第8話 絶対もうかる金融商品が存在する

絶対もうかる金融商品なんてあるのか、どこかの投資会社の詐欺じゃないの。絶対とは言わないまでも、株が値上がりしても値下がりしてももうかるという奇妙な商品が現実にあるのです。

オプションという複雑な金融手法を使って開発された商品である。オプションとはもともと「選択する」とう意味で、何を選択するのかというと株をある価格で買うかどうかを「選択」するのである。

たとえば日経平均を1万円で3ヵ月後に買う権利を買う(これをコールオプションと言う)。この場合、実際に日経平均を買うのではなく、「買う権利」を買うという点に注意。そして、3ヵ月後にめでたく日経平均が1万2千円になっていれば、権利を行使して(1万円で買って)、すぐに1万2千円で売れば2千円のもうけ。逆に8千円に下がっていれば、権利の行使はしませんと宣言すれば、何もしなくてもいい。まさに権利を行使するかどうかを選択オプションできる商品なのである。

じゃあ、下がった場合は1銭ももうからないじゃない。いえ、そんなことはありません。オプションには、全く正反対の「売る権利」を買う商品もある(これをプットオプションと言う)。この場合、3ヵ月後に日経平均が8千円に下がっていれば、権利を行使して(1万円で売って)、すぐに8千円で買い戻せば2千円のもうけ。逆に1万2千円に上がっていれば、権利の行使はしませんと宣言すれば、何もしなくてもいい。

そこで頭のいい読者ならすぐお分かりと思うが、コールとプットを両方買っておけば、日経平均が上がっても下がってももうかるじゃんということに。実際、この手法はストラドルの買いと言われており、その利益曲線は1万円をはさんでV字型になる。つまり、どう転んでも絶対にもうかる商品の出来上がりである。

そんなおいしい話が本当にあるの、何か落とし穴があるんじゃ。その通り。オプションを買うためにはオプション料という手数料を払う必要がある。パチンコをしに行けばまず玉を買わなければならないのと同じである。このオプション料は、その時々の市場の動きで毎日動いており、たとえば上のケースでは片方で1千円、両方で2千円の手数料がかかる。結局もうけ分は手数料で相殺されてパーに。でも日経平均が1万2千円以上あるいは8千円以下に動いていれば、もうけは出る。

世の中には、こうしたバクチみたいなことを毎日やっている人たちがいるのです。


(追記)

このお話に関し、「ドルコスト平均法」を使えば絶対損をしないというご意見を頂きました。面白い方法だと思いましたのでご紹介したいと思います。

まず、投資対象ですが、個別株式は信用リスクがありますのでやめておいて、日経225とかトピックスとかインデックス系のファンドを使います。これだと全損はあり得ません。あるのは市場価格の変動リスクだけです。

投資で常に問題となるのは、いつが底値でいつが天井なのか誰にも分からないという点です。底値で買って、高値で売ろうとするから、結局損を出してしまうのです。

これを回避するため「ドルコスト平均法」を使います。ドルコスト平均法とは、常に一定金額を一定期間買い続けるという単純な方法です。分からないのであればウジウジ考えていても仕方ないので、とりあえず買っちゃえということです。

ドルコスト平均法の使える商品は、例えば毎月一定額を買うような累積投資型のファンドで簡単に手に入ります。常に一定額を買うため、価格が安い時は多く買い、高い時は少なく買ってくれます。ですから平均買いコストは確実に低く抑えられます。

これに対し、最安値で買う方が得なのではと思われる方もいるかもしれません。でも、その最安値がいつか分からないから、まだ下がるまだ下がると思っている間に、結局買わずに終わってしまうということの方が多いのです。後になって、あの時買っておけばよかったと後悔することになります。

単純なようですが、この方法には論理的な意味があります。それは「時間分散」を用いたボラティリティー(変動リスク)の回避です。何か難しそうな話ですが、要は「大きい船は揺れにくい」というような意味です。海の上では、小さな手漕ぎボートはちょっとした波でも大きく揺れ動きます。でも長さ100メートルもある大きな船になると揺れも少ないでしょう。つまり波の山と谷をならしてしまうことで揺れを小さくできるのです。

株価も、日々あるいは時々刻々と変動します。そのいずれか一点で投資しようとするから激しく波を被ってしまうのです。長く時間を分散して、少しずつ投資してゆけばこうした変動リスクを小さくできます。

そして、いよいよ利益を取る局面が来ました。これも欲を出して天井で売ろうなんて考えないで、何パーセントもうかれば目をつむって売るという心構えが必要です。平均買いコストはわかっているわけですから、それより上の価格なら「絶対損はしない」ということになります。ナルホド「絶対もうかる金融商品」の出来上がりですね。

でも、この問題にはいくつか難点があります。

一つ目は気の短い人には不向きということです。利益を得るには恐らく最低3年、長ければ5年程度の期間寝かせる覚悟が必要です。少し下がるとイライラする人には無理でしょう。今すぐ1万円ずつ始めて、来年の今頃さらに1万円ずつ始めて、さらに…、と毎年ずらしてゆくのがいいでしょう。仮に手元に100万円あったとしても、敢えてこのように分けて投資してゆくのです。そして先程の法則に従い、利益の出たものだけを売るということになります。

それでも、株価がズーッと右肩下がりであれば永遠にもうからないのではというご意見もありそうです。確かにその通りです。ですから個別銘柄は絶対止めましょう。インデックス系ならばそういうことはまず起こり得ないでしょう。

二つ目は、この方法では大儲けはできないという点です。価格が高くても安くても一定額を買い続けるわけですから、最安値で買うよりは平均買いコストは間違いなく高くなります。でも、最安値がいつかは誰にも分からないわけですから、平均底値ということで我慢しましょう。それでも嫌という人には、月々の投資額を価格帯で変えてゆくという手もあります。もし投資期間中に下がってしまった時は、月々の投資額を倍の2万円に増やすとか、安い時の投資額を増やすことで平均買いコストをさらに下げることができます。これを「買い下がり」と言います。

三つ目は証券会社の手数料です。累積投資は一般に投資金額が小さいため手数料は割高です。ファンドにもよりますが1~2%は必要でしょう。ですから、最低でも5%以上位の利益が出ていないと、手数料分で損をしてしまうということになりかねません。注意しましょう。

何か、証券会社の投資相談のようなお話になってしまいましたが、証券会社ではこういうお話はあまりしてくれません。彼らには日々ノルマがあるので、1万円ずつチビチビと積み立ててゆくようなのは嫌がられるからです。ですから証券会社の人とお話しなくて済むインターネットトレードがお薦めです。

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