1章7話 俺のファンクラブの美少女たちが変態な件について(2)



 集まった女の子の全員が全員そうというわけでは断じてない。

 中にはもちろん、マナーを守ってアルベルトを応援しようとしている女の子だっているし、むしろそれが多数派だ。


 が、しかし、一部には(アルベルト様を視界に入れただけで、自分は生物学的にメスなんだと強制的に再確認させられるような発情が襲ってきます……っ)(アルベルト様を視界に入れただけで、生物学的にメスとして生まれたことが、この世界で最上の幸せ、よろこびと思えるような快感に襲われます……っ)と、ヤバイ思考に浸っている女の子がいることも、正直否定できなかった。


 一部の暴走のせいで、全体のイメージが落ちてしまう。

 それを少しでも回避するため、同じファンクラブ会員同士でも、ユル恋勢、ガチ恋勢、ルナティック勢は各々、適切な距離を保って観客席に集まっていた。


 他にも純粋に、スポーツ選手のファンになる感覚でアルベルトを応援しているフレンド勢もあるが、それはともかく。

 そんな変態集団ルナティック勢をステージの上から遠めに見て、アンナはアルベルトに――、


「なんですか……あれ……?」

「情弱め。あれは俺のファンクラブの会員だ」


「いやいや! そんなこと見ればわかります!」

「そうか、失礼した。具体的には君から見て右から順に、フレンド勢、ユル恋勢、ガチ恋勢、ルナティック勢という並びらしい。俺も詳しいことは知りたく……あったんだが、俺自ら関わるのもどうかと思ってな」


「いやいやいやいや! アタシが訊きたいのはそこじゃないです! なんであそこまで狂気に満ちているんですか!? 女性ということ関係なしに、変態の一歩手前じゃないですか!?」


 アンナはもちろん、流石にアルベルトでもわからなかったが、この時、珍しく全ての勢力の心の声が(お前が言うな!)で一致する。

 そんなアンナはビキニ姿でルナスティック勢を見ながら、(彼女たちを見ていると、自分がマシに思えるわね)と内心、勝手に自分を棚に上げていた。


「一応言っておくが、この瞬間も、明日からも、一部の過激派をピックアップして全体を語らない方が賢明と思え。殺し合いを学ぶところとはいえ、なるべく楽しい学園生活を送りたいだろ?」


「怖っ!? どういう意味ですか!? 」

「あまり自分で認める気にはなれないが、どうも、俺は女の子たちからの憧憬どうけいの的らしい」


「いや……、まぁ……、確かに先輩は女の子の憧れではあるんですけど……」


 狂気などすでに通り越した。

 今、アルベルトは悟りの境地、冷静沈着の高みにいるのだろう。


 自分が女の子たちから性的な目で見られていて、夜な夜な自分を慰める妄想に登場させられていて、それを察していても、アルベルトは別にその程度で取り乱したりはしない。


「さて――」

「むっ」


 ようやく本題ではない会話が終了しそうで、改めて、アンナは模造剣を握り直す。


 闘志は健在で、覚悟は十分を超えて十二分。

 例え相手がEXランクで学園最強であろうと、戦うにあたって最初から負けるつもりは微塵もない。


 敵が戦闘から勝利という結果しか発生させない神託を持っているとしても、そこまで絶望的な神託ならば、制限の1つや2つはあるはずだ。


 アンナにとって、絶望とは覆すモノで、逆境とは跳ね返すモノ。

 今さらその理念に疑う余地はどこにもない。


「最後に、こちらからもう一度、1つ訊きたい」

「なんでしょうか?」


「君が今〈万物を光に還す理法〉を発動したら、俺を光に変換できるか?」

「なぜ、そのようなことを?」


「俺の神託の制限だ。俺は勝負に絶対に勝利する。しかし、開戦前に細工をされていて、そもそも勝負として成立していなければ――」

「――神託が発動しない、と?」


「いや、可能性の話ではあるが、俺本人さえ予想できない奇跡的な出来事が発生し、君を殺すかもしれない」

「えぇ……」


「それで、どうだ?」

「安心してください。今、先輩を光に変換しようとしましたが、まるで感覚がありません。それに――」


「それに、なんだ?」

「勝負として成立していない戦いに勝っても、それはアタシの実力の証明にはなりませんので」


 敵は唯一無二の勝利の化身。不屈不撓ふくつふとうにして百戦錬磨ひゃくせんれんまの神託者。傷付くのは必至で、敗北は必然。勝てる確率なんて1000景分の1の遥か向こう。勝算なんて、遠く宇宙の星々の彼方にさえ、あるかどうか。自分が自分の勝利を信じる一方で、ここに揃う誰もがアンナの勝利を期待しない。


 ゆえに、上等。

 ここで想像を裏切れば、さぞかし爽快になれるだろう。


 眼前の男が勝利という概念の擬人化だというのなら――、

 ――この日、この時、この瞬間、それを過去の産物にすればいいだけの話。


 嗚呼、自明だ、と、アンナは好戦的に笑う。


 負けないためには勝てばいいだけのこと。

 勝つためなら負けなければいいだけのこと。


「先輩――、往きますよ?」


「――――」

「付いてきてくださいね、アタシの光に」


「――調子に乗るな、新入生」

「――――」


「試練のときだ。君の方こそ、俺の世界に付いてこい」


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