第15話 case3 探索編 2
「おお! これだよ! この人だ!」
秋月美紀の写真を、SNSで依頼者である朝倉に送ると、直ぐに返事が返って来た。どうやら鈴子の願い空しく、タクシーに現れた幽霊は、秋月美紀その人だったようだ。
「うえーやだよー」と鈴子の弱弱しい声が聞こえるが関係ない、これで最早依頼は終わったようなものである。後は彼女の墓前にでも指輪を返せばそれで終了である。
そう、思っていた。
「「返って来た?」」
「あーそうだよ、気が付くといつの間にか俺の傍にこの指輪が落ちてたんだよ」
そう言って、朝倉は例の指輪を探偵事務所の応接机に放り投げた。見間違えることは無い、3つの輪で構成された独特のデザイン、彼女が作成した幽霊の忘れものだ。
「ふーむ。確かに彼女の墓前に献花と一緒に置いて来たんだがな。好みの花じゃなかったのか」
倫太郎はそれを拾い上げながらしげしげと指輪を眺める。
「そうだってな、前は仕事で行けなかったから、俺一人で行ってきたんだ、けど気が付くと俺の手元に戻っていやがる、何だこれは? 俺は嫌がらせを受けているのか?」
「今度はって、お前ん所に2回も戻って来たのか?」
「いーや、4回目だ、置いてきても置いてきても戻って来やがる、こいつは一体どういう事なんだ倫太郎?」
疲れた様な口調の朝倉に、倫太郎は諦め半分で返した。
「俺に聞かれてもな、お前なんか彼女に恨まれるような事したんじゃないのか?」
「んなわけあるか。そもそもが、彼女と出会ったのはあの時が初めてだ、恨まれるような事した覚えはねぇよ」
「そん時だよ、よーく思い出してみろ。ドギツイセクハラ発言とかしちまったんじゃねぇだろうな?」
「俺はお前とは違って、レディの扱いは心得てるよ」
「はっ、プレイボーイ気取って、散々女を泣かしてきた癖によく言うぜ」
「モテない男のひがみはやだねぇ、そう思うだろ鈴子ちゃん」
「いやー、朝倉さんはコスプレ馬鹿の倫太郎さんと違い、パッと見イケメンですからねー。
ですが、コメントは控えさせていただきます。
ところで、それはほんとに嫌がらせとか呪いとかで戻ってきてるんですか?」
指輪から、遠く離れたところからコメントする鈴子に対して、二人はそろって顔を傾げる。
「あのですね、そう言ったマイナスの感情ではなく。プラスの感情、親密になりたいと言う気持ちで何度も届けているって可能性は無いんですか?」
「どうなの?」「どうよ?」と、その可能性には思い至らなかった男二人は、傾げた首の角度をさらに深くする。
「お前何か、霊障とか悪寒とか感じたことあるか?」
「い~や別に、ただ単に指輪が届けられるそれだけだぜ」
「俺の鼻にも呪いの類の匂いは感じられないんだよな、だからこうして余裕ぶっこいてる訳だが」
「おいおい、真面目に調査してくれよ? 一応依頼料は払ってんだからよ」
「馬鹿野郎、知り合い価格の雀の涙だよあんなもん。
しかし、幽霊のストーカーとなると、お前のプレイボーイっぷりにもますます磨きがかかったってもんだな」
「そいつは、光栄だがね。幽霊に好かれてもどうしようもないぜ」
「しかし、こうなると面倒くせぇが、張り込みするしかねぇな。男に張り付く趣味なんてねぇが」
「俺だって、野郎に付きまとわれて喜ぶ性癖なんざ持っちゃいねぇよ」
暫く、黙り合った二人は、示し合わせたかのように同時に鈴子の方を向く。
「絶! 対! 嫌ですからね! 何ふざけたこと言おうとしてるんですか!!」
「いやしかし、案外いい案かも知れない。義明、お前今フリーだったよな」
「ああそうだ、偶の休息期間だぜ」
「ならばますますだな。その秋月って女がどれだけ嫉妬深いかは知らないが、お前が見知らぬ女といちゃついている所を見ると、何らかのリアクションを起こす可能性が高い。
奴は、なかなかのストーキング技術を持っている幽霊だ。普通に張り込みするよりも断然効率がいいはずだ」
「ちょ! ま! 待ってください! それって呪いの矛先が100%私の方に向かう流れじゃないですかッ!!」
「安心しろ鈴子。俺が背後でお前らを監視する、高々その辺の幽霊ごときに後れを取っちゃハードボイルドの名が廃るってもんだ」
「ハードボイルドとは関係ない気がするんですが!?」
「そうかそうかー、そういや鈴子ちゃんとデートってしたことなかったな、思いついたら吉日だ、俺明日年休取るから鈴子ちゃんどこ行きたい?」
「わたしの話を聞いてーーー!!」
こうして、夕日で紅く彩られた事務所に、鈴子の悲痛な叫びが響き渡ったのだった。
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