2 警察とアガルト
アイアンサットと名乗った、全身を特殊素材の銀色のスーツに身を包んだ3人の戦士は、2体のアガルトに銃口と真剣を向け、ゆっくりと近づいていく。
アガルト2体は立て続く戦いと予想外の状況に、戸惑い少し物怖じしている。
「ググ……。何でしょうか、この珍妙な奴らは?」
赤城と呼ばれたアガルトがアンドレアの変身するアガルトにそう尋ねる。
「今彼らは、警察の特殊部隊と言っていました。……ついに警察が動いたのでしょう。……しかし、見るからに、大した戦闘能力はなさそうですが……」
「……そうですね。あなたの言う通り、アガルトに対し何もできぬ警察が、市民感情に応えるために造った小細工のようなものかと。なあに。あの国営軍のRXならともかく、人間がただ丈夫なスーツを着ただけであろうこんなものは……」
アガルトは疲れからか油断からか、相手の見た目だけで、銀色の3戦士を前に余裕ぎみだ。
しかし彼ら、アイアンサットはその隙を見逃さなかった。
隊長格の戦士はすばやくアガルトにサブマシンガンをフルオートでぶちかます。
が、あまり効果はないようだ。
「な、なに! あれだけの銃弾を……」
撃った隊員は驚きひるむ。それもそのはず。いくら拳銃弾のサブマシンガンとはいえ、人間ならそれを食らえばひとたまりもない。
銃弾を受けた、アンドレアは不敵に応える。
「……フフフ。普通のアガルトならいざ知らず、この私にそんな鉛玉は通用しません。ライフル銃で撃つメタルジャケットの弾ならともかくね……」
「……く、我々警察はライフル銃とライフル弾の使用は許可されていない……。しかし。銃がダメならこれはどうだ!?」
隊長格の合図とともに、横から2人の銀色の戦士が、日本刀のようなもので斬りかかった。いや。それは柄まで銀色で、ただの刀とは思えない。きっと超合金を駆使した、最先端技術の刀なのだろう。
「ハァー!!!」
「そ、それー!」
気迫十分の女性隊員はアンドレアに、なんだか物おじした様な掛け声の男性隊員は赤城に斬りかかった。
しかし、男性隊員の斬撃は赤城アガルトが腕で受け止める。
「グ……。ただの刀と思わせて、なかなかの造りのようだ……。腕で受け止めるのがやっとか……」
するとその隊員は、腕を白刃取りのように受け止めたアガルトにおびえた様子で、思わず刀から手を放し後ずさりした。
その隙を見逃さない赤城アガルト。素早く刀を奪うと、それを自分の右手で構えアイアンサット、銀色の戦士に対峙した。
「あ、相田くん! 何をしている!」
「すすす、すいません! つい……」
其の傍らでは、刀を振り合ざすアイアンサットの女性隊員と、アンドレアが壮絶な争いを繰り広げている
「……いける! アガルトには斬撃は通る! 押し通ります!」
剣術の心得があるのか、隙のない斬撃と防御で、女性隊員のほうが押し気味だ。
「く、こんな状況でなければこんな小娘……!」
しかし背後の気配を察知し、アンドレアはすうっと体を横にそらす。
「あとは私にお任せを! はああ!」
男性隊員から刀を奪い取っていたもう赤城は、そのまま斬りかかり女性隊員と刀での競り合いになった。当然パワーはアガルトのほうが上。しかもアイアンサット、銀色の戦士の側は女性隊員である。身に着けている特殊スーツも大変丈夫なだけで、機器仕掛けの国衛軍のRXとちがい、人間の力で戦うしかないものだ。次第にその斬り合いはアガルトが押していった。
隊長格の男は判断に迷った。
「くそうどうすれば! この乱戦では戦っている亜双義くんにまで銃弾が及ぶ危険性がある……」
サブマシンガンとはその構造上狙いを容易を定められるモノではない。
隊長の阿南は躊躇した。
そしてその時、
アマトに変身した四十川と、同様にアマトとなった鮎原が、アガルトの前に立ちふさがった!
「――ようようアガルトさんよ! 弱い者いじめはよくないぜ!」
「そうだよ! さっき胸糞悪いアマトにボコボコにされてたくせに!」
四十川と鮎原は、2体のアガルトの前に立ちふさがった、
「な……、貴方は前に殺しそこなったアマト……、それにそちらのアマトは!?」
鮎原アマトは、不敵な笑みを浮かべると、おもむろに九字を唱えた。
「ハアッ! ……臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
すると鮎原の間近にいた赤城、そして四十川、アイアンサットの1人は、まるで輪廻の外に説き離れたような幻想を見た。
――周りはそうまるで宇宙。自分はその中にポツンと存在している。
それを取り囲み威圧するような明王や菩薩、如来の数々。
赤城は発狂した声を出し、この場から離脱するようアンドレア
に訴える。
「……な、なんだこれは! ひ、ひええ! ま、まずいです! 逃げるべきです!」
「……なに? 私には何も見えませんが……」
どうやら赤城アガルト、そしてアイアンサットの1人を除いてはこの幻術のようなものは効いていないようだ。
「な、何だこれ…… 仏様!?」
相田と呼ばれたアイアンサット男性隊員も幻術を見ているようだ。
「にゃああああ!? 宇宙? なんだこれ! 仏頂面の菩薩や如来が! オエエエエエ!」
いや、なぜか四十川にも効いているが。
しかしそれでもまずいと思ったのか、アガルト2体はこの場を去ろうとする。
「しょうがありません! ここは逃げましょう! さあ貴方、逃げるのです!」
「あああ……私は地獄へ落ちるのか……」
「いったい何を見せられているのです! フンっ!」
アンドレアは幻術で混乱した赤城を気絶させると、それを担ぎ早足で逃げ出した。そして素早く路地裏へ姿を消す。
「あ! く、くそうなんて速さだ。もう見えなくなってしまった……」
隊長の阿南は追いかけようとしたが、女性隊員が負傷しているのと、もう1人の隊員が幻術に包まれているためそれを追うこともできなかった。
「ッフー。私の幻術って効く人と効かない人がいるんだよね~」
鮎原は自分の幻術がある程度効いて満足げだが、
四十川とアイアンサットの気弱そうな隊員はいまだ幻術の中にいる。
「仕方のない人たちだなー。“解”!」
鮎原アマトがそう言い印字を組むと、
2人はパッと幻術から解き放たれた。
「……ふにゃ? ンんだったんだ今の悪夢みたいのは……」
「たたた隊長! 仏さまが! 菩薩さまが!」
幻術を食らった2人はいまだに半ば混乱している。
「シンパイしないで。あなたたちが見たのは、私が見せたただの幻術。要するに幻だから、もう心配ないでいいよ~」
言われて四十川は感心する
「す、すげー! マナってば、すっげえワザ持ってんだな!」
「フッフッフ。すごいでしょ。しかも私の持つ特質はこれだけじゃないよ」
「おお~アマトってのはすげえんだな~」
興奮する四十川達に、全身銀色の特殊スーツの、アイアンサット隊長が歩み寄ってきた。
「――ありがとうございました! あなた方のおかげで、アガルトを撃退できました! あなた方はその、アマトなんですか?」
ヘルメットを外したさわやかなその男、アイアンサット隊長は四十川達にそう言って手を差し伸べる。
「そうさあ? 見たらわかるだろ? あんたらも正義の味方ってわけだな。お互い仲よくしようぜ!」
四十川は阿南とがっしりと握手した。
阿南は嬉しそうに握手するが、朱に染まり人間のものでなくなった四十川のその手と、文様は浮き出ているもの、人間の顔が残っている四十川の顔を交互に見ている。
「あの……。あなたは、アマト、なのですよね? なぜ人間の顔が残っているんですか?
「ウルセーよ! そういうアマトもいるの!」
「でもさっきまともに戦ってなかったですし、味方の技? にかかちゃってたような……」
「ウルセエなあ! アマトになったばかりであたしもよくわからんの! 兎に角あたしらとあんたらは仲良くできるはずだ。同じ正義の味方として、な!」
「……そ、そうですね! 僕たちが力を合わせれば、きっとアガルトからこの町を守ることができるでしょう! 僕たちは国衛軍のRXには劣りますが、それでも我々アイアンサット3人、そしてあなた方が協力してくれれば、この町の平和をきっと勝ち取ることができる!」
「おうよ! ところであんたら、名前は?」
そういわれると隊長、ほかの二人を自分のもとに並ばせる。
「ああ、紹介が遅れましたね。私たちはアイアンサット。警察の特殊部隊です。私は隊長の阿南。こちらの女性隊員の亜双義くん、こっちの控えめな彼が相田君です」
「なるほどアイアンサット、警察の特殊部隊か! カッコイイな覚えたぜ! これからもよろしくな!」
「はい!」
「……あっちなみにあたしは
四十川はそういうと、その場から去っていった。
そんなこんなで、特殊車両に乗りアイアンサットは帰っていった。
車の中では隊長の阿南が嬉しそうにしている。
「いやあよかったね! アガルトは退治できなかったけど、アマトの協力者ができるなんて! これで僕たちも、警察もアガルトに対し無力なんて言わせない!」
しかし、その言葉にほかの2人の隊員は懐疑的な顔を浮かべる。
「……阿南隊長。確かにアガルトを倒すことは絶対です。数年前にやっと日本でもアガルト対策法が定められ、そして今やっと警察もアガルト討伐に関与できるようになったのですからね……」
「そ、そうだね。それがどうかしたのかい?」
「しかし、法案の対象はあくまで“アガルト”であって、アマトは含まれていません。……私自身は正直、アガルトだけでなくアマトも、我々人類に対する脅威だと思うのですが」
「……! な、なにを言うんだ亜双義くん! アマトは正義のヒーロー! ……そりゃあ悪いアマトも少しはいるみたいだけど……」
「隊長! さっきの忍者だかくノ一みたいなアマトは、僕にまで幻覚を見せました! アマトはやはり、危険な存在なのでは……」
「……君たち!!!」
阿南は声を荒げる。
「いいかい? 軍も警察も、討伐の対象はあくまで“アガルト”だ! アマトはその限りじゃない! それに知っているはずだ! 我々を、警察を救ってくれたアマトのことを……」
阿南のその言葉に二人は押し黙る。
沈黙の続く車内。隊長の阿南はアマトの正義を信じて疑わない。
だが、もう二人はアマトに対し少し懐疑的であるようだ。
禍根を乗せた車は、湿地沿いの道を夕日に照らされながら走り抜けていった。
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