朝比奈ミクルの冒険in中世

朝比奈ミクルの冒険in中世


キャスト

 イツキ(シスター・クレイン)

 ミクル(ミクル・オブ・アサヒナ)

 ユキ(ユキリナ・ド・ナガティウス)


音楽 ブラザージョーン

プロデューサー兼監督 ハルヒ・オブ・スズミヤ

脚本 ユキリナ・ド・ナガティウス

原作 ナガル・オブ・タニガワ


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第一幕


 イツキ 甲冑かっちゅうの騎士

 ユキ 魔法使いコスチューム

 ミクル 修道女コスチューム


音響 ユキとミクルの波乱を予感させる戦いの前奏


(ミクル、舞台下手しもてより登場。中央に立つ)


ミクル「(両手を合わせて天に向かって祈る)おお神様、わたしはしがない修道女です。でも慈悲じひをいただけるなら、どうか子羊の願いを聞いてください。わたしたちの領主、イツキ様は立派なお方です。か弱い領民には情けと愛情をもってくださり、悪には勇気をもって立ち向かわれる方です。でも悪い錬金術師に狙われています。どうか彼を守ってあげてください。アーメン(十字を切る)」


ミクル「(手をかざして上手かみてながめる)あっ、向こうからイツキ様が来るわ。それに悪い錬金術も。見つからないように隠れなくちゃ」

(ミクル、下手へ退場)


音響:馬のひづめの音


(イツキ、馬に乗って舞台中央へ。ユキ、上手かみてより追ってくる)

イツキ「僕の跡を追うあなたは何者です」

ユキ「わたしは錬金術を使う外国人である」

イツキ「そうなんですか?」

ユキ「そう」

イツキ「いったい僕に何の用ですか」

ユキ「あなたには持って生まれた権力があるので、わたしはそれを狙っている」

イツキ「ほう、では迷惑だと言ったら?」

ユキ「強引な手を使ってでも、わたしはあなたを手に入れるだろう」

イツキ「強引な手というのはどういう?」

ユキ「こうするのだ(魔法の杖を思わしげに振る)」


(ミクル下手しもてから飛び出してくる)

ミクル「危ないっ!(馬に抱きつき押し倒す)」

ミクル「あなたの思うとおりにはし、し、シルブプレ~」


ユキ「(ミクルを見つめる)ここはひとまず退散しておく。けれど次はそうはいかないのだ。そのときまでに自分の棺桶かんおけを用意しておくことだ。今度こそわたしは容赦ようしゃを失ってお前を討ち滅ぼすだろう(マントをひるがえし上手より去る)」


(ミクルに意表を突かれたイツキ、我に返る)

イツキ「ところで、キミはいったい誰ですか」

ミクル「あっ、あたしは通りすがりの修道女です! それ以上でもそれ以下でもありません、それでは、アデュー(上手かみてより去る)」


イツキ「あの人たちはいったい何だったんだ……」

(イツキ遠目に上手をながめ、下手しもてより去る)


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幕間まくあいの宣伝


ムラムラ精肉店

ミクル「(メイド服で登場)お楽しみのところすみませーん、ムラムラ精肉店では、本日生きのいいイノシシの肉が大量入荷でーす! タイムサービスなのでーす! 今から三時間、っていうと……次に教会の鐘が鳴るまで、半額セールでーす。そこのイノシシそっくりの奥さーん、ぜひ買ってあげてくださーい」


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第二幕


ミクル「(メイド服のまま)さあさあ、今日はお肉が安いですよー」

(ユキ、フードを被って登場)

謎の客「肉が欲しい」

ミクル「いらっしゃいませぇ、なんの肉がよろしいですか?」

謎の客「あなたの体の肉」

ミクル「なな、なにを怖いことを。あなたはいったい誰ですかっ」

謎の客「あるときは魔法使い、あるときは外国人、そしてあるときは錬金術師、その名も(客席に向かってフードを脱ぎすてる)」

ミクル「あっ、あなたはミス・ユキリン」

ユキ「ここで会ったが百年目、先日の礼をしたい」

ミクル「昨日なのに百年目ですか! 望むところです!」


音響 勇ましいバトルシーンの曲


ミクル「ほいやっ! とりゃあ!(肉切りナイフを投げる)」

ユキ「あなたは腕を上げた。だがわたしにナイフは通用しない(すべて杖の先で叩き落とす)」

ミクル「こうなっては奥の手ですっ」


音響 ソウルミュージックに変調(二人で七十年代風ダンスを踊る)


