おまけ

「この魔弓からは、とても強力な魔力を感じます。この魔弓は普通よりも遥か遠くへと矢を放つだけなく、対となる矢を引き寄せる効果があります。また、この矢にも強力な魔法が掛かっています。飛翔を妨げるモノを全て排除し真っすぐに突き進む効果が備わっているだけでなく、突き刺さると同時に周囲を巻き込む爆発を引き起こすようになっています。もちろん、この効果には制限も回数もありません」


 それは弓騎士を倒した後、休息を取る為に張られた結界内でのこと。

 ネフィーが手に入れた魔弓に、リンドが興味を示したのだ。

 使い方が分からず困っていたこともあり、ネフィーはリンドに魔弓の鑑定を依頼した。

 すると嬉々として魔弓を調べ始めたリンドは、驚きの鑑定結果を次々と口にしていく。

 だがすぐに、その表情は難しいモノへとなってしまった。


「ネフィーさんが手に入れた魔弓はただの魔弓ではありません。大変申し上げにくいのですが、これはかつて魔王が使っていたバーミティーションであると思われます」

「「魔王の弓!」」


 リンドの鑑定結果を聞いていたネフィーとマリアの声が重なる。


『というか、魔王ってネフィーみたいな弓使いだったのか?』


 密室内でその様子を見ていた俺の疑問に、リンドが「いいえ」と首を振る。


「魔王は弓だけでなく、あらゆる武器とあらゆる魔法に精通していたと言われています。中でも魔王が愛用した8つ武器と魔王が編み出した魔王専用の4つの究極魔法は、合わせて魔王の12宝具と言われています。そしてこの魔弓バーミティーションは、その内の一つなのです」

「へぇ、そんな武器たちがあったなんて、全然知らなかったわ」


 感心を示すマリアだけでなく、ネフィーもまたそのことを知らなかったようだ。

 300年前に存在した魔王に関する事柄は、発見されしだい即座に抹消され続けているという話だったので、そうであっても不思議ではない。

 そう考えると、知っていたリンドには素直に驚かされる。流石は図書館秘蔵の天才魔法少女、といったところか。


「そ、そうか。これは魔王の弓なのか……魔王の弓……つまり処分しなければならないのだな……」


 ネフィーの言葉通り、アルタジスタ大陸において魔王の存在は禁忌であり、魔王が関連するモノは即座に排除するというのが常識であるらしい。

 衝撃の事実に、ふらりと立ち上がり、二人から距離を取り、遠くを見つめるネフィー。

その後姿を見ているだけのマリアたちには分からないかもしれないが、その表情は絶望で満ち溢れている。よほどあの魔弓が惜しかったのだろう。


「ん、んん」

 そう思っていると、突然、ネフィーが妙にわざとらしい咳払いをし始めた。

 そしてなぜチラチラと周囲を見ている。

 もしや、と思い、マイクの【2】のスイッチを押す。


『ネフィー、まさかとは思うが、俺にどうにかしろってサインを送っているのか?』

「う、んん、うんそうだ、ううん」


 いや普通に言っているやん。

一方、ネフィーの背後では、先ほどから続く奇妙な咳払いに二人が首を傾げている。


『いや、どうにもできないだろう』

「ん、んん、どうにかしろ、んん」


 いやもう、咳払いする意味ないだろ、それ。


「んん! いいから、んん! どうにか、んん! 本当に頼むから、んん!」

『そこまでか? そこまであの殺戮道具が欲しいか?』

「んん、めっちゃ、ん、んん。欲しいに決まってる、んん!」


 とはいえ、どうしたものか? 魔王のモノは見つけ次第、処分しなければいけないみたいだし。かといって、このままあの魔弓が処分されたらどうなるだろうか?

おそらくネフィーは表面上ではなんでもないという態度を見せ続けるだろう。しかし内心ではメチャクチャ凹むはずだ。そして今回以上に強いストレスを感じ、それを発散すべく更なるサイコパス衝動を引き起こす可能性は大いにあり得る。

 さてどうしたものかと考えた末、俺はマイクの【全員】スイッチを押した。


『あーっ、その魔弓に関してなんだが、攻略本によると、確かにそれは魔王が使っていた魔弓ではあるんだが、実はそもそもエルフの宝である魔法の弓なんだそうだ』

「それってつまり魔王の弓であると同時にエルフの宝でもあるってことよね?」


 疑うことなく良い反応をするマリアに俺は『そうだ』と答える。


『考えてみてほしい。確かにその魔弓は魔王が使っていた物かもしれない。だからといって処分するより、魔王に奪われた宝を元の持ち主であるエルフたちに返すことの方が重要じゃないだろうか?』

「だけど……」

『魔王はもういないんだ。だが奪われたエルフたちは今尚、心を痛めている。そんなエルフたちの心を癒すことの方が大切だと思うんだ』

「……そうね。確かにその通りね。風星にしてはいいことを言うじゃない」


 聖女と謳われる純な心の持ち主であるアホな様が、感心したように頷いている。

 あー、この素直さには本当に助けられるわ。


「そ、そうか。これが我がエルフに伝わる秘宝だったとは知らなかったなぁ。ではこれは私が大事に預かり、タガルの森に戻った暁には長老たちに渡すとしよう」


 やや棒読みの台詞と共にリンドから魔弓をひったくるようにして取り戻すネフィー。

 魔弓を胸に抱くその姿は、かなり嬉しそうだ。


「風星さん」


 その様子を見ていた天才魔法少女から険のある声が聞こえてくる。


『な、なんでしょう、リンドさん?』


 思わずドモッてしまった俺の声に、どこか呆れたような表情を浮かべるリンドだったが、やがてクスクスと笑い出す。


「いえ、なんでもありません。……ネフィーさん、その魔弓の使い方は分かりますか? 私でよければ調べみますが?」

「頼む、リンド」


 どうやらリンドには嘘だとバレてしまったようだが、見逃してくれるようだ。


「ようやく風星も正しいことが分かってきたみたいね」


 そしてこのおアホめ様はいい加減、自分が騙されることについて学んで欲しいと思う。

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