じゃからの?

 「巨木が喋った?!」


 驚きの声をあげた俺を黒猫殿が手で制し緊張した面持ちで語る。


 「この方はこの森の主。礼を失するような事はするでない。」


 「ほっほっほっ。別段気にする事はない。最低限で構わんよ。・・・して、何用じゃ、闇露の。」


 森の主と言う事は樹齢何千年と言った所か。それだけで凄まじく高位の存在である事がうかがい知れる。


 「かたじけのうござる。実はこの者に関する事でして・・・」



 黒猫殿は此度の事を語る。其れを主は黙したまま聞き、一通り聞き終えると俺等に視線を向けて問い始めた。



 「話は大方理解した。では、人の子よ。汝はその幼なじみを救いたいか?」



 その問いに俺は迷わず返す。


 「はい。出来うるならば五体満足で。」


 「ふむ。・・・では弱りし女神よ。汝は人の子を救いたいか?」



 その問いに姫は自身の思いを返す。


 「はい。落ちたこの身を受け入れてくださった契約者様にご恩を返しとう御座いますれば。」



 俺等の返答を聞き主は目を瞑りながらも聞き、しばし熟考した後、発した言葉に俺は絶句した。




 「結論から言わせて貰うかの。・・・人の子よ。お主の願いは叶う事あたわず、じゃ。」


 

「やはり無理ですか・・・」


 異形と化したお菊を助けたい。その方法があるのであればすがりたかったのだが無しとされた。

 あからさまに落ち込む俺に森の翁は諭す様に語る。


 「そう落ち込むでない。五体満足では不可能じゃと言っておるのじゃよ。」



 「・・・それはどう言う事でしょうか?」


 俺の当然の問いに首肯くかの様に一度瞳を閉じる。


 「人の子は知らんのも無理も無いのじゃろうが、人が異形と化すのには幾つかあっての。まずは「憑依ひょうい」によるものじゃ。これは悪鬼や妖怪等に身体を乗っ取られたり、逆に喰らい取り込んだものを指す。これは時と場合によりけりではあるが、大元を倒してしまえば憑依が解ける事もある。」



 「それを見定める事は・・・」



 「これは経験や勘、感覚的なものじゃから何がどう、とは言えぬ。すまぬの。」


 「いえ!こう言う事は全くの素人。何も知らぬ故、ご教授して頂けるのは願ってもない事。助かります。」



 何分なにぶんこの妖怪だの悪魔だのの世界に足を踏み込んだのは4日程前だ。こうして教えていただけるのは本当に助かる。



 「此度こたびの件はな?恐らくこれではなく・・・その悪魔による「肉体の改造」によるものじゃ。」



 「改造・・・ですか?」



 「そうじゃ。この場合、肉体その物を変えられてしまう為、元に戻す事は不可能なのじゃ。」



 成る程、それならば不可能なのも合点がいく。こぼれた水を戻せない様に変わってしまった肉体は元には戻せない。

 だが、だからと言って諦める事はできない。


 「・・・諦めきれんようじゃの。」


 「頭では解っているつもりです・・・が、はいそうですか、とはなりません。」



 こればかりは譲れない。意固地になってる積りは無いが出来る限り諦めたくは無い。



 「・・・手が無い訳ではないがそれだとしても五体満足でとはいかん。」


 「!有るのですか!手段が!!」



 有る、となればその手段を早く教えて貰いたいと気が急く俺を黒猫殿が制する。


 「わっぱよ落ち着かんか。はなから出来るのであれば翁もそう伝えておるわ。つまりじゃ、今の御主ではそれすらできんと言う事じゃと知れい!」



 俺は黒猫殿に一喝され少し落ち着く。確かに森の主である翁が考え無しに出来ない事を伝える訳が無い。



 「闇露やみつゆの。そう責めてやるな。諦めきれんのは人であるが故じゃての。」



 ほっほっほっと笑みを浮かべる翁。その姿はまさしく「翁」である。だが、引っ掛かる事が一つある。



 「・・・翁殿。それは「現在」の俺には不可能でも「未来明日」の俺ならば可能と言う事ですかな?」



 翁はにやりと笑い、


 「そうじゃの。その為には「明日あす」の強さを「今」に持って来なければならんの。」


 「ならば答えは簡単。・・・俺を鍛えてください。今日の夕刻迄に。出来うる限り。」



 「元よりそのつもりじゃ。・・・奥に相手を用意した。滝と共に向かうとよい。そして姫とやら。御主に問いたい事柄が有る故に少しばかり残ってくれ。」


 直ぐに追い付きますからと、姫は残り俺は黒猫殿と共に森の奥へと進む。薄暗い森の中を木々を掻き分け黒猫殿の指示に従いつつ進むと開けた場所に辿り着く。


 「懐かしい。昔は儂もこの場所で修行したものよ。ふむ、童よ。少し休むぞ。」


 慣れない森の移動に軽く疲れが出ていたのでありがたく休ませてもらう。黒猫殿は俺の正面にどかっと座る。その瞬間、俺の視界に見てはならんものが入り思わず視界を逸らした。


 「あー・・・黒猫殿?その言いにくいのですが・・・」


 「ん?なんじゃ?」


 胡座あぐらをかいて座るから目を逸らしたまま、俺は意を決して今の思いを伝える事にした。


 「その・・・出来れば服を着ていただきたい・・・」


 今朝から普通に会話していたので気にも止めてなかったが、黒猫殿は毛皮に覆われているとは言えよくよく考えれば全裸である為、座り方によっては秘部が見え隠れして非常に目の遣り場に困ってしまう。なので座り方を変えたり服を着て貰いたいのだが・・・

 黒猫殿はきょとんとした顔で暫しこちらを見た後、自身の体を見るとにやぁと笑む。


 「なんじゃ?儂の肉体からだに興味津々なのかの?」


 言いつつ自身の二つの胸を両の手で寄せて上げる。何か「ぼよん」とか言う音が聞こえた気がした。でかいとは思っていたがあれはなんだ?西瓜スイカかな?家では栽培してないけど。改めての大きさに目を捕られたが、俺は慌ててかぶりを降りながら、


 「い、いえ、そうではなく!目のやり場に困ると言うか見てしまうと言うか、いや、そうじゃなくて!」


 慌てる俺をにやにやしながら四つ足で猫らしくゆっくりと近づいてくる。

 その姿はとてもなまめかしく、下へと垂れたる二つ山は普段以上に存在感を増し歩く度にたぷんたぷんと聞こえるようだ。

 そして引き締まった腰は毛皮に包まれているとは言え後に続く巨大な桃を強調する。そしてピンと立ったは自在にしなり此方を誘惑してくる。


 「し、ししし尻尾は二本あ、有るんですね!」


 何とか誤魔化そうと尻尾の方に話題を振る。


 「当然じゃ。儂は所謂いわゆる「猫又」じゃからの。」


 恍惚とした表情を浮かべながらゆっくりと擦り寄ってくる。獣の臭いと甘い吐息が鼻腔をくすぐる。黒猫殿はゆるりと俺の首に腕を回し、その豊満な双子山に俺の顔を埋める。


 「そう構えんでも良い。儂等猫又は年老いた猫が霊力を得て尾が二股になったものじゃ。じゃからの?なーんも心配せんでもええぞ?儂がぜーんぶしてやるからの?」






 何が「じゃからの?」なのか全く解らないです先生。

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