第四部 朝比奈みくるの覚醒

二十二章

「ミス・アサヒナ」

伯爵はハッと我に返り朝比奈さんを離した。

「はい」

「言っておくべきだった。私にはすでに妻がいる」

ええっ、まさかそんな。

「申し訳ない。お気持ちは嬉しい。だがそれにはこたえられない」

朝比奈さんは顔を真っ赤に染め両手でおおいブンブンと首を振った。

「ご、ごめんなさいマイロード、やだやだ……とんでもない勘違かんちがいを。今のは忘れてください。一人で舞い上がって一人で芝居して……わたしったらバカみたい」

突然ハルヒが部屋のカーテンを引きちぎる勢いのドタドタ足で走りだす。俺たち隠れてたのになにやってんだよオイ。

「ちょっとあんた、なんで今になってそういうこと言うのよ!!」

「え……ミス・スズミヤ? なぜここに? 皆さんも?」

窓枠の影からエライスンマヘン、ずっと見てましたぁという感じで三人ともテヘヘ笑いをしながら顔を出した。

 朝比奈さんは顔をおおってごめんなさいを叫びながら客室を走り抜けていった。ハルヒはグシッと涙をぬぐい、伯爵に向かってビシ指をして、

「ヒドイわよ!!もてあそんだのね!!」

などと泣き叫びながら朝比奈さんの後を追いかけていった。お前まで泣くこたぁないだろ。


 伯爵は、いったいなんだったんだアレは、という顔を俺たちに向けた。さあなんなんでしょうねぇという感じに肩をすくめてブンブンと首を振るばかりの三人である。

 白い月がぽっかりと浮かぶ涼しげなイングランドの晩、どこか遠くから、朝比奈さんとハルヒが一緒になってワンワン泣いている声が雄叫びのように響いていた。


 俺たちは客室で、事後の相談というか、あの完全に二人だけの世界に入ってしまっている朝比奈さんとハルヒをどうやって片付けるかみたいな話し合いをしている。

「嘘をついていたわけではなくて、妻は別の城に住んでいる」

いやー、ほんとに妻帯者さいたいしゃだったとは、お釈迦しゃか様でも知るまいに。はっはっは。

「マイロード、別居中って、家庭内離婚ですか」

家庭内離婚を英語でどう言えばいいのか分からんが。

「離婚というかなんというかまあ……」

歯切れの悪い伯爵が言うには、たまたま爵位をぐ男子がいなかったグロースター伯領と、たまたま土地を持っていない王様の弟ジャンがいて、王様の斡旋あっせん婿入むこいりすることになった。ところが結婚したあとになって実は血縁だったことが発覚したらしい。キリスト教では血縁者の結婚にはかなり厳しく、従姉妹婚いとここんどころか再従姉妹婚はとここんも認められていない。同じ爺さんを持つジャンと奥さんは結ばれてはいけなかったのである。ところがほうぼうにお触れを出して盛大に結婚式までやってしまったために、いったいどうしたものかと側近が頭を悩ませた。思案のすえにグロースターの司教様がいわく、だったら別々に住めばいいじゃんということになった。またダジャレかよ。

「妻とは修道士殿も一度会ったことがあると思うのだが」

「そうでしたっけ?」

「舞踏会のときに、私と踊っていたところを見かけなかっただろうか」

舞踏会? そんな華麗かれいなことやりましたっけ、ってダンスホールのアレね。ありましたねそんなことが。たしかあのとき伯爵と踊ってた……あのゴージャス極まりない衣装のいかにも貴婦人的なご令嬢かよ! 朝比奈さんでもなんか勝てる気がしない感じはしたな。

「私と妻は形式上では結婚していることにはなっているが、子供を作ることはできないのだ」

「そうなると、跡取りはどうなさるんです?」

「まあそれもおいおい考えないといけないのだが、養子を取るとか、身近な親類に爵位をゆずるとか、まあ。ほかにもいろいろと問題が山積していてだな」

伯爵は眉間みけんに手を当てて頭痛に悩むしぐさをした。やれやれ、ジョンスミスはどの時代になっても頭痛に悩まされているわけか。


 朝比奈さんとハルヒは泣きわめきながら馬とともにさっさと帰ってしまったらしい。あの二人のことはまあ俺達がなんとかしますから、と心配する伯爵をなだめておいとますることにした。ハルヒ一人でも手を焼いているのに似たようなのがもう一人増えちまって、さーて、この失恋二人前ににんまえ、どうするかなあ。


 翌朝、朝飯の時間になっても朝比奈さんは降りてこず、ハルヒは赤く腫れ上がった目蓋まぶたで視界が悪くなったらしく、柱に足の小指をぶつけて八つ当たりしている。テーブルの上からパンとベーコンを鷲掴わしづかみするとそのまま寝室に引っ込んだ。聞き耳をたてていると朝比奈さんのごめんねごめんねという涙声と、ハルヒがベーコンを丸かじりしながらなだめている声が聞こえてくる。長門と俺と古泉が固いパンをワシワシかじりながら、ウンウン、まあ、たまにはこういうのもありかとうなずいている。

 古泉が薄いエールをあおりながら、

「まあ実際は、ロードシップが独身だったとしても結婚は難しいでしょうね」

「なんでだ。まさか朝比奈さんが伯爵の玄孫やしゃごだったとかいうんじゃあるまいな」

「血縁の問題ではなくて、貴族の結婚というのは王様に決定権があるのですよ」

「自由恋愛じゃないのか」

「貴族同士の結婚は家と家の同盟を意味しますから、王様としては富と権力と兵力を一箇所に集中させたくないわけです。家としては相続によって財産が目減めべりしないように、なるべく金持ち同士で結婚させようとします。そこで王様と周辺の貴族では齟齬そごが発生するわけです。案外リチャード陛下も、跡継あとつぎを作れないよう血縁だと知ってて縁組えんぐみをさせたのかもしれませんがね」

そういえば日本にも身分がすべての時代があった。望月もちづきの欠けたることもなしと思えば、みたいな時代がな。


 晩飯になってようやく朝比奈さんが狼みたいになった髪の毛で起きてきた。顔はむくみ、目蓋まぶたは腫れ上がり、涙の跡がほほにこびりついている。もじもじと皆の前に立ってペコリと頭を下げ、

「皆さん、今回のことはごめんなさい。すべてわたしが悪いのです。奥さんのいる男性を誘惑しようなどと考えたので神様から罰をいただいたんだと思うの。散々ふり回して、遠いところまで連れ回して、迷惑をかけてごめんなさい。でも……本当に、本当に好きだったの……キョンくん、わたしの懺悔ざんげを聞い……」

最後のはもう涙声で聞き取れなかった。朝比奈さん、あなたは十分に懺悔ざんげなさいましたよ。これ以上い改めろとは神様もおっしゃらないでしょう。

 ハルヒは泣きくずれそうな朝比奈さんを抱いて、

「よしよしいい子ね。みくるちゃん、あなたが悪いんじゃないわ。すべては伯爵が悪いのよ。こんな純粋な乙女に天罰を下したりしたらあたしが許さないからねキョン!」

俺に言うなよ。

 いちおう、伯爵の身の上についてハルヒに説明してやったんだが、形式婚がなんだってのよ、だったら事実婚でもしなさいよと噛みつかれてしまった。藪蛇やぶへびだったようだ。


