第20話 逃走と闘争
……お互い、にらみ合い……
GPSのMAPの縮尺から測る……
相手達との距離約300m以上……
僕は彼等の行動を監視する……
『ヤツら』も僕の行動を監視する……
薄々感じる……あの『ヤツら』と同じだ……元来の『ヤツら』なら『お食事』を見つけたら即行動だ……モソモソとこっちに寄って来る筈だ。
あんな僕をじっと見て……
まるで考えている様な……
……『ヤツら』は考えもしない行動を取った……
8体は道路を塞ぐ様に一直線に並んだ……
そして、テクテクと僕に向かって歩き始める……
なんだよ……こいつら……最悪だ……
僕は焦りと緊張で心拍が鰻登り……
この行動自体は逃げれば問題無し、バイクのスピードには追い付けないだろう。
だが、明らかに僕を捕まえる為に、8体で協力した行動……意志疎通……
そして更に驚かせる出来事……
彼等はノロノロとジョギングを始めた。
僕に接触する時間が大幅に短縮される。
互いの体格差・身体の損傷具合を『ヤツら』は加味して、横一線の隊列が崩れない様に走る。
完全なる協力体制……
焦る……
おっさん先生の映画で観た……
軍隊一個大隊を蹴散らすバンダナを巻いた筋肉ムキムキの主人公……彼ならこの位蹴散らす……問題無だろう……そう彼なら……
……無限バズーカ砲でも無い限り、僕には無理っーーー!!!
小型PCのMAPを見て脱出経路……
真っ直ぐ……戻る……途中の中洲で曲がる。
どうする……
……思考が廻る……
気が小さい僕は、戻る反対側の橋からも『ヤツら』が走って来る妄想が沸き上がる。
橋の真ん中で挟み撃ち……イヤだ。
どうにも出来ずバイクを残して河川に飛び込む僕が想像できる。
■川と陸との配置図と僕の希望する目的地
E斐川 N良川 K曽川
僕
陸 川川 陸陸道陸 川川 陸道陸 川川 陸
陸 川川 陸陸道陸 川川 陸道陸 川川 陸
道橋橋橋橋道道道道橋橋橋橋道道道橋橋橋橋道
陸 川川 陸陸道陸 川川 陸道陸 川川 陸
陸 川川 陸陸道陸 川川 陸道陸 川川 陸
ここに行こう……北上すれば、途中にN良川・K曽川に架かる橋が在りそこからもA県に入れる……手前の陸地は小さく、『ヤツら』囲まれた時の事を考えると良い逃走経路とは思えない。
そうと決まれば、車体を寝かしフロントブレーキを握り、最後にスロットルをガバ開け!!
ブレーキにより動かない前輪を支点にリアタイヤが半円を描く……
180度車体がその場で回転する。
『ヤツらを』背にする……僕は猛スピードで走る……
バックミラーで『ヤツら』を目視する……
……『ヤツら』は隊列を崩した……
疾走出来る『ヤツら』。
脚を引き摺っている『ヤツら』で速度差が出る。
最初、彼等の意志疎通が乱れたと思ったが……
それは間違いだ。
『ヤツら』は役割を理解して別行動を取ったのだ……追跡出来る個体は走り、そうでない個体は少ない人員でも走行を邪魔出来る様に、間隔が広がった、そしてあくまでも道路全体に横一線の隊列を維持している。
……怖すぎる……
知性……チームワーク……
追いかけてくる『ヤツら』を観察する……
3体だ……大柄・小柄・老年の3体……
性別は小柄は女性か?大柄は男性だろう……少し腰の曲がった老年は性別不明だ。
故に残りの5体が隊列を組んでいる事になる……
追いかけてくる個体の速度が落ちる気配が無い……
ずっと時速10km程度で走ってくる……
人間でいえばそれでもジョギング程度……
バイクなら、直ぐに点に出来る位の遅さ……
それでも、『ヤツら』は諦める事無く橋をジョギングして来る。
『ヤツら』の活動のエネルギー源は何なのだろう。ろくすっぽ食事もしていないだろうに……
……僕はK曽川に架かる橋を渡りきった……
交差点が見える……
スタンディングで視線を上げ索敵する。
そのままの姿勢で後方の『ヤツら』を見る。
しかし橋の高低差で見ることが出来ない。
結構離れた様だが……
そして交差点上に障害物が無い事を確認して早々に通過し……
N良川に架かる橋へ……
スピードを上げる。
