第283話 アサヒィスゥパァドゥラァァァァイ!
清宏に頼まれた天鈿女は嬉しそうに映画鑑賞の準備を進めている。
まず鞭棄達と遊んでいたメジェドを呼んで説明し、何やらケーブルを繋ぎ始めた。
天照を罠に掛けていた清宏は、何気なくそちらを見て水晶盤に視線を戻したが、慌てて再度振り返る。
「ちょちょちょ!何してんですか!?」
「何をと言われましても、映画を観る準備をしているのですが・・・」
「いやいや、何でメジェド様にコードを繋いでるのかって聞いてるんですよ!?」
指差されたメジェドは誇らしげに胸を張ると、壁に張られた大きな白い布の正面に立った。
清宏が訝しげに様子を見ていると、メジェドの胸に付いていた球体が光を放ち、白い布を照らしだした。
「コレゾ我ニ備エラレシ新タナ機能ダ」
「プロジェクターじゃねーか!絶対に無駄な機能でしょこれ!?」
「役に立っているではないですか」
「そうなんだけれども!使い道が限定され過ぎじゃないかって事を言ってんですよ!?」
「音響モバッチリ」
「Dolby Atmosで映画館並みの臨場感をお約束いたします!」
「あ、ダメだこれ、趣味に妥協しない系の人だわ・・・。
もう何も言わないので、準備が終わったら適当に始めてください」
「清宏殿!清宏殿!!」
清宏は呆れて脱力し水晶盤に戻ろうとしたが、テンションの上がった天鈿女に呼び止められた。
「はいはい、何ですか一体・・・」
「あれを観てください!ワーさんとナーさんですよ!!」
「いや、ワーナー・ブラザースですよね?変なとこで区切らないでくださいよ・・・」
ツッコむ事すら面倒臭くなったのか、清宏はそのまま離れていく。
天鈿女は特に気にする素振りも見せず、機材の準備を終えると、アンネとレイスを連れて厨房へと向かう。
「やはり映画にはこれです!!」
「おっ、何やら良い匂いがするのである!?」
三十分程が経ち、天鈿女とアンネが香ばしい匂いを従えて広間に戻って来ると、食い意地の張ったペインが匂いに釣られてやって来た。
天鈿女は匂いの元である大きなタライをテーブルの上に置くと、中に入っていた物を紙コップに移し始める。
「はーい皆さん並んでください!映画と言えばポップコーン!他にもフライドポテトとホットドッグ、チキンナゲットにチュロスもありますよー!」
出店を始めた天鈿女達の周りに人集りが出来ていく。
どれも出来立てで良い匂いがするため、ペインでなくとも気になるのだろう。
「これは食欲をそそりますわね・・・ですが、見るからに油っこい物ばかりですわ」
「たまにならば良いのではないか?こう言う機会はそうあるものではないんじゃし、今日くらい楽しめば良かろう?」
「ふむ、中々に興味深い料理です・・・」
リリス城に来てから舌が肥えてしまい、最近体型を気にし出したルミネにリリスが笑顔で答え、普段は他の者程料理に興味を示さないアルトリウスも物珍しそうに眺めている。
「飲み物も色々ありますので好きな物を言ってくださいねー!」
「俺はポップコーンとナゲットください」
皆が初めて見る料理を前に何を食べるか悩んでいると、人集りの後ろで手が挙がり、声が聞こえて来た。
皆が振り返ると、そこには清宏が立っていた。
「あら清宏殿、流石の貴方もこの匂いの暴力には勝てませんでしたか?」
「いや、俺も作ろうと思えば簡単に作れるし食べれるんですけど、さっきルミネが言ってたように油っこいので避けてたんですよ・・・だって、こう言うジャンクフードって中毒性あるし身体に悪いじゃないですか?」
「まあ、身体に悪いものは大抵美味しいものが多いですものね・・・ですので、私もたまにしか食べません。
あっ、飲み物は何にされますか?ジュースならコーラとジンジャーエール、ビールなら四大メーカーから地ビール、他には焼酎、清酒、発泡酒、ウイスキー、ブランデー、リキュール、ワインなどなど日本の物ならばお酒は何でも揃っておりますし、カクテル用に海外のお酒やリキュール類も思いつく限り取り揃えておりますよ?」
「うーん、この至れり尽くせり感・・・」
「どうか遠慮はなさらないでください。
今回私共がこちらに伺うにあたって、私は日本の食材を、素戔嗚様方はお酒類をお土産として持参しましたので、ここにある物は全て貴方達の物なのです」
「おお、ありがてえ・・・ならば、ここは黙ってアサヒィスゥパァ・・・」
『ドゥラァァァァイ!』
清宏の声に天鈿女、素戔嗚、月読の声が重なる。
周りに居たリリス達は訳が分からず首を傾げるが、清宏達は同時に吹き出した。
「やっべー!やっぱ日本だわ!」
「そうだろう!もし貴様が淡麗を選んでおった場合はボラーレを歌っておったぞ!!」
「ド定番だよね!」
「やっぱキリンはジプシーキングスですよね!」
「この話が出来る貴方はやはり日本人です!」
盛り上がる四人をよそに、取り残されたリリスは取り敢えず熱々のフライドポテトを摘んで口に運び、あまりの熱さに悶絶した。
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