 古泉は八つ当たりされないようにとっとと逃げ出して、ひさびさの休暇にもかかわらず馬でハルヒの土地を検分してまわった。ずっと俺が代理執事をやっていたので気にはなっていたのだろう。


 翌日古泉宛に手紙が届いた。伯爵からだった。古泉が封を切り自分で読んでいる。

「朝比奈さんのことを心配なさっています。誤解を招くようなことをして申し訳ないと謝られています。それから……、これは一大事です。リチャード国王陛下が捕虜ほりょになってしまったそうです」

俺はガバと飛び起きた。

「うちの王様が捕虜ほりょって、エルサレムでか?」

「いえ、帰国途中でオーストリアのレオポルト公に身柄を拘束こうそくされて、」

「レオポルトってたしか十字軍のときの友軍だろ。味方なのになんでだ?」

「詳しいことは分かりません。ことによるとイングランドは王様不在になってしまいます」

二階からハルヒがドアを蹴破けやぶる勢いで階段を三段抜かしで飛び降りてきた。今柱に小指ぶつけたろ。

「古泉くん、これは事件だわあぁイタタ」

満面の笑みで人の不幸がメシウマな悪魔である。上で聞き耳立ててたのかよ。

「でも、陛下を拘束こうそくしたところでイングランドの王位をうばえるわけではないですし、身代金みのしろきん目的にしても誰に要求するのか。いったいどうなるんでしょうね」

「これをのがす手はないわ。キョン、ちょっと城まで行ってくるから、みくるちゃんのこと頼んだわよ」

「また行くのかよ、こないだ騒ぎを起こしたばっかりだろが。少しほとぼりが冷めるのを待てって」

もう家畜小屋から馬を引っ張りだしてて、聞いちゃいねえし。パッパカパッパカとひづめの音が消えていくのを聞きながら古泉が困った顔で、

「しょうがありませんね、僕が行ってきますよ。休暇の延長を申請してきます」

「ああ。なんだか知らんがよろしく頼む」

晩飯前には戻ってくるだろうと思っていたが、待てど暮らせど帰ってこない。それから数日、最近なんだか家の中が静かだなーと思いつつ、いったいなにが起こっているのか古泉が手紙で知らせてきたのが七日後、二人が帰ってきたのが二週間後のことだった。


 なので、ここからは帰ってきた古泉に聞いた話である。


「ミス・スズミヤ、誤解があったことは確かだ。正直なところ私の気持ちもれ動いていた。謝る」

なんだか伯爵も妙にしおれていて、かんのいいやつなら朝比奈さんもまんざらではなかったのだなと気がついているところである。

「そんなこたぁどうでもいいのよ」

「ミス・アサヒナの件で抗議に来たのではないのか」

「そんな無粋ぶすいなマネはしないわよ。リチャードが捕まったってほんとなの?」

「ああ、そのことか。実はだな、あー、言いにくいんだが」

「なんなの、はっきり言いなさいよ」

「レオポルト公がかなりご立腹でいらしてな。ミス・スズミヤ、あなたにも関係しているらしい」

なんですと。ハルヒがまたなにかやらかしましたか。


 忘れることがあろうか、ハルヒがイングランド軍をアッコンの要塞に引き入れた大手柄を。あのとき必死で旗を振っていたハルヒの後ろで俺が護衛をやっていたわけだが、伯爵が伝え聞いたところでは、ハルヒが地中海に蹴落とした兵士、つまり一人だけ味方の旗を持った兵士がいたのだが、あれが実はレオポルト公の騎士だったのだそうだ。それをうちらの王様が命じてやらせたのだと邪推じゃすいしたレオポルト公が激怒し、たまたま自分の領地を通って帰国途中だったところをこれ幸いと捕まえたわけである。

 あっちゃー。ハルヒも口あんぐりである。古泉も笑うに笑えず、

「マイロード、レオポルト閣下がアッコンから撤収てっしゅうされたのは、もしかしてそれが原因ですか」

「どうやらそうらしい」

「なんであたしのせいにしてんのよ。レオポルトは子供か!」

「まあ、戦場では往々おうおうにしてそういうことがあるからな。ミス・スズミヤが全面的に悪いわけではない」

なんと、ハルヒが十字軍の連帯を引きいてしまったわけだ。まあそのおかげでうちの王様の独壇場どくだんじょうになり、自由に作戦を展開できたわけだが。

 ハルヒは急に真顔になり、

「ところで、伯爵。ここだけの話だけど」

「なにかな」

ハルヒはもったいぶってオホンと咳払いをした。下から覗き込むようにキラキラ目のニヤニヤ顔を見せ、

「これをチャンスにする気はない?」

「チャンスと申されると?」

「チャンスといったらチャンスだわよ。王様不在なんでしょ、あんたの王位継承権おういけいしょうけんを行使する気はないのかって言ってんの」

「言葉に気をつけたまえ! それは謀反むほんだぞ」

ハルヒはフフーンと策士さくしの笑い声を上げ、

「誰も王様を無き者にしようなんて言ってないじゃないの。ただ利害の一致する貴族の誰かとつるんで、」

「それ以上言ってはならぬ。あなたを逮捕しなければならない」

伯爵は眉毛をキリリと上げてハルヒをにらんだ。

「なーんだ、存外お固いのね」

いや、固いとかやわらかいとかじゃなくて、ハルヒが王様のスパイだったりしたら伯爵の首が飛ぶリスクのほうが高いんだよ。


 伯爵は腕を組んでハルヒをにらんでいたが、やがて表情をくずして、

「そういう与太話よたばなしは事あるごとに起こるものだ。いちいちふり回されていては国が混乱する」

「まあ、そうかもねえ。もしかするとあたしが仕組んだ罠かもしれないしねフヒヒ」

意外にも伯爵にちゅうのあるところを見せられてハルヒは納得したようだった。

「さて、すまないが私はこれから諸侯しょこうを集めて方針を検討しなければならないのでな」

「まあ待ちなさいよ。もうひとつ聞きたいことがあるのよ。あんた、今の奥さんと別れてみくるちゃんと結婚する気あんの?」

「たしかに妻とは政治的な理由で夫婦になっているが、ミス・スズミヤ。結婚の誓いで、死が二人を分かつまで、と言っている通りクリスチャンは離婚を認められていないんだよ」

