既に超越しとるがな

 「シッ!」


 天羽が軽い感じで蹴りだしてくる。俺はその軌道を・・・全く見えなかった。


 「へぇ・・・良く防げたな?」


 冷や汗が出る・・・本能的に動いたのだろう、俺は何時の間にか腕で防御をしていた。


 「今のは俺の中では最速の蹴りだったんやがな。なら次は力やな!」


 まだ来るのか・・・俺は再び構える。


 「・・・こい。」


 「ほな・・・行くで!」


 ドンッ!と周囲が膨大な魔力によって轟風が吹き荒れる。

 全く何て魔力だよ。


 「はあぁぁぁぁぁぁぁ!いっけへぶぅ!」


 「はーいそこまでー」


 天羽は突如現れた男に頭を叩かれ地面に突っ伏す。

 誰かは分からないが全く気配を感じなかった・・・


 「どうもすみません、うちのアホがご迷惑をお掛けしましたー」


 「あ・・・いえ・・・」




――――――――――――――――――――

砦内・会議室


 「え~・・・では改めまして。」


 あの後、会議室と名付けられた広間に通された俺達は指定された席につく。


 「先ずは自己紹介から。私は作戦参謀役の安藤と申します。以後お見知りおきを。」


 先程、天羽を叩いた男の名は安藤。体格が良く、優しい感じの男性だがその実力は計り知れない。


 「天羽だ。この砦で指南役をしている者だ・・・さっきは悪かったな。」


 指南役とは・・・あれほどの強さなら納得できる。


 「根津美津・・・いえ、今は加賀藩藩主前田綱紀が娘、前田美津。よろしくお願いいたします。こちらに控えしは妹の律にございます。」


 律と呼ばれた女性は何故か女中の格好をしているのだが、感じる存在感と言うのか只者ではない感じがする。


 「えっと、浅太と言います。」


 「その妻の菊理。」


 「朧言います。よろしゅうなぁ~」


 「たまはたまだよー」


 「・・・ビフです・・・」


 「あー・・・この場合は役職よりもこっちの方がいいわな。駿河国の守護を任されているみずちの者が1人、長谷川家当主長谷川平蔵宣有。ま、よろしくな。」


 「後1人居るのですが・・・明日には合流できるかと・・・ど、どうされました?」


 長谷川様が名乗りを挙げると美津姫様達が何やら羨望の眼差しで震えている。そしてビフさんは何故か勝ったみたいな顔している。


 「り、律っさん・・・もしかして「鬼平」か?」


 「いや、時代的に見て・・・「鬼平」の祖父・・・になるんじゃ・・・」


 「うん?なんでい、その「鬼平」ってのはよ?」


 長谷川様の疑問で困った顔になっている人達を見て、俺もつい疑問を口に出した。


 「さっきから見ているとそちらの方々とビフさんは、何かしら繋がりでもあるのか?」


 「あ、いや・・・その何て言うのか・・・」


 その様子に俺と長谷川様は顔を見合わせ困惑する。


 「ビフ君、説明を。私が保証するから。」


 「・・・分かりました。」


 「菊理、何か知っているのか?」


 俺が聞くと菊理はにこやかに微笑みながらビフさんに説明を促す。


 「以前、僕が未来から来たって話したのは覚えてるかい?」


 「あぁ、覚えてる。」


 「彼らもそうだよ。僕は1990年から来た元人間で、本名はビーフ・E・ロイド。UK系アメリカ人だよ。」


 UK?アメリカ?何処の事だ?と疑問に思ったけど口にださないでおく。


 「なら、俺達も話しとくか。天羽彰。2017年の日本人や。出身は尼崎・・・つっても分からんだろうから近江辺りと言っておく。」


 「安藤鋤康。彰とは高校からのダチやな。」


 「根津美津・・・です。彰さんと同じく2017年の日本人で東京出身です。」


 「春部律子。師匠・・・彰さんとは同郷やな。」


 うん。全く分からない言葉が多すぎる。ただ、ビフさん以外はこの国の人間なのは分かった。


 「えーと、つまり未来から来たと?」


 「そうや。だから長谷川と聞くと結構有名で、長谷川と言えば「鬼の平蔵」が真っ先に浮かんでくる。」


 「と言っても時代的にお孫さんやけどな?」


 「へぇ!俺の孫はそんなに有名か!何をしたかは聞きてぇ所だが・・・秘密何だろ?」


 「秘密と言うよりあまり歴史を変えたくないってのが本音かね?」


 長谷川様はそれを聞きニヤリと笑い納得した様子で頷いた。


 「そうだろうともよ。先に知っちまったとなりぁ、後々の楽しみが減るってもんさな。わぁったよ。」


 色々疑問とか有るけど長谷川様も納得したみたいだし、俺も理解出来るか不安だからこれ以上は聞かない事にする。まぁ、向こうは向こうで「あの喋り方はお祖父さん譲りなのか」とか「いや、役者の演技なんだから偶然の奇跡でしょ?」とか言っているが気にしない事にする。


 「さて、皆様方。疑問、質問は尽きはせぬでしょうが、そろそろ本題へ行かれては?」


 そう発言したのは確か・・・九郎さんだったか。


 「九郎さん、すまんが後1つだけ確認させてくれんか?浅太さん・・・あんたがそうなんか?」


 そうとは?と疑問に思う。だが、その問いに答えたのは俺では無く菊理だった。


 「そうです。ただ、まだ自覚が無いですけれど。」


 「菊理、何の事だ?」


 「浅太さん・・・あんたが「調停者」だって事だよ。」


 あぁ、成る程。だが、俺はまだそうなるとは決めてないんだけど・・・そう思い菊理を見ると彼女は苦笑いを浮かべた。


 「正式では無いですけど既にやっている事が「調停者」ですよ?」


 「えっ!そうなの!?」


 「・・・浅太さんよ。よーく考えてみてくれな?何処の世界に女神が嫁さんで仲間の殆どが妖怪や悪魔で高レベルの悪魔の攻撃を素手で受け止められたりするが居るんだよ。そんなの人間の域を既に超越しとるがな!」





 えぇ!そうなの!?

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