第10話 case2 探索編 4
「ここは、確か単なる倉庫のはずですが」
隠形術を使い、透明人間となっている二人の前には『第7資材置き場』と書かれた無機質な扉があった。
「あぁ、表向きはな。だが俺の鼻が感じてるんだ、此処に間違いはない」
「……河童は鼻が敏感なのですね」
「おめえら天狗の連中こそ、目の鋭さが売りだろ? 透視はまだ使えねぇのかい?」
「……申し訳ございません、千里眼には多少の覚えはありますが」
「いや別に責めてる訳じゃねぇ、唯の世間話に本気になるな」
倫太郎は、歳が一回り近く離れた、礼儀正しい他人の部下と言う、扱いに高度な距離感を必要とする明への対応にギクシャクしつつ、「そんじゃいくぞ」と、不用心にドアノブを握る、そして、それが施錠されていることを確認すると、鍵穴に掌を押し付けた。
「(河童忍術、
ぷしゅりという音がした後、カギはカチャリと開錠した。精妙なる河童忍術の恐ろしさ! 倫太郎は、粘度の高い液体を鍵穴に流し込みそれを自由に操作することで、即席のカギとしたのだった!
それを見て、明は心の中で小さく驚く。主人から聞いていた河童忍者の印象は泥臭く、野暮ったく、大雑把な忍法と言う事だったが、なかなかどうして。水術を得意とする彼ららしく、その忍法はまさに水の如くに変幻自在と言うべき代物であった。
二人は、開錠したドアの隙間にするりと身を滑らせ、内側より施錠する。室内は暗黒の世界と言う訳でなく、ブラインドの下ろされた窓があった。無論忍者の二人には、そのわずかな光源で事足りるものである。
薄暗く埃臭い室内をぐるりと見渡しても、そこに在るのは単に埃をかぶった資材の山ばかりだった。人が出入りした形跡は多々あるが、それだけにお目当ての品が何処にあるのか直ぐには見つからないと言った様子だった。
そして、それに気が付いたのは明の方が先だった。
「倫太郎様、空気の流れが少しおかしいです」
「ほぅ、流石は天狗だな、具体的な場所は分かるか?」
河童が水術を得意とするならば、天狗の得意は風雷の術である。少しでも倫太郎の鼻をあかしてやろうと気を配っていた明は、密閉されているはずの室内におかしな空気の流れを感じ取ったのであった。
「下です、おそらくはこのあたりに仕掛けがあるのかと」
倫太郎は、探索に熱を入れる明の後ろでゆるりと待機する。彼の鼻も勿論地下に何かある事は掴んでいた。
だが、折角明がやる気を出しているのだ、そこに水を差すのは、いかに河童と言えど野暮の極みだろうと言う建前で、今回の報酬でカブからベスパへと買い替えるべきなのか本気の本気で悩んでいると、明より隠し通路発見の報告が上がる。
「倫太郎様、仕掛けを発見いたしました。この本はフェイクでカードリーダーがしこまれています」
「ふむ、アナログな俺にゃ無理な仕掛けだな、出来るか?」
「無論でございます」
明はそう言い、無表情を装いつつもやや得意げに、タブレットPCを装置に接続しハッキングを始めた。天狗忍者が操る
成程、流石に業界屈指の大手興信所である豊前シークレットサービス、繁盛するわけだと、倫太郎が明の手腕をぼさっと眺めている間に、作業は終了した。
開錠音の代わりに緑のランプが小さく点灯すると、本棚は静かなモーター音と共に奥には隠し通路が現れた。
「……しかし、現代日本でこんな
「……そうですね、自分で発見しておきながらそう思います」
「何処のどいつが設計したのか知らねぇが、そいつはよっぽどいい空気を吸ってる奴だ。賢者の石は元より、何が出て来ても可笑しくはないちょっとばかし、褌締め直して事に当れよ」
そういい、倫太郎は、スパンと一発明の尻を叩く。
「ひゃん!」
「なっ? てめぇ妙な声出してんじゃねぇよ。せっかくおっさんが距離の掴めない若者とスキンシップを取ってリラックスさせてやってんのに」
「…………尻子玉とか言う奴を抜こうとしたんじゃないでしょうね」
倫太郎のその発言に、明は顔を赤らめながら尻を抑えつつそう言った。
「あほか、人間にそんな臓器はありゃしねぇよ。さて、此処が空いたのは向こうにもばれているだろう。とっとと行って終わらせるぞ」
「了解です、倫太郎様」
こうして気を取り直した二人は、地の底へと続く梯子を下りて行ったのだった。
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