「だから神さんが許してくれて、もしもできたら、って聞いてんのよ」

「まあ万に一つもそういうことが可能なら、ミス・アサヒナにプロポーズしていただろう」

ハルヒはこくりとうなずいて、

「よーし、分かった。その言葉を聞きたかったのよ。あたしに任せなさい」

「任せなさいって、いったいなにをだ?」

ハルヒはその質問には答えず、次に吐いたセリフは正直、心にこたえるものだったらしい。

「ただし、みくるちゃんを泣かせたりしたらあたしが承知しないからね」


 いったい何をたくらんでいるのかと質問をさせる余裕もいとまも与えず、ハルヒはあっという間に城を飛び出していった。伯爵はぽかんとした顔で、

「コイズミ殿、ミス・スズミヤのあのパワーはいったいどこから来ているのだ」

「さあ、僕にもよくわからないところが多いのです。ミステリアスですよ、まったく」

ミステリアスだかヒステリアスだか知らんが、伯爵はハルヒがなにをしでかすか測りかねて不安にかられたらしく、古泉を監視役として追いかけさせた。


 軍馬で城を飛び出したハルヒの足跡をたどって古泉が見つけ出したのは翌日、ドーバー海峡に面した港町でだった。

「涼宮さん、どこへ行かれるのですか」

「そうね、まずは駄々だだっ子レオポルトね」

「陛下の奪還だっかんに向かわれるおつもりですか。装備もなしに、訓練されたスタッフもなしに無茶ですよ。せめて僕の部下を、」

「まあまだ、どういう作戦でいくか分かんないから隠密おんみつで行きましょう。とりあえずリチャードを探しだすことよ」

 ハルヒにお子様の烙印らくいんを押されたレオポルトさんの実家はというと、神聖ローマ帝国の一部でオーストリア公国というらしいんだが、西洋史をちゃんと勉強してなかった俺にとっちゃ、スイスとリヒテンシュタインの位置も分からず、どっかあの辺だよなぁ的なアバウトさでだいたいの地理を想像するしかないんだが、古泉解説によればドイツの南側、イタリアの北側、ハンガリーの東側らしい。


 ハルヒと古泉は軍馬を連れたままフランスに渡り、ドイツから山を越え谷を超えてオーストリアに潜入した。これがまた天然の要塞というか、やつはとんでもないものを盗んでいきました的な山岳風景にある領地で、今みたいな舗装ほそう道路がないうえにいくつもの関所で兵隊が見張っているもんだからくぐり抜けるのに苦労したらしい。しかもフランス語も英語も通じないときている。

「情報を集めようにも中世ドイツ語が分かりませんが、どうしましょうか」

「せめてキョンを連れてくれば修道院に押し込んで修道士に諜報ちょうほうさせたんだけど。まあいいわ、どこかで通訳を探しましょう」

修道士を下っ端の工作員みたいに言うな。


 首都ウィーンの修道院でフランス語が分かる修道士を雇い、町の酒場や宿屋で聞き込み調査をはじめた。王様が拉致らちされたとなれば大勢の警護がついて、それなりに目立つ行動があるはずである。ウィーンの宮殿に出入りする兵隊に最近なにか派手な動きはなかったか、御用達ごようたしの業者に急にエールの注文がなかったか(この辺りで飲まれているのはビールである)、フランス語を話すメイドさんが雇われていないか、レオポルト公がよく出かける場所はどこか、レオポルト公が夜中にこっそり抜けだしたりしていないか、などなどジェームズボンドばりである。

 宿屋を拠点にしてあちこちさぐってみるのだがいっこうにネタが上がってこない。

「おっかしいわね。イングランドの王様よ? 十字軍の英雄なのよ? それなのにリチャードの足の裏の匂いすらしてこないのはなぜなのよ」

「もしかしたらここにはいないのかもしれません」

警察犬並みの嗅覚きゅうかくを持つハルヒの鼻にもひっかからないのはなぜか、実は古泉の推測したとおりで、修道院で神様に大金をつかませて、いや寄付して聞いたところ、どうやら王様の身柄はレオポルト公から神聖ローマ皇帝ハインリヒ六世の手に渡ったらしい、ということだった。

身代金みのしろきんが取れそうにないから売り渡したってわけね」

「もしかしたら、自分が捕まえた人物にバチカンの後ろ盾があると知って怖くなったのかもしれませんよ」

ニヒルに笑ってみせる古泉である。まあレオポルト公は神聖ローマの関係者つっても地方の殿様だからな。


 ある晩に宿屋の寝床で、そろそろ秘匿ひとく調査も限界かと古泉が考えていた頃、ハルヒがドアを蹴破けやぶって駆け込んできた。

「古泉くん、逃げるわよ!」

「なにごとですか」

階下でなにやら騒がしく話し声が聞こえる。階段の影からこっそり覗いてみると兵士が十名ほど宿屋の主人と言い争っているようだ。追手を察した古泉は窓を開け、先にハルヒを屋根へと登らせた。持つものも持たず屋根から屋根へと伝い、二人は闇夜に姿をくらました。どうやら宮殿の周辺をこそこそとぎまわっている奴がいると警備兵の耳に入ったらしい。

 古泉は騎士の衣装を捨て、農民が着るようなシャツ一枚とズボン、そしてつぶれた帽子に着替えた。ハルヒもドレスのグレードをかなり落としておばちゃんのエプロンをかけている。どうみても農奴のうどの若夫婦である。

 修道院へ行くとお役人が来ていろいろ取り調べを受けてえらいことになったと言われ、通訳の協力は丁重ていちょうにお断りされてしまった。ただ気を利かせてくれたのか、ウィーン周辺の城の地図をこっそりポケットに忍ばせてくれていた。ナイス修道士。


 宿屋に馬を置いてきてしまったので移動手段がなくなってしまい、しょうがないレオポルト公に払ってもらうか、と、城の兵士がよく出入りしている酒場に軍馬がつながれているのを都合よく発見し、それをこっそりいて確保することに成功した。

 それはいいとして、このあたりはハンガリーとの国境になっていて、守りの要衝ようしょうとしての城が多く、ハインリヒの領地を虱潰しらみつぶしに当たってみるしかなさそうだ。二人はとりあえずドナウ川に沿っていちばん近い城を目指すことにした。


 ウィーンの宮殿から二日かけて、ドナウ川を左手に見つつさかのぼって行くと、山のふもとにぶどう畑が広がり、それを見下ろす頂きに小さな城がぽつんと建っている。断崖絶壁だんがいぜっぺきの上にあり忍びこむのは難しそうだったが警備はユルユルで、番兵が二人ぼんやりと立っているだけだった。

「なんかボロっちい城ねえ。ただの見張り塔じゃん。あんなんだったら一個小隊そろえれば一気に攻め落とせるわよね」

「ですね。パスしますか」

「わざと無防備を偽装ぎそうしてるってこともあるから、いちおうぎまわってみましょう」

農民のふりをして林道を歩き城の周りをぐるりと回ってみた。真ん中に塔があり、てっぺんに見張りらしき兵士が立っている。まわりの城壁は結構な高さだ。

「いるかどうか呼んでみるわ。リチャームググ! いるんだったらムググ!」

古泉が慌ててハルヒの口をふさいだ。

「ここではだめですよ。番兵が見てますって」

さっきまでは眠そうだった二人の門番が急にシャキッと立ち上がり、じろりとにらまれた。キノコ狩りでもする農夫をよそおって林の中に入り、崖の上に立っている城壁の真下に来た。

「あたしがちょっとイギリスの歌を歌ってみるわ」

「歌うって、ここでですか?」

「一二の三はい、まぁるかいてちくび~まぁるかいてちくび~」

ハルヒは世界が知っているイギリスの民謡みんようだとかいう歌を大声で熱唱した。古泉は、いったいなにがやりたいんだという顔をしつつコーラスで付き合った。すると城壁の上から歌に合わせて声が聞こえてくる。パブで飲むエールはナイスだ、フィッシュアンドチップスは最高だ。

「ほらほら、当たりじゃん」

ニヤニヤ顔のハルヒである。まじっすか、まじで一発で当たったんですか。いやはや、ハルヒと出会って早十年だが、ここまで自分に都合のいい展開を捏造ねつぞう、いや創造するとは最高だ、アッパレだ。

 二人はここで一旦山を降り、馬でウィーンまで駆け戻った。そこで潜入七つ道具を調達してまた戻ってくる。やれやれご苦労なこった。


 ニンジャ並みの黒装束くろしょうぞくに身を包んだ二人は夜がけるのを見計らって城への潜入を試みた。城壁の下からへりにロープを引っ掛け、引っ掛けようとしたがうまくいかず門番が眠りこけるのを待って堂々と正面から入り込んだ。

 塔のドアは夜になると錠がかかるらしく固くて開かず、裏に勝手口がないかと探してみたがそれも閉まっていた。出窓にカギロープを引っ掛けて壁をよじ登り、中の様子をうかがった。誰もいない。この城にはメイドさんくらいしかいないのではなかろうか。部屋の中に入り込み、廊下のロウソクを消しながら階段を登る。階段のてっぺんからこっそり頭を覗かせると、廊下で二人の衛兵が椅子に座っており、南京錠なんきんじょうのついた木のドアがあった。

「あれ、かしらね」

「鍵がかかっていますね」

「ピッキングするにしてもあいつらが邪魔ね。陽動するか、眠らせるか、どうする?」

「別のルートを探しましょう。ここで騒ぎを起こすと陛下をどこかへ移動させてしまうかもしれません」

二人は階段を降りてひとつずつ部屋を見ていった。さっきの鍵のかかった部屋の下あたりに見当をつけて窓から顔を出してみた。首を回して見ると上に小窓が空いており、伝って登ればなんとか届きそうである。古泉が窓を狙ってロープを投げようとすると、

「キ、キミたちは誰なの、もしかしてアサシン?」

背後から突然声をかけられて心臓が飛び出るほど驚いた二人である。古泉が腰から短剣を抜いた。ハルヒが吹き矢を取り出した。そんな装備持ってきてたんだ。

「静かにしなさい! 声を立てたら命ないわよ!」

「ま、待ってよ、ボクはここに幽閉されている身の上なんだ」

「え、あんたがリチャードなの?」

「そうだけどなにか?っていうかここはボクの寝室だからね。暗殺じゃないなら出てってくれない? 今から眠るから」

一人称がボクなのは会話を聞いて超イライラしている俺の勝手な妄想だが、けして少年を想像してはいけない。四十絡しじゅうがらみのオッサンが、ヨレヨレのガウンを羽織はおりその下はモモヒキみたいなたるんだパジャマを着てだらしなさ感が満載の、たぶんこれが最初で最後の登場リチャード一世、伯爵の兄貴である。


 見回してみると小洒落こじゃれたベットとテーブルセットがあり、暖炉までついている。一人暮らしではわりと快適そうな、近所にコンビニがあって駅が近ければ月七万円くらい出してもいい感じの個室だ。

「あんた拉致らちされてたんじゃないの?」

「ああ、そうだよ。このとおり拉致らちされて監禁されてるよ。言われたとおり城から一歩も出てないからね。文句ないよね」

監禁って鉄格子のはまった石壁の小部屋に閉じ込められてる状態を言うのではないだろうか。

「なーんだ、案外元気じゃないの。拉致監禁らちかんきんっていうから、てっきり鉄の処女とかで拷問されてるのかと思ったわ」

おいおい中世ホラーみたいなシーンを妄想させるな。


 古泉は床にひざをついて、

「非礼をおゆるしください、陛下Your Majesty。わたくしジャン・ド・スマイト伯爵麾下きかの者でございます」

などと慇懃いんぎん挨拶あいさつを述べているが、王様は突然枕を抱きしめながらガタガタと震え、

「うわあああジャンが差し向けたアサシンだったのか」

「落ち着きなさいよ、あんたの味方よ」

「ああそうなの。こないだ城の外で歌ってたのはキミタチか。くるしうないよ、このたびはご苦労さま……って、まさかハルヒ・オブ・スズミヤとその一味じゃないだろうね。なんか前にも一度会ったことがあるような気がするんだけど」

ハルヒの名声、いや悪名あくみょうが王室にまでとどろいていたのかと思いきや、そういや国王裁判のときに王宮にねじ込んだことがあったような。

「そうよ。わざわざ会いに来てやったんだから感謝しなさいよね」

「キミのせいだよ、レオポルトがあんなに怒ったのは」

「情けないわね、戦場にまで出張でばってきて子供みたいにふてくされるなって言ってやんなさい」

「まあ、それはしょうがないけどね。キミのおかげでアッコンを落とせたんだからチャラってことで」

「フンフンそうでしょうそうでしょう、国を代表しての勲章モノよ。なんなら今ここで叙勲じょくんしてくれてもいいわ」

「それより裁判の件はひどかったなあ」

さすが王様、勲章の話は完全にスルーである。

「な、なんのことかしらねぇ」

「うちの長官をそそのかして国王裁判を起こしたうえ、農民の身分でジャンに決闘を申し込んだというじゃないか。森林の所有権がボクのものになるかと思いきや、結局なんの得にもならなかったし」