ミクル「みっみっ、ミクルコマンタレヴー!(左手でVサインを作り左目に当て、右手でVサインを作り右目に当てて踊る)」

ユキ「そ、その踊りは」

ミクル「喰らえ! 我が一族に伝わる妖術ようじゅつ、ハレハレミクルダンスです!」

ユキ「パクリの分際ぶんざいで、わ、わたしまで一緒に踊らされてしまうとは恐るべき技」


イツキ「(舞台そでよりこっそり忍び寄る)あのー、肉屋さん、豚肉を半ポンド欲しいんですが」

ミクル「きゃああ領主様! 見ちゃダメよダメダメ! 見たらあなたまで妖術ようじゅつに」

イツキ「うわ、なんですかこれ。なんだか体がムズムズするんですが、足が勝手にステップを(一緒に踊りだす)」

ユキ「味方まで術にかけてしまうとは、いったい何の意味があるのか問い詰めたい」

イツキ「あの、そろそろめてほしいんですが」

ミクル「め方がわかりませーん」

イツキ「は、は、は、はぁ~、光の中へ~Stay in the light光の中へ~Stay in the light


(右手を上に、下に、並んで踊りながら下手しもてへ退場)


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第三幕


(ミクル、舞台中央に立つ)

ミクル「ミクルコマンタレヴが通用しないなんて、なんとかしなくちゃ……」


(ユキ、下手より登場)

ミクル「こここんなことではっあたしはめげないのですっ! わわっ悪い錬金術師さん、神妙しんみょうにイングランドから立ち去りなさいっ……あの、ごめんなさい」

ユキ「あなたこそ自分の国に帰るがいい。彼は我々が手に入れるのだ。彼にはその価値があるのである。彼はまだ自分の持つ権力に気づいていないが、それはとても貴重なものなのだ。その一環としてまずイングランドを侵略させていただく」

ミクル「そそそんなことはさせないのですっ。この命にかえてもっ」

ユキ「ではその命も我々がいただこう」


(ユキが下手しもてに手を延べる。下手しもてよりブラザージョーン、ハルヒ・オブ・スズミヤが登場)

ミクル「あっ、その汚らしい格好はブラザージョーン。そしてそっちはミス・スズミヤ、ま、まさかあなた達まで……しょしょ、正気に戻ってください!」

ハルヒ「プッ、そんなカッコして正気に戻れって言われても困るんだけど。ごめんねミクルちゃん、こんなことしたかないんだけど、あたしあやつられちゃってるからなんでもできちゃうのよねえ。ふひひひ」

ミクル「ひぃー」

ハルヒ「さあさあミクルちゃん、覚悟はいいかしら?」


(ユキ、魔法の杖を振る)


音響 阿波踊りミュージック


(ブラザージョーンとハルヒ、阿波踊あわおどりを踊りながらミクルを襲う)

ミクル「ひえ、ひええぇ。何なの、このけったいな踊りは(阿波踊りの手つきの真似まねをする)」


(ブラザージョーンとハルヒ、ミクルを抱え舞台から放り投げる)

ハルヒ「せーのっ!」

ミクル「おわあああ! あぶっ……はわあぁ。こ……これが歴史の表舞台から消えるということなのね」

ユキ「……誰がうまいこと言えと」


(ユキ、ブラザージョーン、ハルヒ下手しもてへ退場)


(上手からイツキ登場。舞台のふちからミクルを引き上げる)

イツキ「どうしましたシスター。つかまってください、落ち着いて、僕まで引っ張り落とさないようにね」

ミクル「うう……痛かったぁ。お客さんに触られたぁ」

イツキ「そんなところでいったい何をしてたんです?」

ミクル「えっ、あー、その、悪い人たちに歴史の表舞台から追い出されて……はうぅ(気絶する)」

イツキ「都合よく気絶しないでしっかりしてください」

(イツキ、ミクルを抱えて舞台上を一周、ベットへ運ぶ)


(ミクル、ベットの上で目覚める)

ミクル「はっ、ここは?」

イツキ「気づかれましたか。ここは僕の城です」

ミクル「あなたは領主様、いったいなにがあったのでしょうか」

イツキ「ここで僕と一緒に暮らしませんか」

ミクル「そ、それはつまりわたしと、(目を閉じてキスの仕草をする)」


(ユキ、上手かみてから登場)

ユキ「待つがよい」

イツキ「ここは三階なのにどうやって入っていらしたんですか」

ユキ「ロード・イツキ、あなたは彼女を選ぶべきではない。あなたの権力はわたしと共にあって初めて有効性を持つことになる」

イツキ「えっ、それはどういうことですか」

ユキ「今は説明できない。しかしいずれ理解を得ることもあるだろう。あなたの選択肢は二つ、わたしと共にイングランドをあるべき姿へとみちびくか、彼女に味方して新たな未来を求めるか」

