俺は通りすがりの

 遠くに見える山々が朝日に照らされ輝いて見える素晴らしい風景の中、人々の手によって作られた畦道あぜみちを俺とネビロス事、根津さんと2人で生前?の話で盛り上がりつつ、根津さんの魔力操作修業をしながら歩いていた。



 「あーじゃあ、根津さんは俺との時間差はそないに変わらんのか?」



 「ええ、大阪は初めてだったから場所が合ってるか分からないんだけど・・・あ。」



 音も無く細かく砕けていく俺のジャケット見て「また失敗か・・・」と根津さんが呟く。

 ここに至るまでにお互いがどういう経緯で「こちら」に来たのかの情報交換していたのだが、どうやら彼女もあの地下鉄の脱線事故に巻き込まれた様で、脱線した列車の突撃で即死だった俺とは少し違い、吹き飛んできた瓦礫の直撃で死んだらしい。

 偶然と思いたいがタイミングが良すぎる気もしないでは無い。

 とは言え、「こちら」に来た転生者が俺を含めて今の所3だけなので、可能性も捨てきれない。





 確認しようにも出来ない・・・事も無いがもう少し情報を集めてからにしたい。





 「焦らんでええで。さっきより維持する時間自体は延びてきているし、後は慣れかな?っと。これで良しっと。」



 俺はジャケットを魔力で作り出し彼女に着せる。



 「何度もごめんなさい。魔力だって無限じゃ無いのに・・・」


 「これくらい、息するのと大して変わらんて、気にすんな。それよりそろそろ自分で作り出せる様に。まずはパンツからな?」


 「なっ!維持するだけでも大変なのに作成もやるの!?」


 「当たり前だ。最初にも言ったけど「魔力操作」は俺等悪魔にとっては「呼吸」と変わらへん。同時にでけんとそれは「呼吸」やなく意識して行う「深呼吸」やで?ずっと「深呼吸」し続けるんか?」



 「ぐぅ・・・」と呻きながらも維持と作成を始める彼女を見ながら、ふと苛めたくなった・・・と言うかもうちょいこの世界の情報が欲しくなった。



 7:3の割合で。



 「根津さんの家?迄は後どんぐらい?」


 「ん?歩いて1時間位かな?あっ!・・・また失敗か・・・で、それがどうしたの?」


 「ふむ・・・じゃ、維持してる間だけ作成しながら移動して、失敗したら立ち止まって作成。1分間維持してからまた作成しながら移動を繰り返そうか。」


 「お、鬼か!!それじゃ何時までも帰れないじゃ・・・」


 「当たり前だろうが。悪魔として転生してから今日まで自然に出来る事をやってこなかったんだ。そんぐらいやらんと。後、鬼やない。悪魔や。」


 「嫌だー!!」





 流石、江戸時代。






 遠くまで声が響くなー。





――――――――――――――――――――

翌日――早朝


 「ネビロス様、お帰りなさ・・・い?」


 いや、凄いな。家って言ってたからてっきり長屋とかを想像してたけどまさか大名屋敷とは思わなかった。



 「えっと・・・どちら様でしょうか?」



 確か根津さんの話では10代位の娘も転生者だったな。多分彼女だろう。



 「俺は通りすがりのヒーローだ。覚えておけ。」


 「はい、お断りします。世界でもなんでも破壊して良いからネビロス様を返してください?人呼びますよ?」



 分かる人にしか分からないネタ台詞を怪訝な顔で俺を睨みながらも彼女は冷静に返してくる。



 どうやら彼女で間違いなさそうだ。



 「返してあげたいが根津さん・・・いやネビロスはこの状態だかんな。」



 根津さんは今、魔力操作修業の疲れで眠ってしまった為、俺が背負っている。

 根津さんは変に努力家なのか「悔しい!ムカつく!」と言いながら俺の制止も聞かずに一昼夜やり続け倒れてしまった。

 無理しても逆に疲れが蓄積されるだけで、ポテンシャルは低下するだけなんだがな。



 因みに今彼女は全裸では無く、俺が服を作成して着せている・・・エロい事はしてませんよ?



 「今まで出来なかった事を習得する為にこうなるまで頑張った彼女をゆっくり寝かしてやりたいんで、部屋、案内してくれんか?堕天使バルベリス・・・いや、春部律子さん?」


 突如、春部さんは西洋甲冑を身を纏って自身よりも巨大なランス(騎士の持つ馬上で使う槍)を顔面目掛けて突き出してきた。

 俺が首を傾げるとその攻撃がビタッと止まる。

 その穂先が気を失っている根津さんを捕らえてしまっている。



 「・・・悪くはないけど修業不足やな。狙うなら足元を狙わな。今みたいにされたら隙だらけになっちまう。」


 鋭い眼差しで俺を睨み付ける彼女は微動だにしない。

 悪魔のレベルに胡座をかいて偉そうに見せ掛けている俺とは違い、相当な修練を積んできた事が動きの端々に見てとれる。

 恐らく同じレベルならば彼女は俺や根津さんよりも遥かに強い筈だ。

 

 誰かに師事するか自身で編み出すかして経験その物を積まないと俺、直ぐ死んじゃいそう・・・


 「・・・何者ですか?何処まで知ってるんですか?」


 睨みながら春部さんは自信の疑問を投げ掛けてくる。


 「詳しくは彼女をフートンで寝かしてからやな。ま、根津さんと春部さんにとって味方と思ってくれ。今だけで良いからさ。」


 「・・・これ見よがしに・・・分かりました。今だけです・・・此方へ。」



 槍を引き元の女中の姿に戻ると恐らく根津さんの部屋だろう場所に案内してくれる。




 ・・・彼女に教えを乞うのも良いかもしれない・・・此処ぞとばかりにフルボッコにされそうなんやけどな・・・




 部屋に入り根津さんを布団に寝かせると春部さんが少し離れた所で俺を手招きする。

 俺は根津さんを起こさない様に立ちあがり彼女の側に座る。



 「では約束通り、教えてもらえますか?」



 「ちょいまち。・・・アナライズ。」



 ほぼ、直感だったがこの部屋に対してアナライズを行ってみる。




 ・・・おー・・・




 「どうかしまし・・・!」



 俺は部屋の隅、死角になっている場所へ自身の魔力を飛ばす。

 バチッと音がするとそこから薄く煙が上がる。そこを調べてみると焼け焦げてはいるが監視用と思われるお札があった。


 「・・・どうやら監視されていたみたいやな。」


 「なっ・・・どうして監視と分かるんですか?」


 春部さんが俺を睨みながら質問してくる。出来れば睨まないで欲しいけど、信用ならんのはよー分かる。



 「調査スキルは1つは取っとくもんやで。さっきこの部屋を対象にアナライズ・・・「鑑定」スキルを掛けたんや。本来このスキルは人物や悪魔を調べるものやけど「調べる」という観点においてはこう言う風に物品に使用しても何ら問題は無い。」


 「成る程・・・そうやって私達も調べたんですねこの変態。」


 「酷くない!?そら勝手に調べたのは申し訳無いけど、こっちは昨日召喚されたばかりなんやで?情報収集ぐらいするだろ?」


 「確かに私も調査はしましたしね。今度そのスキル教えて貰えます?寝てる間に美津にエロい事してたのを黙っときますんで。」


 「しとるかい!それよりも今まで服の着方を教えなかった方がおかしいだろうが!」


 「さて何の事やら。」


 そう言ってしらばっくれる春部さん。




 絶対、楽しんでただろ。

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