前方を凝視する。
『ヤツら』が見えないか……
見えたら急ターンだ……
通りすぎた交差点に戻り北上するか南下するか……
いずれかだ……
この橋を渡りきれば、次の交差点で右折だ……K津市を5km程度北上し、『ヤツら』に出くわさない事を祈りつつ再度、右折して橋を渡りA県に入るという算段だ。
今までの『ヤツら』なら、数にもよるが、蹴散らしても良いが、さっきの『ヤツら』……あれはダメだ……ロクなもんじゃ無い……
前方には『ヤツら』は居ない……行きには気にも止めなかったが、先の交差点が見えてきた……道路横に展望台を持つ建物が建っている……何かのイベント会場だろうか。
ソイツを目印にして右折だ……そこまで行けば、仮に『ヤツら』と出会ったとしても陸上だから撒く事も迂回も容易い。
僕は、橋や高速道路の危険性を良く理解出来た……
1つは橋の経年劣化による強度や耐久性の低下……それを起因とする倒壊……
もう1つは道路脇の遮蔽部や、橋の下を流れる河川が、僕の逃走経路を制限する……直進かUターンしか選択肢が無い。
自らの行動が地形により制限される……
逃走を基本とする僕にとって行動が制限される上記の場所は避けるべき場所だったのだ。
現に 僕は今、Uターンして、『ヤツら』と鉢合わせしないかとビクビクしながら走っている……
変な蛮勇を発揮して、下流の大型架橋を走らなくて良かった……あれこそ正に、自身の行動を大幅に制限する地形だった。
思い出すおっさん先生の忠告
~地形の種類~
通、挂、支、隘、険、遠
……戦う際の地の利の活かし方だ……昔の大いなる戦略家の有難い御言葉らしい。
それから考えれば橋は(隘、険)にみたいな地形かも知れない。
「どちらも大まかにいえば、幅が狭く、大軍を進軍させても……細長く隊列が延びてしまい、敵軍が少数であっても、苦戦する地形だ……」と説明された事を思い出す。
「大軍が一気に襲いかかれるから、少数の敵軍を鏖殺出来るんだ……しかしボトルネックな地形でチョボチョボとしか軍隊を送り込めない地形にはそんな行動は取れない……まぁ、現代は空軍が有るから今の戦力が完璧だとは言わん……だが『ヤツら』は空を翔べんからな……古き戦略も役に立つだろう」とおっさん先生は締めくくった。
『もう少し早めに思い出せよトウマ!!!』僕は自分自身を叱責する。
だが仕方無い……もう済んだ事だ。
未来を考えよう……意識を切り替える。
橋は終わり……交差点を見る……ッ……交差点の向こうの橋にユラユラ揺れる物体。
『ヤツら』だった……4体……
所謂、挟み撃ち……
鳥肌が立つ……
頭が何も考えられなくなる……
こんなに包囲された事は今まで無かった……
落ち着け……落ち着け……
まだ、交差点で右折する当初の計画は完遂出来る……問題無い……焦るな……
冷静に観察しろ……自分に言い聞かせる……
僕を視認して『ヤツら』の速度が上がる。
バラバラの行動……お互いを見ていない……単独行動……今まで散々見てきた『ヤツら』だ。
そして彼等が交差点まで来るにはまだまだ時間が掛かる。
僕は僕を安心させる……まだ大丈夫だ……まだ……冷静に……
交差点を右折して、少し走る。
両サイドはガードレールが敷設されている。
そのガードレールに引っ掛かる様に、2台の車両(ミニバンとコンパクカー)が事故を起こしたのか、反対車線から僕の車線まで飛び出し、ハの字になって道を塞いでいる。
ガードレールはその事故の辺りで終わっており、そこ以降は草木が繁った斜面となって、河川まで下り坂となっている。
段ボールがあれば滑りたい気分になる……
■交差点と事故車付近
~橋道道道道道道道道道道道道道道道~
~橋道道道道道道道道道道道道道道道~
川 斜面G道道道道G斜面 集落
川 斜面G道道道道G斜面 集落
川 斜面G道道道道G斜面 集落
川 斜面G 事故車G斜面 集落
川 斜面 僕 斜面 集落
バイク
結果オーライだが……ここは良い地形だ……
『ここはボトルネックだ……』
『障害物を作る……』
