二十六章
季節は六月。つっても日本みたいな蒸し暑い梅雨とは一切無縁で、気温は二十度を超えず比較的過ごしやすい北海の島国である。朝、日の出前にぼんやりとした夢うつつの中でなんだか妙に静かだなと思うこの頃、そろそろ司祭服に着替えて礼拝の用意をしなければならんなーなどと思いつつ、思いつつも俺は
五分のつもりで一気に時間
途中でミサを取りやめて助手くんに礼拝の道具を片付けるよう頼み、メイドさんの後についていくと、伯爵の寝室の前で立っているはずの兵士がいない。古泉もどこかの自室でぶっ倒れているらしい。朝比奈さんの寝室に連れて行ってもらいドアをノックすると中から
「おはようございます。どこか具合悪いんですか」
「ミサに行けなくてごめんなさい。風邪っていうか……今ごろ変だとは思うんだけど、熱もあって
俺は医者じゃないのだがこの時代は医者まがいのことを修道士がやっていると聞いていたので、少し気取って、
「ちょっと
「あーん」
「おやおや、
「ええっ!?どれくらいやばいの?」
「痛みますか」
「水を飲むと痛むの。あと、お腹の具合が悪くて」
「ちょっとドクター長門に相談してきます。城の住民のほとんどが寝込んでるらしいので」
「ええ、お願い」
長門の私室はメイドさんたちの部屋の並びにあり、ここは男子禁制で領主といえど入ってはいけないことになっている。今日はまあ医療上の都合なのでメイドさんに連れ
「長門、ムグググ」
部屋に入るなり頭から布を被せられた。あの、けしてあやしいもんじゃございません。
「……抗菌フィルター付きマスクを着用のこと」
マスクというかシーツを
「ぷはっ。集団感染っぽいもんが流行ってるみたいなんだが、まさかペストとか黒死病じゃないだろな」
「……ペストと黒死病は同義」
そういうツッコミはどうでもええねん。ペストって
「朝比奈さんの
「……城内にエンテロウィルス属のエコーウィルスが
「どういう病気なんだ?」
「……通俗的な呼称を使用するなら、夏風邪」
「な、夏風邪!?夏で、夏だった、っていうただの夏風邪?」
「そう。この時代には珍しくなく悪化することも多い」
「夏風邪ってどうやって
「……
「ということはそばに寄るだけで
いやー俺だけ無事だったのは運が良かったというべきか日頃の行いの現れというべきか、なまんだぶなまんだぶ。
「……あなたが感染していないのはナノマシンによる
「ああ、そういうメディカル的な効能もあるのかこれ」
俺は自分の脳内にいるらしい長門製ナノマシンを指した。ありがたやありがたや。
「……ここ二三日は
なんか気分がいいと思ってたら軽くラリってたのか俺。
「ありがとよ長門。住民向けに薬を調合してもらえないか。この時代の医学レベルで」
「……了解した。ラボに出かける」
城門にも番兵はおらず、メイドさんになるべく城から人を出さないようにと言いつけて出ると、どうやら赤ら顔で咳をしている人が町のそこかしこにいる。城内というかこの街全体に広まってるようだ。俺は月光仮面みたいなマスクをして、長門は女医さんみたいな
長門の店は前と同じ間取りで一階がカウンター、地下が錬金ラボになっている。壁に大きな布の包みが立てかけてあるのはペンタグラムか。
長門
「案外めんどくさいウィルスだな」
「……そう。自覚症状がないため広まりやすく、進行すると合併症なども起こり得る。妊婦は要注意」
なるほど。妊婦、妊婦ね。そろそろ三ヶ月になる朝比奈さんは気をつけないとな。
パセリみたいな匂いのする干した薬草とシソみたいな植物系の素材をゴリゴリと乳鉢ですり
「……できた。召し上がれ」
い、いや俺は問題ないから。
主に夏バテによる腹下しを
「マイレディ、お薬お持ちしましたよ」
「キョンくん、長門さん。ありがとう」
「先生の
「夏風邪だったの? 私はてっきり食中毒かと」
「城の外でも流行ってるみたいなので、なにか対策をしたほうがいいかもしれません」
「どうすればいいのかしら」
