第7話 夢の世界


※夢の世界です


地球では無いどこか。


その事実だけで頭はパンクしそうなのに、メアはここが自分たちの故郷の世界だという。完全に油断していた。出会った頃の警戒心を忘れていた。俺は完全に人質になってしまったようだ。


「理解が早くて助かるわ。今は私に従うしかないの。この超絶可愛いメアちゃんにね!」


メアは自陣ホームだとイキり倒す人種のようだ。それよりも早く、ここから脱出しないと…!


「無駄よ。夢の内側から目覚める方法は一つしかないわ。」


「…お前の言葉はもう信用出来ねぇ」


「…ッ、私だってこんな事…!」


俺から顔を逸らすメア。何か我慢するように目をぐっと閉じた後、表情を無くした顔で再びこちらを見た。


「必要な事なの」


と、メアは言った。

しかし、信用なんて出来ない。それに、正直こっちの知ったことでは無い。夢の世界の事情であり、俺には関係の無いことだ。だから俺はこう言い放った。


「他のヤツにしろよ!」


「それが出来たら苦労しないわ」


「なんだよそれ、意味分かんねぇよ」


ここで、メアの顔に感情が浮かぶ。怒り、というより苦痛といった表情。美少女の顔が醜く歪む。そして


「…もう、いいわ


――――――始めて下さい!」


上に向かってそう叫んだ。いや、合図を出したのか?少し遅れて、


バキバキッ バキバキバキッ


と、空だったものが割れ始めた。数十キロという長い亀裂。その亀裂の奥に現実では有り得ないほどの白。原色の白。


ドドーーン!!


後ろから物凄く大きい音がした。地面にぶつかったような音だが、地面は揺れていない。


「卵?」


振り返った先には巨大な卵。十数メートルはあるだろう。亀裂と同じ白。しかし、赤く光る地面の反射で赤く染まっている。


「ただいまより、えっーと名前は…いいや。あなたには試練を受けて頂きます。試練の内容はこちらから詳しくは言えません。達成した際は再び夢の世界へ正式に招待致します」


急にメアが喋り出す。妙に事務的だ。


「試練だと?」


「はい、達成出来なかった場合は記憶を消し、元の世界に戻って頂きます。試練の目標は回ごとの自動更新です。今回の達成目標は、です。」


「中二病かよ!なんだよ死ぬって!」


「……」


メアは喋らない。

と、背後からゴリゴリと音がする。


「卵が…!」


割れていた。

中もあの白で、殻の破片などなかった。破片どころか、横に綺麗に真っ二つ。しかし中に黄身や白身なんて無かった。文字通りなんにも無いのだ。


「中身がない…。元々無いのか?」


「上です」


メアが指差す方向を向く。

そこには、ドラゴンが宙をはばたいていた。想像通りのドラゴン。これぞドラゴンという見た目。というより、


「俺の想像通りじゃんか…」


ここは夢の世界だと思い出す。自分の想像通りの物が出てくるのなら…!


「えいっ!」


間の抜けた声と共に、手に重厚な造りの大剣が音もなく出てくる。見た目に反し、紙のように軽いそれは、俺の手にしっかりと合っていた。


「出来た!俺には中二病のセンスがある!」


横でメアが目を見開き驚いている。

本当に出来ると思わなかった。


「クゴアアアァァァアア!!!」


律儀にも剣が出来るまで待っててくれたドラゴンが怒りの咆哮を、吼える。そして間髪入れずに火炎を口から噴き出した。


赤い世界が更に彩度を増して赤く光る。

そんな猛烈な火炎に対し、俺は。


俺は何も出来ないでいた。反応できるわけが無かった。


「――――!!」


視界は赤から黒へ。一瞬で何も見えなくなった。どうやら失敗したようだ。叫ぶ暇もなく俺の体は燃え尽きる。灰になって世界に散り散りになった。


俺は死んだのだ。


次に目覚めるのはいつだろう。

そんな時はもう来ないと知っているのに。

でもその時はきっと、



※夢の世界じゃないです

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