暴走そして・・・

「無駄に終わろうとも足掻いて見せよ。それこそがこの戦士に報いる唯一の手段ゆえ。」


天羽を地面に下ろし、その悪魔はゆっくりと近づいてくる。

俺は暴れる魔力を押さえつつ身構える。


「行かせません!」


突如、菊理が飛び出し氷の魔法を放ちつつ悪魔に接近する。

が、生み出された氷塊は悪魔の目前で弾けて消える。


「ふむ・・・氷の魔法と言うよりこの国の神仏の力、神力か。だが、大した事は無いと判断する。」


「くっ・・・!」


「そして・・・神を名乗るのならば嵐の1つでも起こして見せよ。」


「だったら・・・起こします!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


菊理が魔力(神力)を集中すると、その力は水と化し渦を巻き天へと延びる。


「ほう・・・出来るではないか。」


天へと延びたその渦が突如鎌首をもたげ顎門あぎとを開くその姿は正に龍の如し。


「神力招来・・・九頭龍昇牙衝!!行け!」


菊理の合図で水の龍は轟音と共に悪魔にその牙を突き立て天へと昇る。


「くっ・・・!!ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「墜ちろ!!」


遥か上空へと昇った龍は自らの落とす水滴よりも速く渦を巻きながら悪魔を大地に叩きつける。

その渦は地を穿ち、砕き、吹き飛ばす。


「・・・聞いた事がある。菊理姫様は白山比咩神(しらやまひめのかみ)と同一神とされ、717年(養老元年)修験者泰澄たいちょうが白山の主峰、御前峰ごぜんがみねに登って瞑想していた時に、翠ヶ池から十一面観音の垂迹(すいじゃく。仏が仮の姿で顕れる事)である九頭龍王(くずりゅうおう)が出現して、自らを伊邪那美命いざなみのみことの化身で白山明神・妙理大菩薩と名乗って顕現したとされておる。」


「誠に御座いますか!吉忠様!」


「うむ・・・菊理姫様は他の神とも同一とされているがな。どの文献でも「水の神」とされておる。今のもその力の一旦であろう。」


そうなのか・・・前々から思ってはいたが菊理はやっぱり凄い女神様だったんだな・・・


「っく、はぁ、はぁはぁ・・・」


とは言え、人としての体を持つ今の彼女にはそれ等の神力を使う事は容易では無いはずだ。

離れて見ていても限界なのは火を見るより明らか。


「流石に驚いたぞ。」


その声と共に地の底から巨大な砂嵐が巻き起こり、中から悪魔がゆっくりと上がってくる。


「人を護らんとするその姿勢や良し。全力を尽くした者に敬意を払うべく、我が名を伝えよう・・・我が名はパズス!アッカドに伝わりし風と熱風の神!!」


名乗りと共に砂嵐がより巨大になり、辺りを無慈悲に吹き飛ばしていく。


「九頭龍!!」


菊理の号令で再び水の龍が顕れ砂嵐に対抗するも規模の違いか神格の差か。

あっけなく龍は嵐に飲まれ消えていく。

龍が消え去ると今度は砂嵐が一瞬で消え去り悪魔が、パズスが全身に魔力とは違う、神の威光とも邪悪な意思ともとれる力を纏い菊理目掛けて飛びかかった。


「よせぇぇぇぇぇ!!」


俺の叫びも虚しく、パズスの手刀が菊理を袈裟懸けに切り裂いた。


「あ・・・・・・ああああぁぁぁァァァァァァァァァグガァァァァァァァ!!!」


俺の意識はそこで途絶えた。








一瞬でした。

パズスに袈裟懸けに斬られた私はその場に崩れる様に倒れました・・・


(いけない・・・直ぐに回復を・・・)


動かぬ体はそのままに傷を塞ぐ事に神力を集中させる。


「ほう、異国の女神とは言え、あの一撃で消え去ると思っておったのだが・・・お見事。ぬ?」


敵に誉められても嬉しくも無い。

その時、尋常成らざる魔力を感じ、無理矢理そちらに目を向けるとそこには黒い魔力が焔その様に渦巻くが根津さんと春部さんを吹き飛ばしていた。


(な、何・・・あの禍々しい存在は・・・)


「・・・怒りに我を忘れたか。異国の女神よ。主は愛されておるのだな。」


パズスはそれだけ言うとその存在に向かっていく。


(まさか・・・浅太・・・?前回の時とはまるで別物・・・)


パズスを迎え撃った浅太はまるで全てを破壊するかの如く捨て身の攻撃ばかりを繰り出している。

しかもその攻撃が外れると外れた先の大地が砕け、吹き飛び黒い焔が砕けた大地を焼き付くしていく。


「惜しい・・・我を忘れてさえおらねばこの我ですら燃やし尽くすであろうに。当たらねば意味は無い。」


(だ、駄目・・・このままでは・・・)


私は一か八か1つの賭けに出る事にした。

私がさっきまで使っていた九頭龍は正確には私の力ではない。

私の神力でだけだ。

それでもに横たわる龍。

そのは異国の神と言え、耐える事などできはしない。


(今の私では2つ・・・いや3つ・・・)


「・・・だとしても!」


ある程度の回復はした。

後は全ての神力を喚び出す事に集中する。

存在ごと吸いとられそうな感覚を押さえつけ喚びかける。


(お願い・・・応え・・・え?な、何?)

