第3話

「あらあら、いらっしゃーい!」

重厚な、流石、銀座のお店と思われる深い茶色っぽい扉が開かれると、途端に賑やかなカラオケと唄声と陽気な話し声が聞こえる。

彼から電話がかかって来て話をしている途中で、突然、上品そうなおばさまに声の主がかわり、

「あら、お嬢さまは今どちらにいらっしゃるの。」

「東京駅?じゃあ、もしよろしかったら、タクシーにお乗りになって、銀座の博品館と言って、いらしてくださいな。」

え?電話の向こうからは、カラオケ屋さんなのだろうか賑やかな唄声が聞こえる。

「あの、そちらは何屋さんなのでしょうか?私、今日は新幹線が止まってしまうかと思ったら、やっぱり動き出すって放送があって、あの新橋駅のホームでそのアナウンス聞いて…。で帰ろうかと思って、でも、その今、サンタから電話があって、その、サンタは唄ってるんですか?あの、彼は大丈夫なんでしょうか。」

一体何が大丈夫なのか。そもそも、自分は何を誰に説明しているのだりうか。これではまるで何かの言い訳をしているみたいだ。誰に対しての何の言い訳なのか?この後ろめたい気持ちと自分は何なのか。そもそもサトミは今はバツイチで1人だし、いや、正確には両親と同居しているが、もう、さっさと40は超えてしまったし、高校生じゃあるまいし、何をドギマギしているのだろうか。

「サンタさん?酒井さんのこと?彼をはサンタさんて言うの?まあ、面白い方ね。彼はいつもご機嫌よ。」

電話の横で、彼が誰かと談笑している声が聞こえる。

「まあ、とにかく、タクシーで博品館までいらっしゃいな。そうしたら、また酒井さんの携帯に電話して。うちの娘を行かせるわ。博品館?おわかりになります?わからなければ、銀座8丁目のハクヒンカンって言っていただければ間違いないわ。お待ちしてますね。」

え、もしかしてこれで電話がお終い?普通、こう言う時には、そもそも彼が私に電話したのだから彼に電話を戻すとか、これで私がその多分カラオケスナック?みたいな銀座のお店に登場したら彼が困ってしまうとか、何かそうした気遣いみたいなものはないのだろうか?そもそも新幹線って言ってるんだから、泊まる所はどうするのだろうか?とか、私の予定とか都合とか…と、グルグル考え始めた所で電話はとうに切れてしまっていて、私は催眠術にかかってしまったように既にちょっとドキドキしながら改札へ向かっている。こういう時、世の女性たちはどうするのだろう?まあホテルがなくてもどこかのファミレスで夜を明かすことは可能ではあるし。え?ファミレス?ファミレスって銀座にあるの? いやだから、こういう時に世の女性たちはどうするか?ということを私は知りたいと思っていたのだから。と考えているうちにサトミはタクシーへ乗り込み、ハクヒンハンカン、あの銀座8丁目の、と言っていた。そして、不安と緊張とちょっとした期待とが入り混じったまま、サトミの前で扉が開かれたのだ。

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