そこにシビレもしないし憧れもしない!
「協力者」との交渉をどうするかを悩みながら、秋津さんに連れられて俺達はわざわざ招集に応じてくれた人物に会いに向かっていた。
「秋津さん。あんた等のお眼鏡に叶った人物ってどんな奴?」
「御眼鏡?
並みではないとは中々の人物だな。
だが、体格良くて人柄も良いって何処の英傑だ?何か最期に仲間を先に行かせて大往生しそう。「お前等は先に行け!」とか何とか言って。
「そっかータンカーとして機能しそうだな。で?名前は?」
タンカーとはゲーム用語で耐久・防御に特化した前衛の事で主に戦士や騎士系の職業が勤める。反面火力が無かったり魔法にめっさ弱かったりする。勿論ゲームによっては例外もいたり、上級職で魔法にも強くなったりする。
「は?たん、かー?」
「あ、悪ぃ。壁みたいな奴の事や。」
「成る程」と秋津さんが納得する。いかんな、つい普通に喋ってしまう。ある程度なら外来語が入ってきてるのは分かるけど、この時代だと一般的ではないし、嗜好品位しか知らんやろ。
「で、その者の名で御座るが「あんどう」と名乗っていたで御座るな。」
「あんどうさんね。他に情報は?得意な事とかさ。」
「特に申しておられなんだが、手合わせした部下によりますと無手であるにも関わらず簡単に我等を組伏せられたと。」
秋津さんの部下がどれ程なのかは知らないが、此処に来るまでに通った道すがら遠目に浪人や剣術道場をアナライズして大体分かったのだが、道場の師範はともかく、師範代でレベル20代後半、門下生で5、浪人でピンキリだが10~20と言うのが平均値っぽい。
師範に至っては律っさんどころか根津さんでもヤバい位。素の状態の俺でもヤバい。遠目に見てるのに師範だけは俺と目が合いかけた・・・いや、合ってたな。
まぁ、道場は一ヶ所しか見てないし、他の道場だと違うのかもしれんが。
ともかく普通の侍がそこそこ強いのに秋津さんの部下が弱い訳が無い。それをあっさり組伏すと言う事は俺等レベルの可能性があるって事だ。ついでに言うと秋津さんは28だったりする・・・レベルがね。
「何や強そうやな・・・後は・・・」
「この世ならざる者達を倒せるか否かで御座いますな。」
そこが重要なんやな。どんなに強くても実体を持っていない幽霊何かが出てくると役立たずになるし、そんな敵は五万と居る。
例えばスライムとか。スライムとはドロドロの液体の集合体で理性や知性は無いが何でも消化する魔物だ。そんな奴をどう斬れと?そりゃそいつを構成する核みたいな物が見えているなら良いけど、1発で核を破壊できなければ武器を溶かされて素手になる。手はあるがかなり大変になるし1体相手にしてる間に他の敵が居ると負け確定だ。
他にはゴーレム系。こいつらは色んなタイプが居るが一言で言えば自動で動く泥人形で元の素材によって呼び名が変わる。鉄ならアイアンゴーレム、石ならストーンゴーレムみたいに。これの厄介な所は鉱石や金属ならアホ程堅く、まず斬れない。バラけても石なんてそこらにあるからすぐ戻る。これが砂だったら?マグマや酸や毒だったら?最悪なのがフレッシュゴーレムと言う死体で作られたゴーレムだ。俺は剣とかでは戦いたくないな。
つまりはそう言う奴等と戦う為の手段である魔法的な物があるかどうかだ。
今のこの世界は魔法がある(俺等位だが)けど現実問題として弱点を突くとしたら火なら松明や火薬を使った爆発、摩擦による発火かな?水なら液体窒素か鉄砲水で海まで流すか。電撃は・・・静電気か落雷するのを祈る?風は巨大な扇風機がいるね。
考えてて嫌になってきた。
「うーん・・・秋津さん達は属性・・・火とか水とか使った攻撃ってあるの?」
「火とかで御座るか?火矢や水攻め位で御座るな。」
「て事はこんなんは誰もできんって事やな?」
言いながら俺は自分の手にボッ!と焔をだすと秋津さんは一瞬驚くも直ぐに落ち着く。
「何とも面妖な・・・その様な事は我々人間には出来ませぬ。それこそ妖の者を使役でもしなければ不可能で御座います。それが出来るのなら陰陽師で御座ろう。」
やっぱできないか。
「じゃあ秋津さん達はどうやって戦っているんだ?」
「それこそ真っ先に逃げまする。徳の高い僧によって清められた武具を持っていたり自ら修行僧であるなら退魔の法でもあるので御座ろうが。」
「なあ十郎?せやったらその人集めん時にどうやってそんな事できるか見極めとんのや?」
「それは簡単だ。徳の高い僧の協力者が居るからな。僧に観て貰えれば適正かどうかは分かろう?」
ふむふむ。そんな坊さんおるんか・・・すんげー嫌な予感しかしないな。
で、人は集まって無いと・・・それは間違い無く・・・
俺はちらっと律っさんの方を見ると同じ考えらしく俺の方を見て険しい顔で頷く。
となると、何処か落ち着ける所で秋津さんに話をして対策を練らないと・・・
「ねぇ十郎?そのお坊様が何か仕組んで人を集めさせない様にしてるんじゃないかな?」
あ・・・根津さん言ったー!そこにシビレもしないし憧れもしない!
「・・・は?ひ、姫様ななななにを?」
秋津さんはおもっきり動揺し俺と律っさんは唖然とする・・・
根津さんがぶっちゃけてくれたが。
「え?どうしたの?そんな驚いた顔して?」
「ミッチーのアホー!気付いたけど確証も無いし十郎が混乱するから黙っとったのに何で言っちゃうかなー!?」
「え?え?ええぇ・・・」
「とととりあえず、至急部下と連絡して真偽を確かめねば!」
「まてまてまてまて!!そりゃ不味い!」
秋津さんが慌てて動くのを俺はすかさず止める。
「お、お止めくださるな天羽殿!今すぐ真偽を確かめねば我等の策が無駄になるだけでなく部下と集ってくださった方の御命が!」
「だから待てって!あんな?確認すんで?その僧が何処かしらの間者や敵って確証は?その場合の黒幕は?もしそいつが人間よりも強い妖怪とかだったら?そう考えてみ?間違い無く身柄を拘束しようとして返り討ちにあうのが関の山やで?それにその「あんどう」って奴がその坊さんより強かったら良いけどどれ程なのか分からんし。協力してくれるか分からんしな。だからちょっと落ち着け。」
「お、おう・・・」
俺が一気に捲し立てた事で秋津さんが少しだけ落ち着きを取り戻す。
「根津さんもナチュラルに爆弾落とさんでや・・・」
「う、ご、ごめん・・・?」
天然な娘と思ってたが此処で天然が爆発するか・・・
「とりあえず師匠・・・どうします?」
「何処か落ち着ける場所で策を練よう。先ずは・・・お茶にせん?」
俺達は今だ動揺を隠せない秋津さんを宥めながら宿を探しに歩を進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます