第6話 計画
おっさん先生は僕の顔をじっと見ながら話始めた。
「お前の周辺調査によって、N県北部には人が残存する可能性はかなり低い事がわかった、近日中に今後の調査範囲を決定しなければならない……実際に外に出ているお前の意見を聞きたい……」おっさん先生は僕に尋ねてきた。
今までは、僕自身の地図作成を始めて間もない事もあり、練習も兼ねていたのだった……だか、今後はもう少し、遠距離の地域を探索したい気持ちもあった。
「そろそろ人口密集地だった都市に行くしかないかな……」僕は答えた。
「練習は終わり、これからは本番って事か??」
「うん、もう、リスクは多少上がっても、人間と物資を見つけられる可能性の高い大規模都市だった地域に行かないと……」僕は覚悟して答えた。
「お前自身がそう言うなら、今後の調査範囲はO府か……A県か……」
「だろうね……」僕が肯定すると、おっさん先生は感慨深げな表情になり…とつとつと語り始めた。「『ヤツら』が現れてから、30年が経ったが……最初の15年、私の想いは、人類はこのままじわじわと減少し、地面に二足で立って居るのは、『ヤツら』になってしまうだろう……と言う諦観だった…だが、その後に起きた二つの出来事が、私の転換点になった……一つは15年前に、Y市のコンンビナートに原油タンカー帰港してきた時、もう一つは10年前に小さなお前を連れて、ムツミさんが来た時……前者は、原油からの精製した燃料により、私達の行動範囲が広げられた事、後者は、お前と言う存在が、多分『ヤツら』への、抗体を持つ希少な人間だと言う事」おっさん先生は指を折りながら説明する……
「だが、コンビナートの状態は、今だに原油からの蒸留所しか稼働していない……圧倒的に人員が足りないからだ、またお前の件も血液から抗体を培養してみたが、未だ成功していない……まぁ、私は本来医学なんて知らないからな……」彼はお手上げとでも言う様に、両手を広げておどけて見せた...…そして、急に真剣な顔になって言葉を続けた...…
「残り少ない人間を何としても見つけ出しコンビナートを完全稼働させたい、人類が活躍していた、旧世代の科学を活用出来なければ、圧倒的少数派になった私達に、生き残る術はないだろう」
「あんたの専門は人じゃなくて機械だもんな……でも僕の抗体が培養できたら、感染の恐怖から、皆を解放できるのに……まぁ、感染の恐怖から解放されても、命が有限な僕らと不死の『ヤツら』では圧倒的に不利なままなのかな...」僕が言うと、
「そうだその上、命が有限な私達は旧世代の技術を継承する必要がある...但し技術を知る人はもう、老年に入ろうとしている、知る人間が死亡すれば、所謂ロストテクノロジーになってしまう...何としても、ここ数年の内に、旧世代のエンジニアと若い人材を集め、技術を継承せねばならん」彼は珍しく、眉間にシワを寄せて深刻な顔で言った。
「そうだね、僕のバイクだって、技術を知ってるおっさん先生がメンテナンスしてくれているから快調なんだもんな、原油の蒸留所も、今技術屋のじいさん達と一緒にI市の若者20名程度が修行に行ってるんだもんね」
「彼らには、今後コンビナート全体を管理して行くリーダーになってもらわねばならん、そして、今後の調査範囲だが、そのコンビナートの状況確認も踏まえて、A県に向かってくれないか?」
「良いよ、僕もO府、A県どちらか決めかねていたからね、途中でY市のコンビナートにも寄るよ」
「すまんがそうしてくれ、そしてじいさんたちに事情聴取して、現状の若者の習熟具合と、人員不足がないか聞いてきてくれ」彼はそう言うと、「もう深夜だな寝よう、お前も疲れたろう、今日はゆっくり寝てくれ……」と言った。
「了解、そうするよ」僕はおっさん先生と挨拶代わりにお互いの拳を軽く打ち付け、ガレージから出ようとしたその際に、彼が「出発は明後日にしろよ、私から渡すものがある」と言った。
僕は手だけをヒラヒラと振ってそれに応えた。
もう、月が上空に有る、早く家に帰りベッドで眠りたかった……僕はバイクを押しながら夜道を急いだ、5分もせずに自宅に着いた。昔は母と住んでいた家、今は僕とバイクが住んでいる家……
僕はバイクを家に入れて玄関を施錠した。
玄関横の靴箱の上にヘルメットとバイクのキーを置き、廊下を少し進み左の風呂場兼洗面で歯を磨いた……
それから、服を脱ぎお湯を少量出し桶に入れた、新しいタオルをお湯に浸し、それで身体を拭いた...身体も心もすっきりした。
風呂から出て寝間着に着替えると、廊下の先の居間を通り過ぎて奥の洋室にのドアを開けた。
ドア横のスイッチを入れる、LEDの白い照明が点く、自分のベッドと机と椅子、机の横には本棚がある。
……それ以外何もない……
……いや在った……
……机に上に色褪せた写真立てが……
小さい頃の僕が真ん中に、左右にはおっさん先生と母さんが写っている、おっさん先生は緊張したのか、ひきつった様な笑顔を浮かべている、母さんは、満面の笑みで、僕の頭を撫でるように手をのせていた、僕は二人の間で、ちょこんと立っていた、まだ母さんが元気だった頃の写真だ……
僕は写真に手を合わせて、帰宅した事を母さんに報告した。
そして、照明を消しベッドに潜り込んだ、疲れの為か直ぐに意識は薄れ僕は眠りに落ちた……
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