よきにはからえー?

吉忠視点


 「・・・な、何なんだ、彼等は・・・」


 唖然とする吉忠達はただその光景を眺めていた。吉忠は自身の配下から、怪しい者が居る、その者が暗躍し妨害工作をしている可能性がある、そう聞かされ、どうせ自身の妻となる者の結納があるから妻達を驚かせるついでにと自ら足を運び、その怪しい者の正体を暴いてやろうと些か軽い気持ちでこの地に赴いたのだが・・・


 「九郎よ。余は何を見ているのだ?」


 「分かりませぬ・・・」


 協力を申し出てくれた者が強いのは聞いていたが大百足を無手にて上空へ舞い上げる等とは強いにも程がある。それだけなら未だしも、偶々居合わせた者も、突如この世の者とは思えぬ姿へと変わったかと思うと目で追えぬ速度で空を飛び、有ろう事かあの大百足をお手玉をするかの如くたった2人で倒したではないか。


 「さてさてさーて?何時まで死んだ振りをしとんや?」


 そう言いながら地面に墜落した叡漠へと歩み寄る先程まで黒い何かに変化していた男。


 「・・・ヒィ!」


 恐怖に怯えた叫びが聞こえ、潰れた叡漠の体から何か・・・目が複眼で昆虫の様な羽根と鎧を着た女性の様に見える者が飛び出てきた。


 「はい逃げなーい。」


 ガシッと男に首根っこを捕まれたその存在は逃げようとするもまったく外れる気配は無い。


 「はいはい暴れんやない。今からする質問に正直に答えてくれるんやったら、消滅はしないでいてやんよ?ええな?」


 逃げられないと悟ったのかその存在はがっくりと項垂れた。


 「先ずは・・・お前の名前やな。お嬢さんお名前は?」


 首根っこを捕まれた女性は答えたくないのか押し黙る。その様子にため息をついた男はおもむろに手を離すとすかさず女性の首に右腕を回して左上腕あたりを掴み、左手で相手の後頭部を押して絞めてる。


 「ぐっ!」


 「はい、1、2、3、4、5、6、7・・・」


 カクンと脱力する女性。どうやら気を失った様だ。


 「バックチョークか。で、何をするんや?」


 「ちょっとな。」


 男は気を失った女性に手をかざし何やら呟いている。女性の体がビクンッと跳ねたと思うと女性がゆっくりと目を覚まし女性はおもむろに男に跪く。


 「改めて汝の名を述べよ。」


 「・・・はい、私の名はドゥルジ・ナスでございます。」


 「ドゥルジ?あー・・・何やったっけ、蝿の女王なんは覚えてんやけど・・・」


 男が何か思い出そうと上空を見上げながら人差し指をクルクル回している。

 それを見た安藤が女性の変わり身に疑問を持ったのか男に簡素に質問する。


 「何したん?」


 「ん?契約。」


 「あぁ、なる。」


 今ので何がわかったのか皆目検討もつかないが余は1つだけ分かった事がある。恐らくこの2人は元々知り合いだったのだろう。連携が取れ過ぎている。

 なれば此度の事は余より前に計画していた?それにしては九郎達が知らぬ様な感じでいる・・・知っておれば余と同じ様な驚きを見せる事は無い・・・やはり直接聞く方が早いか・・・


 「す、すまないが余達にも理解できる様に進めては貰えぬか?如何せん状況がさっぱりなのだ。」


 「あー・・・それもそやな・・・じゃ、まず俺の仲間達と合流して、それから順を追って説明するわ。安藤もそれでええな?」


 「おう。」


 他に仲間か。今の話しぶりから安藤は此度の事は知らなかったと見える。と、すれば偶然か?安藤は偶然此処に来て、偶然余達の策に乗り、偶然知り合いに出会ったと?有り得ない・・・


 「じゃあどっか安全な所で話そうか?」


 「で、では中央の建屋の中で話しましょう。外は他の部下達に片付けさせます故。吉忠様、それで宜しいでしょうか?」


 「うむ、指示出しは九郎に任せる。では、参りましょうか。」




――――――――――――――――――――

中央建屋・広間


 あれから暫くして余達は砦内で一番大きな中央建屋へと集った。

 砦に建てられたこの建屋は他の寝たり日々を過ごすだけの小屋と違い、上座に神棚を設けた広間や奥座敷、台所や風呂、厠に至るまで身分によって別けてそれぞれ設置してありまた、家臣の為の部屋もあり下手をすれば城に住むより快適かもしれない。そして我々は入って直ぐに設営されている広間に入る。此処には12畳分の広さに神棚しかなく、各々が好きな所に座る。


 「よ、吉忠様!いけません!何故下座に御座りになろうとしていらっしゃるので!!」


 「九郎よ、何を言う。人集めにおいて余も合格者ぞ。それに集った中でも一番弱い自信はあるぞ。」


 いやしかしとごねる九郎を見かねたのか男が救い?の声を発する。


 「揉めてる所悪いんやけど、後にしてくれんか?今は状況を各々が把握する方が先や。」


 「その通りだ九郎。今は誰が何処に座ろうとも関係は無い。どうしてもと言うのであれば・・・直、あの席に座りなさい。」


 「わかったー。よきにはからえー?」


 言われて直がポスンと上座に座る。ふむ、童女が我等の主の様に振る舞う姿は、何とも言えぬ愛らしさとそこに頭を垂れる厳つい侍の姿に得も言われぬ可笑しさを醸し出す。

 思わず笑みがこぼれ誰もがほっこりとなり(九郎除く)各々が空いている席に着く。

 先程のドゥルジと名乗った女性は男の側に控える。何が起きてそうなったのかは余には分からぬが、どうやら敵対する気はもう無い様だ。


 「さて、今の状況だが・・・お?どうやら仲間が来た様や。」


 席に着いた男が立ち上がり出口の方を見ると3名程の人物が入ってきた。


 「師匠ー!うち等の出番潰さんといてーな!」


 小柄な女性が入ってくるなり不満を口にする女性に男はケラケラと笑いながら軽口を叩く。


 「悪いなー。知り合いに会えてテンション上がっちまって。」


 「そうですよ。あれ程の大物、瞬殺するなんてあんまりです。」


 更にその後ろから褐色の肌の女性が男に声をかける。すると最後に見知った顔が項垂れながら入ってきた。


 「姫様方の高すぎる基準にはもう何も言いませぬが、あの討滅は敵が憐れに思えてきましたぞ・・・」


 「そう言うなって。・・・さてさて皆の衆。こんで全ての面子が揃った所で、各々自己紹介といこうか?」



 ふむ、自己紹介か・・・悪くない。

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