「……まず予防は適度な衛生管理。うがい手洗いは基本」
「手洗いね。メイドさんたちには
「修道士は宗教的な理由でよく手を洗うように
「イタリアから輸入すればないこともないんだけど、
「……植物油脂とアルカリ性のものであれば一定の効果はある」
「なんとか安く作れないか考えてみましょう」
「……材料を探してみる。夏風邪の薬も多めに用意する」
「ありがとう長門さん。恩に着ます。
「マイレディ、俺思ったんですが、黒死病の流行に
「そうね。わたしも気になっていたわ」
黒死病はネズミについたノミを経由すると言われていて、あるいは感染した患者が肺炎になり咳から空気感染し、発症すると頭痛高熱吐き気などに見舞われ、その名の通り黒いアザができて数日で死に至るという、ゾンビも真っ青になって逃げ出す病気だ。十五世紀には農民の半分が死んで廃村の
「街の住民に衛生管理させるのはお触れを出せばなんとかなると思いますが、田舎には医者もいないし病院もないんです」
「農村では病人の扱いはどうなってるのかしら」
「……農村に治療施設はほとんどない。主に領主が住む街で
今鶴屋さんがいるところだな。
「うーん……どうしたらいいかしらね」
「現状では、
「そうね。お医者様がいないのなら
「教区教会から派遣されている牧師にも教育を
「分かりました。それは聖堂教会の司教様にお願いしましょう」
「……河川の衛生対策もしておいたほうがいい」
「それってどういう?」
「……
「えーっと、つまり」
「……」
長門は適当な
「住民がうんことおしっこを川に垂れ流してるってことです」
「なんてまあ! ほんとにそうなの?」
言っちゃなんですが、この城のトイレだって川に垂れ流してるんですよ。朝比奈さんはなんてこったという顔をした。
「……そう。後年に流行するペストの原因のひとつとして挙げられている」
「それは禁止しないといけないわね」
その水を下流の住民が飲んだり洗濯に使ったりしているのである。ありがたいことに、この城では自前の井戸を持っているが、一度流行すると人から人へと
「分かりました。ロードシップに頼んで今回の夏風邪の件もお触れを出してもらいましょう」
俺と長門は、なんか事あるごとに着々と行政改革が進んでるなあ、という顔で感心している。既定事項は破ったかもしれないが、朝比奈さんの結婚はグロースターにとってはいいことだったのかもしれん。
長門は早速買い出しに行くといって立ち上がった。朝比奈さんは部屋を出ていこうとする二人を呼び止め、
「長門さん、ありがとう。本当にいろいろ助かっています」
「……お礼ならいい。今日一日は
「はーい先生。そのコスプレ、すごく似合ってますよ」
俺より長門のほうがよっぽど医者っぽいな。
長門はメイドさんに薬を渡して時間と分量を指示し、なるべく患者に触らないこと、毎回手を洗ってうがいをすることを伝えた。それから馬車を出し、ロンドンまで薬草を仕入れに行くというので俺も付き合うことにした。様子を見ておきたいやつもいたしな。
「外科治療は無理かもしれんが、こういう内科の病気は俺たちも気をつけないとなあ」
「……そう。この時代は病死率が高い。平均寿命は三十五歳」
三十五歳って、俺もう人生のほとんどを無駄に使っちまったな。
馬車が家の門の前にたどり着くと、その無駄に使っちまった第一要因が庭先に転がっていた。
「ハルヒがぶっ倒れてるぞ!」
ハルヒが感染するウィルスたぁいったいどんな
「……薬を少し持ってきている」
「とりあえず家の中に運ぼう。足を持ってくれ」
俺は気を失っているらしいハルヒの脇を抱え、長門が
「んがっ」
ポットを取り上げるとなにか液体が入っている。見たところ透明なんだが水じゃなさそうだ。不審に思って一口飲んでみると
「うへー、なんだこりゃ。
ハルヒの口元をスンスンとかいでみると強烈に酒臭い。ただの泥酔だと分かって長門も両手を離すと、ハルヒが目を覚ましたようで、
