二十五章
今回は客としてではなく雇われの身分なので使用人の勝手口から入った。塔の前にメイドさん一同が並んで
「修道士殿、ミス・ナガティウス、ようこそ我が城へ」
何度もスカウトした挙句やっと来てくれたというので二人とも笑顔だ。こないだまで客としてもてなされていたのでどうも感じが違う。
「はあ、マイロード、しばらくご
「……参上した」
「キョンくんと長門さん、やっと来てくれたのね。お待ちしていました」
「マイレディ、お世話になります。客人ではなくて使用人としてこき使ってやってください」
朝比奈さんは笑って、
「キョンくん、あなたは司祭様なのだから、部下の仕事を取り上げないようにしてくださいね」
部下というのはつまり、伯爵の取り計らいで付けてくれた若い助手のことだ。たしか古泉の
ドラッグストア・ユキリナは地下室のある店舗物件を城のそばの一等地に借り、長門は朝比奈さんの勧めで城の中に居室をあてがわれた。俺の居場所はというと、城壁にくっついている畳十枚ほどの小さな礼拝堂があり、その隣にある個室で寝泊まりすることになった。毎朝早起きで祭壇にロウソクを
修道院では常にロウソクの火を絶やさず三時間ごとに礼拝をやっていたものだが、
城の住人になって翌日の早朝まだ夜が明けきらぬ五時、目をこすりこすり俺はやーれやれ面倒な仕事を背負い込んだもんだなどとブツブツつぶやきながら祭壇のロウソクに火をつけようとすると、城の住民全員が直立不動で並んでいた。
「な、な、マイロードに騎士さんたち、皆さんお
「おはよう修道士殿。どうって、ミサがはじまるのを待っているのだよ」
伯爵は寝癖の付いた
「お、お集まりの皆様、ただいま開催いたしますのでしばしお待ちください」
クソっなかなか火がつかねえなどと言い訳がましく
俺は慌てて自室に戻り、パジャマの上からゴージャスなシルクの司祭服を被って何食わぬ顔で説教台に立った。皆を見下ろし、
「あー、オホン。
俺の司祭コスプレがそんなに似合わないのか、朝比奈さんと長門が下を向いて震えているのが見える。俺は続けた。
── 信仰があれば山をも動かせる。キリストさんがこのセリフを言ったのは、だいたい千二百年ほど前、弟子たちが病人の
── カラシの
「んでは、次に
まあミサと説教を
さて、俺はのんびりする暇もなく、さっそく
伯爵は今回場所を提供するだけで、古泉も言っていたとおりすべての取引が非課税である。売買代金や手形のチェックなどは一切しなくていいのはこっちも楽だ。だが美味しいものにはハエもたかるというし、
「無理を言ってすまなかったな、修道士殿」
執事さんや騎士さんたちと運営の打ち合わせをした後、伯爵に話しかけられた。
「いえいえ、いいんですよマイロード。こういうお祭は個人的にも好きですから」
「修道士殿は大臣並みの学業を積んでおられるとのことで、妻と、それからコイズミ殿からの強い勧めがあってな」
「大臣だなんてとんでもないです。あはは」
いやあこれでも単位を取るだけで精一杯で、俺が大臣なんかになったら王宮がミジンコ並みに
「ミス・スズミヤが来てくれなかったのは残念だった。修道士殿を説得すれば彼女も来てくれるはずだと思っていたのだが」
俺の立ち位置を知ってのお誘いだったんですが。微妙に
「いつ気付きました?」
「いつ、というと?」
「俺がハルヒを動かせる立場にある、と」
「最初に法廷で見たときに誰が彼女の
なるほど。人間関係における
ここまで人が集まると街が混乱しかねん。さらに当日には買い物客が押し寄せるというのに、宿も飯屋も足りてないだろう。
「おーい古泉、業者がぎょうさん……、」
古泉の後ろ姿が見えて呼びかけようとすると、城内の広場でチェーンメタル完全フル装備の警備兵たちが
「諸君! グロケットを守り抜くぞ!」
兵士達も槍を持ち上げ「オウッ」
「お客様はルール厳守! 徹夜は禁止!」
「オウッ!」
「荷馬車の放置は禁止!」
「オウッ!」
「ひったくりは犯罪!」
「イェア!」
「
「オウイェア!」
「代金の踏み倒しは指名手配!」
「ヘルイェア!」
初イベントで張り切ってんのはいいんだが古泉、その辺にしとけよ。ソーシャル回覧板に載っちまうぞ。
「グロースタン!
「アウッアウッアウッ!」
お前らはオットセイか。
イベントで超テンションが上がっている古泉を尻目に、塔の階段を駆け上がり、朝比奈さんに満員大入り状態なので日程を数日伸ばすかどうしようかと相談したが、街の食料備蓄が持たないので日程を伸ばすのは無理だろうということになった。とにかくすべての業者の分だけブースの数を増やすしかない。俺はそのままギルドハウスへ取って返し、街の地図を広げて予定していた広場から大幅に会場を拡大することになった。それから職人ギルドや羊毛組合なんかにも出かけてゆき、出店場所の変更を頼みに日が暮れるまで駆け回った。まあこれで外貨が落ちればグロースターはウハウハだがな。
当日の朝、俺は参加者がぐっと減った礼拝堂でミサを
とりあえず万事順調を確認して一仕事終えたので、あとのことは副官に任せ、俺は長門がブースを出す予定の場所に来てみた。布で仕切られた区画の小さなテーブルに羊皮紙の本を積み上げて、その横にちょこんと座っていた。
「……おはよう」
「おう、おはよう。まだすこし早くないか」
「……」
寝不足らしく目が赤い長門は、なんだか遠足の前日の待ちきれなかった感が満載なのだが、こうやって商品を前にしてブースにじっと座っている姿は前にも見たような気がしなくもないな。俺は隣に座り、
「見せてもらってもいいか」
「……どうぞ」
表紙には大きく朝比奈ミクルの冒険〈MIRIFICUS MIKURU ASAHINA〉と丁寧な手書き文字で書いてある。一冊として同じ色で仕上がっていないというか、なかなかに渋い
「俺一冊買うわ。いくら?」
「……いい。見本紙をあげる」
テーブルの値札には四分の一ペニーと書いてあるが、手書きとはいえ一冊あたりのコストはかなりかかっているだろう。誰かが本を書きたくなったら羊が一頭天に召されるわけで、この時代の羊皮紙は結構高いんだよな。
俺は朝飯を食っていなかったので、混み合った酒場に
「ただいまより、グロースターシャー・マーケットを開催いたします。ご来場の皆様、お買い物を存分にお楽しみください」
ブースの商人達の間から拍手が
領内からの買い物客はほとんどが農民で、街の住民は客が落ち着くまで家の中に引っ込んでいるようだ。俺と長門は小さなブースにじっと縮こまって待っているが誰も立ち止まらず、気がついた客もテーブルの前に垂れている看板をチラと見ただけでそそくさと離れていくし、二人はなにもやることはなくただただ時間を
昼の鐘が鳴り、食い過ぎて眠くなってきた頃合いだったが客足が一向に減らない。減らないどころか更に増えている感がある。どうも国中から馬車で乗り付けて買い出し客が押し寄せているらしい。
「お二人さん、どうですか売れ行きは」
昼休みに入ったらしい古泉がパンと肉の差し入れを持ってきたが、もはや腹が
「急に客が増えたみたいだが、なにかあったのか」
「
「
「そのようです。レディシップの秘策でしょうか」
通行税というのは別に庶民から金を巻き上げているわけではなくて、領主が大金を投じて橋を建設し、その後に利用者から少しずつ回収する仕組みで、言ってみれば高速道路の通行料みたいなものだ。しかし橋はいくつもあるし、
「あと、今回新しい試みをされているとかで、その話を聞きつけてスペインやアラビア地方の商人が来ているようですが」
「ああ
「ロードシップがいたく感心なさってましたよ」
「前に知り合った銀行屋に話を持ちかけただけだよ」
古泉は長門の薄い本を手に取り、
「一冊いただけますか」
「……まいど。一ファーシング」
「では四冊で」
「……お買い上げありがとう」
一ペニーを置いてまた仕事に戻っていった。よかったな、はじめての売上げだ。
客の中に修道士の群れがいた。キリストの道に生きる
その中の、たぶん見習いの修道士だと思うが、十四か十五歳くらいの若いブラザーが群れからはぐれてチラチラとこっちを見ている。店の前を通りすぎてまた戻ってきて、なにかを言おうとしてまた通り過ぎた。知り合いではないし俺に用があるわけでもなさそうだ。
「コホン。あー、おい、そこの若いの。ちょっと来なさい」
「は、はい」
三度目に通りすぎようとしたところを呼び止めて、俺は長門の薄い本を差し出した。
「たった今、天使の姿が頭に
「あなたはブラザーですか」
「いかにも。フランシスコ会のジョーンだ」
「ブラザージョーン、これは神のお導きにちがいありません。今朝、枕元に眉毛が濃くて髪の長い天使が現れて、ここで薄い本を買うようにとお告げがあったのです」
どんな急進派の天使だよそれは。
「それはな……きっとこの本を読んで神の
「ありがたや、お告げは正しかった。おいくらですか」
「ブラザーのよしみで四分の一ペニーだ」
「ありがとうございます」
「兄弟よ、安らかに行きなさい。父と子と聖霊の名において」
丁寧に
「ようよう、お二人さん。仲のいいとこ見せつけてくれんじゃん」
ボサボサの
「誰だよお前。神の名において鼻の穴に十字架突っ込むぞ」
「あたしよあたし、上司の顔を忘れたんかい」
いや最初から分かってたけどな。お前がこういうお祭りに出てこないわけがない。なんで変装しているのかはあえて聞かないことにしといてやる。
「飯でも食いに来たのか」
「手ぶらで来るわけないでしょ。酒場にエールを納品に来たのよ」
親指でクイと後ろを示す先には、ごった返す客にはた迷惑な視線を投げられている荷馬車が止まっている。樽が山積みされてるが積載オーバーだろこれ。
「って樽の数多すぎだろ、エールって仕込みに一週間くらいかかるんじゃなかったか」
「頭悪いわね。村中のおばちゃんからかき集めたに決まってんじゃない」
「そういやハルヒ。せっかくのお祭りだ、バンド演奏とかやんないのか。
「やんないわよそんなのいったい誰が聞くのよ」
「
「あんたこそソロライブでもやればいいじゃないの、ヘッタくそなリュートでね」
つい先日しんみりした別れのシーンがあったことなどすっかり忘れて、俺達はツッコミと皮肉の
「まあ芝居をやるんだったら付き合ってやってもよかったんだが」
「告知から四日しかないのにやれるかっての」
「ああそうだ芝居といえば、一冊買ってけよ」
「有希、あんまり売れてなさそうね」
「……読者層を見誤ったかもしれない」
「あたしが
「……だめ。店以外で売るのは禁止されている」
「そうなんだ。それならしょうがないわね。一冊ちょうだい」
まあ、時代が早すぎたかもしれん。イギリスに大衆文芸の文化が芽生えるのはもっと後世での話だからな。
「ハルヒ、打ち上げやるらしいから終わったら城に寄っていけよ」
「招かれてもいないのに行かないわよ」
そう言うと荷馬車に乗ってさっさと帰っちまった。なんかもう
ぞろぞろと道行く人や売られていく家畜の匂い、
朝比奈さんが広場で閉場のあいさつをした後、ブースに立ち寄ってくれた。
「キョンくんご協力ありがとう。忙しくて一度も来れなくてごめんね」
「おつかれさまでした、マイレディ。なかなかの盛況でしたね」
「ええ。思ったよりたくさん来てくれてよかったわ」
朝比奈さんはテーブルに積まれた本を見て、
「長門さん、出品のほうはどうだった?」
「……五冊、売れた」
「そう。残念だったわ」
「……いい。あまり期待はしていなかった」
「次は古書専門のエリアを作りましょうか」
「というより、中世イギリスはあんまり
「そうなの?」
「農村じゃ字が書けて計算ができるのは牧師か修道士くらいなもんですから」
「……そう。確かにマーケットのパイが狭い」
十八世紀のイギリスでも三割強だし、江戸みたいに七割を超えるのは珍しいんだよな。
「じゃあ私にも二冊ください」
「……まいど」
朝比奈さんは長門から薄い本を受け取って戻っていった。入れ違いに、遠くからガニ股でずかずかと修道士がやってきた。角ばった顔に暮れゆく夕日を受けて、
「ごきげんよう、ブラザー」
「ど、どうも、ファーザー。神の平安がありますように」
この年配の修道士はどうやら偉い人らしく、宝石のついた修道院院長の指輪をしている。俺は
「先ほどうちの若い
「あ、あの、なにかお気に召しませんでしたかね」
「まだ在庫はあるかな。わしゃこの目で見たんじゃよ」
いい歳こいてあなたもお告げを信じてる口ですか。
「ええ、このとおり在庫はあります。ちょうど店を閉めるところでして」
