第278話 説明責任
大国主が大人しくなり、天照もいまだに湖岸で気絶している間、清宏は先程の腹いせにローエンとグレンを呼び出して地獄突きを食らわせ、罰として2人には、今日は城は閉まっているとやって来る冒険者達に報せる役を押し付けた。
もちろん彼等が関係者である事が冒険者達にバレる事を避けるため、朝一で城に行ったら『本日休業日』と書かれた看板があったと伝えるようにと指示をし、念の為汚い字で看板を作成して送り出した。
清宏が作業を終えて一息つくと、それを見計らったかの如く、目覚めたビッチーズ達がゾロゾロと広間に現れた。
「おふぁようございまーしゅ・・・今日は何の騒ぎー?」
「何か外が騒がしかったけど、起きるの面倒臭かったからガッツリ二度寝してたわ・・・」
「ねえねえ、何かまた知らない人が増えてるんだけど・・・」
「あーっ!レギン起きてんじゃん!?」
ビッチーズ達が現れ、それまで微妙な空気が流れていた広間が一気に賑やかになる・・・女三人寄れば姦しいとは言うが、20名近いともなると賑やかを通り越して騒がしいと表現した方しっくりくるだろう。
目覚めたビッチーズ達全員は広間に集まると、清宏とその背後で顔を真っ赤にしているレギンに気付いてニヤニヤと笑みを浮かべる。
「ねえ、何であんた清宏様の後ろで顔真っ赤になってんの?」
「言うなし!」
「えっ・・・まさかガチ?これってガチ恋?」
「自由恋愛主義のサキュバスを骨抜きにするとか、やっぱ清宏様パネェ・・・」
「ちげーし!清宏様は女に興味ねーし!!」
「・・・それもそうね」
レギンを揶揄っていたビッチーズ達が揃って清宏の顔を見てため息を漏らすが、睨まれて一斉に大人しくなった。
「お前等さ、冗談抜きで誤解を招く発言は控えてくれない?」
『ごめんちゃい♡』
「飯・・・しばらく抜くか?」
『ギャーッ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!!』
「まったく、反省するなら真面目にしろよ。
取り敢えずお前等に伝えとかなきゃならん事がある・・・」
反省の色が見えないビッチーズ達に脅しをかけた清宏は、腕を組んで彼女達を見渡す。
「何ですか?」
「今日は休みになったから飯抜き!!」
清宏の発言を聞いたビッチーズ達は、しばらくの沈黙の後一斉に青ざめた。
それもそのはず・・・彼女達サキュバスにとって城が休みになるという事は、性=食糧が得られなくなるという事になるからだ。
「・・・な、何だってー!?」
「そんなの横暴だー!謝った意味無いじゃん!」
「ご飯を盾にして私達に何をする気!?どんなプレイでも清宏様の希望通りに叶えてみせるから、どうかご飯だけは!ご飯だけはっ!!」
慌てふためくビッチーズ達に詰め寄られ、清宏は呆れた表情を浮かべた。
「いや、普通に朝食と魔石食えば良いだけじゃね?足りなきゃローエンとグレンを搾り上げろ」
「・・・ならば良し!!」
「てか、最近は恵まれてるから普通に忘れてたわー・・・」
「お前等の分も朝食作らなきゃならんからもうちょい待ってろ」
『はーい!』
ビッチーズ達は元気良く返事をし、言われるまでも無くテーブルや椅子の用意を始める。
清宏はそれを見て安堵すると、厨房に向かおうとして動きを止めた・・・その視線の先では、素戔嗚達が目が飛び出さんばかりにビッチーズ達を見つめ、口を開けたまま動かなくなっていたのだ。
「どうかしました?」
「い、いや・・・彼女達はいったい何なのだ?」
「うちの稼ぎ頭のサキュバス達ですよ。ちなみに、さっきのレギンもその仲間です。
彼女達は男の冒険者に良い夢を見せてやる代わりに、自分達が日々生きれるだけの精気を摂るように躾けています・・・他に何か聞きたい事はありますか?」
「と、取り敢えず彼女達の名前を聞いておきたい・・・」
「別に良いですけど・・・」
清宏はテーブルなどの用意をしていたビッチーズ達を呼び集めて1人づつ紹介する。
名前を聞くたびに表情が固くなる素戔嗚達の反応に嫌な予感を覚えつつも清宏は紹介を終え、目の前の神々の反応を伺った。
「神は此処に御座した・・・」
「いや、あんたがその神だろ・・・って何か出てる!!?」
全身が真っ白になり、身体から魂が抜け掛けている大国主に清宏は慌てて駆け寄ったが、当の本人は安らかな表情を浮かべたまま動かなくなってしまい、清宏は素戔嗚達を振り返る。
「神が天に召されるとかギャグか!どうなってんのこれ!?」
「安心するが良い、この程度では死なん・・・ただ、うっかり中の人が漏れ出しただけだ」
「中の人って・・・てか、どうなってるんですか!?」
「どうなってるも何も、君は薄々勘づいているんじゃないかな?」
素戔嗚に代わり清宏に答えた月読は、困惑と呆れを隠せない表情でビッチーズ達を見ていた。
清宏も釣られてビッチーズ達を振り返り、心底面倒臭そうにため息をついた。
「全員本物のワルキューレにソックリって事ですか・・・」
