第3話

 先輩のおかげで無事に辿り着いた教室はほとんどの人が着席していた。

 お互いに声を掛けるタイミングを伺っている、そんな雰囲気だ。

 手を繋ぐかどうかで先輩と揉めてたせいで……いや、真剣に俺の話を聞いてくれている間に時間は過ぎていて、時刻は集合時間の五分前になっていた。

 ちゃんと五分前には到着しているのになんか遅れて来た感じになってるけど気にしない! 高校生活はこれからなんだから。

 なんて自分を納得させるように考えを巡らせていると担任の先生が入ってきた。

 「みんなおはよう! 担任の育田だ。見て分かる通り属性はマッチョと熱血教師。俺が担任になったからには平凡な高校生活は送らせないから覚悟しておけよ」

 育田先生の言う通り、ゴリゴリの筋肉ではち切れそうなTシャツはまさにマッチョ属性って感じだ。熱血教師属性も今の挨拶で伝わってくる。

 「熱血教師属性は教職課程で得たものだ。ドラマに憧れて教師を目指したから属性を取得できた時は嬉しかったよ」

 やっぱり職業系の属性は後付けだよな。たまにその職業になるべくして生まれたような人は属性を持ってたりするけど。

 「マッチョ属性は生まれつきだ。そうだな、みんなが一学期に赤点を取らなかったら赤ちゃん時代の写真を見せてやろう」

 一気に教室が驚きの声に包まれる。マッチョ属性の赤ちゃんって一体どんな姿なんだ……。

 「さ、俺の自己紹介ばかりじゃクラスの親睦は深められないからな。入学式まで時間があるから出席番号順に自己紹介をしようか」

 高校生活の明暗を分けると言っても過言ではない自己紹介タイムが始まった。


 「みなさん、はじめまして。阿仁田 頼人(あにだ らいと)って言います。阿仁田って苗字からも分かる通り、代々お兄ちゃん属性の家系です。

 あんまり頼りにさせると期待を裏切っちゃうかもしれませんが、同級生だけど兄だと思って慕ってくれると嬉しいです。よろしくお願いします」

 新学期の自己紹介はクラスでのポジションが決まるので非常に重要だ。

 一番手の阿仁田くんはとても背が高く、お兄ちゃん属性がよく似合っているし頼りがいのある雰囲気を醸し出している。

 同級生だけど兄だと思って のくだりなんてなかなか面白い。

 出席番号順に進んで行く自己紹介の時間はだんだんと雰囲気が柔らかくなってきて、少しずつツッコミも入るようになってきた。

 同じ中学から来たやつなんかは特にその対象だ。おっと、次は俺の番だ。

 「はじめまして。新海 拓です。属性は……ショタ属性なんでこんなちんちくりんです。でも、卒業までにヒーロー属性を取ってみませす! よろしくお願いします」

 「がんばってー!」「応援してるぞー!」

 そんな声が数人から聞こえてくる。阿仁田くんのずっしりとした声も聞こえた。

 自分でも分かってるんだ。ショタ属性の語る子供っぽい夢にからかい半分で応援されてるだけだって。

 でもさ、こういう逆境を乗り越えてこそヒーローだと思うんだ。

 熱血に浸りながら席に戻ると、次の人の自己紹介が始まった。

 「妹尾 善子(せのお よしこ)と申します。よく間違われるのですが、ロリ属性ではなく姉属性です。苗字に妹の字が入っていますがそれでも姉属性です。

 外見だけでは分かりにくいと思うので、今後の学校生活の中で私の属性を理解していただければと思います」

 俺よりも小さい女の子が、俺よりも大人っぽい口調で喋っていた。

 ロリ属性の母さんはともかく、姉属性であんな……俺が言うのもなんだけど小学生みたいな外見って、実はロリ属性も持ってるじゃないかと疑ってしまう。

 「ちょっとそこの……えーと、新海くん、でしたよね?」

 「え、は、はい」

 「今、私のことを小学生みたいと思ったでしょう? 怒らないから正直に言ってごらんなさい」

 「すみません。思ってました。……俺以外も思ってたんじゃないかな~? なんて」

 周りを見渡すと全員俺から目を逸らした。おいおい、これから高校生活を共にする仲間だろ?

 「うんうん。正直に言って偉いね。でも、人を見た目で判断したら、めっ! だよ」

 「……ごめんなさい」

 「ちゃんと謝れて偉いね。いい子いい子」

 同級生に叱られて、反省したら頭を撫でられるってだいぶおかしいのに、相手の見た目が小学生だから余計に訳が分からない。

 ただ、母さんに叱られる時もこんな感じだよな~って思うあたり、俺もたいがい息子バカなのかな。

 「どうですか? これで私が姉属性だとお判りいただけたでしょうか?」

 えっへん! と腰に手を当て鼻息を鳴らす姿はどう見ても小学生だ。まあでも、小学生のお姉ちゃんだっているんだしロリママよりは現実的か。

 それとさっきから、子供のケンカと仲直りを見るような目で俺達を見ている人が先生を含めて何人かいますね。くそー! 妹尾さんは立派な姉だし、俺だってヒーロー属性になって頼もしい男になるんだからな!

 

 ちょっとした小競り合いはあったものの全員の自己紹介は無事に終わった。

 俺は完全にショタ属性のイメージが定着してしまい入学初日にしてマスコット扱いを受けている。

 羨ましがってる男子よ。いざ自分がこのポジションになると結構泣けてくるもんだぞ。俺が目指すのは例えばそう、阿仁田くんだ。

 妹尾さんは妹尾さんで一気にクラスの注目の的だ。マスコット的存在として。

 外見や仕草は子供っぽいけど行動理念が姉というギャップがウケているっぽい。

 ロリ属性がないのにあれだけロリ体型なのもすごいけど、それを補える姉感。やはり属性の力は偉大だ。

 俺もヒーロー属性になればきっと……! 新たな生活への希望が湧いてきた。

 

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