おい、牛骸骨。説明しろ。

 儀式を止める、そう言い放ちながら姫はゆっくりと、しかし一歩ずつ近付いてくる。



 「・・・浅太様、遅くなりました。直ぐに儀式を止めますね。」



 言いながら姫は異形と化した菊の元へと進んでいく。



 「ひ・・・め・・・な、何、を・・・」



 俺の問いかけに振り向きニコリと笑むその表情からは、明らかに何かしらの覚悟と少し寂しげな感情を感じ取れた。


 「おい、おいおいおいおい!何もんか知らんがその娘を!!」


 ビフロンスが叫ぶがその言葉を無視し姫は菊の側に立つ。そして何処か寂しげな表情で俺の方を向く。



 「ひ、め?」



 「ごめんなさい。今まで言えませんでしたが実は翁にお会いした後から記憶が戻っていました。」



 姫の突然の告白に俺は混乱する。何故今その事を?


 「よ、良かったじゃないか?でも今その事を何故?」


 俺の問いかけに寂しげに微笑みながら姫は語りだした。



 「昔、私はあの場所で忘れられていく事に対して、さほど危機感を持っていませんでした。

 ですがある日、私の目の前で産まれたばかりの雛鳥が1羽、落ちてきました。

 自然の摂理故、その雛鳥は他の生命の糧になる為、別段気にも止めませんでした。

 しかし、その小さな命は大きな、とても大きな奇跡を起こしました。

 ・・・生きたい・・・只々それだけの思いが一匹のを呼び寄せたのです。」



 姫はちらりと瀧の方を見る。恐らくその猫は・・・


 「そのは本来ならば捕食者であるにも拘らず、その雛鳥を介抱し、ずっと側で見守っていました。」


 「意識を失っとる間に他人の過去をばらすでないわ・・・恥ずかしい。まぁ、流石に其奴は直ぐに死んでもうたがの。」



 痛む体を押さえながら瀧が起き上がる。その様子を見守りながら姫は話を続ける。


 「・・・その日以来、私は怖くなったのです。独りで居る事が、孤独に消える事が。」


 「その事が今のこの状況とどう関係してんだ!そいつを殺しても!!ああ!くそっ!この程度の術、何で解けねぇんだ!」


 ビフロンスがもがきながら問いただす。しかし、その拘束は外れない。


 「・・・ですので私は考えました。この孤独から抜け出す方法を。ビフロンスとやら。貴方程の悪魔なら解りますね?」


 「あ!?解るかんなも・・・・・・ま、まさか、いや、しかしそれでは何の解決にもなって無い気が・・・」


 ビフロンスが姫と菊を交互に見比べながら何かに気付いた様で困惑している。



 「おいおいおい・・・2人だけで納得しあってんじゃねぇぞ?化け物共が。」



 何時の間にか長谷川様が足元がおぼつかないままに起き上がり近付いてくる。


 「人間組は黙ってろ。・・・つまりはその娘が?」


 「えぇ。」


 「・・・分かった。んで、こっちの事はどんだけ分かってる?それ次第では丁度拘束も解けた事だし、俺があんたがやる事を護ってやる。

 ・・・こいつら全力で止めそうだし。」



 言いながらビフロンスは動けない俺達に近付いてくる。


 「貴方のについては大体、と言った所でしょうか。」


 「OK~ごめんねーちょっとばかり距離を取らせてもらうよ?」


 「くっ!」


 「そう睨まないでくれよー。訳は後で話すからさー」



 抵抗できる訳も無くあっさりと持ち上げられ、瀧の元に降ろされる。その様子をみて長谷川様が自ら俺達の元へ歩いてくる。


 「本当に後で聞かせてくれるんだな?」


 「勿の論。・・・良いよー始めてくれー」


 睨みを聞かす長谷川様に軽く答え姫を促すビフロンス。

 それに応える様に姫は菊の体に手を添える。


 「ごめんね。貴女の事を忘れてしまって。今、解放してあげる。」



 その瞬間、触れた部分から光が溢れ徐々にその光度を増していく。

 その光が辺りを包んでいく中で、俺は光の粒となって姫に吸収されていく菊の姿をみた。その顔は悲しさなのか寂しさなのか分からないが涙で溢れていた。

 そして俺の方を向き、小さく呟いた。


 「浅太様・・・私が消えても・・・」


 「!・・・姫!!」


 そして光の粒が全て姫に入った時、光が弾け、再び暗い広間へと戻る。



 「・・・どう、なった?」



 急激な光の変化に視界を奪われ、何も見えない。


 「何が起こったと言うんじゃ・・・」


 「おい、牛骸骨。説明しろ。」


 ビフロンスは動けない俺達を尻目に姫が居たであろう方向へ歩き出す。


 「まだ視界がクリアになって無いでしょ?安心してよ。今連れてくるから。」


 そう言ってビフロンスが恐らく姫であろう人影を抱き抱えて戻ってくる。そして、そっと姫を降ろす。


 「ひ、姫!」


 俺は軋む体を無理矢理動かし姫を抱き抱える。


 「大丈夫だよ。君が思っているより彼女は、いや、は強いからさ。」


 「彼女?」


 「うん。かなりの博打だったろうに、良くやるよ全く。」


 うんうんと1人頷くビフロンスに長谷川様と瀧がズッと詰め寄る。


 「そろそろ教えちぁくれねぇかい?てめぇ1人で分かった顔されても困る。」


 「儂も知りたい。」


 二人の声にビフロンスは「そうだねー」と言いながら語りだした。


 「まぁ、簡単に言うと・・・それは彼女と一緒に話そうか。」


 ビフロンスがそう言うと俺の腕の中で姫が目を覚ました。




 「・・・浅、兄ちゃん・・・」

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