「訴訟費用と取り下げの罰金を払ったんだから問題ないでしょ。あんたは眉毛一つ動かさずにもうかったじゃないの」

はい、それは伯爵が払った。

「ところで、スズミヤと、そっちは誰だっけ」

「イツキ・オブ・コイズミと申します。陛下」

「スズミヤとコイズミね、分かったよ。どうでもいいけどスズミヤって発音しづらいんだよね。スーザンでいいよね」

「勝手にあだ名で呼ぶな! だいたいスーザンって名前でしょうが、スズミヤはファミリーネームだわよ」

リチャード陛下、ハルヒにあだ名をつけたのは人類史上あなたくらいなものです。

「それでスーザンにコイズミ、何の用でここに?」

「あんたをイングランドに連れて帰るためよリッチー」

初対面で王様を短縮して呼んだお前もたぶん英国史上初だと思うよ。

「それはありがたいんだけどね、ボクはここから出ることはできないと思うよスーザン」

「なんでよ、城の警護ガラ空きじゃんリッチー」

「いや、ボクの近衛兵このえへいが別の城に捕まっててさあ。ここでボクだけ逃げ出したら騎士道に反するよね。みんなに嫌われちゃうよね」

なるほど、そういうわけでこんなゆるい状態で監禁されてるわけか。

「じゃあどうすんのよ、こんなワンルームでずっと暮らすつもりなの」

「伝統に従って身代金みのしろきんを払うしかないんじゃないかなあ」

身代金みのしろきんっていくらよ」

「十五万マルク」

ええっと、それっていくらだっけ、と古泉に尋ねてみると、

「一マルクは百六十ペンス、十三シリング四ペンス、日本円で約四十八万円です。けることの十五万は……ざっと七百二十億円です」

「ふっかけすぎでしょ! いったいあんたのどこにそんな値打ちがあるってのよ」

「ボクもそう言ったんだけどさあ。業突ごうつりもたいがいにしないと、ローマ爺ちゃんみたいになっちゃだめだよ」

我らが王様は太いゲジゲジ眉毛をハの字にして困ったなぁ困ったなぁ、と、あんまり困ってなさそうにつぶやいた。

 ハルヒは当の目的を思い出したらしく、腕組みをしてフフンと笑い、

「じゃああたしがその金払ってやるわ」

「ほんとかい? キミどこの国の女王様なの」

「金を持ってるのが貴族だけだと思ったら大間違いよ、リッチー」

「そう。ありがとう、スー。恩に着るよ」

とうとうスーにまでされちまったぞハルヒ。

「どういたしましてリー」

「…………」

「……なんとか言いなさいよ」

「いや、だからありがとうって。恩に着るって」

「チッガーウ、違うでしょ。こういうときは、フッフッフおぬしも気前がいいな、もちろんタダでとは言うまい、そちの条件はいったいなんだ? とか言うでしょふつう」

王様は急に泣きそうな表情になり、

「ええっ、ふっかける気でしょ? 十字軍で使っちゃってボクもう一ペニーも持ってないったら」

「簡単なことよ。ミクル・オブ・アサヒナに爵位しゃくいをちょうだい。この際だから男爵でも子爵でもいいわ」

突然なにを言い出すんですか涼宮さんと古泉が制止しようとしたのだが、すでに遅く、

「あー、なんだそんなことか。たしかフランスの伯領の跡継あとつぎがいなくて空きが出てたんじゃなかったっけ。それでいいかい?」

「は、伯爵の権利をくれるの!?すっごいじゃん二階級特進どころじゃないわそれ」

い、いや男爵が昇進しても伯爵になるわけじゃないからなハルヒよ。

「まあ周りの貴族たちには金をやって黙らせればなんとかなると思うよ。その金はもちろんキミタチが出すんだけどね。あ、それから相続税も」

「そう、まあそれでいいわ」

王様はたるんだパジャマを引き上げながらベットにもぐり込み、

「じゃあこれで、おやすみ。朗報を待ってるよ」

「待ちなさいよ、それだけじゃないわよ」

「まだあるの? キミも欲張りだねえ」

「あったりまえでしょ、簡単に十五万マルクが出せると持ってんの?」

「それでなんなの」

「ジャンの離婚を認めなさい」

「あははは、そりゃーボクには無理だよ。神様でもないと」

「じゃあ神様に掛けあってみなさいよ」

「ローマ教皇に頼めっていうの?」

「あんたの株はバチカンじゃけっこうな高値なんでしょ、知ってんだから」

「うん。まあ今回、十字軍勝利の足がかりを作ったのはボクだからね。今なら何でもおねだりできると思うけど」

「それと、伯爵とミクル・オブ・アサヒナの婚姻こんいんを認めること」

「分かったよ、勝手に結婚でもなんでもすればあ。じゃね、ボクは寝付きが悪いんだから、邪魔しないでくれる?」

ハルヒは細い眉毛をピクピクと動かし、

「あーもうイライラするわこのヘタレたオッサン。ちゃんと最後まで聞きなさいよ、サラハディーンとはまめに交渉してたくせにぃ」

「ギク。どうして知ってるのそれ……。で、なにがほしいの?」

「最後の一つ、伯爵を次の王様に指名しなさい」

何を言ってるんだこいつは、不敬罪ふけいざいにもほどがある。下手すりゃクビが飛ぶぞ、と古泉の顔は驚愕きょうがくと恐怖で固まっている。

 当の王様はハルヒの狙いが分かっていないらしく、

「エエェ、それはすごく嫌なんだけど。だってジャンのやつボクの命を狙ってるって噂じゃん」

「それはフィリップが仕組んだ陰謀に決まってんでしょうが。あんたも頭を働かせないさいよね、そんなことも読めないんじゃ臣下が逃げ出すわよ」

いえ、どう見ても涼宮ハルヒの陰謀です。はい。

「分かったよ。ボクが老衰ろうすいで死んだらジャンに王位をゆずるってことでいいね?」

「いいわ。あ、ちょっと記念にツーショット一枚撮らせなさい」

王様はすでに寝息を立てていて、そのあまりの無防備さに、こいつはほんとにイングランドの国王なのだろうか、もしかしたら影武者かげむしゃではなかろうかと顔を見合わせる二人だった。

 まあとりあえず目的は達したので部屋を出ようとすると、

「ああ、そうだスー」

「なによ、眠ってたんじゃないの」

「これを持っていきなよ」

王様はムクリと起き上がり、枕の下から金色に輝く一本の短剣を取り出した。浮き彫りがほどこされたさやに、の部分には宝石が埋め込まれている。

「陛下、それは王家に伝わる財宝の一つでは」

「王領の森でこれを見つけたのはキミタチだったよね。長官が仰々ぎょうぎょうしく面会を求めてささげ持ってきたよ。なんの褒美ほうびもあげなかったけどね。プッ」

「よろしいのですか」

「これを持ってボクのママのところへ行けばいいよ。お金をかき集めるの手伝ってくれると思うんだ」

武器があるんだったらこんなところさっさと脱出しろよと言いたいところだが、古泉はうやうやしくかがんでナイフを受け取った。

「陛下、貴重なお品をお預かりいたします」

「リッチー、これだけ持っていっても盗んだと思われるわ。あんたのママ宛に一筆書きなさい」

ママってね。リッチーのおっかさんはアリエノール・ダキテーヌといってそりゃもう女傑じょけつとして知られたお方なんすよ。

「あそう、じゃあなにか書くもの……その辺に書くものない?」

ハルヒがポケットからペンとくしゃくしゃになったハンカチみたいなメモ羊皮紙を取り出した。王様はボールペンをランプの光に照らしてまじまじとながめ、

「これはなに?」

「なにってただのボールペンよ」

「どういう仕組でインクが無限に出てくるのこれ。魔法なの?」

「魔法なわけないでしょ。中に妖精さんが住んでて墨を溶いてるに決まってんでしょうが」

いえ、それこそ魔法というやつです。

 王様はフランス語でしたためた母上への手紙をハルヒに言付ことづけ、

「それよりコイズミ、キミはなかなかのイケメンだね。どうかな、ボクの家臣にならない? 男爵にしてあげられるよ」

「ちょっとぉ、だめよあたしの古泉くんを勝手に叙任じょにんしちゃ。このイケメンは我がSOS騎士団のシニア騎士なんだからね」

古泉は、ありがたきお言葉まことに恐縮至極きょうしゅくしごくですが自分は伯爵に従臣じゅうしんの誓いをした身分なので、と丁重ていちょうにお断り申し上げたが、冷や汗がダラダラと出ていたのは隠しおおせなかった。


 まあ無事だと分かったのでそのままイングランドへと取って返すことにした。懸念けねんといえば十五万マルクもの大金をどうやってかき集めるかなのだが、

「あんなのに十五万マルクも出すなんて、ほんとに意味あんのかしら」

「まあ、あんなのでも英雄ですからね」

国王に向かってあんなのとはなんだ古泉、誰かに聞かれてたらしばり首だぞ。

「リチャードの母ちゃんって金持ちなの?」

「領地はかなりお持ちのようですが、現金となるとどうでしょうね。リチャード陛下は軍資金を集めるためにありとあらゆる不動産と爵位を売り、さらに借金までしたという話ですから。太后たいこうアキテーヌ陛下も大金を投じられたのではないでしょうか」