イツキ「なるほど。どっちにしても僕が鍵となっているわけですか。鍵そのものには本当の効力はない。だが扉を開けられるのは鍵のみである。その扉を開けると、歴史の何かが変わるのでしょう。おそらくは……(思わせぶりに観客をながめる)」


イツキ「それは分かりましたよ、ミス・ユキリン。ですが今の僕には手段がない。まだ扉を開けるには早すぎると考えます。現状維持ってことで、今回は手を打ちませんか。僕にはまだ考える時間が必要なのです。あなたがすべてを巻き戻してくださるなら、話は別ですがね」

ユキ「そのときは遠からず来るだろう。しかし今すぐでないことは確かだ。我々は情報の不足をなによりも瑕疵かしとする習慣がある。今の段階では明確な手段があるとは言えない」


(イツキとミクル下手から退場)


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第四幕


(ミクル下手から登場)


ミクル「お待たせしましたか?」

ユキ「時間厳守」

ミクル「決闘の時間に遅れてごめんなさい……」

ユキ「では、これですべての決着をつけよう。我々にはあまり時間的猶予ゆうよがないのだ。遅くともあと数ヶ月以内には帰らなければならない」

ミクル「それはあたしも同感です。でもっ、イツキ様はきっとあたしを選んでくれます。ううぅ……恥ずかしいわ。あたしはそう信じています!」

ユキ「あいにくだが、わたしは彼の自由意志など尊重する気はさらさら無い。彼の権力はぜひともわたしに必要なのだ。ゆえにいただく。そのためにはイングランドの征服すらもいとわない」

ミクル「そうはさせません! そのためにあたしは外国から来たのです」

ユキ「安心するがよい。あなたの骨粉こっぷんはわたしが拾ってやることにする。あの世ではせいぜい善行ぜんこうを積み、来世のかてとするがよかろう」

ミクル「今度は負けません。みっみっ、ミクル、」

ユキ「(ビシ指をして)ボンジュール!」

ミクル「ハッ、先に言われてしまったわ。コマンタレヴが発動しない!?」

ユキ「あなたの技の弱点はお見通しだ。一発芸は二度やると滑る」

ミクル「どうしよう、一族伝来の技がもう品切れてしまいました」

ユキ「(魔法の杖を大きく振る)ではさらばだ(ミクルの足元に火炎を投げる)」

ミクル「ひえええぇ熱い~熱い~」

イツキ「(舞台袖から叫ぶ)お待ちください!」


(イツキ、馬に乗って下手より登場)

イツキ「大丈夫ですかシスター」

イツキ「神にお仕えする聖女を傷つけることは僕が許しません。ミス・ユキリン、どうかやめてください」


(ユキ、思案げに杖を降ろす)


馬「考えることはないだろ。領主の意思をうばってしまえばいいのさ。小耳に挟んだんだが、お前にはそういう能力があるらしいじゃん。まず領主を心のとりこにし骨抜きにしてだな、この敵とかいうシスターをロンドン塔にでも幽閉ゆうへいするように命じればいいんだよ」

ユキ「わかった。(馬の鼻をなでる)今のは腹話術」


ユキ「食らうがよいイツキ、あなたの意思はわたしの思うがままになるであろう」

イツキ「戦わざるを得ないようですね(腰からつるぎを抜く)」

ユキ「戦えばあなたは死ぬ」

イツキ「正義の名のもとに生きるか、しからずんば死を!」


(魔法の杖とつるぎによる殺陣タテ。魔法の力でねじ伏せられるイツキ)


(イツキ、床に倒れる。ユキ、杖をふり上げる)

ユキ「ではトドメだ」

(ミクル、イツキに駆け寄る)

ミクル「待ってください! このお方は……このお方はわたしの大切な人なのです!」

ユキ「安心するがよい。これですべての争いの元は消える」

ミクル「イツキ様がいないとわたしは生きていてもなんの意味もありません。わたしを殺して、イツキ様を助けてください」


(ユキ、めて杖を降ろす)

ユキ「そこまでの覚悟があるなら、わたしは手を引こう。ただし、あなたはどちらかを選ばなければならない」

ミクル「選ぶって、なにをですか?」

ユキ「聖女として天国での地位を得るか、それらすべてを捨てて一生をイツキの妻として終えるかだ」

ミクル「そんな……」

ユキ「愛を得るということは同時になにかを失うということだ。両方を得られるほど甘くはない。よく考えるがよい」

(ユキ、上手より退場。ミクル顔をおおう)

