第28話 オイヴァの思惑
「あれは何も知らないな」
晩餐会を終えて執務室に戻ったオイヴァの第一声はそれだった。
それだけ言われても麗佳は何も分からない。
ぽかんとしながらオイヴァを見ていると、苦笑される。
「お前はある程度察しろ」
そう言いながらおでこを一度つつかれる。
「すみません」
とりあえず詫びておく。それでも分からないものは分からないのだ。
困っていると、突然抱き上げられ、椅子に座らされる。どうやら相当疲れているように見えたようだ。続いてオイヴァも椅子に座る。おかげでしっかりと話し合う体制になった。
「マウリッツ王太子との茶会の最後に『勇者召喚がなくなれば、ヴィシュに何もする気はない』と言ったと話しただろう?」
そういえばそんな事もあった。確かそれを『勇者召喚をなくすためにお前を傀儡にする』という意味だと曲解されたとも聞いた。
それを思い出した事で、晩餐でオイヴァがマウリッツ王太子に言った言葉の意味も分かった。
「……『直接責めない』とおっしゃってませんでしたか?」
「だから『直接』は責めていない」
堂々とそんな事を言われても困る。
この様子だと、話題をわざとそちらに行くようにこっそり誘導していたとしか思えない。
「それに、さっき言ったように、二人があの召喚の事を知っているか確かめたかったしな」
「そう……ですか」
そう言われてしまうと納得しておくしかない。
でも、あんな事をしたら、後でエルシー王妃あたりが察してしまうのではないかと心配になってしまう。
その指摘にもオイヴァは平然とした顔をしている。別に『自分で気がつく』のならそれでいいようだ。むしろ、気づいて焦ればいいと思っているようだ。
「心配する事はない。あと三日ほどであの者共は帰るのだからな」
「そうですね」
それは素直に喜んでおきたい。
大きな行事も明後日の最後の舞踏会のみだ。
大まかな事はもう決まっている。多分、そのまま開催しても恥を掻く事はない。でも、念には念を入れたい。失敗してヴィシュ相手に隙など見せる気はないのである。
なので改めてきちんと大事なところの確認をする。
ただ、明日麗佳が出す指示を大体代わってくれようとしているのはどうしてだろう。信用がなくなったなんてことはないはずだ。
少し不満そうな顔をしていたのだろう。オイヴァが苦笑する。
「明後日の夜会に備えて、明日はゆっくり休め」
おまけにそんな事を言われる。数日前に体調を崩した事を気にしているのだろうか。確かに、無理をしすぎたかもしれない。
なので今回は素直に甘える事にする。
オイヴァは麗佳の返事を聞いて満足そうに微笑んだ。
***
「さて」
レイカを寝室に送り届け、執務室に戻ったオイヴァは、厳しい表情で臣下たちに向き合った。
目の前にいるのは、隠密の長、王宮魔法使いの長、そして王宮魔術師長だ。全員、ヴィシュで召喚があったのを知っている者たちだ。
「今回入国したヴィシュからの訪問者は、最終日に一人残らずお帰りいただこう」
冷たく唇をあげながらそう宣言する。
否定する者はいない。それだけみんなも彼らにはうんざりしていたに違いない。もっとも、オイヴァの命令は基本的に断れないからかもしれないが。
「明日の夜会の時間に使用人があちらの使用人の為に見送りの会を開いてやるそうだ」
そう言っただけで隠密の長にはオイヴァが何を言っているのか分かったようだ。
「では、私どもの方もその時間にあちらの方を歓待させていただきます」
期待していた答えを聞いてオイヴァは唇を上げる。
「陛下、こちらからも応援を送らせていただきますので」
ヒューゴもそう提案してくれる。そうなったら残ったエマもそうするしかない。
あちらの隠密には魔術にある程度長けている者もいるだろう。魔術や魔法の支援は必要なのだ。
「頼んだぞ」
オイヴァはまだ冷たさを保ったままそう言った。
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