ」

「なっ! なんだと! 河童忍者だと!」

「そう言えばカッパファームだとか書かれておったぞ!」


 衝撃の事実に驚きふためく三人。

 それもそのはず、河童忍者はそのあまりにもな風貌と、類まれなき水術の冴えで、(一社)日本忍者連盟の中でも恐れられたり、馬鹿にされたりと、兎に角一目置かれた存在だったのだ!


「ぶわーはっはっは! 何を威勢の良い小僧かと思えば、貴様あの変態河童の忍びか!」

「ぶはーはっはっは! 地の利を得て大きな顔をしていると見えるが、貴様の様な小僧では相手にならん」

「ぶはーはっはっは! 我ら豚山三兄弟、はぐれ者忍者の中でも三匹の魔猪と恐れられた剛の者。見逃してやるはこちらの台詞よ。子河童一匹で何になる、大人しく尻尾を巻いて逃げるがよい!」


 三兄弟の兆発に、今度は逆に倫太郎が攻撃を受ける。

 倫太郎は河童忍者が大嫌いだ、己の出自を呪った夜など数えるのが馬鹿らしくなる程だ。

 だが、自分が嫌っているものを人に馬鹿にされて気分がよくなるかと言うと、どうやらそうでも無いようだった。

 倫太郎はこの夜に、初めてそのことに思い至った。それもそのはず、地元では河童は神聖な動物? とされており、恐れられたり敬われたりはするものの、この様に嘲られるのを目撃したのは初めてだったからだ。


 そうは言っても、心の底から嫌っているものを、突然好きに等なれはしない。倫太郎は嫌悪と誇りの両方を胸に抱き、言の葉を紡ぐ。


「知った事かよ、豚野郎ども! 我は水底よりの使者! 天に抗うまつろわぬ民! 甲一種河童忍者、河童倫太郎押してまいる!」


 倫太郎がそう言い、キュウリを咥えると気配が変わる、いや変わったのは気配だけではない、皮膚には若干緑が差し、指の間には水かきが生え! 左腕には甲羅の盾(バックラー)を装着している! ああ何たる威容なんたる逞しさ! これこそが河童忍者の真の姿である!


「おうおう、子河童が燥ぎよる。おい、木二郎きじろう煉瓦三郎れんがざぶろう、儂が軽く相手をしてやるから、お前たちは目的の物を探せ。どうやらこの場は急がねばならぬようだ」

「「了解じゃ兄者」」


 そう言い、長男を残して二匹の豚は鼻をひくつかせながら左右に消える。


「くそ! 待ちやがれ!」


 倫太郎は、口にくわえたキュウリを落とさずそう叫ぶ。だが、その叫びが闇に吸い込まれるより先に、長男の藁一郎わらいちろが突っ込んできた!


「貴様の相手は儂じゃ小僧!」





「くっ、警察が来る前にとっとと、目的の物を見つけないとな」

「あらあら、それは一体何なのでしょう、良ければ教えて頂きませんか?」


 木二郎が向かった先にいたのは、割烹着を着た夫人と、眠たげに眼をこすりながらその夫人の背に抱かれる一人の幼女だった!





「くそ、こんな旨そうなものを目の前にしてお預けとはな、じゃが目的の為には仕方あるまい」

「おう、兄さん。その目的ってのは何なのか、ちーと教えてくれんかのう」


 煉瓦三郎が向かった先にいたのは、この月明かりを照らすサングラス。塀に背を当て中折帽に手を当てた一人の青年だった!

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