第14話 case3 探索編 1
「嫌ですよ、私調査に協力しませんから」
朝倉が事務所を後にしたのち、鈴子が放った第一声はそれであった。
「なんでだよ、俺は、ハードボイルドファッション以外には全く疎いんだ、少しぐらいは協力してくれてもいいだろ」
「嫌です! 幽霊案件なんて! 絶対無理ですって!」
「おまえ、忍者らや妖怪やらと散々絡んでおきながら今更」
「それとこれとは話が別ですー! 私ほんとに幽霊苦手なんですって!大体忍者なんてただちょっと変わった性癖の人間ってだけじゃないですか」
「その認識もどうかと思うが!?」
「ともかく、ホント怖いの駄目なんですって!」
「まぁまぁ、怖い怖くないは置いといて、幽霊ぐらいなんてこっちゃないぜ」
「へっ? 何がですか?」
余裕綽々の倫太郎の一言に対し、鈴子は困惑して問いただす。
「俺は幾度も幽霊案件に当ってきた。そん中で話の通じる奴には説得し、通じない奴は忍術で撃退して来た、今更地縛霊の一つや二つなんてこたぁない」
「……それって、幽霊は存在してるってことですか?」
「おう、さっき言った様に、忍者や妖怪が存在するんだぞ、幽霊が居たっておかしきゃねぇだろ」
「居るって事じゃないですかー、やーだー!」
「だから、俺なら解決できるって言ってるだろ、大人しく協力しやがれ」
こうして、倫太郎は、渋る鈴子の手を無理矢理取って調査に赴くことになったのだった。
「えっと、彼女がジュエリーデザイナーで、オカルトにも詳しい、
「はじめまして、桃園真紀と申します」
鈴子にそう紹介された彼女は、カジュアルスーツをさらりと着こなし、涼しげな細い金属フレームの眼鏡を掛けた、いかにも出来ると言った感じの、20代後半の女性だった。
「ああこれはご丁寧に、俺は河童倫太郎、私立探偵をやってるものです」
対する倫太郎は、いつも通りの探偵ファッション。例えどこの誰が相手であろうと、彼のハードボイルドが揺らぐことなど決してありえないのだ。
倫太郎は握手を交わすと、さっそく聞き込みを開始する。
「ジュエリーデザイナーでオカルト好きですか、俺にとっちゃ渡りに船だ、早速ですがこれを見てくれませんか」
真紀は、倫太郎のせっかちで不愛想な物言いに、嫌な顔一つせず、むしろ好奇心にあふれた顔で件の指輪を受け取った。
「これが、鈴子さんが言っていた、幽霊の指輪ですか。ふむふむ非常に興味深い」
真紀はそう言うと、眼鏡を机に置きルーペを片手にしげしげと、それを観察する。
「(おい、なんだか、この姉ちゃんエライ食いつきが良いじゃねぇか)」
「(そうですね、以前結婚関係の記事を書くときに知り合いになった人なんですが、指輪とか宝石とかオカルトがらみの話が多いじゃないですか、それをきっかけに興味を持ったって話してましたよ)」
外野がこそこそ話をしている間に、真紀の調査は完了したらしく、眼鏡を掛け直した彼女は本棚からファイルを取り出して、二人の前に開いた。
「これを見てください」
どれどれと、二人は頭をくっつけるようにその資料を眺めると、そこには正しく幽霊の落とし物と全く同じ指輪の写真が写っていた。
「真紀さん、これは!?」
鈴子が身を乗り出して尋ねると。真紀は、彼女を落ち着かせて、指で眼鏡の蔓を持ち上げながら解説を始めた。
「特徴的なデザインだったので、直ぐにわかりました。とは言っても個人作成の品なので流通量はあまり多くはありません、以前某所のコンテストで見かけたときに私も目を付けていた品でして」
「ほう、それじゃー。その製作者に尋ねれば直ぐにわかるって話か。こりゃおもったより簡単に行きそうだな」
「……それが、そう言う訳にも行きません」
「と言うと?」
「そのデザイナーは、昨年お亡くなりになっているんです」
「ひょいッ!?」
ガタリと、衝撃の事実に驚いた鈴子が倫太郎に縋り付く、彼はうっとおしそうな顔をしたまま、真紀に事の詳細を訪ねた。
「昨年の大水害は覚えていますよね。彼女、これをデザインした
職人気質で少々変わった事のあった彼女は、有名ブランドからの誘いを断ってあえて実家の静謐な片田舎で制作を続けていました、それがまさかこんな事になってしまうとは……」
「えー、桃園さんは、その秋月って人と個人的な関わりはあったんですかい?」
「いえ、残念ながら挨拶をかわす程度で。このような事になると知っていれば。色々とお話をしてたかったです
しかし、鈴子さんの話が本当だとすると……」
「こりゃ、本格的に幽霊案件になるんですかね。亡くなった天才宝飾デザイナーの幽霊か。良かったな鈴子、いいネタになるかもしれんぞ」
「ひっ! 嫌ですよ、そんな故人の事を面白おかしく書くなんて! 祟られたりしたらどうするんですか!
それに、故人の指輪を買った人が、たまたまイリュージョンの練習をしていただけかもしれないじゃないですか」
「いや、その発想はどうかと思うぞ?」
鈴子は倫太郎に縋り付いたまま、カタカタと震えながらそう答えた。
「しかし、秋月さんですか。彼女のアトリエは川沿いに有ったため、水害で流されてしまったと聞いています、おそらくは顧客名簿等は紛失してしまったかと」
「すると、現在の彼女のアトリエは?」
「そこまでは、存じ上げません。復興が進んだとしても、所有者が故人となった場所は、どういった扱いになるのでしょうか」
「そうですね、親類縁者が居ればそこに話が行くんでしょうが、そこまでは知りませんよね」
「それが、彼女は両親に先立たれて天涯孤独の身と言う話でしたから……」
「そりゃ、ますますってことだな。あぁところで彼女の写真ってありますかい?」
真紀から差し出された写真には、彼女が言ったコンテスト会場で撮られたであろう、真紀と美紀がツーショットで映ったものだった。
そこに映る彼女は、胸まで届く長髪を伸ばした、よく言えば飾り気ない、悪く言えば野暮ったい服装をして、長身をやや猫背にかがめぎこちない笑顔を浮かべていた。
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