第14話(綾編)


 上塚さんと別れた後、お父さんからラインが着た。

 なにかと思えば、今日は家に帰ったらちゃんと戸締りをして早く寝なさいとのことだった。

 まだまだ小学生のように扱われるので内容を見るとつい笑ってしまう。

 昔と比べてお父さんは心配性になった。どんなときでも毎日必ず連絡をしてくる。出張で家を空けるときなんかは特に回数が多い。


『おはよう。気をつけて行ってきなさい』


『昨日は近所で事故があったらしいから、注意して帰るように』


『午後から雨が降るそうだから折り畳み傘を持っていきなさい』


『おやすみ。明日はテスト頑張って』


 今までに送られてきたものもそんな短い内容だったけれど、私を心配してくれているのがわかる。きっと長文なんて送れば娘から気持ち悪がられると思って短めにしているのだろう。

 そんなに心配しなくても大丈夫だよと本人に言ったけれどそれでも心配してしまうようだ。親とはそういうものなのだろう。

 心配しないで。今日はちゃんと真っ直ぐ家に帰るから。

 今日は気分が良かったせいか、真っ直ぐ家に帰るのが嫌ではなかった。さっきまで一緒に歩いていた上塚さんのおかげだと思う。足取りがとても軽い。

 今日の放課後、突然教室にやってきた上塚さんから一緒に帰ろうと誘われた。


「志穂がいないから、一人で寂しくてさ――」


 ダメかな? と照れ笑いをしながら私を誘ってくれるその仕草はとても可愛かった。

 断る理由なんて少しもない。

 私も今日は一人だったので喜んでオーケーした。

 いつもは陽菜と一緒に帰るけど、今日の彼女はこれから大事な用事があるからと言って放課後はそそくさと教室を出て行ってしまったのだ。なにやら思いつめたような顔をしていたので気にはなったけど、深く踏み込むのもいけないと思ったので何も聞かずに「うん、わかった」とだけ返し、去って行く彼女の背中を見送った。

 だから上塚さんのお誘いは素直に嬉しかった。残念ながら家が離れているので少ししか話せなかったけど、最後には連絡先を交換し合い、今度一緒に彼女おススメの喫茶店へ行く約束まですることができた。

 彼女の微笑んだ顔を思い返す。

 以前購買部で話した時の固い感じとは違って今日は随分と柔らかい表情をしていた。積極的に私と仲良くなろうとしているのがわかる。

 楽しい話題を出しては私を楽しませてくれたおかげで、私も自然に接することができた。

 今日はありがとうと別れ際に言われた際、それはこっちのセリフですと笑顔で返すと、見てわかるくらいに顔を紅潮させていた。

 そのときの顔が頭から離れない。

 彼女と別れた今も、さっきまで一緒に隣を歩いていた彼女の表情を振り返ってしまう。

 そうしているのは不思議な感覚を貰ったからだろうか。

 彼女の愛らしい表情からは、人見知りだとか、恥ずかしさだとか、そういったもの以外のものを見せているように思える。

 ――そう。なんだかまるで、私に恋でもしているかのような――。

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