一刻程問い詰めたい
「・・・で?大体は分かったけど、きちんと説明してくれんか?」
十郎と呼ばれた兄さんが「承知」と俺に振り向き少し考えた後、語り出す。
「ふむ。では某の事からお話いたしましょう。拙者、秋津十郎貞義と申す者でござる。こちらに御わす美津様、律とは幼少の頃より世話役としてお仕えし、元服の後、草として各地へと赴いておりました。」
仕えてた割りには律っさんに対してかなりきつい事言ってたが、まあ、それは後で聞くとして・・・
「ふむ・・・さっき軽く聞いたな。」
「美津様の御父上にあらせられます加賀藩5代藩主前田綱紀様の命により悪しき者の企みを防ぐ為、こうして馳せ参じました。」
・・・まぢか。とんでもない大物出てきたなぁおい。確かに今までの経緯で根津さんが何処かの藩のお姫様ってのは分かってたが、まさかの加賀藩だよ。百万石だよ。
「律っさん、まぢか?」
「まぢよ。」
「すげぇ大物出てきたなぁ。」
「でしょ。」と律っさんが(無い)胸を張っているのだが、根津さんはキョトンとした顔をしている。
「えっと、何が「まぢ」で「大物」なのか分かんないのだけど・・・御義父様って凄いのかな?それに私も律っちゃんも運良く拾われただけだから・・・義父上も私もそんなに凄く無いと思うんだけど?」
そう言うのは早く言ってくれ・・・てか、何で律っさんや秋津さんまで「え?何いってんのこの娘?」て顔してんのよ?
「そっかぁ~・・・じゃなかと!そう言うのは早く言ってくれ!それに加賀藩っていや百万石!って出るぐらいには有名なんだが!?」
「いやー私、時代劇とか見てなかったから・・・」
「そう言う問題じゃ・・・律っさんや、何で教えんかったんや!」
「正直すまんかった・・・余りにも普通にしてたから・・・」
「某も姫様にこうも御自覚がなかったとは気付きもしなんだ・・・」
はぁ・・・根津さん以外全員がガックリ肩を落としたが、話が進まないので後で説明するとしよう・・・
「はぁ・・・後で律っさんと一緒に説明するか・・・んで?その悪しき者って、美津さんから聞いた黒岩って奴の事か?」
「それも御座いますが、何時の世も要らぬ愚考をする者は後を絶ちませぬゆえ。」
聞いてたのは何か怪しいってぐらいだったけど、やっぱ黒岩案件入ってるのね・・・それに確かにその手の輩は後を絶たないけどもその言い方だと・・・
「て事は何か?そう言うのをぶっ潰す組織とか集団に入れと?」
「如何にも。」と秋津さんが頷く。
「今、殿の命でその下地を固めるべく我等草が東奔西走し集めておる最中で御座います。そしてその旗頭として美津姫様、姫様にその御役目を果たされます様、どうか、御頼み申します。」
集めるのは良いとして、旗頭に根津さんを立たせる・・・それっていざという時には陣頭指揮に立つ、又は・・・
「それってさ。何かあった時には責任者として率先して腹を斬れって事やな?」
俺のこの一言で驚愕の表情になる2人と苦い顔をする秋津さん。
「実際問題、相手がただの悪党とかなら問題ないんやけど、相手が搦め手で来たら?その悪党が身分が高い・・・例えば朝廷内部の者なら?要救助者、特に重要人物を人質にしたら?その人物が死んだ時にこっちの責だと言われたら?それが海外の・・・いや諸外国の陰謀とかだったら?・・・挙げれば切りがないが、そこんとこ分かって言うとんのか?武士の、侍の夾侍とか根津さんの立場が都合が良いからで言ってんやないのか?」
「・・・返す言葉も見つからん・・・し、しかし、姫様を切り捨てる様な事は絶対にありは・・・」
「いいや、するね!」
断言する俺の言葉に秋津さんは今度こそ閉口する。
どう切り替えそうか、どう説得するか必死に考えているんだろうが、これは事実。
「ね、ねえ、その、何て言うか、私は、その・・・」
「し、師匠・・・す、すんません!」
「り、律っちゃん!?」
ガバッと頭を下げる律っさん。
「う、うちはアホや・・・どアホウや!さっきも護ると誓っておきながら出遅れ、十郎ごときに突っ込まれ、舌の根ぇも乾かんうちに旗頭になるっちゅうリスクをうちは気付かなんだ!」
大泣きしながら猛省する律っさん。いや俺は本人の居ないとこで勝手に話進めて、祭り上げて、断らない事前提で話しているのをぶん殴る代わりに突っ込んだだけだから、そこまでへこまんでも・・・いやへこむか。
「あー・・・そこまで言うんやったら、努力、そ、そう!次、努力すればええねん!やから、な?ちょっと落ち着こ?な?」
「う゛ん゛・・・わ゛がっ゛だぁ゛・・・ぐずっ・・・」
ちょっと焦ったけど何とか律っさんは落ち着きを取り戻し始めた。
・・・マジで焦ったわ。
「・・・あの跳ねっ返りがこうなるとはな・・・御主は一体・・・いやそれよりも貴方様の御名前を教えては貰えぬか?」
そう言えば未だ名乗ってなかったな。
「天羽彰。」
「承知した、天羽殿。それで先程の件で御座るが・・・」
「ん?別にいんやない?」
「は?」と唖然とした顔になる秋津さん。
「現状、そう言った組織は多分他にも有るんやろうけど、恐らく上の方しか護れん組織や無いか?もしくは小さい範囲・・・地方や地域単位・・・っ事は無いか。せやからうちらが組織を作れれば細かい穴っての?そう言うのを埋めれるとは思うんや。せやから別にええって事。」
俺のその言葉には事実それ以外に他意はない。
古来より朝廷や時の
それに俺等の様な超常な存在の有無に限らず、何かしら特化した組織が無い方が逆に危ない。
「・・・貴方様は一体何処まで・・・いやそう考える方が自然であるのは明白か。」
「やろ?でなきゃ忍者何てもんは存在せんよ。」
「にん・・・?」
秋津さんが首を傾げる。
「ぐすっ、し、師匠。この時代だと「忍び」とか「忍術使い」「乱破(らっぱ)」「素破(すっぱ)」が一般的で、「忍者」が一般的になったんは戦後やねん。地方で呼び名もかわっとったから、十郎とかには「忍び」の方が意味は伝わるねん。せやろ?」
「・・・律が何故影の者である我等についてそんなに詳しいのか一刻程問い詰めたい・・・殿は我等について「草」と申される故、そう呼んでいただければ。」
「お、おう・・・」
流石、歴女。まさか忍者についても詳しいとは思わなかったよ。
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