「困ったわね。土地とか権利とかならまだしも現金よ現金。レオポルトもハインリヒもいったい何考えてんのかしら」

だいたいイギリスが金持ち国家になったのって大航海時代以降の話で、世界中に植民地ができてからなんだよな。


「というわけであんたたち、金を集めなさい」

なにがというわけなのだ。俺たちはマフィアか、ヤーさんの組織かなにかか。まったく音沙汰おとさた無しで帰ってくるなり第一声がコレである。

「つーか、七百二十億円もの金が現実に、つまり物理的に存在するのか?」

「ないんだったら、自分で作ればいいのよ」

錬金術か、錬金術をやれというのかお前は。そうなると長門の出番だな。俺がチラと長門に視線をやると、

「……推奨はしない。ヨーロッパ全体でインフレを起こす可能性が高い」

まあ、そうだよな。マルクってのはいわば国際通貨みたいなもんで、領主とか国同士の取引でも使われてるからな。

「この国にだって通貨発行権はあるでしょ。金鉱持ってないんだっけ?」

「……イギリスが金の産地を所有するのは、十九世紀のトランスヴァール鉱山、オーストラリアのヴィクトリア鉱山」

やっぱ植民地か。そういやボーア戦争って金鉱の取り合いが発端ほったんだっけ。

「銀山はないのか?」

「……ない。オーストリアにならクッテンベルク鉱山がある」

あいつら金の成る木を持ってんのにまだ欲しがってんのかよ。

「どうすんだハルヒ、王様は十字軍で金使い果たしてるっていうし」

「どっか掘ってみたら金鉱が出てこないかしらね……」

そんな簡単に見つかるんだったらどこでもゴールドラッシュにいてるだろ。さすがの社長もゼロから金を編み出す金策術きんさくじゅつは持ち合わせてないと見えて、さっきから腕組みをしたままうんうん唸っている。あんまり念じすぎて本当に金鉱を発生させたりしなきゃいいのだが。

「おい待て、イングランドにはたしか炭鉱があるよな」

「石炭で十五万マルク分掘れってか。いったい何十年かかるのよ」

頬杖ほおづえをついたままアフォかお前はという顔をするハルヒだが、チッチッチ、お前ら、経済出身の俺の話を聞けぃ。

「イングランドの炭鉱ってやつは寿命が長くて、俺たちの時代まで続いてるはずだ。少なくとも俺が子供の頃に労働争議のニュースがあったのを覚えてる」

「だからなんなの」

「それを債権化さいけんかすりゃいいのさ。今すぐ払えなくても収入見込みを担保たんぽにして金を借りることはできる」

国が発行する債権ってのは便利なもんで、国が存続するという保証だけで金を集めることができるんだなあこれが。あの日露戦争のときの借金だって、最近になるまで日本政府が払い続けてたんだぜ。

 全員がなるほど、という顔をした。

「そんなんでホントに十五万マルク集まんの?」

「全額は無理かもしれんが、半分でも集まれば交渉できるだろ」

「なーるほど」

「まあどう転ぶかはやってみないと分からんけどな」

「それはいいんだけど、なーんか引っかかるのよね」

「引っかかるってなにがだ」

「なんていうか、あたしの左脳と右脳が意見の一致をみないというか」

ハルヒは両手の人差し指で自分の頭をグリグリと突いている。あー、お前が人の意見を聞かない原因がやっと分かった。脳みそがそれぞれ違うこと言ってるから俺の話なんか聞いてられんってわけだ。

「それよりだなあ、ちゃんとウエストミンスター宮殿にコンセンサスを通して、」

「分かったわキョン! その契約の債務者さいむしゃは領地そのものにしときなさい。ムヒッヒッヒ」

また良からぬことを考えてるだろその目は。

「どういうこった」

「なんらかの事情で領主が変わっても領地がその債務さいむを払う義務を負う、よ」

「ポイズンピルか。ヌシも悪よのう」

「いえいえお代官様ほどではグヘヘ、ジュル」

ヨダレ垂れてっぞ。

 ポイズンピルってのは、会社が買収されたときに不利になるように仕込んでおく罠みたいなルールなんだが、要するに領地を攻め取るんだったら借金の払いまで一緒にお願いね、というヘビににらまれたヤドクガエルみたいな戦術である。さすが悪代官の考えることはえてるわ。


 言い出しっぺの法則で俺がやることになったわけだが、さてこのなんの担保たんぽもない債権をいったい誰が引き受けてくれるのでしょうかねえ。日露戦争のつてでユダヤ人の銀行家にでも頼んでみるか。十字軍の資金も諸侯しょこうがユダヤ人から借金したという噂だったんでな。


 ハルヒは金の工面くめんを手伝ってもらうために王様の母ちゃん、つまり太后たいこう陛下に会いに行った。そのついでに俺も、今後の取引のために王室のお墨付きをもらうべく、イングランドの炭鉱と、ついでに銅とすず鉱山の上がり、それから王様が持っているフランスの領地の上がりを今後五十年かけて何割ずつかを払うので、その権利を売りたいという仮の覚書おぼえがきを書いてもらった。

 まあこれが要因で、なんでもかんでも債券にして金融にべったり依存する国になっちまうわけだが。今の金融の始まりはもともときんと等価交換の証券だったわけだし、イギリスはそれで大国になったわけで、既定事項っちゃ既定事項か。


 俺と長門はロンドンの王室御用達ごようたしの銀行家に紹介状を書いてもらい、ヨーロッパじゅうの銀行家を訪ね歩いた。今こういうことやってんすけど出資しませんか、と営業して回っていると、なにやら怪しげな修道士がツボ商法まがいの金融商品を売り歩いていると諸侯しょこうの間で噂になっていた。

 その後、銀行家が王室に出向いて直接契約を交わし、それでなんとか十万マルク強の金を用意することができたわけだが、残りは代わりの人質を貴族の中から差し出すからということで折り合いがついたようだ。アキテーヌ太后たいこう陛下は身代金みのしろきんを三十トンもの銀塊ぎんかいにして払った。きんの確保はさすがに無理だったか。


 銀の地金じがねを積載した五十台もの馬車がウィーンの宮殿に続々と運ばれる様子はさぞかし壮観だったことだろう。その銀というのもだなあ、よくよく考えてみりゃオーストリアの銀山で掘ったやつをイングランドに回してもらって、それで身代金みのしろきんを払うという超滑稽こっけいな図式になっているわけだよ。つまり、レオポルト公とハインリヒ陛下の財布から金を借りて身代金みのしろきんを払い、未来永劫みらいえいごうちまちまと返済し続けるみたいな、イギリス人にしてみればすげー腹が立つ状況なのだ。このリチャード陛下拉致らち事件のエピソードは俺達のいる未来まで残っていて、イギリスとオーストリアの確執かくしつみたいなものになっているらしい。