ミクル「わたしはいったいどうしたら……」


ミクル「イツキ様、わたしはどっちも選ぶことができません。このまま去ります。さようなら、わたしの愛しいお方。アデュー」(倒れているイツキに投げキス)


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幕間まくあいの宣伝


トクモリ武器店

ミクル「えーっと、芝居の途中ですが、このイツキ様の持っているつるぎはトクモリ武器店さんからお借りしました。店長さんはすごくゴツ……やさしいです。それにナイスガイです。片手剣から半月刀、クリスまでなんでもそろいます。えーとそれから、お爺さんの代は鍛冶屋さんでした。それなのに孫はファンタジーが好きで、周囲の反対を押し切り、趣味がこうじたばっかりにやっちゃったって感じでーす。今ならスペイン製はがねつるぎが全品三割引、大きなバルディッシュがなんと半額なのでーす。でもでも、人を傷つけたりしてはいけませーん、ハムでも切って我慢しましょー!」

下手しもてから退場)


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第五幕


(イツキ、馬、上手かみてより登場)

(ハルヒ、ミクル、下手しもてより登場)


イツキ「もし、そこのお嬢さん、あなたはもしや」

ハルヒ「ふぇっふぇっふぇ、あたしかい? 嬉しいねえ、イケメンに声をかけられるなんて半世紀ぶり、」

ミクル「トウッ」

ハルヒ「ひでぶっ」

ミクル「すすす、すみません、このおばあさんは関係ない人なんです相手にしないでください」

イツキ「あなたはもしや、いつぞや僕を助けていただいたシスターでは」

ミクル「いえ、人違いです。あなたなんか全然知りません」

イツキ「そうでしょうか。確か……ミクル~」

ミクル「コマンタレヴ~、ハッ」

イツキ「やっぱりそうだ。たしかにあなただ。ずっと探していましたよ」


(イツキ、馬を降りる)

イツキ「うるわしいミクルさん、あなたは僕が一生をかけて探し続けてきた幸せの青い鳥です。僕の枝に止まって、美しい声を聞かせてくださいませんか」

ミクル「おお愛しいお方、イツキ様。わたしは神様のために一生をささげる誓いを立てた修道女です。独身として生きなければなりません」

イツキ「おぉ、なんと信仰厚いお方だ。あなたがマリア様だったなら、そんな戒律かいりつは破っても構わなかったでしょうに。僕のマリア様になってください」

ミクル「あなたの妻になったら、わたしはあなたをお守りできなくなります」

イツキ「これからは僕が命をかけてあなたをお守りします。結婚してください」

ミクル「はい……旦那様」

(ここでキスシーンのようなふりをする)

(ミクルとイツキ、手を取り合って上手かみてより一旦退場、馬残る、ミクルだけ戻ってくる)


(ユキ、下手しもてより登場)

ユキ「どうするか決まったか」

ミクル「決めました。イツキ様とげます」

ユキ「お前の一族伝来の妖術は消えるが、それでもよいのだな」

ミクル「構いません。でもちょっと問題が」

ユキ「なんだ」

ミクル「わたしには……わたしには持参金がないのです。お金をくださいっ」

ユキ「敵のわたしからせびるつもりか」

ミクル「持参金がないと領主様と結婚できません」

ユキ「困った修道女だな。しょうがない、(ふところから財布を取り出す)いくらだ」

ミクル「十五万マルクです!」

ユキ「じゅ、十五万だと。正気か」

ミクル「それから領地もください」

ユキ「なんという欲張りな娘だ。地獄にちるぞ」

ミクル「いいんです。わたしはもう聖女にはなれないので、地獄の沙汰さたも金次第です」

ユキ「なぜわたしがこんなやつのために(ポケットから羊皮紙とペンを取りだす)……しょうがない(羊皮紙にペンを走らせる)、受け取れ」

ミクル「ありがとうございますユキさん、実はお優しいお方だったのですね」

ユキ「金はこのとおりだ。幸せに暮らすがよい」

(シスタークレインの幻術で客席に金貨を降らせる)


(ミクル上手へ退場、この間にウエディングコスに着替え)


馬「いいのか? とても勝利とは言い難い結末のようだが」

ユキ「いい……時の流れは思うようにはいかないもの」

馬「まあお前がそう言うならいいんだが。これからどうするんだ?」

ユキ「わたしは自分の国へ帰る。一緒に来る?」

馬「ああ、ちょうどあるじがいなくなっちまったところだしな、お供するぜ」


(ユキ、馬に乗って下手へ退場)


音響:ケルト調でウエディング曲

(イツキ、ミクルをお姫様抱っこで再登場)


終幕


キャスト全員で挨拶あいさつ

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