「フランスで見たんじゃ、山上の
目には涙さえ浮かべ、まるで聖ヨハネの手にキスをせんばかりにして俺の手を握った。山上の
ファーザーは残ったやつを全部買い取ると言い張って聞かず、持って帰って皆で朗読するのだと
「それでは、み、み、ミクルコマンタレブー!」
「……ミクルボンソワ」
ノリがいいのか悪いのか、爺さんは自分の罪深さに苦しんでいるとでもいうような
営業時間はとっくに終わっていたが、俺は
「よかったな長門、完売おめでとう」
「……ありがとう」
思わぬところにラテン語が読めるレアな読者がいて、人生初のマーケット出店の最後を飾った。この朝比奈ミクルの薄い本は、ヨーロッパの修道会の間で
初のイベントが終わってからも俺の仕事はまだ残っていた。あの後、俺は地元の商人や店主を訪ねて売上を聞いてまわっていた。これを集計すれば今回の
俺は西洋式ソロバンを弾きながら、
「うーん。まあぼちぼちってとこかな」
「
ギルドハウスの聞き取り調査には古泉にも手伝ってもらっている。
「ああ。利益率で言えばかなり
「開催の回数を増やしたらどうでしょう」
「地元で消費するものを売りつくしてしまうと食べるに困るだろうし、まあ
「生産を増強しないといけませんね」
「生産技術を進歩させるのは現場に任せないと、いきなりは無理だろうな」
「キョンくん古泉くん、おふぁよう。打ち合わせかしら?」
眠い顔をしたご夫人が現れた。朝比奈さんは昨日遅くまで
「おはようございますマイレディ。
「そう、それは嬉しいニュースね。もうひとつお願いがあるんだけど」
「なんなりと」
「学校を作りたいの」
朝一番で眠気もとれぬうちに、これまたサラリと難題を。昨日
しかしそれだけの金が確保できるものか、と俺が考え込んでいると古泉が割って入り、
「学校経営は設備も人件費もかかりますし、もう少し予算が確保できてからにしたほうがよくありませんか」
この時代の学校といえば大聖堂が経営する神学校で、神学を中心に語学や数学なんかを教えているのだが、生徒はエリート、貴族の子弟とか金持ちの子供と相場が決まっている。もっと上に行けばローマやフランスに医学校があるが、そこに行けるのはほんの一握りの金持ちだけだ。
「そこをなんとか、私のお財布で
お願い、という感じで朝比奈さんはウインクして両手を合わせた。
「古来日本では寺子屋というものがありましてね」
「江戸時代に識字率アップに
などと八重歯をキラリンと輝かせながらどうでもいい知識を
「ロードシップはそれについてなにか言ってました?」
「修道士や執事の仕事がなくなるんじゃないかって心配してたけど、教えるのは読み書きだけで、それから新しく事業をはじめたいって言ったら納得してくれたわ」
「なんですかその事業って」
「郵便なの」
なーるほど。教育制度と抱き合わせ商法ですか。
俺達が日頃受け取っている手紙を誰が届けてくれているのか今まで説明してなかったと思うが、貴族の家には伝令職の人が雇われていて割と高い給料を払っている。常任の伝令を抱えていない家では騎士や兵士がパシリをやることもある。人口の多い街ではギルドハウスが配達人を雇うこともあるが、一般庶民レベルでは、
「読み書きを教えて手紙を書かせようというわけですね」
「ただの思いつきなんだけど、どうかしら」
「
「ただ、今から学校を建てるわけにはいかないし、誰か場所を貸してくれる人がいればいいんだけど」
「既存の教会とかマナーハウスでやればいいんですよ」
「じゃあ、お二人にお願いしていいかしら」
「もちろんですとも」
そんなわけで、朝比奈さんのポケットマネーだけで学校設立をやれという、まともに考えればかなり無茶な注文だと分かるのだが、俺と古泉は首根っこをつかまれた子猫のように簡単に
「……あなた達は安易すぎる」
長門が
「そんなに難しい話か?」
「……まず、英語は大きく分けて古英語、中英語、近代英語、現代英語がある。十二世紀の時間平面では主に中英語が話されているが、地方によって
「英語が国語になるのはまだ百年も先の話か」
というかいつになく
「……つまり、グロースターで標準英語の教師を一ダース
