第16話(志穂編)


 愛海とは小学生の頃からの付き合いなので家はそれなりに近い。

 小学生の頃はもっと近くに住んでいたのだが、中学卒業と同時に愛海の両親が家を建てたので、現在は少し離れた場所に上塚家はある。

 時間にして私の家からバイクで10分ほど。今日も父さんがいないおかげでバイクでのんびり行ける。

 おかわりがなくて嘆き悲しんでいた昨日の夜。泣きながら部屋に戻ると愛海からラインが着ていた。明日はケーキ奢ってやるから家に来い的なことが書いてあったので、彼女の財布を空にするぐらい食べてやろうと、嬉々として今上塚家へ向かっているのである。



「――お。大分スッキリした顔になったね」

 家に着いた私を見るなり愛海は良かったじゃん、とニコニコしていた。出かける前だというのに、珍しくまだ部屋着のままである。

「おかげさまで。色々ありがとね」

「いいよ。いつもバイクで街まで連れてってもらってるし。でも納車日が待ち遠しくて体調崩すなんて初めて聞いたよ」

「昔っから修学旅行とか遠足の日の一週間前とかはよく眠れないんだよ」

「そういえばそうだったね」

「そんなことよりオムライス全然足りなかったよ。あの量は逆に酷い」

「え? そうなの? 十分だと思ったんだけど」

「欲求不満でストレスになっちゃったよ」

「弟が凄い勘違いしそうな言い方だな。顔もニヤついてるしコワイ」

 ホレ、と愛海は背中の方から手鏡を取り出す。なんでそんなところに?

 覗いてみると、確かにニヤニヤした私の顔が映っていた。

 ……言われるまで全然気づかなかった。

「まだ呪いは続いてるみたいだね」

 ヤレヤレと愛海は困った顔をする。

 そうなるとここまでの道のりもニヤニヤしながらバイクに乗っていたわけか……。

「朝ちゃんと鏡見たよね?」

「見たけど……そのときは別におかしくなんてなかったけどなぁ」

 愛海は呆れたような顔を見せたが、すぐに何かを思い出し「ま、まあとりあえず入ってよ」と私を家に入れる。



「相変らず綺麗にしてるねー」

 愛海の部屋は昔から綺麗に掃除されているのが基本だった。友達が来る一時間前から慌てて掃除を始める私とは違って、普段からこまめに掃除をしているのがわかる。

 家具や物の配置にはこだわりがある。部屋の至る所にぬいぐるみなどのおもちゃが彼女独自のルールで置かれてあった。

「飲み物持ってくるから座っててよ」

「ほーい」と、用意された座布団に座る。

 愛海の足音が聴こえなくなると、タンスの上から視線を感じた。見上げてみるとそこに配置されてあるなすびをベースにした紫色の不気味なぬいぐるみと目が合う。

 ……あいつ。前もあそこにいたな。

 そのときにも思ったがどうにもこのなすびくんの見下ろすような視線が気に障るな。

 なに? やる気?

 眉間に皺を寄せてなすびくんを睨みつける。

 そして異変に気づいた。

 よく見ると部屋の至る所に配置してあるぬいぐるみ達が、部屋の中央に座る私に視線を集中させている。

 焦って周囲を確認してみるがもう遅い。

 完全に囲まれてる……。

 そして耳に入ってくる不気味なぬいぐるみ達の嘲笑。


 イーヒヒヒヒヒ! イーヒヒヒヒヒ!

 アヒャ! アーヒャヒャヒャ!

 ホッヒヒヒヒヒヒ!

 ギーコギーコ!

 ポプンプス! ポプンプス! ポプンプス!


