1章6話 俺のファンクラブの美少女たちが変態な件について(1)



 3日後――、

 学園の敷地内にある戦闘演習場にて――、


 先日の言葉を反芻はんすうし、ハッタリだ、と、アンナは強がった。

 だが心の奥の方では、学園最強の神託者が、こんなつまらないハッタリをするだろうか……? と、不安げに疑ってしまう。わずかに狼狽うろたえながら、いぶかしんでしまう。


 今の彼女の状態を一言で表すなら半信半疑。

 フェアプレーの精神による真の助言か。

 自分を決闘に集中させないための揺さぶりか。


 愚問。

 どちらがアルベルトの真意か判別不能ならば、両方の可能性を考慮して決闘に臨めばいいだけだ。

 それを決めて、今、アンナは演習場の舞台ステージの上で、件の最強と向き合っている。


 彼我の距離は約15m弱。

 アルベルトは右手に模造剣を握っていて、静かに、しかし冷たく凄絶な双眸でアンナに視線をやる。一方でアンナも右手に模造剣を握り、緊張しながらも闘志を強く燃やし、眼前の相手に、開戦前だというのに隙を見せない。


 だがしかし――、


「戦う前に、君に訊きたいことがある」

「はい、なんでしょうか?」


「今から言うことは決してセクハラではない。むしろ、良心からの質問だと認識してほしい」

「はぁ……」


「君は、もしかしてとんでもない変態なのか?」

「どういう意味ですか!?」


 左手で顔面を覆いアルベルトは内心嘆く。

 そして深呼吸して、左手をもとに戻し、改めてアンナを睨むと――、


「なぜ、君は水着で決闘をしようという結論に至った?」

「アタシの神託について、この前教えたじゃないですか! 発動制限の1つ、触った物じゃないと光に変換できないルールを、少しでも軽くするためです!」


 そう、アンナは戦場に似つかわしくない三角ビキニを着て立っていた。爽やかなスカイブルーとホワイトのボーダー柄。どこか清純な印象を受ける胸元の白いリボン。素肌の隠れている部分は胸と股間だけ。どこからどう見ても紛うことなく、日差しが強い夏の日に、女の子が砂浜ではしゃぐためのそれだった。


 どうやら本人は至極真面目に、ビキニ姿で決闘に臨むようだった。

 たゆんたゆんで、少しでも走ったり跳ねたりすれば、その瞬間に零れそうな大きな胸。こちらは恐らく零れるということはないだろうが、激しく動いたらあっという間にビキニが喰い込むこと確定のおしり。


「君にはプライドというモノがないのか?」

「プライドがあれば先輩に勝てるんですか?」


「…………」

「――――」


「愚問だったな」

「まったくです」


 空色のビキニは確かに金髪碧眼で、色白な彼女に似合っている。

 叶うのなら、それをプールや砂浜で見せてくれればベストだったというだけで……。


 しかし、彼女の覚悟は伝わった。

 もう少しまともな方法で伝えてくれればよかったのだが、アルベルトは致し方なし、ということで結論付ける。


「先輩、アタシからも、訊いておきたいことがあるのですが」

「なんだ?」

「あの人たちは、いったい……」


 少しだけ、アンナはアルベルトから視線を外す。

 それが次に向かったのは、観客席の一部だった。


「アルベルト様~っ♡ 応援しています! 頑張ってくださ~い!」

「本気で大、大、大好きです! アルベルト様を愛しています♡」


「アルベルト様に憧れてこの本校に入学しました! アルベルト様にお会いしたい一心で、偏差値を20も上げたんです~っ!」

「入学早々、アルベルト様の勇姿を拝めて感激で泣きそうです! 上手く応援できたら、頭を撫でてイイ子イイ子してくださ~~い!」


「きゃあああああ! アルベルト様~っ、アルベルト様~っ、こっち向いて~!!」

「きゃ~~っっ、アルベルト様がこちらを見てくださったわ~っ! か、カッコいい!」


「ずっと、ずっと、お慕いしておりました~っ! あなたのことが大好きです♡」

「本気で私、アルベルト様と結婚したいんです♡ ガチ恋勢なんです♡ 絶対に勝ってくださ~い!」


「わ、わわ、私と、けっ、結婚してください! みんなに自慢できるような可愛いお嫁さんになれるように頑張りますから♡」

「わ、っっ、私! アルベルト様のことが大好きです♡♡♡ 好きで、好きで、大好きなんです……っっ! 私の気持ち、迷惑ですか……? 好きになったらダメですか……?」


 いや、ここまでは大丈夫だった。

 むしろ正直、男性としてアルベルトも嬉しがっている自分を否定できない。


 しかし問題は――、

 過激派の方で――、


「わあああああああ♡ アルベルト様が私たちのことを鬱陶しそうに睨んでくれたわ! 蔑むような視線がクセになっちゃうよぉ! おしりを叩いてほしいです! おっぱいをってほしいです! いっぱいいっぱい、イジメてほしいです♡♡♡」

「私に首輪を着けてください! 夜になったらイヌのように散歩に連れて行ってくださ~~い! 言われたこと、なんでもしますから! 言われていないことも、なんでもしますから! アルベルト様のお情けをください♡♡♡」


「抱いてくださ~い♡♡♡ 心の隙間を埋めてくださ~い♡♡♡ 夜には寂しくて泣いちゃって、毎晩枕とかが濡れちゃっているんです! 準備できているんです! 幸せな大家族希望なんです~っ♡♡♡♡♡」


 演習場の観客席の一部に危険な連中が集まっていた。

 彼女たちの中に、考えれば当然かもしれないが男性はいなかった。その女の子の集団はアルベルトを視界に入れているだけのはずなのに、潤んだ瞳にハートマークを浮かばせて、顔を発情したようにトロトロにさせている。


「わっ、イキリ会員の人たち、今日はけっこう多い……」

「アルベルト様の今年度の初戦だから……、それにしても、フッ、ヤツらの愛には品格が足りん」


「チッ、カワイ子ちゃんぶりやがって……」

「自分の愛情にセーブをかけるなんて……。愛が足りんよ、愛が」


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