第二章

転生者の章

なん・・・だと・・・

2018年―大阪長居



 「今、君らの居るフロアには淫蕩に耽っている一般人が大量に居るよ。」


 「どうしよ。潜入してるNPCも居るんですよね?」


 「そだよ。あ、君を誘った隊員達も乱れ楽しんでるよ。」


 「・・・2階は?」


 「似たような物だけどメンツがね~・・・あれ?前にTVで見た大臣が、こっちには確か警視総監だったような・・・」


 「あ、私は隅の方で震えてます。」



 その日俺は皆で日取りを決めて集まり某悪魔召還・退治のTRPGを楽しんでいた。

 TRPGとはテーブルトークRPGと呼ばれ、テーブルゲームのジャンルの一つでゲーム機などのコンピュータを使わずに、紙や鉛筆、サイコロなどの道具を用いて、人間同士の会話とルールブックに記載されたルールに従って遊ぶ“対話型”のロールプレイングゲームを指す言葉である(思い切りwiki抜粋)

 最近ではオンラインでも出来るらしく、今回参加している一人がやっているらしい。


 「医者の私的には今この建物の中で充満していると思われる空気の成分を調べたい。」


 「あ、君が昔勤めていた白い巨塔の大先生が、どう見ても10歳以下の娘に乗っかってるよ。」


 「なんですとー!!」


 今回のシナリオは俺達は最近設立された悪魔や不可思議な現象を調査・解決するXなファイルみたいな部署で働く隊員(と言っても実隊員はダチが演じる一人だけで他は外部協力者、と言う設定)である。

 また、今回のキャンペーン(TRPGでは長いシナリオを同じメンバーで続けて行くことを言う)ではマスターはこの家の旦那さんでメンバーは俺とダチ、奥さんと奥さんの弟さんと中学生になった息子さんで、元々旦那さんと奥さんが結婚する前から(2人を出逢わせたのは俺等だったと思う)皆で仲良く遊んでいたメンバーにゲーム業界スタッフに知人が多い弟さんと初心者の息子さんを加えて初心者サポート(ダチに丸投げ)しながら楽しんでいるわけだ。


 「そろそろボス戦だけどどうすんの?」


 「俺だけ間に合わないんで皆の端末で、観戦・・・いや、ナビゲートしときます!」


 「TRPGのボス戦でPCの1人がナビゲーターって長いマスター歴で初めてだよ!次のシナリオから対策考えな・・・」


 「今のレベルじゃ何も出来ないですからね。居る意味無いし。あ、レベルが上がる次からは参戦しますからね?(フラグ)

 今回うちの娘居なくても勝てるって!」


 その後、多少苦戦しながらも結果は予想通りPC側の勝利に終わりその日のセッションが終了した。


 「じゃ、また次回~日取り決まったら連絡するよー。」


 「また~」


 皆と別れた俺とダチは地下鉄に向かって歩き出す。


 「いやー今日は上手くハマったなー」


 「ほんまよーやるな。上手い事話の外に立ちやがって・・・」


 「気がついたら中心で地雷踏んでるお前の方が凄いと思うが?」


 「ちゃうて、地雷を埋めて作動するかの確認を自分で踏んで確認しとるだけだって!」


 「それが一番あかんのとちゃうんか!?」


 電車が来るまでの間、今日の反省と言う名の思い出話に花を咲かせる。


 「でもうちのキャラ戦闘じゃ衝撃系しか出来んからきついわ~」


 「俺は次からだな。今回でのレベルアップで漸く戦闘できる。」


 「プランは?」


 「それはだな・・・」


 『到着の電車は、千里中央行きで御座います・・・』


 その時、調度電車が来る・・・はずだった。





 俺達が最後に見たのは線路から外れ、此方へ飛んでくる先頭車輌だった。





――――――――――――――――――――



 『小僧・・・おい小僧!』



 暗い闇の中、誰かが呼ぶ声が聞こえる。



 『こら小僧!!起きているのは分かっている!!無視するんじゃあない!!』



 ――ち、バレてたか。



 『当たり前だ。小僧を助けたのは我ぞ?』



 ――あ、やっぱ電車が突っ込んで来たのは夢じゃなかったのね。んでさ、誰がちっちゃいおっさんやねん!



 『我はそんな事は言っとらんが。』



 ――あ、そ。で、助けたってどう言う事?



