第275話 神々の質問③
メジェドを慰めていた天鈿女が戻り、清宏はお茶を淹れなおして差し出す。
天鈿女は清宏の気遣いに微笑み頭を下げると、上品な所作でお茶を一口飲んで向き直った。
「私を待っていてくださったご様子ですが、これは私も質問をする流れでしょうか?とは言っても、これ以上何を質問してよいやら・・・」
「天鈿女様のご趣味は?」
天鈿女が困った様に笑っていると、清宏から話を切り出す。
急な質問に一瞬驚いた天鈿女は、やや考えて口元に手をやりクスクスと笑い、頬を染めて上目遣いで清宏を見た。
「その様に聞かれますと、何だかお見合いみたいで緊張してしまいますわ・・・」
「やだもー!何この可愛い反応ー!?あんな吐きだめの悪魔みたいなのより、こっちが最高神が良いー!!」
清宏の言葉に天鈿女がまたもや上品に笑うと、それを見ていた素戔嗚達も釣られて笑い出した。
「あらお上手ですこと・・・ですが、あの方もやれば出来るお方なのですよ?」
「うむ!あれはあれで居ないと困るからな!!」
天鈿女に続いて素戔嗚は豪快に笑いながら何度も頷く。
「姉上のモットーは『働いたら完敗!』だけど、一応やる時はやる神からね!」
月読は苦笑しながらお茶を飲む。
「と、とは言っても、神日本磐余彦尊が初代天皇となったあたりから、ま、また悪い癖が再発した感じではありますが・・・」
口調が元に戻った大国主は困り果ててため息をついて愚痴をこぼす。
「ねえ、引きこもり歴2000年以上とか本当に居なくて良くね?」
「いえいえ、いくら酸っぱい臭いがしようと腐っても天照様は太陽神でございますから、居なくなられては人々が困ってしまいますわ・・・」
「痛し痒しだなおい・・・」
「何と言うかこう、やる気の振り幅が大きいお方なのです・・・さて、私が質問する順番でございましたわよね?」
天鈿女は手を叩くと、話を元に戻して首を傾げて思案する・・・だが、何故かチラチラと清宏を見ているようだ。
あからさまな視線に居心地の悪さを感じた清宏は、苦笑しながら素戔嗚達に視線を向ける。
「先程の素戔嗚様達みたいに、天鈿女様の趣味からでも良いですよ?」
「そうですわね・・・貴方は詳しいご様子でしたし、そうさせていただきましょう」
「俺が詳しい事ですか・・・何でしょう?」
清宏が聞き返すと、天鈿女は嬉しそうに身を乗り出して清宏の手を取り、あはやキスでもしてしまいそうな程の超至近距離で満面の笑みを浮かべた。
「私、実は家事の合間に映画を観るのが趣味なのです!先程から貴方は『トータル・リコール』や『吐きだめの悪魔』など映画の題名を度々口にされていらっしゃったので、ずっと気になっていたのです!」
「ち、近いですよ天鈿女様!言いたい事は解りましたから少し離れてください!!」
「あ、あら・・・申し訳ございません・・・お見苦しいところをお見せしてしまいましたわね」
「いえ、解ってくだされば構いません・・・では、俺が好きな映画で良いですか?」
深呼吸をして尋ねた清宏の言葉を聞き、天鈿女は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、苦笑して首を振った。
「いえ、それでは先程と変わりませんし、貴方がこちらに来る前に観た映画をいくつか教えてくださいませんか?」
「直近で観た映画ですか・・・正直、こっち来てから何ヶ月も経ってますしうろ覚えなんですよね」
そう答えつつも、清宏は首を捻りながら唸り、何とか思い出そうとしている。
「少し難しかったでしょうか?では、好きな映画でも・・・」
「いえ、あと少し待ってください・・・あっ!」
必死に考えていた清宏は、申し訳なさそうに質問の変更を申し出た天鈿女を手で制すると、ハッとして顔を上げた。
「やっと思い出しましたよ!こっちに来る前に観たのは『ウィッカーマン(1973)』、『激突!』、『ジョーズ』、『太平洋奇跡の作戦キスカ』、『トラ・トラ・トラ』、『ローマの休日』です!!」
清宏が口にしたのはどれも名作と呼ばれる作品の数々だが、ジャンルにまとまりが無い・・・だが、それを聞いた天鈿女は感動したのか目に涙を浮かべて拍手をしだした。
「素晴らしいですわ!私、感動してしまいました・・・貴方の様な若い方がここまで映画に興味を持っていらっしゃるなんて!!」
「よせやい、照れるじゃねーか!」
「いえ、本当に素晴らしい事ですわ!カルト映画の傑作『ウィッカーマン』をリメイク版ではなく1973年版を選択するところと言い、スピルバーグ監督の『激突!』と『ジョーズ』は見せ方がいかに大事かを如実に表している名作!さらには円谷英二氏の特撮が光る『太平洋奇跡の作戦キスカ』、日米合作の『トラ・トラ・トラ』の戦闘シーンは現代のCGでは表現出来ない生々しさが圧巻です!そして王道にして永遠の傑作ロマンス『ローマの休日』!オードリー・ヘプバーンのあの可愛らしさは神々に匹敵すると言っても過言ではない!貴方もそう思いませんか!?いえ、そう思っていたからこその選択だったのですよね!?」
「アッハイ・・・」
「やはりそうでしたか!それにしてもリメイク版の『ウィッカーマン』は何故ああも改悪してしまったのでしょうか!?人間の持つ狂気とエロスこそがあの映画の真髄だと言うのに!!貴方もそう思いませんか!?もちろんそう思いますわよね!?」
「アッハイ・・・」
天鈿女は息継ぎ無しな上に怒涛の勢いで同意を求めたが、清宏は豹変した彼女の勢いに飲まれ、機械仕掛けの人形の様にただただ返事をする他なかった・・・。
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