「御明察の通りだよ・・・正直、これ程までにソックリな子達が揃っていると、私達も困惑してしまうよ・・・。
ちなみに、君ならもう予想はついてると思うけど、ワルキューレって言うのは大国主神がハマっているアイドルグループの事だね」
「アイドルグループ!?戦乙女じゃなく!?そこまで考えてなかったわ・・・」
「何だかんだで表向きは平和な世の中になったからね・・・昔みたいに争いばかりではなくなったし、神やそれに類する者達も暇を持て余しているんだよ。
例えば鍛治神と呼ばれる者達は、人間の造った道具を魔改造したり、より高性能な物を造ったりして日々切磋琢磨しているし、ワルキューレ達はその見目麗しい容姿を役立て、歌と踊りで男神達に夢と希望を与えているのさ・・・」
「聞きたくなかったそんなの・・・」
「ところで、彼女達の名前は本名なのかい?」
月読が何気なく尋ねると、清宏は一瞬飛び上がった。
「清宏様につけてもらいました!」
いつの間にかメジェドと天鈿女に貰ったゼリーを食べていたビッチーズ達が月読に答えてしまい、清宏は慌てて振り返る。
「それはちょっと・・・流石に色々と問題が起きる可能性があるかもしれないね」
「いやいや偶然だし!?ワルキューレがうちの奴等とソックリとかそんなん知らんし!?ただの事故みたいなもんだし!?それ以前に同じ名前なんていくらでも居るだろって話だし!?名前なんて独り占め出来るような物でもないんだし!?ワルキューレがアイドル活動してるからって経済的利益とか商標権や肖像権、氏名権とかのその他諸々の権利なんて異世界のこっちには全くもって全然関係ないし!?そういう理由なんかも全部ひっくるめてだいたいOKです!!」
息継ぎ無しで必死に捲し立て、肩で息をしている清宏に対し、月読は呆れながらも苦笑する。
「必死だね清宏君・・・」
「はあ・・・はあ・・・これ以上の面倒事は勘弁なんですよ・・・」
「変えたら良いんじゃないかな?」
「それはダメです」
月読の提案に清宏は息を整えてキッパリと断言した。
清宏があまりにも即座に拒否した事に驚いた月読だが、そこに怒りは無く、ただその真意を知ろうと優しく見守っている。
「こいつ等は自分の本当の名前も思い出せないような抜けた奴等ですが、名前を付けられて、呼ばれて、本当に喜んでたんですよ・・・そんなこいつ等に今更別の名前に変えようなんて俺は口が裂けても言いたくないし、もし誰かが無理矢理にでも変えさせようってんなら徹底的に争う覚悟です。
それに、こいつ等の名刺やネームプレートを大量に作ったり、やっと客にも覚えて貰えたんだ・・・これまでの時間と労力を無駄にはさせねえ!!」
「うん、良いね!最後の発言は気にかかるけど、そこまでの覚悟と信念を持っているのなら、部外者である私達がとやかく言って良い問題ではないからね!取り敢えず、この件に関しては私は他言しないことを誓おう!」
月読が振り返り同意を求めると、素戔嗚達は少し困惑しながらも頷いた。
それを見てこれでしばらくは安泰だと胸を撫で下ろした清宏だったが、視界の隅で何やらおかしな行動をしている神物が目に入り振り向いて我が目を疑った・・・いつの間にか回復した大国主が、スマホを構えて写真を撮りまくっていたのだ。
「これは絶対にバズりますぞ!異世界でワルキューレソックリのサキュバス嬢達(同名)を発見!!」
「ちょっ!馬鹿!!」
清宏が止めに入ったのと同時に、メジェドから貰ったスマホに通知が入った・・・それは、SNSのグループチャットの通知だった。
『こマ?』
『もっとkwsk!!』
『えっ・・・サキュバスって事は・・・まさかヤれんの?』
『俺も行くっと言っておけばっ!!』
大国主の上げた画像を見たあちらの男神達が怒涛の勢いで食い付き、通知の音が鳴り止まない。
清宏は血が滴り落ちる程に握り締めた拳を振りかぶると、加減無しの全力でそれを大国主の顎目掛けて振り上げ、殴り飛ばした。
「あじゃぱアーッ!!」
「言った側から拡散させんじゃねーよ駄神が!」
清宏の全力の拳を受けた大国主は、鼻血を噴き出しながら吹き飛び城の天井を突き破ると、そのまま空の彼方へと消えて行った。
「悪は滅びた!」
「悪神ではないのだけどね・・・まあ、あれは自業自得だから仕方ないよね」
「これどーすんだマジで!?即終了したんだけど!?」
清宏が頭を抱えていると、先程から鳴り止まなかった通知が突如として鳴り止んだ。
背筋に嫌な予感を感じつつも恐る恐るスマホを見た清宏は、表示されている文字を見て震え出す。
『責任者及び関係者からの説明を求めます』
そこには、ワルキューレ公式アカウントからの無慈悲なコメントが書き込まれていた。
「ヒェッ・・・」
先程までの自信と勢いは何処へ行ったのか、まさかのワルキューレ公式アカウントから説明責任を問われた清宏は、スマホの画面を見つめたまま動かなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます