で、合ってるよね?ビフ君?

解説回3


――――――――――――――――――――


 「話の腰を折ってわりぃがよ、何だ?その「うぶの群れ」ってのは?俺は遭遇してねぇぞ?」


 長谷川様はあの群れに遭遇していない?どう言う事だ?と疑問に思った時、彼女が「やっぱり」と声を挙げる。


 「佐渡の妖怪「うぶ」なんですがおじ様はやっぱり遭遇していませんでしたね。

 あれは単純に一定数の侵入者に対する刺客で、おじ様は1人でしたので遭遇しなかったんですよ。」


 「そんなものが・・・」と長谷川様は1人得心する。しかしそれがどう繋がるか分からない。


 「だけどそれがどう繋がるんだ?系統が違うのがどう関わってくるんだ?」


 「浅兄ちゃん、それはね?あの「うぶ」達はビフ君が操っていた訳じゃないの。もっと別のだと思う。」


 「誰か・・・てぇとあのネビロスとか名乗った奴か?」


 「長谷川様、違います。恐らくネビロスを従えている「誰か」と思います。」


 「ついでに補足するとだけど、俺もネビロスの旦那もネクロマンシーが得意だからその「うぶ」は専門外とは言わないけど趣味じゃない。ネビロスの旦那はどうか知らんけど。あ!後、周りにいたゾンビどもも俺の趣味じゃないからな!」


 「え?違うの?」


 「ちゃうちゃう!何が悲しくてドロドロのグッチャグチャ、使役しなきゃならないんだよ!気持ち悪ぃ!俺の美学に反するわ!」


 彼女の言葉に全力否定するビフロンス。


 「あー・・・ねくろまんしー?てのは何ぞ?妾達は他国の言葉に疎い故、分かる様に話してくれんかの?」


 「あぁ、悪ぃな。ついつい、時代を間違えちまう。そうだな、この国の言葉だと・・・死霊術ってなるかな?」


 「死霊術とはなんぞや?」


 「簡単に言うと死体を操ったりゴー・・・幽霊を使役する術だよ。」


 それは死者への冒涜ではないのか?今聞いただけだと怖気が走る、やってはいけない術なのではと思い恐る恐る聞いてみる。


 「ビフロンスさん?それは、何と言うか、やってはいけない術なのでは?」


 「やっぱそう思うよね・・・でも、この術の本質はじゃない。死者への冒涜では無くてその逆、敬意を持って使う凄い術なんだ。」


 「死体を動かす所の何処に敬意があるんだ?俺にゃあ分からん。」


 「例えばだよ?今は亡き先人達に教えを乞う事ができれば後世に残す事ができるんじゃないのかい?

 殺された人の無念も晴らせないかい?

 逆に子孫や遺された家族に伝えたい事を伝えられるんじゃないかい?

 ・・・死霊術の本来の使い方はこっちなんだよ。死体を動かすのも「死んでも守る」とか「大切な人の為に何度でも立ち上がる」とかそう言った偉大な戦士達の思いを叶えたり力を借りたりする為の物なんだよ・・・まぁ、生理的嫌悪感があるのは否定しないけどね。」


 ビフロンスの死霊術の使い方は本当に敬意を持っていなければ出来ない使い方なのだろう。それがビフロンスの言った美学なのかもしれない。


 「・・・分かった。そんだけ言うのなら確かにおめぇさんじゃねぇだろうな。」


 「分かってくれたかい?」


 「あぁ。仮におめぇさんが操っていたのならよ、もっと組織だって動く「死んでても戦い続ける軍勢」だったろうよ。」


 言って長谷川様とビフロンスはお互いにニヤリと笑い合う。その言葉の意味する所は言わずもがな、である。

 ビフロンスが今回の首謀者だったら全員此処には居なかっただろう。


 「じゃ良いかな?さっきの続きだけど、系統の違いを感じもしやと思って、何とか切り抜けた後、うぶの生き残りを捕まえて色々聞いてみたのよ。

 残念ながら親玉は分からなかったんだけどやっぱりビフ君じゃ無かったし、神性を帯びている人間が贄に選ばれて捕まえられている事も分かったんです。

 その時にもしかしてと思ったんです。普通神性を帯びた人間はそうそう居ませんし居るとしたら・・・」


 「何かの神の分霊って事か!」


 「その通り!その時は直感的に感じたけど一目見た時に確信したんです。

 それにうぶの話での意識がまだはっきりしている時にビフ君とが親しげに会話していて、意識が遠退いた後もビフ君はずっと側で護ってるって。

 贄を大事にするのは分かるんだけど親しげって所に違和感を感じたの。

 だからビフ君に

 大事な生贄だから護っているんじゃなくてんじゃないかなって思ったので。」


 成る程・・・だからあの時、ビフロンスは菊の行動を阻害せずに阻害する可能性のある俺達を引き離したのか。


 「で、合ってるよね?ビフ君?」


 「そうだよー・・・と言うか融合できたんなら分かってるでしょ。」


 「まーねー。だから今のは姫だった時の答え合わせ・・・かな?」


 「・・・そこまではわかった。ちぃとばかり報告しにくいがな。そんでよ?結局の所、今のおめぇさんはどっちでい。」


 「・・・結論から言わせてもらえば両方です。ですけどややこしいですよね?」


 「好きに呼んで?も困るし・・・」と頭を抱える彼女。

 俺も「姫」って呼ぶのも違う気がするし、「菊」だと「姫」を忘れてしまったと思われそうで嫌だ。

 瀧もそうらしく俺と同じく悩んでいる。長谷川様だけは「じゃあ「お菊」でいいな」とあっさり決めているけど。


 「だったらさ?本来の呼び名にしたら?「真名まな」じゃ無いしさ?」


 「それだ!ビフ君冴えてる!」



 また分からない言葉が出てきた・・・頭が痛くなりそう・・・



 「すまない、「真名まな」って何だ?」


 「あー・・・人間には分からんか。じゃあ「真名」から簡単に説明するよー?

 「真名」ってのはその存在を表す本当の名前でね。それを知る事はその存在を支配出来るのと同義なんだ。理由は簡単で神話や伝承に伝わる弱点とか倒され方とか一発でバレるからね。」


 「なるほど。「真名」は分かった。そんで?どう呼べばいいんだ?」


 「んー・・・そうねー・・・「菊」の「ことわり」と書いて「菊理くくり」・・・でお願いします。」


 「菊理くくり」か。いい名前だな、そう思ったその時、長谷川様が驚いた顔で叫ぶ。


 「はぁっ?!て、てぇ事は何か!おめぇさんは、なのか!」


 「長谷川様!?どうなされたました?」



 長谷川様の余りの驚きっぷりにこっちが驚いた。


 「「菊理姫」っていやぁ日本書紀に書かれている仲裁の女神じゃねぇか!」


 「あのー・・・俺、日本書紀って言われても分からないんだけど?」


 「・・・まぁ百姓には関係無いわな。そうだな・・・国産みの伝説から今の朝廷に至るまでをに書き記した書物って事だけ覚えていればいい。

 それに「古事記」って言うの書物もあるから、頭の隅っこにでも要れときゃあいいさ。」


 そう言うのもあるのか。

 まあ、俺の様な百姓には関係無いし、あるとしたら近所にある神社やお寺ぐらいか。

 とは言え、これからはも覚えていかなければいけないな。

 後は彼女をどう呼ぶかだ。

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