世直しの始まりだ!
「えっと・・・」
状況が全くわからない。
扉を開けたらお侍さんが跪きかつての強敵が土下座している。
「何だこれ・・・」
菊理と一緒に唖然としていると幸太兄が「どした?」と言いながら表に出て来た。
「うわっ!・・・せ、浅太・・・何ぞこれ?」
言いながら幸太兄は平伏し俺もそれに続くと菊理も同じく平伏する。
「お、お止めください菊理媛様!この地を守護なさっている貴方様が平伏す必要はありません!」
こちらの様子を見ていたのだろう一人のお侍さまが声を挙げる。
「今の私は女神である前に浅太様の妻であります。契約者であり夫でもある彼が平伏するのであれば、妻である私もそれに倣うが道理。私を菊理媛と御存知なら、その私が認め契約した彼も同等に扱うべし、と心得なさい人の子よ。」
「う・・・ぐ・・・面を御上げくださいませ皆々様。そして無知な我等の御無礼を御容赦ください。」
「はい。赦しましょう・・・では浅太様もお立ちを・・・」
本当に何だこれ・・・言われて俺は立ち上がるが内心大混乱している。
俺等農民がお侍さまに平伏すのは当たり前で、女神である菊理にお侍さまが平伏すのも当たり前で・・・何で俺が同列に扱われているんだ?
「・・・何でぃ、得心いってねぇみてぇだな?浅の字よ?」
「長谷川様!」
侍集団の中から聞き慣れた声が聞こえ、凄く安堵したのだが、何故この集団に長谷川様が居られるのか・・・
「おう、幸太よ。わりぃが部屋貸してくれ。詳しい話はそれからよ。」
割りと広い農家の家で良かったと今日ほど思った事は無い、とは幸太兄の言葉だが俺は今それを実感している。
何せ今目の前に居るのが・・・
「お、お姫様!?」
「そ、そう言う事になります・・・ね。」
まさか以前戦っていた相手が加賀藩のお姫様だったとは思いもよらなかった。
「では、かつての件はその「黒岩」と言う男に唆されて行っていたと?それを信じろと?」
上座に座る菊理がネビロスに問う。
本来なら加賀藩のお姫様であるネビロスいや美津姫様が座るべきなのだが、こちらにはより神格の高い神である菊理が居る為にこうなっている。
「お菊ちゃんよ。そいつぁ
「おい、同心。菊理媛命くくりひめのみこと様の御前ぞ!立場を・・・」
「止さないか十郎!私達の方が立場を弁える側なんだ!・・・申し訳ございません。部下がとんだ御無礼を・・・」
「よい。赦す。では長谷川様?我等の雇い主としてのご意見を。」
言われて長谷川様が俺の方をちらりとみるが俺を見られても困る。しかし、長谷川様は俺のその顔を見るや否やにやりと笑う。
今絶対、悪い事企んでいるよな。
「・・・あくまで嬢ちゃん達は協力者って体なんだがな。まぁ、俺等「蛟」としてはお上に匹敵する集団と繋がりが出来るってぇんだ。協力出来るに越した事ぁないやな。それにうちが頼りにならねぇ時は浅の字達をそっちに預けられるってぇのが割りとでかい。そこで、だ。浅太、この件はおめぇに一任する。」
いきなり投げたよこの人!
「協力するか否かは浅太、おめぇが決めな。」
決めろと言われてもただの百姓にどうしろと言うんだか・・・いやただのでは無いけど。
「協力するっちゅうてもただの百姓になんができると?」
「貴方は?」
「幸太言います。浅太の親代わりやらせてもろてます。」
幸太兄が俺の気持ちを代弁してくれたが常識的に考えて百姓に加賀藩のお姫様が協力要請する事自体がおかしい。
「・・・確かに普通に考えればおかしいですが、幸太殿は浅太様の行っている事については何処まで御存知でしょうか?」
「・・・ほぼ、全て聴いとります・・・しかしながら、浅太の両親からおら達が浅太預かった以上、身ぃ案ずるんは当たり前やありませんか?」
「仰る事は御尤もで御座います。しかしながら、浅太様は曲がりなりにも私が呼び出した者や私を退けております。故にその御力を御借りしたいのです。」
「・・・てぇ事だが浅太よぅ。後はてめぇの胸先1つだ。おめぇさんはよ、どうしたいよ?」
長谷川様が口論になりそうなのを無理矢理纏めて俺に回答を求める。ちらりと菊理を見ると彼女はにこりと微笑みながら応える。
「私は妻として貴方に従います。」
俺は今、どうしたいのかを自身に問う。
「俺は・・・」
何がしたい?
何が出来る?
「・・・答えは決まっている。菊理、召集をかけてくれ・・・世直しの始まりだ!」
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