第12話 錬金術でホントに金を作る方法

錬金術は古来多くの人の夢をかきたててきた。特に中世から近代以降科学の発達に合わせて真剣に取り組む科学者もいた。しかし、いまだ実現するに至っていない。

これまでの錬金術の決定的誤解は、金が化学反応で出来ると考えていたところである。化学反応は、いろいろな物質が原子をやり取りして、くっついたり離れたりして別の物質に形を変えるものである。例えば最もよく知られている化学反応は水素(元素記号H)と酸素(元素記号O)が結合して水H2Oになるということは、今では小学生でも知っている。ただ、ここで注意が必要なのはHとOは形が変わっても、依然としてHとOのまま存在しているという点である。すべての化学反応も同じである。いくら複雑な化学反応を何回繰り返しても、元素が本来持っている性質までは変えられない。

「水兵リーベ…」と覚えさせられ元素の周期表を思い出して欲しい。周期表には元素が質量の軽い順番に並べられている。すべての物質はこの周期表に並んだ元素の組み合わせで出来ている。そして、この周期表に並べられた元素は勝手に他の元素に変えることはできない。つまり水素HはいくらいじくってもHのままで、それが酸素Oになることはない。「金Au」はこの周期表の原子番号79のところに並んでいる。同様に他の元素をいくらいじくっても金Auに変えることはできない。錬金術が不可能な所以である。

では、錬金術は夢か。いやそう簡単にはあきらめてはいけない。物理反応を使えば元素を他の元素に変えることは現実に可能である。それが、核分裂と核融合である。

すべての原子は、原子核の周りを電子が回るという構造で出来ている。そして原子核はその元素固有の数の陽子と中性子から出来ている。この数をいじくれば、例えば水銀から金を作ることも可能である。

核分裂は既に実用化されている。原子力発電である。これは核分裂を起こしやすいウランを使って、その原子核が分裂する時に放出されるエネルギーを電気に変えようとするものである。この核分裂は一旦始ってしまうとドンドン自動的に進んでしまって止められなくなる。これが原子力発電が危ないとされる所以である。

一方の核融合とは、未だ実用化されていないが、自然現象としては既に存在している。太陽である。太陽では日常的に水素が核融合反応を起こして、別の元素であるヘリウムに変わっている。この時生み出される膨大なエネルギーが太陽光となって地球に降り注いでいるのである。

この核融合反応のエネルギーレベルをさらに上げてゆけば、ヘリウムは炭素に、炭素は鉄へと変えることができる。では金はできるか。今のところ核融合反応で金を作るには太陽のエネルギーをもってしても不可能と言われている。では金はどうやって出来たのか。

超新星爆発の時に鉄より重い元素は作られたと考えられている。超新星爆発とは太陽の何十倍もの質量のある重い恒星が燃え尽きる時、華々しく爆発を起こして最期の瞬間を迎えることである。この時生み出されるエネルギーは太陽が一生かかって生み出すエネルギーの何十万倍にもなると推定されている。つまり金を作るにはこれだけのエネルギーが必要だということにある。今の人類の科学技術では到底不可能なレベルである。

やはり錬金術は夢か。いや夢だけなら見ることはできる。核融合が無理なら核分裂を使う方法がある。元素周期表の上で金よりちょっとだけ重い水銀を使う。水銀の原子核に粒子加速器という機械を使って中性子ビームを当てると、原子核の中の陽子が弾き飛ばされ金に変わるという。これは実際に実験でも確認されている。ビリヤードと同じ要領で、1個の球を原子核にぶち込んでうまく2個球を弾き飛ばせばよいのである。簡単なようだが、これには莫大な費用と時間がかかる。

まず粒子加速器なる機械を建設するには何千億円という巨費が必要となる。しかもこの方法で1グラムの金を作るには、何年も中性子ビームを水銀原子に当て続けなければならない。結局、「骨折り損のくたびれもうけ」ということになる。これであれば、金市場で1グラム4千円を払って金を買った方がよほど楽だ。

そもそも、金を貴金属にしてしまったのは人間である。人間以外の動物にとっては、金も鉄もただの石ころと変わらない。何の腹に足しにもならないからである。そのような金に価値を見出したのは、単にその希少性による。手に入りにくいがゆえに金に価値があると人間が勝手に決めてしまったのである。金もその辺りにゴロゴロ転がっていれば何の価値もない。結局、錬金術とは人間が思いついた虚構なのかもしれない。

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