・・・さぁ、強くなりに行こうか。

 「遅れてすみません。道に迷ってしまいまして・・・あれ?」



 あれから半刻程して姫が合流したが、俺は虚空を見つめたまま呆け続けていた。

 なーんにも考えられない今の状態では森の風景どころか何を見ているのかさえ解っていない。

 そんな状態だが、二人が話す声だけは聴こえていた。



 「おう、姫よ。ようやくの御到着じゃな。なに、の奴は疲れが溜まっとるだけじゃ。」


 誰が溜めたと思いで?


 「もう鍛練たんれんをされたんですか?」


 鍛練とは言わないねー


 「鍛練と言うよりも・・・うん、そう、準備運動じゃな。準備運動。儂には軽い運動じゃが、人の身では少々堪えた様じゃな。」


 少々どころじゃねぇ。


 「準備運動ですか?その割りには疲れ方が少々どころじゃ無いみたいですが?」


 そだよー暫く動けんよー


 「黒猫殿?正直に御話下さいますか?落ちたとは言えこれでも女神の端くれ。怒りませんので正直に。」


 何か凄い圧を感じる・・・怖ぇ・・・


 「う・・・そ、それ、は・・・契約、そう!契約したのじゃ!浅太とな?」


 必死に誤魔化そうとする。助けに入りたいが、体がまだ動くのを拒否しているので、どうしようもない。まぁ、確かに契約自体はしたんだけどね?


 「へぇ、シたんですか。浅太様と。」


 「ひ、姫よ?言い方がおかしく聞こえるのじゃが?」


 「別にについてはどうでもいいんですよ?ただ、ですね?・・・契約者の精を死にかけるまで・・・搾り取るんじゃねーです!!」


 すっごい神鳴りがおち、俺達よりも強者である瀧が「ひぃ!」と叫び俺を盾にする様に俺の体に隠れる。とは言え、俺自身へたりこんでいるから全く隠れられていないのだが。


 「全くもう。浅太様、今回復しますからね。」


 そう言って姫はそばまで来て俺に手をかざす。淡く白い光が全身を包み込み徐々に力がみなぎって来た。



 「・・・う・・・あ・・・あー・・・あーあー。・・・うん。何とか動ける、かな?」



 「念の為、もう暫く御休憩を。無理に動いても良き事象へと至りませんので。」



 打って変わって治療をほどこしてくれるのは有り難いが逆に怖い。俺はおずおずとしながらも聞いてみる事にした。


 「姫?その、なんだ。・・・俺には怒らないのか?」



 すると姫は溜め息交じりにその胸の内を吐露した。



 「あのですね、どう言う経緯でこうなったかは判りませんが、浅太様は我々を使役する者です。これから先、他の妖怪や怪異と戦うだけではなく、お互いの益の為に交渉する機会が今後増えてくる事でしょう。そしてそういった者達は多種多様の要求をしてきます。」


 「姫の時は契約の時の条件が共に暮らす事だったな。」


 「はい。契約に対しての狙いは別ですけども初めて出会った時に言った様に、もう、孤独は嫌でしたし、あのまま消えてしまいたく無かったので。」


 姫の「狙い」はともかく、孤独感は良く解る。両親が逝ってから独りだったからな。


 「話をまとめると、です。経緯はともかく、自体が契約をするに足る「対価」になっただけの事です。」


 俺の背に隠れている瀧が凄い勢いで首を縦に振っている。・・・首いわすぞ?



 「ですので、交渉事に関する事ならば何も言いませんし揉め事になりそうな時は私が仲裁に入りますので、お気を揉まれる事は御座いません。」



 なるほど。

 契約自体まだこの二人としかしていないから、あまり気にしていなかったが契約には対価が付き物。

 姫の場合は俺に力を貸す代わりに 共に暮らす事。

 瀧の場合は・・・あれ?正確には何だろうか?


 「なぁ、瀧。瀧との契約の対価って正確には何になるんだ?」


 「それはじゃな・・・生命力を少し頂く事じゃな。ひっ!」


 「少し頂く」に反応したのか姫から黒い気があふれ出る。


 「姫?瀧が怯えて話にならんから落ち着こう、な?もう、終わった事だしな?」

 「浅太様がそうおっしゃられるならば。」


 むすっとしながらも何とか矛を納めてくれた。瀧と二人安堵しながら話を続ける。


 「つまり、だ。今回、瀧との契約の対価は少しの生命力だった、と言う事で良いんだな?」


 「そうじゃ。そして姫から聞かされているかと思うが我々の言う「契約」は単なる口約束や紙に書かれた証文なんかとは次元が違う。」


 「確か、自身の存在をかけているんだったな。」


 はい、と姫は頷き、


 「我々は「消滅」と言うを背負っ

ています。反面、人間側のは我々よりも低くなってます。最悪でも死ぬだけです。」


 「人間の方が格が低いですから」と言いながらあっさりと「死ぬだけです」と言われたが「死」に対しての認識が違うのだろう。彼女達の認識では「死」は通過点でしかなく、「その先」が有るから恐れない。だが、「消滅」は「その先」すら無く完全な「無」が待ち構えている。

 彼女達は俺なんかの為に其ほどの危険を冒してまで契約をしてくれたのだ。


 「これはみっともない姿は見せれないな。なればこそ、強くならなければな。」


 言いながら俺は立ち上がると縮こまった体を伸ばす。



 「もう御体はよろしいので?」



 少し不安気な面持ちで此方をうかがう姫の頭をそっと撫で力強く答える。



 「あぁ。問題無い。・・・さぁ、強くなりに行こうか。皆で!」


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