これ以上思い通りに行くと思うな!!

 「まぁなんだ。ぶっつけの割りにはうめぇ具合に決まったな。」



 ニヤリと笑いながら長谷川様は構えを解き、刀を肩に担ぐ。



 「な、な、何なんじゃお主等は!いきなりで何ちゅう連携しとるんじゃ!」



 さっき迄、俺達の連携に置いていかれた瀧が声を荒げる。



 「何って言われても・・・」


 「そう妬くなよ、黒猫の。ちょいと昔に、な?」


 「うん。昔に、ね?」



 以前長谷川様に色々教えてもらえた中に喧嘩・・・もとい素手での戦い方や連携の取り方も含まれていた為、出来た事なのだが。



 「お互いがお互いにさっき思い出したみたいじゃったのによくもまぁ・・・」



 ほんとにな。



 「それよりもよ。どうするよ、。助けに来たんだろ?」



 長谷川様が顎で暗い部屋の奥を指す。其処には以前と変わらず壁に張り付けられたままの異形に変わったお菊がいる。



 「・・・俺に任せてください。」


 「そうか。」



 それだけ言うと長谷川様は刀を一度納刀し目で追えない速さで刀を抜き放つと、お菊の両手を拘束している鎖がキンッと断ち切られお菊がその場に崩れ落ちる。崩れ落ちるお菊の上半身を俺が受け止めると長谷川様はスッと納刀し背を向ける。



 「悔いだけは残すんじゃねぇぞ?」



 「・・・はい。」



 そう言いながらゆっくりとお菊の顔を見つめる。彼女に何かしらの反応は無く、その瞳は光無く虚空を見つめている。



 「菊・・・」



 そっと頭を撫で、自身のボロボロではあるが服を掛けてやる。



 「・・・すまない・・・長い間顔すら出さず寂しい思いをさせて・・・」



 俺は手を伸ばし異様に膨らんだ下腹部を撫でる。



 「俺が・・・俺が後一年でも早く迎えに来ていれば、こんな姿にならなかっただろうに・・・」



 脳裏に数日前の事が思い出される。あの時俺は嫁いだと言う事実から目を逸らし、手前勝手な思考で罵る言葉すら吐いていた。



 「俺は手前勝手な事ばかり・・・なのに菊はずっとこの地獄にいて耐えていたんだよな・・・」



 腑甲斐無い、みっとも無い、情けない。そんな自分に。


 「腹が立つ!」


 俺は自身の拳を振り上げ、今だ生かされている心の臓に的を絞る。



 「今、終わらせてやる。」



 渾身の拳を振り下ろそうとした瞬間、黙って見ていた瀧が叫ぶ。


 「危ない!!」


 ドゴォン!と言う音と共に俺は何かにぶつかり吹き飛ばされた。



 「無事か!?兄ちゃん!!」



 何が起こったのか分からず混乱する頭を振り、起き上がろうとすると、体に重みを感じ目を凝らすと全身から煙を上げる瀧だった。


 「瀧!」


 「ぅ・・・くっ・・・かはっ!ごほっごほっごほっ・・・」


 良かった、何とか生きている。


 「何とか!でも瀧が!」


 言いながら長谷川様の方を見ると其処には全身がボロボロで満身創痍の芦沼が片手を此方に向け立っていた。



 「・・・!!・・・赦さんぞ貴様等!!!」



 鬼気迫る表情で一歩ずつ近付いてくる。近付きながら芦沼は持っていた刀を床に叩きつける。


 「このままでは埒が明かん!人間の真似事は止めだ!!この手で止める!!」


 叫びながら徐々に端正だった顔を突き破り人の顔では無い別の生物の恐らく牛の頭蓋骨が現れる。


 「ついに本性現しやがったな!兄ちゃん!そいつぁ後回しだ!まず、この化け物を叩っ斬るぞ!!いけるな!!」


 「はい!・・・瀧、少しの間辛抱していてくれ。」



 俺は瀧を壁際へ運び、長谷川様の横に付く。本性を現した芦沼はさっき迄の人の体の倍以上の大きさになっていた。



 「我が名はビフロンス!!26の軍団を率いる序列46番の地獄の伯爵!!矮小なる人間共よ!!これ以上思い通りに行くと思うな!!」



 叫びながら人間一人分は有ろうかという右腕を振り下ろす。先程までと違い逆上しているせいか二人は余裕を持って回避するも、ごうっという音と共に吹き飛ばされた。


 「なっ!」


 「うわっ!」


 ゴロゴロと床を転がり、何とか体勢を建て直した後、床を見てみると其処には4本の抉られた跡が残っている。


 「何てぇ力だよ・・・」


 「これが奴の本来の力・・・」


 芦沼、もといビフロンスは此方の動揺を察したのだろう、クツクツと笑い出す。



 「クックック・・・どうやら我本来の実力には及ばんと悟った様だな・・・はっ!拍子抜けではないか。・・・いい加減諦めろ?今なら悪魔化したその娘を儀式が終わった後くれてやるからさ?」



 此方を見ながら下卑た笑みを浮かべた様な気がした。


 「うぉ!!」


 ドンと大きな音が響きビフロンスは咄嗟に俺の拳を右手で受け止める。


 「・・・さっきよりパワーが上がってる?怒りでリミッターが外れたか?たが!」


 ビフロンスはその巨大な手で俺の拳を握り混むとそのまま圧を高めていく。


 「う、がぁぁ!」

 「そぉら!!このまま握り潰してやる!!・・・無駄だよ。」


 ビフロンスは俺を握ったまま左手で不意討ちを掛けた長谷川様の攻撃をあっさりと受け止める。


 「刀については少し勉強しててね?引かなきゃ斬れないのは良く知っているよ。」


 「・・・糞が・・・」


 「おやおや。両手が塞がってしまった。これはいけない。直ぐに手を離さなければならない・・・なっ!」


 わざとらしく驚いたと思うと両手を開くと俺と長谷川様其々それぞれに向けて爆炎を放つ。耳をつんざく音と共に俺と長谷川様は吹き飛ばされた。床に叩きつけられ、それでも勢いは止まらず転がり続け、壁にぶつかり止まる。


 「さて、と。地獄の業火の味は如何かな?本当に諦めてくれないと次は更に火力を上げたマックスパワーで行くよ~・・・燃え尽きてしま・・・」


 たった一発で身動きが取れなくなる程の炎を受け、体は軋み、肉の焼けた臭いが節々からしてくる。

 ビフロンスが止めとばかりに展開した先程迄とは比べ物にならない炎にこれまでかと歯噛はがみしたが、急にその炎が消滅する。


 「グッ・・・ガッ・・・う、動けん!」


 動きを止めたビフロンスの隠しきれない声に戸惑いながらも辺りを見回す。


 「グガガ・・・な、何だ、貴様は・・・」


 ビフロンスのその声と共に俺はその光景に目が離せなくなった。

 其処にはズタズタに裂かれ肩もはだけながら、なお強い意思を持ち、全身から光を放つ姫の姿だった。



 「・・・お待たせしました。さぁ、儀式を止めましょう。」

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