第276話 職務放棄には罰を

 大好きな映画ネタに熱くなった天鈿女の勢いに清宏がタジタジになっていると、玉座の裏にある風呂場からやけに騒がしい声が聞こえて皆が振り向き、扉が開くとゲンナリとしたアンネとルミネを従えた浴衣姿の天照がリリスを小脇に抱えて現れた。


 「其方等は何か望むものはあるか?世話になった礼じゃ!遠慮はいらんから何でも言うが良い!!」


 「いえ、私達は見返りをいただきい訳ではありませんので・・・」


 「お堅いのう其方等、貰えるもんは貰っておけば良えものを・・・」


 天照が二人を振り返ってため息をつくと、天照同様浴衣姿のリリスが身じろぎしながら何やら呻きだした。


 「離せぇ・・・離すんじゃぁ・・・妾はお主と馴れ合うつもりは無いんじゃぁ・・・」


 「此奴も此奴で頑固じゃな・・・取って食おうと言う訳でも無いと言うのに。

 おうお主等、妾が大変な目にあったというのに呑気に茶なんぞ飲みおってどういうつもりじゃ?それに清宏とか言うたか・・・貴様、最高神である妾に対する不敬、如何にして償うつもりじゃ?」


 相変わらず敵対意識を露わにするリリスに呆れた天照は、広間に出るとメジェドや素戔嗚達に気付き、自分を罠にかけた清宏と仲良さげにお茶を楽しんでいるのを見て不機嫌そうに椅子に腰掛け、清宏を睨み付けた。

 やっとの事で解放されたリリスは、涙目になりながら清宏に駆け寄り、腕に抱き着いたまま隣の椅子に座る。

 清宏は面倒臭そうに抱き着いているリリスの頭を軽く撫でると、アンネとルミネに礼を言って天照に向き直った。


 「償う理由が見当たらないんだが?」


 「何じゃと!?妾を罠に掛け、辱めた事を忘れたとは言わせんぞ!!」


 「姉上落ち着いてください!清宏君も煽るような真似は控えて!!」


 清宏が全く反省せず即答した事に激昂した天照は、殴り掛かる寸前で捕獲され、月読は冷や汗を流しながら清宏を見た。

 だが、清宏は表情を一切変えず、腕を組んで天照を真っ直ぐに見つめた。


 「俺は以前、こっちの世界で再現出来ないようなオーバーテクノロジーは絶対に持ち込むなとメジェド様に再三お願いしていた・・・だが、あれは何だ?あんたは液晶テレビにゲーム機、さらには電源確保の為に大型発電機まで持ち込んだ・・・これは重大な違反行為だと思うが?それとも、所詮人間との約束だから守る必要は無いとでも?」


 「ぐぬっ!?」


 清宏に冷ややかな目を向けられ、天照は口籠る。

 すると、それを見たメジェドが遠慮がちに手を挙げて清宏を見た。


 「清宏ヨ、我ハチャント注意シタカラナ?」


 「我々も一応・・・」


 「はい完全に自業自得ー!あれだけで済んだんだから逆に感謝しろってんだ雑巾女!反論あんなら言ってみろ!言葉で言い表せないなら400字詰め原稿用紙にしたためても可だバーカ!!」


 「き、貴様ーっ・・・!!」


 反論出来ず仲間達からも見捨てられた天照は、憎々しげに清宏を睨みながら怒りで震え出す。

 だが、清宏はそんな事などお構い無しに嘲る様に笑い、立ち上がってさらに畳み掛けた。


 「引きこもってばかりで仕事しねー最高神とか笑い話にもならねーわ!下に付く奴の事考えたら、俺なら絶対に出来ねーな!!あんたは約束は破るし八つ当たりはするしで何一つ良いところ無えじゃねーか!!」


 「き、きしゃまぁ・・・認めぬ・・・妾は認めぬぞおぉぉぉぉっ!貴様の様な神を崇めぬ奴なぞ、妾の愛する子供の一人などと断じて認めぬ!!」


 涙目で怒鳴った天照の言葉を聞き、清宏は『ニチャァ』と聞こえて来そうな嫌らしい笑みを浮かべ、椅子に座ったまま睨み付ける天照を見た。

 清宏の腕に抱き着いていたリリスは、清宏の笑みを見て慌ててその場から離脱し、離れて様子を伺っていたアルトリウスの背後に隠れた。


 「な、何じゃその万人が嫌悪感を抱くような笑みは!」


 「およそ人間が神に向けて良い笑顔ではないな・・・」


 「ダカラ言ッタダロウ?清宏ハロキニ似テイルト・・・」


 清宏の笑顔に天照と素戔嗚がドン引きすると、すかさずメジェドが呟き、席を立ってその場から避難する。

 それを見た素戔嗚達はメジェドに倣ってその場から避難を始めたが、ただ一人、天照だけは立ち上がらなかった・・・いや、立ち上がる事が出来なかったのだ。


 「な、何じゃこの椅子は!?手枷が!足枷まで出て来おったぞ!!」


 「認めないかぁ・・・お前、おかしな事を言うなぁ?お前が今回こっちに来たのは、俺がお前と同じ世界の人間か否かを確認するためだったよなぁ?なら、認める認めないじゃなく、是か否かで判断すべきだろぉ?それをお前、認めないと私情を挟むとはどう言う了見だ?」


 「そ、それはっ!!」


 まるで汚物を見るような目を向けられ、天照は身じろぎしながら涙目になる。


 「素戔嗚様や月読様達はちゃーんと仕事したってのに、最高神であるお前は職務放棄かぁ・・・なら、そんな役立たずは侵入者として排除しても構わないよなぁ?」


 「き、貴様!また妾を辱めるつもりじゃな!?そうは問屋がおろさんぞ!この程度、椅子ごと浮いてしまえば・・・っ!?何故じゃ!ビクともせんではないか!?」


 「そりゃあお前、椅子を床に固定してるからに決まってんだろぉ?

 さて、職務放棄して人間相手に逃げ出そうとする哀れな自称最高神様には、俺様直々に罰を与えてやらなきゃなぁ?」


 「はんっ!!?」


 椅子に固定されたままの天照は、清宏の強烈な拳骨を食らって奇声を発して気絶し、そのまま床に開けられた穴に落ちていった。


 


 

 



 

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