2度ある事は3度あるってね!!

 薄暗い廊下を駆け抜けていく俺達は、時折現れる動く死体を蹴散らしつつ奥へ奥へと進んでいく。


 「くそっ!何れだけの人が犠牲になっているんだよ!」


 「儂、既に数える気は失せたぞ・・・」


 何だか町一つの人口全てを相手にしている気になってきた。しかし終わりと言うのは必ず来るもので、薄暗い中でも発する妖気が段違いに濃い障子の前へと辿り着いた。



 「着いたの。どうする?待つか?」


 「・・・いや、進もう。とっとと終わらせて姫を驚かせてやろう。」



 確かに戦力的にも全員で向かえば不安は無いが、時間的にもかなり厳しい。ならば俺達だけで向かい、儀式を止めれば良い。先に進んでいる人物もいる事だし漁夫の利を狙っていけば成しやすいと思う。最悪でも姫が追い付けば相手に対し一気に有利になる。



 「では、開けるぞ。」



 瀧が障子に手を掛けたその時、凄まじい勢いで何かが障子を突き破り飛び出してきた。


 「うおっ!」


 「きゃっん!」


 瀧が何やら可愛い声をあげた気もするが、飛び出してきた物体にぶつかり一緒に壁に叩きつけられる。



 「いやぁ、ごめんごめん。思わず吹っ飛ばしてしまったよー・・・おやぁ?」



 開かれた部屋の奥から凄まじい殺気とは裏腹に呑気な声が響き渡る。



 「誰かと思ったらファーマー君じゃないか。瀕死したのにどうやっ「おらぁっ!」ぐぼっ!!」



 こないだは受け止められたが今回は下から打ち上げる拳(所謂アッパー)が見事にあごに決まった。ただ、姿が見えた瞬間に放ったので少し踏み込みが甘かったのだが。

 それでも修業の成果が此処で発揮され、芦沼は面白い位に後上方へ吹き飛び、ぐしゃりと床に首から落ちる。



 「瀧!無事か!?」



 飛び出してきた物体と一緒に飛ばされた瀧の方を見ると「何とかの・・・」と声が聞こえ、同時にその物体・・・いや、人影がゆっくりと立ち上がる。



 「・・・全く、帷子かたびら程度じゃあ、てぇした意味なさねぇってのはきついわな。」



 立ち上がった人影はその四肢に手甲・具足を付け怪しい光を放つ刀を持つ同心だった。



 「あーあぁ。折角の一帳羅がずたぼろじゃあねぇかい。・・・おう。済まねぇなねぇちゃん。受け止めさせちまってよ。」



 同心は自身の体を叩き埃を落とし、瀧に手を伸ばす。



 「あ、あぁ。・・・気にする程では無い・・・ぞ?」



 戸惑いながらも思わず伸ばした手を同心は掴み引き上げる。



 「まぁなんだ。言いてぇ事は山程有るが今は・・・あの野郎をぶっ倒す方が先だろ?」



 言いながら俺の方を見てにやりと笑う。俺は頷きながらも芦沼の方へと向き直る。今だ起き上がって来る気配は無い物の、あの程度で終わる程、甘くは無いだろう。



 「ええ。奴を倒さなければ魔王とやらが降臨する儀式が完了してしまうそうです。なので・・・」


 「ちょいと聞くが、その儀式ってのを先に止めるってのは?」


 「止め方が判りません。ですので術者を先に倒します。」



 そうか、と言いながら自身の刀を肩に担ぎ俺の横に立ち並ぶ。薄暗い中ではっきりとは分からなかった顔が浮かぶ。吹っ飛ばされたせいで多少乱れてはいるが整えられたまげに鋭い眼光を宿しつつも何処か優しげな目をしたその顔は、以前会った事がある気がした。



 「ん?あの以前何処かでお会いし・・・」


 「所で兄ちゃん。浅太・・・だったか。俺の教えた事は役にたったかい?」



 俺の疑問を遮って発せられた言葉に驚いた。やはり昔助けた行倒れかけていた御侍様じゃないか。確か名前は・・・



 「!・・・えぇ。それはもう、存分に役立ってますよ。長谷川様。」


 「はっ!そいつぁ良かった。だが、昔話は全部済んだ後でな。」



 ニヤリと笑い、そう言いながら改めて倒れている芦沼に向き直る。さっき迄、痙攣していた芦沼がゆっくりと起き上がる。



 「グガガ・・・や、やる、じゃあ、ないか・・・こ、こない、だ、とは・・・あぁもう、しゃ、べり、に、く、い!」



 起き上がりながら有らぬ方向へ曲がった首と顎を無理矢理元の方向へと動かす。ゴキィリと音が響く。常人ならばとっくに死んでいるのにも関わらず、平然とコキコキと首と顎を治していく。


 「ちっ、化け物め・・・」


 その異様な治療風景を苦虫を噛んだかの様に俺達。芦沼は一頻ひとしきり首と顎を治すとケラケラと笑いながら此方を向く。



 「良く言うよ!確かにそうだけどさ、人間一人をたった一発で殺すような彼も化け物じゃないか!」


 「折れた首治す方がよっぽど化け物だろうが、阿呆が。」



 芦沼の言葉に少し衝撃を受けたが気を取り直し小声で「行きます」と呟き、芦沼の右側面から突撃する。


 「おっと、不意討ちはもう喰らわ・・・」


 「2度ある事は3度あるってね!!」


 芦沼が俺に注意を向けた隙に長谷川様は真っ正面から片手の突きを放つ。その速度は先に突撃した俺の速度を超え、その切っ先が芦沼の顔面を捉える。


 「んなっ?!」


 流石に驚いた顔を浮かべながら首を左に倒し紙一重で躱す。だが・・・


 「土手腹ががら空きだ!!」


 長谷川様の突きに気を取られたせいで腹部の守りが疎かになる。俺は其処に目掛けてありったけの力で拳を叩き込んだ。


 「吹っ飛べ!!」


 体をくの時に曲げながら壁を突き破り吹き飛んでいく。



 「・・・おー・・・」



 二人して攻撃したままの体勢で飛んでいく芦沼を見つめる。



 「・・・兄ちゃんよ。本当に化けもん染みてんな。」



 「・・・誉め言葉として受け取っておきます・・・」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る