「んがっ、いたーいたたた。頭に床が落ちてきたぁ、ってなんでキョンがいるにょよ。頭
「おいハルヒ、まさか昨日から外で寝てたんじゃあるまいな」
ハルヒは号泣市議のような仕草で耳をそばだててみせ、
「んーんー? もっかい言って、よく聞こえなかったわ」
「だから、外で寝てたんじゃないかっていってんだよ」
「んがはは、なわっけないでしょっキョン」
へべれけのハルヒはペシッと長門の背中を叩いた。こりゃ前後不覚どころか左右混同天地無用だな。
台所のドアを開けるとなにやらでっかい銅製のヤカンみたいなものに細い管が
ハルヒがテーブルにつかまりながらふらふらと立ち上がり、
「んぐぐ、あー頭が痛い」
こっちのほうが頭痛いわホンマ。
長門がコップに水を
「んぐ、ぷっ」
慌てて口を
窓の外からハルヒのオロロロ声が聞こえる。それを見た豚が寄ってきてハルヒがリバースしたものを食っている。うわあグロ映像だ見たくない見たくない。
「ハァハァ、スッキリ爽快。あ、あんたたち来てたんだ。いいところに来たわ、まあ一杯やんなはい」
妙にひと仕事終えた感いっぱいの顔で口元を
「どうでもいいがこの
「しょーちゅじゃないわのよ。ウィスキーよ。試しに作ってみたら最高でもうホロロロ」
ほろ酔いどころじゃないだろそれ。ウイスキーってこの時代にあったっけ。
「いいけどな、あんまり未来の技術を持ち込むなよ」
「未来人が酒飲んじゃいかんとでもおっしゃんすかあ。あんだぁ修道士のくせに知らないにょ? ウィスキーは十二世紀にムショで作ってらのよ」
修道院は刑務所じゃないですから。それにスコットランドの話だし。俺はもう一口飲んでやっぱり
「これってスピリッツだよな。ウイスキーって何年か寝かせたやつだろ」
ハルヒはテーブルをバンバンと叩いて、
「まぁま、こまけぇこたあいいんだよ。そんな何年も待ってられっかっての。この時代はコレを飲んでたんだがらいいにょよ」
「樽で寝かせればいい味になんのに」
俺はまだ飲もうとしているハルヒからコップを
「あんだねぇ、このご時世いつまでも待ってれれるほど甘くわないにょよ。有希がいつまれも待ってくれると思ってんのあんだ、あぁん?」
「分かったから、ほら自分の部屋で寝てろ」
俺が肩で
「有希もねぇ、我慢してるだけじゃらめなのにょ。言うときはビシっとバシッとブシっと言うっと。女にはにゃー
今度は長門に
「あだしゃーねえ十年も待たされてんっすよ。十年よ十年。あー、あだしなんの話してんら」
ハルヒは天井に向かってビシ指をし
俺は伯爵の様子を見ようと寝室のドアをノックした。中からどうぞと声がしたので開けて覗くとベットで頭にタオルを乗せたまま手招きしている。
「おお、修道士殿か」
「マイロード、お加減はいかがですか」
「だいぶ楽になった。薬の調達に
「礼ならミス・ナガティウスに言ってやってください。あいつが調合したものなんで」
「そうそう。彼女の薬は実によく効く。長年病んでいた水虫がすっかり治って喜んだものだ」
あなたも水虫に侵されていたんですかマイロード。
「ところで、ちょっとこの小瓶を味見してみてください」
俺は自分で先に毒味をしてみせ、伯爵の手の甲の上に数滴落とした。
「新しい薬か。ペロリ……これは、青酸カ、」
と少年探偵のまねをしそうになってゲフンゲフンと
「エールの味ではないしワインの酸味もしないし、これはなんだ?」
「ええと、スコットランドの酒、らしいです」
「ほう、そんなものがよく手に入ったな。なんだか魂を抜かれそうな強さだ」
まあスピリッツというのは元々そういう意味なのかもしれませんが。
「実はミス・スズミヤが作ってるんです。俺は薬用にしようかと思ってたんですがね。これを売ってみませんか」
「なるほど、おもしろいな」
「ミス・スズミヤに
「そういうことか。いいアイデアだ。修道士殿、よかったら話をつけてもらえないだろうか」
「ええと。マイロード、恐れながら、商取引は直接なさったほうが交渉がスムーズになるかと思います」
「そうだったな。彼女ならきっと、そういうことは面と向かって言いなさいよ、と言うだろな」
さすが分かってらっしゃる。
「そういうことは執事に任せなさいよ」
どっちなんだお前は。
「まあまあハルヒよ、今日は木材の納品のついでに寄ってもらったわけで」
病み上がりの伯爵も
「ついでに人を呼ぶな!」
伯爵も人がいいからお
「ミス・スズミヤ、あなたが作っているというあの酒は実にうまい。正直やみつきになるくらいのものだ」
「そ、そうなの。まあね、あたしでも意識失うくらいだったけど」
いいぞジョン、そこでおだてて攻略だ。
「グロースターの
「まだそこまでの量は作れないわよ。台所でちまちまやってんだし」
「場所が必要ならここを使ってくれても構わない。港も近いし輸出するには最適だと思う。あなたが作って私が運ぶ、完璧な組み合わせじゃないだろうか。いかがかな、イングランドを代表する酒造の経営者、ミス・スズミヤ」
ハルヒはまんざらでもないようで、がははと切ったスイカのように
「いいけど、一つだけ条件があるわ」
「なんなりと」
「酒の名前はあたしが決めるわ」
「酒に名前を? つけるのか?」
「知らないの?ブランドよブランド。ビールならギネス、赤ワインならボジョレー・ヴィラージュ、テキーラといえばホゼ・クエルボ、ウォッカといえばストリチナヤでしょ」
おい商品名はその辺にしとけ。知らなくて当然の名前が大量に出てきて伯爵が首を
「私はまあ、なんでも構わんが。その様子だともう決まっているのか?」
「安心しなさい、名前ならたった今考えたから」
これはやばい、ずいぶん昔にも似たようなシーンに居合わせた気がするぞ。
皆の衆お知らせしよう。ハルヒがたった今考案したスコッチウイスキーのパクリ銘柄、それは、涼宮ハルヒのおいしい酒。略さなくてもわかると思うが、ってまんまじゃねーかよ。伯爵はそれはラテン語かアラビア語の
「英語で伝わってないだろ。もっとマシなの思いつかなかったのかよ」
「うるさいわね、ウイスキーの
「えーとだな。じゃあ、
はい決定。
「こらキョン、あんたの頭でそんな気の利いた名前が思いつくわけないでしょ。ずっと考えてたわよね、寝ないで考えたわよね、正直に答えなさい」
「とんだ言いがかりだな。昨日寝てたときにご
「へーえ」
握りしめた
「まあ、名前は後で話し合って決めてくれ。ミス・スズミヤ、もし城で寝泊まりするつもりなら、」
「あたしはここに住むつもりはないわよ」
「ああ分かっている。それは分かっているが、もし仕事の合間に昼寝をするようなことがあれば個室を使ってくれて構わない」
「あっそ。まあ、そんとき使うわ」
うんうん。
朝比奈さんの様子を伺いにか、それとも冷やかしにか、翌週くらいからハルヒはちょくちょく城に来るようになった。
「ねえねえ、みくるちゃん、あたしたちのベビーまだぁ?」
「あんまり
「あーあやだやだ、冗談のひとつも分からん頭の固い坊主は一人でお経でも読んでりゃいいのよ」
バチ当たりめ、あれはお経じゃなくて
「っていうか何しに来たんだお前」
「あんたが呼んどいて何しに来たんだたぁ
ああ、そういやそうだった。どうやら伯爵も本腰を入れてウイスキー密造、じゃなくて
俺は十字を切り北の方角を向いて手を合わせ、
「本場スコットランドの産業が
「こんなものはやったもん勝ちよ。あたし的には日本酒でもいいんだけどね」
中世のイギリスで日本酒が
「涼宮さん、日本のお酒作れるの?」
「うーんとね、日本とは気温も湿度も違うし、菌がちゃんと発酵してくれるかどうかねえ。何度か試してみないと分かんないわ」
「ハルヒ、
「簡単よ。米を蒸してその辺にいるカビを呼べばいいんだわ」
「そういうものか。酒って工業製品だと思ってたが」
「あんたねえ、史上初めてビールを作った人間がスーパーでイースト買ってきたとでも思ってんの?
