知っているのか
「どこをどうしてそうなった?」
「某もさっぱり・・・ただ、部下が聞いた話では相手方も「蛟」の傘下に入った訳ではなく、あくまで協力者でしかなく「蛟」側で処理しきれない事案を請け負っているだけとの事。故に協力できるなら「依頼」として受けると申しておると聞きました。」
うーん・・・協力者か・・・
「こっちの面子はどれぐらい居るんや?」
「お恥ずかしい話、集まりは悪ぅ御座います・・・想定される敵対象が妖の者となれば一定以上の強さと精神力を併せ持っていなければ勤まりませぬ故、ただ強いだけでは役に立ちませぬ。更に義に厚く人格者でなくばならず者と変わりませぬ故、殆ど居ないので御座います・・・」
「せ、正確には何人や?」
「・・・1人で御座います・・・」
ダメじゃねーか・・・ハードルが高すぎるのか、面接が厳しいのか。
どっちにしろ組織どころか集団としても少なすぎる。下手すればダチ同士が集まっただけになる。
「こりゃさっきの協力者とやらに依頼して契約をするしかないかな・・・」
「それはダメ!」
さっきまでお姫様らしく笑顔のまま無言を貫いていた根津さんが急に大声をあげる。
「ど、どうしたん!急に大声で・・・」
「あ、いや、えっと・・・」
根津さんがしどろもどろに何かを誤魔化そうとする。何や?何があったんや!
「・・・あー・・・恐らくあれの事やな・・・」
律っさんが何かを思い出したのか1人納得している。律っさんは何があったか知っている?俺は思わず聞き返す。
「知っているのかライデン!」
「うむ。あれは古代中国に伝わる・・・って何言わせとんねん!ちゃうちゃう!なぁミッチー?この場合しゃーないんとちゃう?きちんと話せば分かってくれるはずやで?」
「う、うう・・・で、でも・・・」
「最悪うちと師匠で説得するさかいな?諦めーや。」
俺も説得?何の話?
「えっと、何や根津さんはその協力者集団と知り合いみたいやけど・・・何かあったん?」
「ぐ・・・そ、それは・・・」
「黒岩の奴の命令でその集団と敵対してもうてん。ミッチーは。」
「ちょっ!」
あー・・・それでかー・・・それは会いたくないわなー・・・
「はぁ。で?どうしてそうなったん?そこんとこ詳しく。」
「実は・・・」
「律っちゃん!」
余程はずかしいのか必死に止めようと根津さんが頑張るが残念。きっちりと聞かせてもらわなければ交渉するのに必要なんだ。
「・・・て事があったのよ。(第1章参照)まぁ、それ以上フラグも何も立たへんかったけどな。」
うん。それどこのラノベ?
いや、それを言ったら俺はやれやれ系になりそう・・・てかなって・・・る?
「そりゃ・・・キッツいな・・・」
がっつり敵対してんやな・・・これで向こうが「よし!わかった!よろしく!」ってなったらそいつ等頭湧いとんで・・・
根津さんのせいって事ではないが、相手からしたら恋人を贄にされた怨敵でしかない。
「どうすっぺー・・・」
「ダメ元で話すだけ話して無理やったらそん時やない?」
「・・・それと今居る1人にも面通しを御願い致しまする。ようやっと見つけた逸材なれば・・・」
あぁ・・・頭痛い・・・
――――――――――――――――――――
江戸の入り口~品川宿とある岡場所にて
「空いてるかい?」
そう言って笠と簑をつけた旅人が立ち寄ったその場所は、江戸・日本橋に最も近い宿場町の1つ品川宿(東海道の起点である日本橋から約8 km以内のところにあった宿場町で、江戸と地方を結ぶ各街道の最初の宿場町であり、江戸の出入り口として重要な役割を担っている。他にも千住宿・板橋宿・内藤新宿があり江戸四宿と言われている)の中にあるとある
「おぉ、これはこれはよく入らしてくださいました。どうぞどうぞ、勿論、空いておりますよ。おーい。お客様だぞ!足濯ぎを持ってこんか!」
番頭らしい中年の男が対応し「はいただいまー!」と奉公人の女性が直ぐ様、湯の入った足濯ぎの
「悪いね。そうそう、連れが居るんだ。」
旅人がそう言うと後ろに隠れていたのだろう8歳ぐらいの女の子が現れる。
足湯で汚れを落とす旅人に番頭はそっと耳打ちをする。
「お客様・・・その、誠に申し上げにくいのですが・・・うちはその・・・」
「岡場所で飯盛女が居るんだろ?知ってるさ。」
岡場所とは幕府非公認の私娼屋が集まった遊郭のことである。そしてそこで働く娼婦達は
「そっちは気にしなくて良い。ここを選んだのは湯に浸かれるからだ。それにうちの娘の肌を他の野郎どもに見られたくないからな。」
「つまり旦那はうちの奉公人達に御興味無いと?」
「そうじゃないが彼女達が風呂に入る時に一緒に入れて貰いたいんだ。俺と入るのも1人で入れるのも不安なんだ。ま、バカな男の親心と思ってくれ。」
「あぁ、成る程。」と納得したのか番頭はそれ以上追及しなかった。
「それではお部屋の方に御案内を。」
「あぁ、それと後で金持ってそうなおっさんが俺を訪ねてくると思う。」
そう言って旅人が番頭に手拭い包みを渡す。受け取った番頭はその感触に目を見開いた。布越しにでもわかるその独特の楕円の形と重さ。それが明らかな厚みを持ち己が手にその存在感を重さをもって主張してくる。
(この重さ・・・厚み・・・あきらかに10を超えている!)
予想外の重みに番頭は慌てて目の前の旅人を見る。この当時の宿代は幕府公認の吉原でもない限り、普通の宿で大体200文~300文(約5000円~7500円)であり、旅人が入った旅籠はそういう場所である為、値段が上乗せされ600文以上(約20000円~)である。ちなみに吉原は1両(10万円)からとなっているので、岡場所は安いっちゃ安い。
以上の事を鑑みれば旅人が番頭に手渡した金額があり得ない額である。
「こ、これは・・・」
「暫くの宿代とそのおっさんが来た時の人払いだ。娘を風呂に入れる手間賃もな。」
それにしても貰いすぎだ。そう思い番頭が慌てながら返そうとすると足湯を終えた旅人がそっと手で押し返す。
「良いから受け取んな。Give and takeって奴だ。」
「・・・は?え?今なんと・・・」
旅人が番頭の肩をポンポンと叩き女の子を連れて部屋へと向かうのを番頭はポカンとして見つめるしかなかった。
この時、番頭が金払いの良い旅人を訝しんでいれば。簑の端についた汚れに気付いていれば。
品川宿の喧騒が番頭の疑問を飲み込み、何時も通りの1日として過ぎていった。
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