2 未来? での戦い
「――ほう。あなたアマトなのですか?」
その声は四十川たちのさらに後ろから聞こえた。
「あ、芥川さん……あれ?」
白衣の女はそう言うが、どうやらまた芥川という人物ではなかったようだ。
「えーっと、そうだよアマトだけど……多分? まああたしもよくわかんね~けど」
四十川は自分に話しかけられたにもかかわらず、後ろを向いたまま適当に返事をした。
「……妙な反応ですね。まあ貴女からアマトの気配は十分に伝わって来ますし、その素質を持っていることは間違いないでしょう」
四十川は振り向いた。
そこにいたのはブロンドの髪に珍しい浅葱色の瞳、四十川ほどではないが高い体躯と魅力的な身体をした若い女性だった。
――日本語すげえうまいな、四十川はまずそう思った。
「……それであんた、あたしになんか用か?」
「用? フッ、言わずともアマトの貴女ならわかっているはずだ……」
金髪の女はそう言うと口元を少し緩め、
深い緑色の怪物へと姿を変えた。
「――は?」
一連の不思議な出来事がなければ、四十川は目の前のそれを信じることができなかったかもしれない。
目の前のそれは、確かに人の姿をしているかもしれなかった。
顔は鈍く光る黒い石のようなものに覆われ、全身は荒々しくも艶やかな深緑の、まさに異形の姿をしている。
――四十川、そして秋と麻生も気づいていた。
こいつは先ほど暗がりの中で見た、あの妙な人間に倒され土くれと化していった怪物に似ている、と。
そして彼女、と呼べるかわからないそれは、姿を変える前の先ほどの女と同じ声で喋りはじめた。
「……おかしいのですよ。私が感じたアマトの気配は確かに1つだった。しかしそれがいきなり3つに増えたのです。そしてそれが2つもまとめて、ここにあるときている」
「……は?」
四十川は怪物と化した彼女の言っていることがよくわからない。
そして玄関先に立つ、白衣の女は、腰を抜かして呟いた。
「……ああ、アガルト……」
「……アガルト? なんだそりゃ?」
四十川がそう言うと、白衣の女は四十川の背後、深緑の怪物にゆっくりと震えた手で指をさす。
「……この化け物はアガルトってのか……?」
四十川のその言葉に、その怪物は一瞬動きを止める。
「……? なんですかその反応は。まさか貴女……、アガルトを知らない、とでも?」
「し、知るわけねーだろ!」
「? ……妙なことを言う人ですねえ。まさか貴女はアマトのくせにアガルトの存在を認知せず生きてきたのですか? 大変難しいことだと思いますが」
わけの分からぬことを喋る目の前の怪物に四十川は戸惑うしかない。
「……さ、さっきからなに意味の分からんことを言ってやがる……」
「……? まさか本当に我々アガルトの存在を知らないのですか? ……まあそんなことはいいでしょう。無駄話はやめて、貴女もさっさとアマトの姿になったらどうです?」
怪物女のその言葉に、四十川は先ほどの自分の姿を思い出した。
そして左手に埋め込まれた黒い石を見つめる。
「……いいだろうぜ。そんなに見たけりゃ見せてやるよ……」
四十川は左手を大きく前に突き出す。
「この石に誓ってな!」
「……ほう、その手の石、確かにアマトのようですね。……妙に小さい気もしますが。色も黒。妙ですねえ」
「うるせえ! いくぞ! ――」
「――激身!」
本当に出来るかわからなかった。
だが左手の石はまた朱き光を放ち、
彼女は再び姿を変えた。
――だが、目の前の化け物は表情もわからぬその姿で笑いだした。
「……ハハハ。何ですかその姿は? なぜ人間の顔が残っているのです? それに服の中で変身している。こんな珍妙なアマトは見たことがありませんよ」
「……え!? なんかコレおかしいのか?」
四十川は自分の身体を見た。
なんと、彼女はそのTシャツとジーンズの中で、つまり服を着たそのままの状態に変身してしまったようだ。
変身後四十川の胸と尻は少し小さくなるが、それ以外は太く強靭な形となる。四十川の服、特にジーンズは悲鳴を上げそうなほどパツパツであり今にも破けそうだ。
「だ~!! なんでじゃ! 服の中で変身しちゃってる! 前回はちゃんと服も一緒に変身したのに……」
言いながら四十川はそのものすごい力でジーンズとTシャツを破り去り、びしっとポーズを決めてみせた。
「……全くこのアマトは……さっきから意味不明なことばかりだ」
先ほどまでブロンドの妖艶な女だったアガルトという怪物は笑っている。まあ、口など確認できない怪物の容貌だが。
「うるせえバーカ! ポーズきめたからカッコよくキマっただろ!」
「……まあいいでしょう。今のところ私のねらいはここにいる2人。アマトたる貴女と、そして――」
怪物は秋を指さした。
「――そこの男の子もね!」
その言葉に秋はおびえながら口を開く。
「……な、なんでぼくが!?」
「そ、そうだそうだ! なんだお前は、あたしとチビだけ狙ってるのか?」
「当たり前でしょう? 我々アガルトの目的はただ1つ、アマトとそれになりうる人間を消すこと。まさかそれすらも知らないのですか?」
「知るワケないだろ! 大体なんだ、あたしはともかくなんでチビまでアマトになるってわかる!?」
「なぜって貴女、私がアガルトだからですよ。当たり前でしょう? ……どうも貴女は不自然にものを知らなすぎる……」
「……う、うるせえ! ……兎に角この姿になった以上、あたしは最強だ! 意味わからんことをほざくお前なんかブッ飛ばしてやる!」
「ハハハ。中途半端な姿をしているくせに威勢はいいようですねえ?」
――こうして、四十川はその未知なる体でもって、
未知なる存在と戦うことになった……
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