限界バトルかっ飛ばして

 あの後、俺と菊理はネビ・・・美津姫様に連れられて隅田川の畔にあると言う砦?に来ていた。


 「菊理、他の3人は?」


 「瀧さんは吉原から今此方に向かっているそうです。朧さんは京に居ますが、もうすぐ・・・」


 少し離れた所から爆発じみた轟音が聞こえ、砦の人達が何事かと慌てる。


 「・・・着いた様です。」


 「そうだね・・・ビフさんは?」


 「朧さんと一緒だそうです。」


 ・・・近くで唖然としている美津姫様に事情を話しておこう・・・


 「・・・長谷川様も笑ってないで助けてくださいよ。」


 「くくく・・・いやいや、わりぃな。朧の奴ぁ相も変わらず騒がしくていけねぇ・・・くっくくく・・・」


 あーこれ絶対、身分が上の人達が慌ててるのを楽しんでるな。

 ともかく姫様に事情を話して現場へと向かうと既に砦の御侍様達に囲まれている牛車を確認した。

 牛車の暖簾がバサァッと捲れ上がり中から燕尾服に身を纏った男性がふらふらになりながら出てくる。


 「・・・朧様・・・何が「中に影響はありんす」ですか・・・潰れるかと思いましたよ・・・」


 「うちには影響ありまへんよってに。嘘吐いてはおりまへん。」


 なんだろう・・・大して離れてた訳でも無いのに朧さんの喋り方が変わってる。

 それよりも周囲が殺気だっている事の方が問題だ。


 「何やえろう仰々しいおすな?久々の召集や思て飛んで来たっちゅうのに・・・」


 「本当に飛んでいましたね・・・」


 彼女の出すその速さは身をもって体験済みではあるけど、本当に飛ぶって・・・


 「皆の者!落ち着け!彼の者達は浅太様の御仲間ぞ!無礼であろう!」


 「ほう、年長者を敬う礼儀ぐらいは弁えとうおすなぁ?」


 美津姫様が鶴の一声で場を治めようとするも朧さんの一言でまたいきり立つ。

 はぁ・・・止めるか・・・


 「・・・朧さん。それ位にしておいてください?雇い主でもあるんですから。思う所が有るのは分かりますから。」


 「そうですよmademoiselle《マドモアゼル》?元敵であっても今は違うのです。これ以上はさっきから此方を伺っている存在が黙っていないよ?」


 「せやな。誂うんはこれぐらいにしときまひょ。浅太、お久やなぁ。」


 俺はため息をつき後ろ・・・正確には後ろの建家の屋根から此方を見ている存在に詫びる。


 「はぁ・・・済まない!色々あって仲間が失礼した!」


 「何や気付いとったんかいな!気にせんでええで!元々悪いのは騙されていながらホイホイ儀式やっとった根津さんのせいやからな!」


 「ちょっ!彰さん、酷くない!?」


 抗議の声を挙げる美津姫様を無視し俺だけを見つめながらニヤリと笑うその男はひょいと屋根から飛び降りると近付いてきた。


 「そないに見つめられても俺にそんな気はあらせんで?」


 「俺にも無いな。」


 「はっ!天羽彰や。根津さん・・・美津姫様の師匠をさせてもろとる。」


 「浅太。菊理媛命の契約者にして夫だ。」


 「・・・すげぇパワーワードだな、女神の夫って・・・」


 ぱ?何だって?

 怪訝な顔をしていると「気にすんな」と天羽は誤魔化す。


 「それで?その師匠さんが俺に何の御用で?」


 「あぁ・・・あれだ、あれ。最近の農家さんはっ!」


 いきなり繰り出される左の拳。それを首を左に捻り躱すと体を反らす。反らした事で目の前を過ぎる。更にそこから肘を曲げ手の甲をぶつけてくるのを俺は右手で受け止める。天羽は体を捻り右足で蹴りだしてくる。俺はその蹴りを下から掬い上げ残された天羽の軸足を蹴る・・・が彼は倒れなかった。


 「・・・最近の農家はえらい物騒なんやな?」


 「・・・そうでもないさ。」


突如始まった格闘戦に周囲は騒然となる。しかし、俺と天羽は笑いながら続ける。


 「やっべ。マジになりそ。」


 「マジの意味は分からないけど言いたい事は伝わった。良いよ、本気で来ても。」


 「・・・へっ。じゃ、一発だけな。」


 天羽はそう言うと魔力で全身を覆う。まるで梟が人の体を得た様な真っ黒な姿になる。


 「彰さんそれは!」


 「あなた!」


 美津姫様と菊理の叫びが聞こえたが、俺と天羽はそれぞれを手で制す。


 「大丈夫だ菊理。周りの人達を下げてくれ。」


 「根津さん、皆を下がらせてな。」


 不安そうにしながらも2人は皆を下がらせる。


 「彰さん・・・」


 「大丈夫、大丈夫。心配せんでええ。」


 不安の声を美津姫様が挙げるも天羽は軽い口調で応えると「な?」と同意を求めてきたので俺も「あぁ」と応える。


 「それじゃ・・・本気で行く。」


 「せやな。こっからは限界バトルかっ飛ばして行くぜ!」

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