 『うむ。本来ならそのまま死んでいたのだがな・・・』



 ――いや、そこは「醤油事しょーゆーこと!」を挟まなあかんやろ!


 『知るか!・・・話が続かんから黙ってろ。』


 ――えー。


 『もういい・・・ともかく小僧は死んでしまったがその魂が元の世界に戻れなくなっていた。そこを我が拾ってこうしている。』



 ――なん・・・だと・・・他の人は?



 『知らん。』



 ――さよか。



 『でだ、実は我は少し困った事になっていてな・・・』



 ――協力をしろと?



 『そうだ。』



 ――内容は?



 『我はお主が居た次元とは違う世界に召還されようとしているが、出来れば拒否したい。そこでお主が代わりに行き、事を成してくれれば良い。』



 ――行くのは良いとして事を成した後、俺はどうなる?



 『どうもならん。そのままその世界で我の代わりとして生きていけば良い。』



 ――それは人としてか?



 『我の代わり故、悪魔としてだ。』



 ――なるほど、悪魔だったのな。まあ、それは良いが俺のメリットは?何も無しに悪魔として行かされても正直困るが。



 『ふむ・・・我からの提案だからな。出来る範囲であれば考えよう。何が望みだ?』



 ――それはだな・・・



 俺は出来る限り自分のメリットになる様に案を出していく。



 『大体は可能だ。飲もう。それで?契約は成立でいいか?』



 ――だが、断る!!



 『はぁっ?!』



 ――うっそー、言ってみたかっただけだ。



 『・・・お主、悪魔より悪魔らしくないか?』



 ――そんな事は無い・・・はず。そんな拗ねんなよ。



 『拗ねてはおらん。疲れただけだ。』



 ――只の人間が悪魔を精神的に疲れさせれたのなら、してやったりかな、と。後は行く先がどんな世界か大まかでいいから教えてくれ。



 『そうだな・・・お主の世界で言えば過去、江戸時代に当たる。そしてお主からすれば過去と言うだけで何も変わらんと思う。』



 ――OK、転移と転生を合わせてタイムスリップした感じだな。



 『そうだ。最近の奴等は話が早くて助かる。・・・もう少し後悔とか何かしら有りそうなのだがな。』



 ――そりゃあるよ。でもな?・・・あんたにはその気は無くても俺からすれば死の先を与えてくれたんだ。後悔とかするよりも今はワクワクが止まらんのだ。



 『・・・そうか。ならば良し。我も目の前で泣き喚かれたら面倒だったしな。・・・そろそろ召喚のゲートが開かれるぞ。』



 悪魔が言うや否や暗闇の中に丸い光の輪が現れる。



 ――最後に1つだけ。向こうで何て名乗れば良い?あんたの代わりなんだからそれぐらい教えれ?



 『そうだな、我の名は・・・』




――――――――――――――――――――


1698年―深夜・とある森の中



 「黒岩の奴・・・少しは休ませろっての!」


 私は人気の無いこの森で1人愚痴りながら儀式の準備を行う。

 20は下らない死体の数に辟易としながら周りに魔方陣を構築する。


 「一体何処からこんな数の死体を持ってくるんだか・・・」


 はぁ・・・とため息を吐きながらも召喚陣は完成する。


 「・・・ベントラーベントラー・・・」


 自分のスキルのお陰か本来なら全く知らない召喚の呪文を唱える事ができる。

 何故かは知らない・・・いや、忘れているのだと思う。

 何かしらの存在と会話した感覚はあるけども何分この世界に転生する前だから全く記憶が無い。

 呪文を唱えていくと地面に描かれた魔方陣が紫色に光だす。


 「我が呼び掛けに応じ顕現せよ!」


 魔方陣が光る中、集められた死体が光となり上空へと上がり輪となる。そして輪の中心に向かって渦を巻きながら光が集約されていき、輪の中が渦巻く光で満たされた瞬間弾け飛んだ。


 「・・・成功・・・かな?」


 光が収まり、夜の暗さと森の静けさが戻って行く中で私が喚び出した悪魔は私を目視したのだろう、私の方に向き直し名乗りを挙げた。




 「堕天使アモン!お喚びとあって俺、参上!!」




 私は何か昔見たヒーロー物のポーズをとる青年に頭が痛くなってきた。

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