第27話 晩餐会
予想はしていたが、やはりエルシー王妃達への貴族の目線は厳しいものばかりだ。主催者としてはこの晩餐会の雰囲気が悪くなるのでやめて欲しい。
一応、貴族達もエルシー王妃達を無視する気はないようできちんと話しかけてはいる。だが、友好的ではない。
とりあえず、空気が悪くなりすぎないように麗佳の方も気をつかってはいる。だが、それにも限度というものがあるのだ。
まだ序盤なのに、と遠い目をしたくなってしまう。
——体の調子はどうだ?
オイヴァが心配してテレパシーで声をかけてくれる。
——今の所はなんともありませんわ。
ゆっくりとした仕草で前菜を口に運びながら答える。ついでに、にっこりと微笑みかけた。オイヴァも安心したのか笑みを見せてくれる。
貴族達がそれを見て揃って微笑ましそうな表情をしている。事情を知らなくても、こっそりといちゃついているように見えたに違いない。少しだけ恥ずかしくなってくる。
それでも、このやりとりを見た貴族の表情が多少柔らかになったのは良かったのかもしれない。
妊娠の事はエルシー王妃には知られてしまったが、その事は貴族達には話していない。わざわざ不安にさせる必要はないだろうと思った結果だ。もちろんオイヴァとも話し合ってこうする事にしたのだ。
だからと言ってこうやってこっそり会話するのは良くないかもしれない。改めて晩餐会の会話に集中する。
今はオイヴァが主に二人と話をしてくれている。
とはいえ、会話自体は大した事はない。この国の印象はどうか、滞在中に不自由はないか、とかその程度のものだ。
エルシー王妃達なら悪い印象を持っていたとしても社交辞令でいい事を言うだろうと思っているし、実際悪い印象の話は出ていない。
まあ、当たり障りのない話題なら直接揉めなくていい。
魔族達には『ヴィシュに帰れよ!』という気持ちがあるだろうが——実際、麗佳にもある——、それがそこまで表面化しないならそこまで問題視する必要はない。
無理しない程度に気持ちよくきちんともてなして、気持ちよく帰ってくれた方が後々いいだろう。
だから、彼らに苛立っていても、睨むのはやめて欲しい。麗佳が色々と気を使っているのが台無しになってしまう。
とはいえ、麗佳にはある程度話題を良い方に持っていくくらいしか出来ない。
面と向かって『やめなさい!』と言うだけの権力はある。でも、そんな事をしたら、後々問題になってしまうのだ。向こうに謝罪するつもりなら話は別だが、それはこちらに非があると認めてしまうことになる。
前に親切心でそう忠告をして、悪口を言っていた人と一緒に自爆した例を麗佳は見た事があるのだ。ああいう失敗はするべきではない。
まあ、軽く睨んでるだけだし、と自分を納得させる。もし、ものすごく問題があるのならオイヴァが止めるだろう。
話題は滞在中の話になっている。いわゆる、この七日間の間にこんな事があったね、という話だ。だが、相手が相手なので、表情は穏やかだが、内面は全然穏やかではなさそうだ。きっと、オイヴァなんかは結構どす黒い思いを抱いているだろう。
特に、お茶会の話になると、オイヴァの目から笑みが消えた。口元はきちんと笑っているので逆に怖い。
当然だが、マウリッツ王太子はそんなオイヴァの様子にビクビクしている。
きっと、話題を出した伯爵は穏やかな話を選んだはずだ。まさか彼も最初はそのお茶会に『王妃』が招待されていたなんて思ってもいないだろう。
一応はあまり広まらないように気をつけていたが、これが公になったらマウリッツ王太子の処罰を求める貴族もたくさんいるのだろうな、と考える。
「あの時はいろんな話をしましたね」
オイヴァが目以外はにこにこと笑いながらそんな事を言っている。鈍感な人が見れば『懐かしいなぁ』とほのぼのしているようにも見える。
ただ、麗佳から見れば、その言葉の続きに『覚えていらっしゃいますか?』という副音声が聞こえたような気がした。
マウリッツ王太子は『ええ……まあ……そうですね』としどろもどろである。麗佳の目にはどこか戸惑っているようにも見える。
何の話の事を言っているのだろうか。麗佳にはよく分からない。なので話には加われない。
エルシー王妃は不安そうに息子を見ている。『うちの子、一体魔王に何言ったの!?』という感じだ。母親としては落ち着かないのだろう。
大変だな、と思いながら麗佳はメインの肉料理をゆっくりと口に運んだ。
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