「我が喚ビかケに応エよ!!」


私の喚びかけに応えたは九頭龍であって九頭龍ではない、別の神格。

更には喚びかける

お互いに喚びあうその2つの声は神格でありながら、共に禍々しく、はあらゆる怨みを凝縮したかの如き負の感情を孕み、応えたその声は


(だ、駄目!止められない!!)


「み、みんな逃げて・・・!!」


「ぬ!なんぞ・・・ぐぅっ!!」


地を割り突如顕れたそのはパズスの両手足を捕らえた。


「な!何だこれは!ぐおぉぉぉ!!侵食されるだと!!」


引き千切ろうと足掻くも触手は伸び縮みするのみ。

あまつさえ捕まれた箇所から黒いがパズスの肉体を蝕み、引き千切ろうとして掴んだその手も喰らおうと侵食していく。

ならばとパズスがを喚び出した女神を見て驚愕の声を挙げた。


「こ、このっ!・・・なっ!き、貴様は!何だはっ!!何を!!!!!!」


(な、なんの事・・・?笑っている?私が?)


その時、私は気が付いてしまった。

そう、確かに笑っている。

しかし笑っているのは私ではなく

そう、これは、御霊みたま!!


「ワレノ名ヲ知りたイか?ククク・・・イやジャ!!イこくノ邪神フゼいガ、我がナヲシルなぞおコガマしいワ!!ヒャーヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


私から発せられたその声は、とても醜く醜悪で、私は内心驚きを隠せないでいた。


「サアさあ!我ガ喚びカけに応じシよ!!ソの愚かモのをトラエつヅケヨ!・・・・・・我が子等よ・・・親が手を貸すはこれまで。特と生きよ。」


狂気を孕んだその声は、突如優しい母性に溢れた声となり、私の中から消えて、いえ、元居た場所へと帰っていった。


(い、今のは一体・・・)


私はその場にへたり込む。


(そうだ!パズスは!)


空を見上げると、謎の声が喚び出した「クトゥルー」とやらに絡まれ身動きの取れないパズスに暴走している浅太がその拳をパズスに叩き込んでいた。


「グワァァァァァァァァァァ!!」


「ぐがぁぁ!がっ・・・我が障壁を・・・貫くとは!」


その時、ピシッと何かが割れ始める音が空間に響き始めた。


「な、何だと!く、空間、いや!!」


強すぎる者達のぶつかりか、それともクトゥルーが喚び出されていたた為か。

パズスの背の空間に出来たヒビは更に広がり、バキンッと音をたて砕けていく。


「こ、このままでは・・・なっ、き、貴様!離さぬか!」


「グオォォォォォ!」


空間が割れる事に気を取られたパズスの腕を浅太が掴み、全魔力を集中させた拳を振り挙げる。


「よ、よせ!止め・・・」


「ガッ!!」


振り下ろされた拳は片腕でしか防げないパズスの防御を弾き胸板を貫き、凄まじいまでの魔力の奔流を放つ。

その奔流はヒビの入った空間をも貫き、ついに空間に巨大な大穴を開けた。


「・・・お見・・・事・・・全て使い尽くしたか・・・」


纏っていた魔力が消え、意識を失った浅太はそれでもなお、パズスの腕を離さない。

決着が付いたのを感じ取ったのか、クトゥルーの触手は消え去り、空間は元に戻ろうと周囲のあらゆる物を吸い込み始めた。


「・・・間に合わぬ・・・か。そして我もまた・・・・・・なら、ば!」


足の先から塵と化し、空間に吸い込まれながらパズスは掴まれた腕を動かし浅太の肩を爪で軽く斬り、流れ出た血を口に含む。


「これで良い・・・クク・・・喜べ人間。数多の、魔、術・・・士ですら・・・邪神、のか、加護は・・・得・・・・・・」


塵と化したパズスは空間に消え、浅太もまた空間に吸い込まれ、時間が巻き戻るかの様に空間が閉じられた。


「あ・・・ああ・・・」


私はただ、見ている事しか出来なかった。

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