第6話 ヲタクのピンチ⁉まさかの結婚報道!
ミーンミーンと五月蠅く鳴く蝉の鳴き声で、朝の五時に、目が覚めてしまった私は、母親と会社に行く前の父を起こさないように、洗面台で顔を洗い、朝食を食べる準備をした。母は、まだ起きていなかったため、食パンを焼いて食べた。食べ終わった後は、片付けをし、自室に戻った。
自室に戻った後は、日射しが差し込まないようにカーテンを閉めた。その後で、夏休みの宿題に取り掛かった。今度こそは、やり遂げようという気持ちで一生懸命進めた。余程、集中していたのか、時計の針は、午前十一時を指していた。
肝心の夏休みの宿題で、数学を終わらせることに成功した。私は、とても嬉しかった。しかし、この気持ちが、一気に突き落とされてしまう出来事が起こってしまった。
私は、夕飯を食べ終え、入浴し、自室に戻った時だった。
私の電話に、一本の電話が掛った。その相手は、美桜だった。
「もしもし?美桜、どうしたの?」
「大変だよ!なずな!」
「大変だよって、言われても困るよ。何があったの?なんか、声震えてるような気もするけど…」
美桜の声は、震えていた。心なしか、嗚咽も混じって聞こえるような気がした。美桜は、泣いていると分かった。だが、何故、美桜が泣いているのかが分からなった私は、詳しく美桜に事情を聞いた。すると、美桜がとんでもないことを口にした。
「あのね、なずな。落ち着いて聞いてね。実は、天峰さんが今日のラジオと、朝の番組で、結婚を、発表したんだ…。私、なんか有り得なくって…」
「変な冗談は、辞めてよ。ガセでしょ?どうせ」
「私も、最初はそう思ったの。でもね、その天峰さんが、結婚報告した番組と、ラしらべてみたんだよね。そしたら…」
「天峰さん本人が言ってたんだね?」
「うん、そうなんだ。なずなにも、その動画サイトのURL送るから見てみなよ」
「うん、見てみるよ」
美桜は、そう言って、電話を切った。電話の奥ではツーツーという音が、響いていた。しばらくすると、美桜から動画のURLが送られてきた。私は、まだ信じられずにいた。そんなことある訳がないと、自分に言い聞かせていたからだ。私は、急いで動画を確認した。すると、天峰さん結婚おめでとうございますという文字が出で来たので、そこから再生ボタンを押した。
「どうも、皆さんおはようございます!突然ですが、皆さんに大事な報告があります。僕、天峰三月は結婚を致しました!皆さんからのご祝福ありがとうございます。これからも、一生懸命仕事に励んでいきますので、ご声援よろしくお願いします!」
天峰さんの周りにいた出演者の人たちも、拍手とお祝いの言葉で、スタジオを沸かせた。スタジオには、おめでとう!という言葉で溢れかえっていた。天峰さんは、最高の笑顔で、ありがとうございます!と言っていた。私は、美桜の気持ちがここで分かった。まるで、心がえぐり取られたような感情に襲われた。
あ・ま・み・ね・さ・ん・が・け・っ・こ・ん・し・た...。
私は、目の前が、霞んでぼやけた。目からは、涙が一滴、二滴という風に流れ出た。胸が苦しくなった。私は、夢ならば覚めて欲しかった。嘘であって欲しかった。このときに、思った。嗚呼、結婚はなんて残酷なものだろうと…。ファンであれば、天峰さんの結婚を祝福しなければいけないのに、結婚は残酷と思ってしまう自分がいた。
誰かが見たら、呆れるだろうなと思った。でも、そんなことよりも悲しさが、先に来てしまった。私は、涙を何としてでも止めようと思ったが、やはり駄目だった。
これが、好きという気持ちなのだろうか…。好きという気持ちは、意外と終わりが早いんだな…とも思った。私の心の中は、ぽっかりと穴が開く代わりに、いろんな感情が脳内を、駆け巡っていた。その後で、美桜に電話した。
「もしもし、美桜」
「もしもし、どうしたの?なずな。なずなから電話掛けて来るなんて珍しいじゃん」
「そう?」
「うん」
美桜は、まだ声が震えていた。喉の奥をしゃっくり上げるような嗚咽の音が聞こえた。
「あのさ、美桜。動画見たよ。天峰さんの結婚報告」
「で、どうだった?」
「虚しい気持ちになった」
「そっか…。虚しくなるよね。なんか…。残酷だね、結婚って。結構おめでたいことかと思ったら、意外と残酷なもんなんだね」
美桜は、私と同じようなことを思っていた。確かに、こんなにも、結婚って残酷なものと思ったのは、私も美桜も初めてだった。
「確かにね。でも、あんまり、結婚って残酷とか言ってると誰かに怒られるよ」
「確かにそうかもしれないけどさ…。なずなもそう思うでしょ?」
「思うよ。天峰さんのファンだからね」
「でしょ?これから、どうする?色々と」
「どうするって、言われても応援するしかないでしょ。結婚しちゃったんだし…」
「そうだよね…いつまでも泣いてたら、駄目だよね…」
「そうそう、そうだよっていうなずなも、泣いてたんじゃない?」
「なんで?」
「声震えすぎだっつーの、会話中嗚咽みたいなの聞こえてたよ?」
「嘘でしょ?気のせいじゃないの?」
「何言ってんの!思いっ切り聞こえてたよ。本当は寂しかったんでしょ?」
「そうですけど、何か?」
「何でもない」
「何よそれ!」
私と美桜の嗚咽は、いつのまにか笑顔に変わっていた。いつまでも、いじけていちゃいけないと思った。正直言って、ショックだったけど、美桜となら、天峰さんのことを応援できると思った。どうせ、叶わなくても…。どうせ、好きという気持ちが残酷なものになっても、何か一つ共通点があって、一緒に応援してくれる親友がいるのなら、残酷なものが嬉しいものに変わることを知った。
私達は、天峰さんのことを、例え天峰さんが気付いてくれなくても、応援し続けられたらなと思った。
ファンは、切なくても、地味な花でも、その人を思って応援していることに誰かが気付いてくれたら、ファンはその人にとって生涯の宝物になるのかもしれない。
結婚という残酷なものはない~ヲタクの恋愛事情~ ルカラ @nazuka
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