思い至った……この状況で僕の車線を塞いだら比較的簡単な労力で袋小路に出来る。
僕は道路脇にバイクを停車した。
前方に『ヤツら』は見当たらない。
ジャケットの胸ポケットに入れっぱなしになっている単眼鏡を引っ張り出す……右目に当てて交差点を見る……まだ、『ヤツら』は来ていない。
そのままぐるり360度みて簡単な索敵を行う。
僕は放置されたゴミを道路にバリケード代わりに配置しようと画策する。
新しい『ヤツら』は考えて、これを乗り越える可能性は大いに有る……多分……
しかしいつもの『ヤツラら』はまともに脚を上げる事も出来ず……ゴミに絡め取られる……多分……
しかし完璧な期待はしない……
「いつも『多分』と思え……完璧は無い……多分成功……多分失敗だ……」陳師傅の言葉。
『多分』だから『もしも』に備える……
『完璧』だと『もしも』に備えない……
故に『多分』……
事故車両から障害物を配置する。
僕は道路周辺に有る障害物を道路上に運ぶ。
3m程度の車線を塞ぐ。
自転車、
シニアカー、
原付バイク、
木の枝、
パイロン、
コンビニの自立看板、
何処から来たんだ……なんでも来いだ……
数分で、事故車両とガードレール迄のバリケードが出来上がる。
残りのゴミで、事故車両の隙間を埋める……
コンパクトカーのボンネットに枝を置き、看板を倒して持ち上げ割れたフロントガラスとミニバンの後部窓に突っ込んだ。
バリケードの高さは、低い所で、1.3m程度……高い所はミニバンのお陰で、1.8mは在った。
バリケード完了。
身体から湯気が出た。
疲れたが効果は絶大、だと思いたい。
少なくとも賢くない方の『ヤツら』はここをクリア出来ないだろう……
僕は再度バイクをスタートさせる。
このN島周辺は輪中と言われる土地だ。
河川に囲まれて、水面より土地の方が低い陸地……だから陸地の周囲は堤防により水害から守られる。
こんな地形……そして堤防の上にこの道路は走っている……
だから道が一番高いのだ。
その為視界を遮る遮蔽物が少ない……故に索敵に好都合だった。
キョロキョロと周囲を見回す……
晴天……青空が目に痛い……
暫く堤防上の道路を走る……
有効な距離を取った事をトリップメーターから確認して……ブレーキ、止まる……アイドリングのまま……いつでも発進出来る様に……
単眼鏡で後方を確認する。
この距離がこのスコープで視認出来る限界距離だった。
また、ここから進むと高架下に道が向かっており、高低差もあって バリケードを視ることは出来ないだろう。
僕は道の横に停まっている大型トラックによじ登る……コンテナの屋根に立つと、大層見晴らしが良い……
バリケード前を確認する。
居ない……
交差点まで、視界を進める。
……居た……ノロマな『ヤツら』4体が交差点を曲がり、バリケードに向かって来ている。
ノロノロと……眼前に有るものが目に入らない様に何も考えずにバリケードに進む。
もう一方の新種はまだ橋を走っている……しかし足が早い……ノロマな『ヤツら』に追い付こうとしている。
これからノロマを旧型、素早いのを新型と呼ぼう。
旧型は、やはりバリケードで詰まる。
本人達は詰まった事すら解っていない……1対の旧型がシニアカーのハンドルに足が引っ掛かったのか、身動きが取れなくなった。
残り3体はミニバンの後ろにいるらしくここからは見えない。
だが、想定通りバリケードは越えられない様子……汗をかいた甲斐があった。
そうしている間にも、新型がバリケード付近まで走って来ていた……2体はバリケード前で止まる……首を動かして辺りを見る。
最後の老人の1体はまだ橋の上だ。
先ず大柄な1体が、最もバリケードで低い場所……チャリンコと原付バイクを置いた場所に近づく。
腿を上げて、チャリンコを乗り越えようとする……腕力はそれほど無いのか……原付バイクを掴んで身体を引き上げようとするのだが……自身を引き上げれない。
そうこうしている内に、両足が、チャリンコと原付バイクの隙間に嵌まり込んでしまい……上半身だけをくねくねさせて脱出を図ろうとするが上手く行かない。