「なーんだ、やればできるじゃないの」

いや、俺が借りたんじゃなくてイングランド王室の信用で銀行屋が貸してくれたんだよ。国民はこの先辛酸しんさんめることになるけどな。

 それからしばらくして王宮から朝比奈さん宛に手紙が届いた。てっきりズルズルと引き伸ばされるかと思っていたが存外早かったな。

「ええぇ!?わたしがですか? 貴族になるんですか? わたしが?」

中世フランス語の、しかも法廷用語で書いてある難解な文面を何度も目で追いつつ、羊皮紙を握りしめ、髪の毛が逆立つほど驚いたらしい朝比奈さんだったが、

「おいハルヒ、言ってなかったのかよ」

「あら、あたしとしたことが忘れてたわキシシ」

わざとだな。わざとサプライズしただろ。

「えーと、つまりですね朝比奈さん。王様と交渉したところ、フランスに跡継あとつぎがいない領地があってですね、そこをもらい受けることになったんです」

朝比奈さんの口が半月の形に広がり目が点になった。

「喜びなさいみくるちゃん、あなたはいよいよカウンテスよカウンテス」

「ということはわたしが伯爵夫人?」

「ちがうのよ、あなたが伯爵なの。女の継承者なの」

ほーう、なるほどそういうことか。しかしよく認めたもんだな王様も。女性の爵位継承は少ないが、ままいるらしい。

 朝比奈さんはまだ信じられないといった風で、

「その領地の収入はわたしのものなの?」

「そうですよ朝比奈さん。でも王様を身請みうけするのに借りた金を税収から払うことになっているんで、家計はかなりきついと思います。あとは朝比奈さんのやりくり次第ですかね」

「そっかぁ。がんばんなくちゃ」

両手でグーを握ってちいさくガッツポーズを決める朝比奈さんだ。あー、でも十八世紀にはフランスの爵位はなくなっちゃうんですよねー。処刑されないように気をつけてくださいね。


 知り合いが叙爵じょしゃくされるところをひと目見ようと、全員で精一杯のおめかしをして王宮におしかけた。てっきり謁見えっけんの大広間で大勢の貴族に見守られながらうやうやしく受け取るかと思いきや、王様は高い天井の、本棚に囲まれたほこりっぽい執務室しつむしつで待っていた。

「さあさあ、こっちは金を出したんだから、約束を果たしなさいよね」

あのなハルヒ、王様の前ではしゃべれと言われてからはじめてしゃべるもんなんだよ。

 王様は気にした様子もなく、

「やあやあ、ご苦労。この度はいろいろと世話になったね。うちのママも礼を言っていたよ。執事にも言われたんだけど、今回の叙爵じょしゃくなんだけどさあ、しばらくは大人しくしといてもらえるかなあ」

「なによ、今になってしくなったの? いったいどういうことよ」

王様のえりぐりをひっつかまえて顔面を押し付けている。こいつはいつか不敬罪ふけいざいで首が飛ぶに違いない。

「そうじゃなくて、伯領をぐのは遺産相続ってことじゃないと困るんだよねえ」

「へえ、なんで?」

「いきなり王室の血縁ですなんてこと言ったら周りの貴族に疑われるに決まってるから、既成事実になって誰からも文句つけられなくなるまで、なるべく目立たないようにしてくれってことなの。領地の管理はうちの執事を行かせとくから」

「なるほどね。まあ、しゃあないわ。歴史の教科書に載るまでは黙っといてあげるわ。ところで、神様の方はどうなの?」

「ああ、なんとかなるんじゃないかな。血縁にこじつけて婚姻無効こんいんむこうにしたことは何度もあるって言ってたよ。恋愛沙汰れんあいざたも金次第とか言ってたし」

やれやれ、生臭坊主なまぐさぼうずめ。


 朝比奈さんが一歩前に出てスカートをちまっと握ってお辞儀じぎをした。

「や、やあ。キミがアサヒナかい。噂には聞いてるよ、ジャンが見初めたのも分かるねえ。男でも女でもボクは美しいものが好きだな」

「ニヤニヤした目で見てんじゃないの、この変態オヤジが」

陛下Your Majesty、お初にお目にかかり、光栄でございます」

「じゃあ、キミの名前は今日からレディ・イザベル・オブ・アングレームだからね」

朝比奈さんは王様の前でひざをついて指輪と巻物を受け取った。巻物にはたぶん土地の目録もくろくなんかが書いてあるんだろう。

つつしんでお受けいたします、陛下」

「おめでとう、レディ・アングレーム」

ささやかだったが部屋の中にいる従者たちから拍手がいた。窓から差し込む光を受けて明るく浮かび上がる朝比奈さんの姿を見て、俺達もなんだか目がうるみそうになりながらパチパチと手を叩いた。


 それからしばらくしたある日の午後、天高く秋空の雲が薄く流れる頃。俺が自宅の執事室で今年の収穫量を計算していると、家の前をカポカポと馬が通りすぎ、また戻ってきて通り過ぎ、さらに戻ってきて、どうやら誰かがうろうろと往復しているなと気がついて机の上にペンを置いた。玄関で呼び鈴が鳴った。

「ミス・スズミヤとその家族の皆さん。よい午後で」

伯爵が古泉を連れてやってきた。

「伯爵じゃないの、わざわざ出向くなんて珍しいわね」

「リチャード陛下の件ではいろいろと手を尽くしていただいたとのこと、お礼を申し上げたい」

「ああ、いいのよそんなこと」

いいのよと言いつつニヤニヤで顔がゆるみっぱなしだぞ。

「しかしよく十五万マルクもの大金を集めたものだな。炭鉱収益を担保たんぽにするとは恐れいった」

ハルヒは自分のこめかみをツンツンと突きながら、

「ちょっと小知恵を働かせただけよ、ニヒヒ」

それは俺がやりました。

「今後なにか事業をやるときはミス・スズミヤにお願いしたいものだ」

「まあね、銀行にちょっと営業をかけただけよ。起業家は自分のふところからは一ペニーだって出しちゃだめなのよ」

はい、それも俺がやった。

「ところで、ミス・アサヒナは今日はいらっしゃらないのか。あれ以来お会いしていないのでごあいさつ申し上げたかったのだが」

「裏庭で家畜の番でもしてるんじゃない?」

伯爵は玄関を出て裏に回ろうとした。ここでかんのいいハルヒは、というかかんのよすぎるハルヒは何が起こるかをすぐ察知したらしく俺と長門に目配めくばせして伯爵の後ろをついていこうとした。

「涼宮さん、だめですよ」

ドアの前に古泉が首を横にふりふり陣取っている。

「な、なによ。あたしは外の様子を見に行こうかなーって、」

「だめです。お二人のプライバシーです」

珍しく古泉ががんとして動かないので、裏口の小窓から外をうかがった。


「ミス・アサヒナ。お久しぶりです」

「マイロード……」

ニワトリとたわむれていたところをいきなり登場されて狼狽ろうばいし、あたふたと髪を整える朝比奈さんが少しあわれで、俺たちは同情の目で二人をながめた。

「晴れてよかった。そろそろ雨が降り始めるのではないかと思っていたのですよ」

天気などは気にする様子はなく、朝比奈さんはスカートの汚れが気になっているのかギャザーを寄せたりすそを払ったりすることにご執心しゅうしんである。

「マ、マイロード、あ、あの、よろしかったら家の中でワインでもお出しします」

「いえ、よろしければ少しここでお話したいのだが」

「は、はい」

伯爵は朝比奈さんの腕に下がっていたカゴを受け取り、ニワトリに雑穀ざっこくのエサをいてやった。なぜか心ここにあらずという感じで、自分の足元に種をまくようにチマチマとエサをいている。