 そして目をむき出しにしたサルのぬいぐるみが持つシンバルが部屋中に響くと、黄色いクマが太鼓を鳴らしながら笛を吹いて演奏をし始めた。

 明らかにこいつらは客人である私を完全にナメている。中でも特に熱い視線を投げかけてくるなすびくん。顎を上げ、ヘラヘラと口元を歪めてこっちを見下ろしているのにはさすがの私も怒りが頂点に沸いた。

 いい度胸してるじゃない。

 愛海の机のペン立てにあるハサミを目にした私は、立ち上がってハサミを手に取ると、なすびくんを切り刻もうと向かっていく。

「……何やってんの?」

 いつの間にか部屋に戻っていた愛海は飲み物の載ったお盆を手にジト目で私をみている。

 まずい。部屋の主が戻ってた。

 サルもクマもいつの間にか演奏を止め、他のぬいぐるみ達も明後日の方向を向いて何食わぬ顔をしている。完全に私だけが不審者だった。

「あ、いや、別に……」

 元の位置に戻って正座し、チョキチョキチョキと持っているハサミを意味もなく鳴らす。愛海から不審な目を向けられるがなんとか耐える。

「まあいーや」と言いながら愛海はテーブルの上に飲み物を置くと、私からハサミを取り上げ、「そんなことより私の進歩を見てくれ」と、スマホの画面を向けてくる。画面には榎本さんの連絡先が表示されていた。

「どうだ! 見ろ! ついに連絡先まで交換し、遊び《デート》に行く約束までしたぞ!」

「――え? どういうこと?」

 いきなりの展開に脳みそが追い付かなかった。

 聞けば私が戸田自転車商会へ行った日、愛海は榎本さんを下校に誘っていたのだという。そして勇気を出して連絡先を交換し、なんとデートの約束までこぎつけることに成功したというのだ。

「へーすごいじゃん」

「でしょ?」

 急進展と進化した愛海の行動力に素直に驚く。愛海が過去の恋愛でこんなに積極的に行動したことがあっただろうか?

 ない。なかった。少しもなかった。

 今まで妄想でニヤニヤして、ちょっと話して一喜一憂しただけで何もしない日々を過ごし、最終的に相手が他の誰かとくっついているのを見てorz《オーアールゼット》するというのが彼女のお決まり失恋パターンだったのに。

 そうか。今回はそうならないように積極的な行動に出たわけか。

 やっぱり相手が女の子だから攻めやすいのか。男子なら周りからの目もあって近づきにくいけど、女の子ならそうはならない。

「これでもかなり緊張したんだよ」

「良かったじゃん。それでいつ遊び《デート》に行くの?」

「――え? いや、だからこれから志穂も含めて三人で一緒にケーキ食べに行くんだけど?」

「へっ?」

「へっ? ってなんだよ。昨日連絡したでしょ?」

「え……そうだっけ?」

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 呪いが思ったよりも深いんじゃない? と、愛海は本気で心配するような顔でこっちを見る。

 連絡? ケーキやるから来いって言ってたのは覚えているけど……。

「えのモンが来るっていうのが記憶にないというかなんというか……」

「くまモンみたいなあだ名付けないでよ――ってかちゃんと見たの? 本文見返してみて」

 そう言われて履歴を見返してみる。長文の一番下には確かに榎本さんも来ると書いてあった。

 なんで倒置法なのよ……。

 いつも大事なことは先に書いてあるはずなのに……でも本当に書いてある。確かにこれはよく読んでいなかった私が悪い。

 おかしい。よく寝て多少とはいえ空腹も満たせたというのに……。

 自分でも本当に大丈夫なのかと疑いたくなってくる。

 愛海は不安そうな目をこちらに向けながら、

「ねえ志穂。今日は中止にして一緒に病院行かない? さっきのハサミといい、なんかいろんな意味でコワイんだけど?」

 愛海の口からそんな提案をされるとは思わなかった。大分浮かれすぎて日常生活に支障をきたし過ぎていたようだ。

「あ、いや、大丈夫。へーきへーき。もうバイクのことは考えないから大丈夫」

 このままでは納車日を迎える前に病院に隔離されそうだ。しばらくはバイクのこともなすびくんのことも忘れよう。

「――そんなことより、せっかくのデートなのに私がいていいの?」

「まずは友達からってことで、友情を深め合おうと思ったんだよ」

「ああ、そういうこと。まあ、いいと思うよ」

「うん、それでさ、今日の服どれにしようか迷っててさ――」

「――選んでくれってことか」

「うん、お願い。全然決まらないの」

 私と遊びに行くときはすぐに決まるのに、今日はまだ部屋着なのはそういうことかと納得する(メイクもまだできていない)。

「よし、候補見せな! 選んでやるよ!」

 それから愛海の勝負服を選ぶのに2時間近くも費やした。



「今何時!?」

「後5分しかない!」

「やばいから飛ばすよ!」

 愛海の私服選びに熱中し過ぎたせいか、気付けば時刻は遅刻しそうなギリギリの時間帯だった。

 青ざめた私と愛海は慌ててバイクを走らせ、待ち合わせ場所へと向かったが、もし白バイが張っていたら間違いなく減点されていただろう。それくらいのスピードを出していたし乱暴な運転だった。

「良かったー。なんとかギリギリ」

 残り1分というところでようやくバイク置き場へ辿り着く。忘れないようにハンドルロックを掛け、急いで待ち合わせ場所へと向かう。

 歩きながら愛海は鏡を開いては髪型などの細かいチェックを行う。

「よし。大丈夫だよね?」

「世界一可愛いよ」

「棒読みやめろ」

 電車で来た榎本さんは既に待ち合わせ場所で私達を待っていた。その姿を目にした愛海はパアァっと目を輝かせる。

「ほらほら! 見て見て! 私服超可愛いよ! ホラ!」

 凄い力で愛海がTシャツの裾をぐいぐいと引っぱってくる。おい。ブラ紐見えるからやめろ。

 まるで我が子と動物園に行っているパパのようだ。

「そーだね。可愛いね」

 棒読みだったが、確かに可愛い。服の流行などわからないが、今時の女子といった感じの服装。しかもそこに加えた榎本オーラのせいかそこらへんの女の子とは一回りも違って見える。

 この子ホントに人間なのかな……。

 愛海や他の女の子が同じ服を着ても同じ感想にはならないだろう。同じ可愛いでも、やはり違いがある。

「おーい」

 私達に気づいた榎本さんがこちらに手を振る。

 おーいとか言うんだ!?

 どうにも榎本さんに対するお嬢様イメージは抜けない。ごきげんようと言われるかと勝手に思い込んでいた。

「おーい」と、こっちもやまびこみたいに返す。



「街の喫茶店って行ったことないんだけど、二人はよく行くの?」

「私も志穂も月に一回ぐらいかな」

「そうなんだ。私ケーキ屋さんはよく行くんだけど、喫茶店はあまり行ったことがなくて」と、照れ臭そうに話す榎本さんはなんだか嬉しそうだ。スイーツ好きだと言っているので、今日のお誘いはなかなか良好のようだ。

 今向かっているのは一年前に郁美から教えてもらった喫茶店である。彼女の常連店でもあるそこは、店内が昭和風味で洒落ているせいか、落ち着いた雰囲気があるのでデートには持ってこいの場所だった。

 ――って言っても、私がいるからデートって感じはしないな。 

「いらっしゃいませー」

 笑顔で出迎えてくれたのは、この店の主人である疋田ひきたさんの奥さんだ。今日みたいな客の多い休日の日は他のアルバイトの人と一緒に接客をしているが、普段は奥で別の作業をしている。

「ごめんね。今テーブル片付けるから」

 案内された順番待ちの席に榎本さん、愛海、私の順に並んで座ったせいか、一人緊張した顔をしているやつが出来上がってしまう。

「………………」

「………………」

「………………」

 会話が無いので、肘で軽く愛海を突っつく。ほら、なんか喋れ。

 するとスイッチを入れた人形のように喋り出す。

「――え、榎本さんは普段学校では何て呼ばれてるの?」

「榎本さんが多いかな。陽菜には綾って呼ばれてるけど」

 以前購買部で会ったあの長身女子を思い出す。見た感じはバスケとかバレーやってそうなスポーツ少女といった雰囲気だが、実は帰宅部らしい。

「あだ名とかはないの?」

「綾ちゃんくらいかなぁ。それ以外はなかったと思う。上塚さんは?」

「私は上塚ちゃんか上ちゃんかな。志穂と郁美と真帆には下の名前で呼ばれてるけど」

「中学の頃はカミンツとも呼ばれてたよね」と私も会話に加わる。

「カミンツ?」

「そうそう。中一の秋頃から急にそう言われるようになった。ちなみに誰が最初に言い出したのかわからない出所不明のあだ名」

「そうなんだ」

「みんなは志穂がつけたんじゃないかって疑ってたけどね」

「私はまなみんってつけて広めようとしてたから違うよ。ちなみにまなみんはだーれも使ってくれなかった」

「私が阻止したからね」と愛海は冷たい目で私を睨む。

「ゆるキャラみたいだね」と榎本さんは笑う。

「志穂のネーミングセンスは全部ゆるキャラから来てるよ」

「鈴木さんはあだ名とかあるの?」

「榎本さんと同じかな。あだ名はなかったと思う。……志穂、志穂ちゃんぐらいかな」

「うん。確かに志穂もなかったね」

「鈴木志穂、榎本綾……あだ名付けにくい名前なのかな?」と榎本さんは首を傾げる。

「どーなんだろ? しほッチ、アヤのん、しほりん、あやりんとか付けられてもおかしくないと思うけどな――いや、志穂は無理だ!」

「なんで私だけ否定すんのよ?」

「いや、だってしほッチ、しほりんなんてタイプじゃなくない? それとも気に入った?」

「いや、無理。ただでさえちゃん付けも抵抗あるのに」

「でしょ?」

「私もあやりんとかは嫌かなぁ」と、榎本さんが言ったところで私達の順番が回って来た。席へ移動している際、カウンターケースの中にあるケーキが所々なくなっているのを確認する。

 もうあんなに少なくなってる。

 これはマズイと危機感を抱く。ここは店の雰囲気だけでなくケーキの評価も高い。平日でも一番人気のものは午前中でなくなるほどである。土日となると他のケーキもすぐに売り切れてしまうのだ。

 急いで注文した方がいいと二人に話し、席に通された私達はすぐに注文した。今他の席に座っている客がケーキの追加注文をすることは十分にあるので、うかうかとはしていられない。

「郁美ちゃんはここの常連なんだよね?」

「そうだよ。郁美のお誘いで去年に私と志穂と真帆の四人で初めてここへ来たんだ」

「それから私達もここの常連になったんだよ。郁美なんて家族揃ってしょっちゅう通ってたもんだから、去年の秋ごろに太ったーって泣きついてさ」

「それは大変だね。じゃあもう来てないの?」

「ううん。なんだかんだで月一で来てる」

「ダイエット始めてからはかなり抑えてここに来るようにするって誓ってたけど、とてもしているようには思えないよね」と、以前郁美が食べていた5段アイスを思い浮かべる。

「中学時代から変わってないんだね」

 榎本さんの中学時代という言葉で愛海がピクリと反応し、顔が曇った。

 アホたれ。

 愛海の脛を蹴る。本人の前では意識しないようにしろと言ったのに。

「郁美は、食べるの、大好きだからねー」と、愛海は痛みに耐えながら作り笑いをする。

 顔引きつってんなー。

 これは助け船を出すかと思っていたところで、ケーキと紅茶のセットが現れて助け船の役割をしてくれた。

「うわー、すごい綺麗」と、榎本さんは目を輝かせている。どうやら愛海の変化には少しも気づいていないようだ。

 ヤレヤレとホッとする。嫌な流れにいかないで済んだ。

 その後も、特に何も問題なくやり取りは続いた。



 店から出ると榎本さんは珍しく真剣な眼差しを見せる。彼女は店の方を振り返ると、「私も気をつけないと……」と言っていたので、私と愛海は笑ってしまった。

「月一で行けばね」と愛海。

「うん。月一なら大丈夫。また一緒に行こう」と私が言うと。榎本さんは笑顔でそうだねと答える。

「――あ、そうだ。もうさん付けはやめにしない?」と榎本さんからの提案。私と愛海は顔を見合わせる。

 ど、どどどどーしよ。何て呼べばいいかな? と愛海が顔で言っている。写メで撮りたいぐらいおもしろい顔だった。

「じゃあ私は綾でいかせていただきます」

 アンタはどーすんの? と、意地悪な顔を愛海に向ける。

「じゃ、じゃあ私も……綾で……」と恥ずかしそうな感じで言う。

「え? あだ名付けてくれないの?」と綾は言う。愛海の様子に気づいたところがないことから、もしかして結構鈍いのかな。

「――じゃあえのモンはどう?」

「全然いいよ!」と、綾は右手の親指を立てて私の提案を受け入れてくれた。

 そんなポーズ取るんだ!? と、驚く。しかも私の案が生まれて初めて採用された。

 ヒャッハー! と喜びたい気分だったが、それも束の間で愛海に絶対ダメと反対されてしまいえのモンはお蔵入りとなってしまった。

 それから夕方になるまで、私達は一緒に街を散策した。



「――今日はありがとね。楽しかった」

 駅の改札口まで二人で綾を見送りに行った。周囲はそれなりに人が多いが、まだ電車が込み合うほどの人並みではない。ここら辺で今日は終わりにした方が、綾を満員電車に入れなくて済むと愛海が先ほど言ったのであった。


『綾が痴漢に遭ったりするのは絶対ヤだ! だから早めに帰らせよう!』


 愛海のセリフになんて紳士的なのだと、またも驚かされる(今日は驚いてばっかだ)。

 そんなところにまで気配りするとは……私なんて少しもそんなこと思いつかなかったのに。

 夕飯を作ってくれたりメイクをしてくれたりと、高い女子力を持っていると思いきや、こんな紳士力まで見せるとは……。

「――夏休み綾はどこか行くの?」

 そしてこの積極的な姿勢。愛海はどんどん攻める姿勢を強める。昔の失敗を反省し、ちゃんと行動に現しているのがよくわかる。いいぞ、おチビ。その調子でどんどん行け。

「――お盆に用事があるくらいかな? 他は特になにもないと思うよ」

「そっか。じゃあ都合会えば夏休みにどこか遊びに行かない?」

 いい。いいぞ。ナチュラルに誘えてる。表面上は恥ずかしがる素振りも見せていない(実際心臓はバクバクだろうが)。

「うん。せっかくの夏休みだから海とか遠くへ行ってみようよ――あ、じゃあね。また連絡する」 

 そう言うと綾は駅の改札を抜け、奥にある4番ホームの階段を下って行った。

 最後まで見送る愛海の嬉しそうな横顔。今日は綾も愛海も大満足な一日だったようだ。

「私達も寄り道せずに帰ろっか」

「そだねー」とお隣から陽気な声が返ってくる。



 駅近くの駐輪場へ戻り、バイクのシートから愛海のヘルメットを取り出して渡してやると愛海は満足気な顔をしていた。

「今日の作戦は大成功だった。間違いなく綾ポイント上がった」

「まさかのポイント制度。でも確かに今日は良かったね。積極的だし次の話もできたし、好印象なのは間違いない」

「でしょ? もう私は今までの私とは違うのだよ」

「自信タップリだねぇ。でもまだ二人きりは難しいんでしょ?」

「うーん……そこはまだ難しいかな。話すだけで本当に緊張するからね。この前一緒に帰ったときだって心臓破裂するかと思ったもん」

「今日で十分慣れたようにも見えたけど、そんなに緊張するものなの?」

「恋をするとそうなるもんなんだよ。ただの緊張とはまた違うのさ。ま、お子ちゃまの志穂にはまだわかんないことだろうけどねー」

 両手を挙げてヤレヤレポーズをとる愛海。

「チビちゃんはこれから走って帰るのかなー?」

「今日も後ろに乗らせて頂き、誠にありがとうございます!」

 ヤレヤレと、深々と頭を下げる愛海を後ろに乗せ、私達は真っ直ぐに帰宅した。

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