次は女性、自身の脚力に自信が無いのか……ガードレールの隙間を潜ろうとする……雑草に顔を擦り付けながら……ガードレールを潜る……その先は草の生えた斜面だ……何とかガードレールの反対側に到着する。
ガードレールを掴み、立ち上がろうともがく……直後……彼女の30年以上履いていただろうパンプスが滑る……そりゃもう靴底も磨り減って無いだろう。
盛大に滑り、後は、草滑りをする子供の如く直滑降……河川敷に至る途中の歩道で止まった。
もぞもぞと立ち上がるとキョロキョロと僕を探す……見つけられない……そりゃそうだろう……
単眼鏡で辛うじて見える距離まで離れたのだから、肉眼で見えるわけもない……見える訳がない……
何故、こっちを見てる。
たまたま、偶然だよね。
僕を観てる……んな訳ない。
……いやいや、観てる……視てる。
視覚で見ているかは解らないけど……
真っ直ぐこっちに向かって来る。
歩道の手摺をくぐり抜け斜面を歩き出す。
アメリカの四足ロボットの様に滑りながら……転けそうになりながらも……
不整地をジリジリ進んでくる……道路に戻したくない……僕は思う。
新型の老人はまだまだ橋の途中……
新型の大柄は、嵌まったままもじもじ……
『今しかない……』と思う。
トラックのコンテナから降りる……エンジンが掛かったままのバイクに跨る。
ガッツリ加速する……あっという間に河川敷に至る歩道を降りる。
新型の女性から100m離れて停車……エンジンは掛けたまま……鉈を掴み斜面を走る。
ノロノロと新型女性は滑り落ちた際に様々な雑草を身体に植えて歩いている。
新型のギリースーツの様な風体……コンクリート面にそんな格好で、全く隠れていない。
優位だ……もう面前……
鉈の刃を反対にする……峰を向ける。
斬らない……殴るんだ……振りかぶった鉈……新型の上半身を狙う。
頭を狙おうかとも思ったが……
何せ新型だ……避けられたら困る……
だから、逃げ切れない胴体を狙った……
僕はこの攻撃で殺傷しようとは思っていない……
鉈は、新型の脇腹に激突する。
僕より小柄な新型は……鉈の激突を食らい高低差もあり真横に5m程吹き飛んだ。
そして、斜面を転がる……肋骨は折れて……内蔵に刺さっているだろう……人間なら致命傷だが、『ヤツら』は何てことは無く、起き上がって来る。
追加コンボを狙うべく……アンダースロー……再度鉈を振るう。
起き上がったばかりの新型の脚を鉈が弾き飛ばす。
漫画みたいに……脚が吹き飛ぶなんて事はない……膝関節が『ゴキリ』というイヤな音がして、今度は2m更に横移動『河川敷まで落ちろ!!!』僕は祈る。
元々は剪定されて、短い草木だったのだろう河川敷は今や鬱蒼とした森林だ。
ゴロゴロゴロゴロ……
新型はその中に「ボソッ」と音を立てて転げ落ちる。
新型は起き上がろうとするが、僕が破壊した膝が機能しておらず、埋もれた草木の中から出ることができない……行動不能にした。
……ゆっくりと新型に近づき、頭を足で踏んで新型の首を鉈ではねた……タールの様な血液……まだ動く……もう一度振りかぶった鉈の峰で殴る。
首が飛んだ……ゴロゴロ……
鉈で歪んだ頭蓋が恨めしそうに、こっちを見てる。
……
……疲労……達成感……もう勘弁……
周囲を見回す。
他の『ヤツら』の動きは無い。
鉈を仕舞う……よろよろ斜面を上がる……バイクに辿り着く。
……バイクに股がりホッと一息……やんわりとバイクを走らせる。
変わらず晴天……冬間近だが、汗だくだ。
風邪を引かぬ様に気を付けよう……余裕が出来たら身体を拭こう。
……走る……疾る……
もう少し北上すれば、再度A県に架かる橋への右折交差点が見えてくるだろう。
ようやく交差点までたどり着いた。
前回の轍は踏まない。
ポケットから単眼鏡を出して安全確認……
もう、橋を渡っても『ヤツら』に出会さない事を祈りながら……
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