第27話 case5 追憶編 3
「おう、親父。このニュース見たか?」
倫太郎は農業新聞の記事を広げながら洞ノ助の元を訪ねる。
「むぅ、泥棒の件だろ? まさかウチの農場に忍び込むような命知らずは居ないとは思うが念のため、警戒は強化しておかないとな」
「うす、了解です。ボス」
優作はそう言うと、監視カメラ等警報装置のチェックを今日の作業リストに追加する。ちなみに彼は農場でも中折帽とサングラスは欠かさない。
倫太郎は彼のその徹底的ポリシーと、堅実な仕事ぶりは大好きで、農繁期にはハーレーに乗って訪れる彼に大変なついていた。
倫太郎は、河童忍法のことは嫌っているが、農業の方は大好きだ。と言う訳で、農業に関しては不俱戴天の仇である父親とも忌憚なく話をすることが出来る。まぁ忍法に関しても忌憚なく話していると言えば話しているのだが。ともかく、そんな間柄の親子だった。
そんな親子たちが話題としているのは、昨今多発している。野菜泥棒のニュースだった。収穫まじかの農作物を丸ごとごっそりと取っていくその手口から、犯行は作業になれた複数人で行われていることが、疑われていた。
盗難されているのはスイカやメロン、マンゴーと言った価値の高い物が主だが、カッパファームの一画にもスイカ畑は存在していた。
そんなある日の事だった。
「おい倫太郎。以前言っていた通り儂は明日から3日間、研修旅行に行ってくる。その間はお前が家長だ。家の事、畑の事、道場の事は頼んだぞ」
「けっ、道場以外の面倒は見てやるよ」
「ははは、安心してくださいボス。俺もいるんです、大船に乗ったつもりで旅に出てください」
「ははは、乗るのは船じゃなく飛行機だけどな」
そうして、洞ノ助は2泊3日の研修旅行へと旅立っていった。
「優作さん、俺今日は事務所に泊まるわ」
「ん? 何でですかい? 坊ちゃん」
「何となくな、鼻がうずくんだよ」
「また、坊ちゃんの勘ですかい」
夕食後の河童家の居間ではそんな会話がなされていた。
「若さ、お兄ちゃん。どうしたの?」
「あらあら、倫太郎さん何事ですか?」
倫太郎と優作がそんな話をしている所だった。風呂上がりの蒸気を漂わせている二人が居間へ帰って来た。
「ああ、母ちゃん。なーんか今日は嫌な予感がするんだよね。念のために俺ちょっと事務所で泊まってくるわ」
「んー、そういう事なら俺が行きますぜ。坊ちゃんに万が一のことがあれば、ボスになんて言って詫びればいいのか言葉がねぇ」
「いいって、いいって。ガキの勘一つで、優作の兄貴の手を煩わせるわけにはいかねーって。
明日は大事な取引で出かけなきゃいけねぇんだろ? しっかりウチで休んどいてくれよ」
倫太郎と大人たちが、何か怖い話をしている、そう感じ取った鈴子は美奈子の袖をぎゅっと握りしめる。
美奈子は優しくそれに手を重ねこう言った。
「そうですよ、倫太郎なら心配ありませんわ。もし盗人が押入って来たとしても、5人10人程度なら何とかなります。そうですわ! それなら今日は家族3人で事務所にキャンプに行きましょう!
優作さん、お家の事はお任せしましたよ」
「ちょ! 奥さん! そりゃーないですって!」
普段主張しない美奈子であったが、ここぞとなったら梃子でも動かない。こうして優作は逆に不安で中々寝付けぬ夜を迎える事となったのだった。
草木も眠る丑三つ時、農場の入り口付近にある2階建てのプレハブ事務所の休憩室では、親子3人仲良く川の字になって眠っていた。
倫太郎も最初は寝ずの番をするつもりでいたが、そこはまだ小学生。毎朝のスパルタンな訓練の性もあり、0時を迎えた頃にはすっかりと寝入ってしまっていた。
美奈子は子供二人が目を覚まさないようにと、電気が消えた、月明かりの挿し込む薄暗闇の中、優しい視線を二人に向けていたが、突然ガバリと倫太郎が目を覚ました。
「済まない、寝てたぜ母ちゃん。だが俺の勘は当ったみてぇだ。お役さんのご到着だ」
そう言って倫太郎は暗闇の先を睨む、美奈子には分からない何かの姿を、倫太郎の両の眼ははっきりと捕えていたのだった。
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