第277話 ソックリさん
『ねえ、何かまた同じ人が落ちて来たんだけど!?』
『朝早くから働かせないで・・・』
清宏が天照を落とし穴に掛けてすぐ、広間に設置してある通信機から乙姫コンビの不満の声が聞こえてきた。
「すまんな二人共、そいつはどこか適当に放置しといてくれ」
『はいはい、本当勘弁してよ・・朝早くはコーラルが不機嫌になるから私達も気が気じゃないんだからね!』
「引きこもりが贅沢言うなって伝えといてくれ。あと浦島太郎達にも働けって言っといて」
『了解でーす』
清宏は乙姫コンビとの通信を終え、何事もなかったかのように振り返る。
だが、振り返った先では素戔嗚達が困惑した表情で何やら話し合っていた。
「どうかしました?」
「いや、貴様は本当に人間か?」
清宏に尋ねられ、素戔嗚はいまだ困惑した表情で問い掛けた。
「失礼だなおい!?どっからどう見ても人間でしょうが!!」
「い、いや、気分を害したなら謝ろう・・・ただ、人間の貴様が何故姉上を気絶させられたのかと思ってな」
「普通は出来ないんですか?」
「貴様は何故出来る前提で考えているのだ・・・そもそも、本来神とは貴様等人間からすれば尋常ならざる存在だと言うのに、人間の攻撃・・・しかも拳骨ごときで気絶するはず無いではないか。
だが、例外が無い訳ではない・・・その者が神の加護を受けているか、または神器と呼ばれる武具による攻撃ならば可能だ」
「そんな物無くても出来ましたよ?」
「だから本当に人間かと問うておるのだが?」
「何でですかね?」
「我に聞くでない・・・」
「なあ清宏よ、もしやスキルが原因ではないか?」
清宏と素戔嗚が話をしていると、いつの間にか離れていたリリスが背後に立っており、二人の会話に割って入った。
「スキルだと?貴様は一体どの様な物を持っているのだ?」
「まあ、一つはさっき見てたと思うので気付いてるとは思いますが、俺が持ってるのは罠系の最上位スキルです」
「他にもあるのか?」
「他にも結構持ってはいますが、心当たりがあるのは一つだけ・・・理不尽ですね」
「ん?何がだ?」
「だから、名前が理不尽ってスキルなんですよ・・・」
「何だその馬鹿みたいな名前は・・・」
「デスヨネー・・・」
素戔嗚がスキル名を聞いてあからさまに呆れる姿を見た清宏は、自分でもそう思っているのかため息混じりに頷いた。
「それで、その理不尽とはどの様な能力なのだ?」
「感情に比例した自身の身体強化絶大効果と、攻撃対象への防御無効って感じです」
「なあ、神にまで有効とか理不尽過ぎるのではないか?」
「知りませんてそんなの・・・そもそも、何でそんなスキルを持ってるかすら知らないんですから」
「そうか、知らないのであれば良いだろう。
さて、姉上はまだ気絶しているようであるし、やるべき事も済んだ・・・これから我等は何をすべきか」
「いや、まだ結果聞いてないんですけど?」
「我等を見ればそんなもの聞かずとも解るであろう?貴様は間違いなく我等の世界の住人だ」
「そっすか・・・もっと焦らすかと思ってましたよ」
「そんなもの時間の無駄であろう」
素戔嗚がさも当然と言うように即答すると、確かにと呟いて清宏は肩を落とした。
清宏がいまだに目を覚さない天照の事などすっかり忘れて時間を確認していると、広間の隅に設置されていた扉が開き、一人のサキュバスがまだ眠そうな目をこすりながら現れた。
「おうおはよう・・・どうしたレギンレイヴ、今日はやけに早起きだな?」
「うるさくて目が覚めたんですよー・・・」
「すまんな、ちょっと迷惑な客が来ててな」
「えーっ、またですかー?」
「朝食まではまだ時間あるし、出来たら起こしてやるから二度寝しといてくれ」
「レ・・・レ・・・レギンちゃん!!!!?」
清宏が眠たげなレギンレイヴを方向転換させて背中を押して部屋に送ろうとしていると、背後から歓喜と驚愕の魂の叫びが轟いた。
背後からの絶叫に驚いた清宏とレギンレイヴだけでなく、広間の離れた場所で我関せずを貫いていた他の仲間達も皆何事かと声の主を振り向いた・・・皆が振り向いたその先には、あたふたと慌てている大国主の姿と、隣から聞こえた絶叫に耳を押さえて蹲る素戔嗚の姿があった。
「何で!?何でここにレギンちゃんがいるの!!?」
「馬鹿者!耳元で叫ぶで無いわ!!」
「で、ですが!レギンちゃんが!レギンちゃんが居るのでござるよ!!」
「推しが恋しくて幻覚でも見ているのか貴様は!?」
「幻覚ではないでござる!疑うならば、あの娘を見るでござる!!」
大国主の圧に負け、素戔嗚は渋々と指さされた方を見て動きを止める。月読、天鈿女、メジェドもまた、素戔嗚同様驚きの表情を浮かべていた。
「本当に居るーーーーーーっ!?」
「これはまた・・・」
「どのようにしてこちらへ来られたのでしょう?」
「我ハ知ラヌ・・・」
慌てふためく神々をよそに、状況を飲み込めていない清宏とレギンレイヴは同時に首を傾げる。
すると、大国主が鼻息荒く二人に近付き、レギンレイヴの手を取った。
「何故レギンちゃんがこちらへ!?お忍び旅行でござるか!!?」
「えっ、ちょっ・・・圧が凄い・・・」
「あっ!まさかこちらの世界へ進出するため、下調べをしに!?」
「はいはーい、そこの駄神さん女の子には無闇に近づかないでくださーい!出禁にしますよー!彼女と話をしたいのなら、まず雇い主である俺を通してからにして貰おうか!!」
サキュバスのレギンレイヴが神である大国主の手を払い除ける事出来ずに困惑していると、それを察した清宏がすぐさま二人の間に身体をねじ込み助けに入る。
何とか解放されたレギンレイヴはホッと胸を撫で下ろすと、何も言わずとも助けてくれた清宏の背に熱い視線を向ける。
「あ、ありがとうございます清宏様・・・」
「気にするな、お前等の安全を守るのも俺の仕事だからな」
感謝の言葉を聞いた清宏は肩越しに振り返り、安心させようと笑顔を見せる。
それを見たレギンレイヴは顔を真っ赤にして慌てて顔を伏せた。
すると、何処からともなくボソボソと声が聞こえ、清宏はこめかみに青筋を浮かべて振り向いた。
「まーた優しい顔して好感度上げやがった・・・このたらしめ」
「目つき悪いくせにカッコつけやがって・・・」
「あれは完全に惚れたな」
「あーやだやだ、完全にメスの顔ですわー」
「ローエンとグレンには後で話がある・・・お前等逃さねーから覚悟しとけよ?」
「こっからでも聞こえんのかよ!?」
二人が心底怯えて抱き合いながら震えだしたのを確認すると、清宏はレギンレイヴに熱い視線を向け続けている大国主に視線を移した。
「何か勘違いをしているようですが、こいつは俺の仲間のサキュバスですよ」
「な、何と!?こんなにそっくり・・・いや、本人そのものだと言うのにでござるか!?」
「ええ、実際貴方の言葉をこいつは理解していないでしょう?」
「そんな馬鹿な・・・レギンちゃーん!レギンちゃーん!拙者の事が解るでござるかー!?」
「・・・?」
大国主は必死に話しかけているが、レギンレイヴは困った表情を浮かべたまま清宏の顔を見て首を傾げた。
「ほらね、ゼリー食ってないから理解出来てないんですよ」
「ほ、本当にただのソックリさんだと言うのでござるか・・・見た目はおろか、スリーサイズまで全て同じだと言うのに」
「おい待て、何故こいつのスリーサイズが解る」
「そこはまあ、神眼を使えばその程度は・・・」
「無駄遣い甚だしい!!」
「ギャーッ!?目が!目がーっ!!」
清宏の目潰しを食らった大国主は床の上でのたうちまわり、しばらくの間大人しくなってしまった。
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