出た、イギリス風の皮肉。長門が言うにはだな、方言の
「じゃあ、将来公用語になる英語ってどの辺で使われてるんだ?」
「……ロンドン付近の方言と言われている」
「うーん。ロンドンから教師を呼ぶと、給料のほかに馬車代と飯代で人件費がかかりすぎるな」
「そうですね」
朝比奈さんのスマイルにそそのかされて
「かといってラテン語とかフランス語を教えても使い道ないしなあ」
「小学生に
という話を聞きつけたらしいハルヒが、
「バッカじゃないの。もっと原点に帰りなさい」
「なにしに来たんだ」
「あんたがそうやって机上で
机上で
「俺も人材確保のためにあちこち打診してんだぞ。ロンドンの家庭教師の日当はバカ高いんだからな」
「だからアンタはダメなのよ。机に向かいっぱなしで頭が
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「郵便事業をやりたいなら、利用者がどんなものを送るかは関係ないでしょ。伝えたい気持ちがあるから手紙を出すんじゃないの」
「だからちゃんとした英語を教えてだな」
「違うでしょ、おばあちゃんが受け取って喜ぶのは孫の規則正しい文法なんかじゃないでしょ」
ズバリ言われてグウの音も出ない。
「それもそうだな。ハガキに
「別にズーズー弁でも関西
「あははは、ハルにゃんもなかなか言うねぇ」
ハルヒに正論をまくしたてられて、というか、どうやら経済修道士の頭ではなかなか
俺はトントンと胸を叩く
「インテリな人たちが書く手紙ってフランス語なんですよね」
「ほい吸って~、吐いて。まあねえ、英語がアルファベットになったのは最近で、もともとルーン文字だったからねえ」
ルーン文字は錬金術とか魔法なんかでも使っているが、もともとはゲルマン民族の文字らしい。今のアルファベットは古代ローマ
「シスターの知り合いにタダで国語の先生をやってくれそうな人いませんか」
「先生ねえ……んじゃあ、あたしが教えるっさ」
「え、でも助産婦の仕事が忙しいでしょう」
「一日中ゴロゴロ生まれるわけじゃないっから、合間にやってあげるよ」
「そうですか、助かります。じゃあ司教様には話をつけておきますから」
「よーし、だいぶ
は、はい、
とりあえずグロースター大聖堂付き神学校、その付属幼稚園みたいな学習塾をはじめられることになった。住民の
問題は田園地帯の農民のほうなのだが、なかなか先生のなり手がいない。結局マナーハウスの荘園
そんなこんなで試験的に一日一回、グロースターに点在するマナーハウスや教会、修道院などを馬車で回る定期便を出すことにした。もともとは
商売の取り引きはそれほどでもなかったが、個人から個人への贈り物や、手紙の
ある日、朝比奈さんの部屋を訪れると手紙の山のなかでうたた寝をしていた。
「朝比奈さん」
「はぅ、ジュル。あ、キョンくんおはよう」
「その手紙、全部朝比奈さん宛ですか」
「そうなの。領地の皆さんから、なんていうかその……」
「ファンレターですか」
「え、ええ。結婚おめでとうの手紙が、挙式からは半年も
そりゃー美人の奥さんと結婚なされたわけですから、国中からファンレターが来てもいいくらいでしょう。
「十二世紀ですから、みんなのんびりしてるんですよきっと。出し忘れた年賀状なんかも半年くらいは大丈夫じゃないですかね」
朝比奈さんはあははと笑った。
「それから、結婚してくれという人もときどきいるのだけど」
なぬ、そりゃ聞き
「もしかして城のメイドさんを紹介してくれとか、そういう依頼?」
「いえ、名指しでわたし宛なの。もしかして、教会で貼り出された婚約のお触れを旦那さん募集とでも
掲示板で旦那を募集するとかあんまり聞いたこともないですが、そういう習慣があるんですかね。
「返事を出したりしちゃだめですよ。ストーカーみたいなのがいるかもしれませんから」
「それもそうね」
俺はそのファンレターならぬラブレターを一通受け取って読んでみたが、難解な古ドイツ語のようで理解不能だった。誰なんだろうね、この
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