 なかなか本題に入らないので朝比奈さんがあのー、と口を開こうとすると、

「ミス・アサヒナ、あなたと出会ってからそろそろ一年になりますね。時の流れるのは早いものだ。最初は法廷だった。あのときのあなたは輝いていた。物怖ものおじせず、知恵にけた戦術家だった。私は呆然とあなたを見ていました。我が領民にこのような美しいお方がいて、しかも領主である私と対等に戦っている」

「え、ええ。あのときはうちにいらした騎士さんと争ってるつもりで、その……」

「いえ、いいのですよ。あのときはどちらにも戦う理由と守るべきものがあった」

「あなたのことはまったく……存じあげなくて」

「そして二度目は決闘場だった」

あのときの素っ裸説教を思い出したらしく二人ともポッと顔を染めている。

「ごご、ごめんなさい。涼宮さんが死んだものとばかりに、つい我を忘れて」

「いえいえ。私の正義のためにおしかりを頂いたのははじめてでした。羞悪しゅうおの心は義のたんなり、あのお言葉は今でも深く心に刻まれています」

「マイロード、まったく失礼なことを申し上げました」

朝比奈さんはもう真っ赤で両手で顔をおおっている。

「それからアッコンのとりででお会いしたとき、兵士の手当をするあなたのお姿は天使のようで、戦場に聖母マリアが降臨こうりんしたのかと、私はもう、自分の目がうるむのを部下に悟られないようにするのに必死で、」

そこで伯爵は朝比奈さんの前で片膝かたひざを付き、

我が女神よMy Goddess、今や私のくびきは解けました」

一枚の丸まった羊皮紙をささげた。朝比奈さんがひもいて開いてみると、

「マイロード、まさか……離婚なさったの?」

「教皇聖下せいかからの、婚姻こんいん無効を認める書状です。元妻とは血縁だったので、もともと結婚してはならぬ立場だったのです」

「まさかわたしのためにですか?」


── そうです、ミス・アサヒナ。いえ、レディ・イザベル・オブ・アングレーム。私は目が覚めました。あなたと出会ってから天も地も、流れる雲も、この領地を照らし麦を育む太陽も、すべてが意味あるものに変わりました。それはあなたの足がしっかりとこの地を踏んでいると知っているからです。私にとっても、この領地とっても、あなたが必要です。あなたのいない人生は私の心の半分がないのと同じだ。妻となって共に人生を過ごし、共にこの領地を治め、一緒に領民をはぐぐんでいただけませんか。


 とあるイギリスの片田舎、暖かな小春日和こはるびよりの昼下がりにはよくある風景だった。干し草に混じってニワトリの白い綿毛わたげが舞う農家の裏庭で紳士が一人、ご婦人が一人。太陽を背にする朝比奈さんと、逆光に目を細める伯爵のまわりにニワトリが群れて押し寄せ、伯爵の衣装をつつきまわり、家畜小屋から出てきた子豚たちが、いったいなにがはじまるんですと二人を取り囲んでいる。朝比奈さんが苦笑しながら追い払おうとしているのだがピィピィとやかましく鳴きわめき、この一世一代の、人類史上一度しかないシーンに水を差している。

 なんとも滑稽こっけい風情ふぜいだと気づいたらしい伯爵は、クックックとのどから笑い声をらし、朝比奈さんも目を細めて笑った。伯爵はカゴをささげ持ち、

「マイレディ。ニワトリと、子豚と、そして神のおぼし召しにより、あなたに ── 」


そこから先は聞こえなかった。

「あーもう、豚共がうるさい」

「お前のほうがうるさいわ。窓を独り占めしすぎだ」

小さな窓の面積をうばい合うようにして外の様子を伺っていたハルヒとその他三人だったが、朝比奈さんがうなずいて承諾しょうだくしていることだけは分かり、俺たちはホッと胸をなでおろした。やれやれ。

「もーう、いいとこだったのにぃ」

ロマンスを子豚に邪魔されてハルヒはブーブーと鼻を鳴らしているが、

「ハルヒが望むような完璧さじゃなくても、これはこれでありなんじゃないかな」

長門と古泉に同意を求めてみると二人ともウンウンとうなずいている。長門が言っていたように、身も震えるような熱い言葉や美辞麗句びじれいくが散りばめられた愛の告白よりも、ここに至るまでに二人の間にあったもの、なにげないあいさつとか手紙のやり取りとか、それから馬車を降りるときにさりげにえられた手だとか、ときには邪魔が入ったり、熱にうなされて眠れない夜があったり、望みはないとあきらめかけたり、遠くの空に姿を思い浮かべたり、そういう時の流れが集まったものが二つの心を一つにしたんじゃないかと、俺は思うのだ。

 窓から朝比奈さんの様子をうかがうと、子豚をハムになりそうな勢いでギュウと抱きしめて、軽やかにダンスを踊っていた。


「ミス・スズミヤ、みなさん。お知らせしたいことがあります」

「ヒッヒッヒ、見てたわよ」

玄関から入ってきた伯爵は冷やかすような表情のハルヒと遭遇そうぐうして顔を真赤にし、

「そ、そうでしたか。今しがたレディ・アサヒナと婚約いたしました。この度の皆様のご尽力じんりょく、誠に感謝している」

「もうミクルちゃんと呼んであげなさいね」

英語でミクルちゃんってどう呼べばいいんだ。マイハニー・ミクルとかスウィーティ・ミクルとでもいうんだろか。

 今後の日取りについてはまたいずれお知らせしたいとのことで、忙しい身の上の伯爵は馬に飛び乗り、従者古泉のことなど忘れてさっさと帰っていった。小さくなっていくひづめの音がこころなしかはずんでいるように聞こえるのは気のせいではあるまい。


「みくるちゃん、おめでと」

俺達はニヤニヤをおさえつつ庭に並んで、子豚と結婚してしまいそうな朝比奈さんに声をかけた。俺達に気づくとエヘヘと照れ笑いをし、心ここにあらずというか、なんだか信じられない高価な宝を手にしたような、もうこのまま昇天しても大往生だいおうじょうみたいな上気じょうきした朝比奈さんだった。子豚が離せとピィピィ文句を言っている。

「あ、ありがとう。全部みんなのおかげです」

「いえいえ、朝比奈さんがすべてをけてアタックしたからみのったんですよ」

「いろいろ空回りしてふり回して地の果てまで連れ回したりしてごめんなさい。でももう一度同じことをやれと言われても無理だわ」

俺達も御免ごめんこうむります、と顔は笑いながら思っていた。

 朝比奈さんはぼんやりとそのまま家の中へ入って二階へ上がり、ハルヒが晩ごはんよと呼んでも降りてこなかった。嬉しさのあまり心臓発作でも起こしたんじゃないかと心配して寝室を覗いたが、よほど疲れたのか安心したのか、ハムを抱きしめ安堵あんどの表情でスヤスヤと眠っていた。

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