第18話 case3 探索編 5

『あん? 誰だテメェはって、ザビエル・シッダーキィイイイイイイイイーーーーーー!!!』

「ちょっ! 倫太郎さん五月蠅い! ハウリング! ハウリング! マイク置いて喋って!」

『おお、すまキィイイイイイイイイーーーーーー!!!』





「すまん、すまん。こほん。あー、なんだっけ?」

「えーっと、そうだ!この倫太郎さんはこの人の事知ってるんですか!?」


 鈴子は、乱入者である、筋肉モリモリマッチョマンで長身僧衣の黒人男を指さしながらそう言う。

 彼はその指摘を受けて、満面の笑顔で親指を立てる。爽やかさよりもむしろ汗臭さを振りまくようなその笑顔に、鈴子は思わず顔をしかめる。


「こいつは、ザビエル・シッダールタ。フリーの拝屋だ」

「拝屋って?」

「詐欺師の仲間みたいなもんだ」

「Oh! りんたーろう! それはないでーす! わたーしは、清く正しいブディストでーす! しゅじょーうを、さとーりに導くため、世のへいおーんの為に清く正しく活動してるーのでーす」


 外人特有のオーバーリアクションが、狭い室内をますます狭くする。


「ちっ、うるせえな。そこの外人。美紀さんが驚いてって」


 義明は2m近い長身肉厚の黒人に怯むことなく向かっていった途中で、美紀がいつの間にか消えている事に気が付いたのだった。





「ちっ、逃がしたか」

「いや。倫太郎さんが、何時までも歌ってたから何も進展してなかったんですけど」

「おい、ザビエル。テメェが余計な茶々を入れてくるから作戦が台無しじゃねーか」


 河童イヤーは、流水の如し。倫太郎は鈴子の突っ込みを無視して、ザビエルに食って掛かった。勿論作戦などは無い、常において高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処していく。ハードボイルドとは険しく孤高でワイルドな生き様だ。


「Oh、それは心外でーす。わたーしは、そこの彼をたすけーる、ためでしたーのに」

「ん? どういう事だ?」

「あの指輪を自らの意思でうけとっていたーら、貴方とあのゴーストは強固なチェインで結ばれてしまいまーす」

「……呪われるって事か?」

「ザ・ラーイ! あのゴースト、今は無害かもしれませーんが、今後もそうとはかぎーりません。

 そうなってしまっては、トゥーレィツ!

 わたーしに、その指輪をあずけーて下さーい。悪いようにはいたしーません!」


 そう言い、ザビエルは白い歯をむき出しにして親指を立てる。

 胡散臭いこと、山の如し。もしワールド胡散臭いチャンピョンシップなるものが存在すれば上位入賞は間違いなく狙える一品であった。


「すごいですよ、義明さん。わたし、倫太郎さんより胡散臭い人初めて見ました」

「ああ俺もだ。奴は所詮ご近所レベルってとこだったんだな。やっぱりワールドクラスは桁が違うぜ」

「おい、聞こえてんぞてめぇら」

「HAHAHA、流石は倫太郎のフレンズ、容赦あーりませんねー」


 狭い室内で、銘々が好き勝手に話をする混沌の渦、それを倫太郎の声がそれを裁ち切った。


「あーもう、兎に角仕切り直しだ。いったん事務所に戻るぞ」





「で、あの野郎は一体何もんなんだ?」


 事務所に戻った、義明が疑問を呈す。


 胡散臭い恰好に、胡散臭い言動、そして胡散臭い笑顔の胡散臭さ3点バリューセット。

 折角うまくいきそうだった流れを台無しにされた義明は、怒りを隠さず倫太郎に問い詰める。


「いや、正直俺もよくは知らねぇ。流しの拝屋、つまりは霊的な事の何でも屋って所って話だ。

 ただ、あの外見とは裏腹に腕は確かって話でな、俺も奴の意見には賛成だ」

「奴の意見ってーと、指輪を受け取ったら呪われるってやつか」


 そう、あの怪僧は『自らの意思でその指輪を受け取ったら、強固な結びつきが出来る』と言っていた。


「でもでも、あの幽霊、美紀さんはそんな悪い人?には見えませんでしたよ?」


 鈴子は、疑問を投げかけるが、倫太郎はそれを却下する。


「今んところ、はな。基本的に幽霊なんて奴は、自分が死んだことに気付かずに現世をさまよっている奴が大多数だ。

 そんで、中には強い恨みや心残りでもって、現世にしがみついている奴もいる」


 倫太郎は指折りそう数える。


「だが、あの女は違う、自分の状況をしっかりと自覚しつつも、幽霊生活をエンジョイしていやがる」

「なんとまぁ、前向きと言うか何と言うか」

「だな。そんで俺の予想じゃ、8割がた大人しくは過ごしてくれるとは思うんだが」

「2割は悪い方向に転ぶと?」


 義明は、鋭い目を倫太郎に向けつつ、そう尋ねる。


「そうだ、それがどういう風になってくかは、お前さんなら分かんじゃねぇか?」

「そうだな、ストーカー気質のある女の子との関係がこじれちまった時を想像すりゃいいのか?」

「おそらくはな、しかも幽霊のストーカーだ、結局は生きてる人間の方が怖いってのは話の落ちによく使われるが。何をどうして、幽霊だって厄介なのは違いない。中でも彼女は物質的な影響力を持てちまってるしな」

「指輪、ですね」


 鈴子の言葉に、皆の視線が机の上に置かれた指輪に注がれる。


「取りあえずは分かった、そんじゃ話を戻すが、あの黒人の目的は何だと思う?」


 美紀の事、と言うかストーカー女性のあしらいについては経験のある義明は、経験などあるはずもない、怪僧に話を戻す。


「そりゃ、奴が言った通り、その指輪が目的だろうよ」

「指輪って、そりゃ出所は摩訶不思議だけど、指輪自体は普通の指輪だぜ?」

「その、普通のプラチナ製の指輪が、何処からともなく出て来たんだ」

「あっ! その作成方法が分かれば、タダで指輪作り放題と言う訳ですか!?」

「そう言う事だな」

「けど、自分で言っといてなんですが、随分とせこいと言うか何と言うか」

「まぁ結果だけ見ればせこいが、等価交換なんぞお構いなしの無から有の創造だぜ、見様によっちゃ神の権能だ」

「で、その為にゃ、彼女を俺と契約させるわけにはいかないと」

「まっ、そういう事だろうな」


 ふむ、と一通りの話し合いを終え、義明は考えを纏めるため腕組みをし目を瞑る。


「で、どうする?」


 倫太郎は尋ねる。


「何がだ?」


 義明は返す。


「依頼の件だよ、このまま続けていいのか?」


 倫太郎は、挑発的な顔をして尋ねる。


「いいや、変更だ。俺は今まで幽霊とは付き合ったことなかったからな、そう言う経験もありだと思うぜ」


 義明は、ニヤリと笑ってそう答えた。

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