長門にそうなのかと尋ねるとウンとうなずいている。簡単にいうとおにぎりを
「うーん金属メッシュもないし……蒸し器から作んなきゃいけないわね……曲げ物職人もいないし、めんどくさいったらないわ」
酒のことになると頭の回転が超全開になるらしく、ハルヒはぶつぶつ言いながら部屋から出ていった。だがまあ、職人は道具を自分で作るもんだとかいうし、なんだかんだで作ってしまいそうな勢いだ。ハルヒならな。
「わたしも涼宮さんのお手伝いをしようかしら」
「何をです?」
「日本酒作るならお米がたくさんいるわよね」
「ええ、ハルヒも麦畑に
「農家の皆さんにお米の栽培を
酒と聞いてなんだか元気が出てきたようだが、この人は割といける口なのかもしれないな。
「ちょっと出かけてきますね。今日は騎士さんたちいないから、二人ともお留守番お願い」
「かしこまりましたマイレディ」
「……いってらっしゃい」
朝比奈さんは従者をひとりだけ連れてマナーハウスまでいそいそと出かけていった。朝比奈さんはもともと地主グランパの家で暮らしていたので、この土地の農業の事情はだいたいは知っていると思う。城に移ってからはずっとハルヒに任せきりだったが、今や伯爵夫人自ら農政をやる気になったようだ。
それからしばらくハルヒは姿を見せず、城にも静かな日々が続き、俺は産院やら定期便やらマナーハウス附属幼稚園やらの経理をデスクワークだけでこなして常にのんびりと過ごしていた。
週が開けた頃、
「みくるちゃーん、でーきたわよー」
朝っぱらから耳に
窓から外を覗くと素焼きのポットを
朝比奈さんは今日は頭痛がするというので朝の礼拝には出てこなかったが、ハルヒの声で目が覚めたようだ。長門と連れ立って朝比奈さんの寝室に行くと、
「もうできたの?」
「試しにこないだもらったインディカ米だけで作ってみたわ」
いや、
「日本酒なんぞよくできたな」
「んー、日本酒っていうかまあにごり
「ああ、軽い味だな」
トロっとしてるがそれほど度は高くない、甘くない甘酒みたいな。口の中に米の味が残る。朝比奈さんがわたしにもと手を伸ばしたのでポットを渡そうとすると、
「……待って」
長門がつかつかと歩み寄って取り上げた。
「……妊婦は飲酒禁止」
「えー、ちょっとぐらいいいじゃないのー」
朝比奈さんとハルヒが口をとがらせて言うと、長門はグイとポットを
「ぷはっ。……二人とも、そこに座って」
「さっきから座ってるじゃないの」
「……胎児という存在について説明する。人類は小さな単細胞生物からホモサピエンスに至るまで四十億年という年月をかけて進化を
ウヒョーという感じに朝比奈さんとハルヒは目を丸くした。なるほどそういう計算になんのか。朝比奈さんは顔の前でシーツを掴んで、長門がゴクゴクと飲み干すにごり酒をもの欲しそうに目で追った。
「そういう事情ならまあ、出産までは禁酒ということで。そうだな、長門」
「……ヒック。てやんでい」
おーいハルヒ、長門の目が座ってきてるぞ。お前ドブロクにいったい何入れたんだ。
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